【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

赦しを⑥

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「…ッ!」



夫人然としたツンと澄ました顔がみるみる崩れて、目に涙を溜めた少女のような君が垣間見えたような気がして、目を瞬かせた。



「…じゃあもう、出ていかせようとしない…?」




”夫人”を脱いだ君の本当の言葉が僕に届いて、堪らず抱きしめる。



「…もう絶対にしない。…すまなかった」

「…『誓いますか』?」

「はは、…――『誓います』」


きっと君は…僕が考えている以上に傷ついた。

それでも、おどけた様にまた、僕を包んで赦してしまう。



…君が望んでくれるなら、僕は何にだって誓うさ。





華奢な体をきつく抱きしめる。


すると腕の中のセレスティアが僕の胸をぐいぐいと押してきた。



(まだやはり怒っているのか…!?)と思ったが、どうやら僕を移動させようと頑張っているようだ。



セレスティアの望む方向が分からず適当にト、ト、と後ずさっていると、ベッドの上にボスッと座る体制になった。



そして更に押し続ける。


(ああ、寝転がればいいのか…。なぜ無言なんだろう…?)


セレスティアの望みが分かって、素直に横たわる。

そうして横にセレスティアが入ってきて、いつかの様に僕を胸へと抱き寄せた。



「…鈍くて、不器用な旦那様」

「…面目ない」



愛し気に言ってくれる君にまた、想いが募って。


「…その夢の中で苦しむ貴方を抱き締めにいきたい…」



その荒唐無稽な言葉に、なぜか胸を打たれて、鼻の奥がツンとする。

ぎゅう、と腕をセレスティアに回す。



「…ありがとう…」




――「どちらの貴方も、愛していますよ、ウィリアム様」




君のその声を聞いた時、不思議と体の奥から、スッと力が抜けて暖かさが波の様に広がる。



止めどない涙とともに僕の想いも出てゆく。



「…僕も、愛している。いつの君も、どんな選択をしようとも、君が僕の愛の全てだ…」




―――そう告げた後、僕はようやく暖かなまどろみへとおちていった。


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