61 / 66
番外編ーside セレスティアー
恐ろしいもの
しおりを挟むルイスたちを乳母と寝かしつけて、部屋へと戻ると、お義母様が見えた。
この時間にいらっしゃるということは、きっとあの話だろう。
「セレスさん、そろそろ具体的に動いてちょうだいね」
お義母様は、私からウィリアム様に妻に誠実にいることはない、愛人を黙認するという風に振舞うようにとネイサンが産まれた時から仰っている。
最近までは、毎回内側が揺さぶられる様な苦しい想いを抱え込んでいたけれど、今は…もう。
(ウィル様は、そのような事は…望んでいらっしゃらない…)
と半ば確信をして、お義母様の前に立っていられる。
そうなってくると、不思議なのはどうしてこんなにも繰り返すのか…ということ。
お義母様は少し物言いがキツい時はあるが、意地悪でこのようなことを言う方ではない。
「お義母様…それは…」
「できないと仰るの!?貴方はもう子をふたりも授けてもらって、充分でしょう!ウィルを自由にしてちょうだい!」
(…お義母様…そんなに必死になって、どうして…)
それから、尚も言い募るお義母様の言葉に、ウィル様への心配が溢れていて、胸が痛くなる。
だが返事をする前に、ウィル様がいらして、親子の口論へと発展して…―――。
◇◆◇◆
お母様に促されて、部屋へと戻ると、ウィル様がすまなさそうに額へのキスをする。
『家で妻と笑い合っている事の方が大切な男』
貴方の迷いのない声が、ずっと頭の中でこだましている。
(…あの迷いのない声、…もっと早く貴方に聞いていれば良かった…)
「早く自由になりたい」と言われる事をあまりにも恐れて、事実の確認が出来ずにいた自分。
でもそれは、夫からの愛情に確信を持っている今だから思えることだということも…知っている。
ウィル様が私を寝台へと寝かせようとしているのに気づいても、服を掴んで離せない。
「セレス…?」
お母様の悲痛な表情が頭から離れない。
ウィリアム様はとんでもない、という様子だったけれど、私には振り切れない不安が同調して、お母様の気持ちが痛い程分かった。
「ウィル様…」
(いなくならないで…どうかずっと元気で、無事で、共にいて…)
声にならなくて、必死に貴方に身体を密着させる。
最愛の夫を持つ妻ならば、誰もが頭によぎらせては「大丈夫」、と言い聞かせているのではないだろうか。
「セレス…、泣かなくても大丈夫だ、僕は健康そのものだよ、ほら」
あやすように抱き締めてくれる貴方の手が、頼もしくて余計に恐ろしくなる。
妊娠中であることも手伝ってか、感情の整理がうまく出来ない。
「ウィル様…ずっと、側でいさせてください…」
「……っ…、愛しているよ、僕の可愛いセレスティア…、さあ本当に冷えてしまう、寝台へいこう」
そう言って、ウィル様は私を抱き上げた。
ウィル様の首に縋りついて、まだ涙を止められない。こんな素敵な貴方を亡くす想像などしたくもない。
(…はぐらかされたの…?確かに…絶対に死なない、なんて誰も誓えない。…ましてやお父様を早くに亡くされているのだから…)
そう一人で解決したふりをして、小さな違和感に蓋をして、今に縋りついた。
2
お気に入りに追加
775
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
大好きな義弟の匂いを嗅ぐのはダメらしい
入海月子
恋愛
アリステラは義弟のユーリスのことが大好き。いつもハグして、彼の匂いを嗅いでいたら、どうやら嫌われたらしい。
誰もが彼と結婚すると思っていたけど、ユーリスのために婚活をして、この家を出ることに決めたアリステラは――。
※表紙はPicrewの「よりそいメーカー」からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる