上 下
3 / 15

3

しおりを挟む

実のところアメリーは、部下たちが噂する程には”カタブツ”ではなかった。



奔放という訳ではないが、適度に息抜きはしている。
職場に悟られるようなヘマはしないというだけで。
恋人のいた時期はもちろん浮気などしないが。

結婚は夢のまた夢、というのを逆手にとって貞節はあまり重く考えていない。

(それなら、頑なに断る事もないのかしら…?でも直接的な誘い文句を言われた訳ではないし…)

口元に手を当て、フムと考え込んでいるアメリーに、セドリックは更に声をかける。

「アメリー嬢、こ、今度の休みはいつですか?ご予定は…?」
「休み…は少し先になります、が夜は空けられますよ?」

セドリックのかしこまった誘い文句がまどろっこしくて、アメリーは自分からまたしてもツラっと誘ってしまう。

(あ、しまった…あからさまだった…?でも夜だけの関係の人に休みを丸々潰されるのはちょっと…)
アメリーのドライさが爆発していた。

「よ、夜ですか?…それは…」

セドリックのあまりに戸惑った態度に、おや?読み間違えたか?とアメリーも慌てた。

(もしかして男爵令嬢にコナかけられて困っている騎士様の図になってる?)

慌てて夜の顔を仕舞って、職務中の顔を作る。

「勘違いでしたら、すみませんでした。何か私の休日に御用でしたか?上役の方に問われましたか?」

アメリーの表情が突然隙の無い侍女の顔となり、セドリックは更に焦る。
せっかく、素のアメリー嬢と話せたのに…!と。

「かん、ちがい、ではないです。でも突然夜にお会いするのは、失礼では…」
「あら、お互いいい齢ですもの、咎められる事はないと思いますが…?」

確かセドリックは、アメリーの2歳年上だったと思う。

「あ、ただご婚約者がいらっしゃる、や恋人がいらっしゃる上でのお誘いは勘弁して頂きたいですね。」

にっこり笑顔で拒否するアメリーに、セドリックはもうタジタジとなっている。

「…そんな、不誠実な真似をする筈がないでしょう。…本当に夜に…?」
「セドリック様のような方ばかりではないので、確認しておかないと。…えぇ、今夜になさいますか?」
「アメリー嬢…」

戸惑いつつも陶然とした表情のセドリックに、アメリーは今まで感じた事のない感覚を味わっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ
恋愛
オートクチュールの女性下着専門店で働くサラ・ベルクナーは、日々仕事に精を出していた。 ある日、お得意先のサントロ伯爵家のご令嬢に下着を届けると、弟であるフィリップ・サントロに出会う。聞いていた通りの金髪碧眼の麗しい容姿。女嫌いという話通りに、そっけない態度を取られるが……。 最低な出会いから必死に挽回しようとするフィリップと若い時から働き詰めのサラが少しずつ距離を縮める純愛物語。 フィリップに誘われて、庶民のサラは上流階級の世界に足を踏み入れるーーーー。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

処理中です...