【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

赦しを②

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ベッドに突っ伏して、君の匂いを吸い込んで。




―――誰が渡したいものか
―――誰が離したいものか



「セレスティア…ッ」



―――あれほどの幸せを手に
―――過去の経験を、狡い手を、使ってでも、本当は




「君を誰にも渡したくなど…」






「でしたら馬車で待っていてくださるのが道理でしょう!!!!」






「????」



何だか聞いた事もない程の大声で、セレスティアが怒鳴った気がする。





「…???幻聴だったらもう少し優しい声がいい…」


とりあえず幻聴に文句を言っておく。


「無理ですわ、私怒っておりますので」



グイっとセレスティアが僕を起こそうと奮闘している幻も見える。

体格が違うし、貴族の婦人に成人男性を動かす力はない気がする。



「…もっとセレスティアはおしとやかだよ…」

「怒ったセレスティアはおしとやかでは居られませんの」

「幻の言うことは信じない…今彼女は初恋の人と会っているんだ…」

「な!知っていて二人きりにする夫の神経が私には解りかねますわ!!」

「…僕だって、したい訳もない…!でも、彼が、セレスティアに最も相応しい人間だから…」



そう言うとセレスティアの手が離れてしまう。

幻でも惜しいと思ってしまうのだ。



「何を…言っているのです…?」

「僕は見てきた…この目で、人生の最期まで君を大切にし続ける尊い魂の持ち主だ…」

「……貴方は違いますの?」

「…僕だって……!いや、僕は、半ばで君に酷いことを…」

「酷いこと?」

「君に出て行かれるのが怖くて、何か家で不満なことはないかと聞く事すら出来なかった。」

「…」

「仲間内で何度も勧誘を受けていた既婚貴族の下世話な会に君を連れて行って、恐ろしい目にあわせてしまった」

「……」

「…そうして愛想をつかされて、…他の男に希望を見た君を認められなくて、嫉妬に狂って………君を何度も犯した」

「…貴方がそうする筈がありません」




「いいや、したんだ、…したんだ。僕が。」





声が涙に震える。





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