【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

赦しを④

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「………」


僕自身、自分でも分からなかった。


――その謎が解けたのは、君がデイビッドと言い合いをしていた時だ。




『誤解です、あの人はただの店の人で…』
『…いやなの、思い出さないで…!もうあの店に行かないで…!』

きっとデイビッドも…そして立ち聞きしている僕も、可愛らしい嫉妬と我侭に堪らなくなった。
…僕は心底羨ましかった。


僕も…そう言って…ほしかったのだと、時が経ってようやく気づいたんだ。



「…君に一言…『他の女性と親しくしないで』と…言って、ほしかった…」





情けない話だ。

君に愛されている自信が持てず、君を試した。

その代償はあまりにも大きく…。




とうとう幻が返事をしてくれなくなって、僕は恐ろしくなって起き上がる。

だが、セレスティアの幻は…今日見た同じ服を着て、そこに立って…




――泣いている。



「…なんて不器用なんですか…」




(何故そんな愛しそうな顔で見るんだ…セレス…)


「だから、昨日様子がおかしかったんですね…?」


泣き笑いの様な顔をして、僕に真っすぐ問いかける。


「…セレスティア…」



「病気になったのか、何かよくないことが起こっているのか、って…すごく不安だったんですよ…!」



「…セレス…?」


呆然と問いかけると、彼女は涙を指で拭いながら憮然と答える。


「何ですか…」



「デイビッドと一緒では…?」





「……今の貴方は、今の私を、妻として縛り付けたいほど愛している訳ではないんですか…?」
「何を…」



問いたいが、どうやら僕の問いには答えてくれないらしい。

セレスティアの顔が不安に歪む。


…なぜ。



「何故…!―――何故!知っているだろう!?僕が…欲に目がくらめば君をまた縛り付けるような愚かな男だと!」




「そんな貴方は知りません。私を、要らないと仰る貴方しか」



セレスティアの言葉にカッとなる。



「そんなわけがないだろう!!!!」



僕の大声に、セレスティアの肩が跳ねる。

それでも止まらない。




「僕が…どれほどの思いであの場所まで連れて行ったのか…」




ぎゅ…っと拳を握りしめる。



「君を手放したいなどと思える筈がないだろう…!!」



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