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番外編ーside セレスティアー
恐ろしいもの
しおりを挟むルイスたちを乳母と寝かしつけて、部屋へと戻ると、お義母様が見えた。
この時間にいらっしゃるということは、きっとあの話だろう。
「セレスさん、そろそろ具体的に動いてちょうだいね」
お義母様は、私からウィリアム様に妻に誠実にいることはない、愛人を黙認するという風に振舞うようにとネイサンが産まれた時から仰っている。
最近までは、毎回内側が揺さぶられる様な苦しい想いを抱え込んでいたけれど、今は…もう。
(ウィル様は、そのような事は…望んでいらっしゃらない…)
と半ば確信をして、お義母様の前に立っていられる。
そうなってくると、不思議なのはどうしてこんなにも繰り返すのか…ということ。
お義母様は少し物言いがキツい時はあるが、意地悪でこのようなことを言う方ではない。
「お義母様…それは…」
「できないと仰るの!?貴方はもう子をふたりも授けてもらって、充分でしょう!ウィルを自由にしてちょうだい!」
(…お義母様…そんなに必死になって、どうして…)
それから、尚も言い募るお義母様の言葉に、ウィル様への心配が溢れていて、胸が痛くなる。
だが返事をする前に、ウィル様がいらして、親子の口論へと発展して…―――。
◇◆◇◆
お母様に促されて、部屋へと戻ると、ウィル様がすまなさそうに額へのキスをする。
『家で妻と笑い合っている事の方が大切な男』
貴方の迷いのない声が、ずっと頭の中でこだましている。
(…あの迷いのない声、…もっと早く貴方に聞いていれば良かった…)
「早く自由になりたい」と言われる事をあまりにも恐れて、事実の確認が出来ずにいた自分。
でもそれは、夫からの愛情に確信を持っている今だから思えることだということも…知っている。
ウィル様が私を寝台へと寝かせようとしているのに気づいても、服を掴んで離せない。
「セレス…?」
お母様の悲痛な表情が頭から離れない。
ウィリアム様はとんでもない、という様子だったけれど、私には振り切れない不安が同調して、お母様の気持ちが痛い程分かった。
「ウィル様…」
(いなくならないで…どうかずっと元気で、無事で、共にいて…)
声にならなくて、必死に貴方に身体を密着させる。
最愛の夫を持つ妻ならば、誰もが頭によぎらせては「大丈夫」、と言い聞かせているのではないだろうか。
「セレス…、泣かなくても大丈夫だ、僕は健康そのものだよ、ほら」
あやすように抱き締めてくれる貴方の手が、頼もしくて余計に恐ろしくなる。
妊娠中であることも手伝ってか、感情の整理がうまく出来ない。
「ウィル様…ずっと、側でいさせてください…」
「……っ…、愛しているよ、僕の可愛いセレスティア…、さあ本当に冷えてしまう、寝台へいこう」
そう言って、ウィル様は私を抱き上げた。
ウィル様の首に縋りついて、まだ涙を止められない。こんな素敵な貴方を亡くす想像などしたくもない。
(…はぐらかされたの…?確かに…絶対に死なない、なんて誰も誓えない。…ましてやお父様を早くに亡くされているのだから…)
そう一人で解決したふりをして、小さな違和感に蓋をして、今に縋りついた。
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