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死に戻り編
”最低”の日に挑む①
しおりを挟むその日屋敷へ帰ってから、僕は執務室の引き出しから書類を取り出した。
”デイビッド・ペレス”
時が戻ってから定期的に調査している。
以前のセレスティアの記憶を追体験したかのような夢を見た今日は、僕が君をあの下世話な会合に誘ってしまった”最悪の日”と同じ日だ。
もうあの会合に誘ってくる様な友人とは、一年前から付き合いはない。
会合へ参加する事はないが、それと同日、彼らを会わせる手筈を整える。
デイビッドはリベラ家を解雇された後、やけになった様に職を転々としている。
あの体格と教養で低賃金で雇われて苦労する、という事はないようだが、やはり定職について居ない人間にセレスティアを任せるのは不安だ。
丁度事業で提携している子爵家の執事が老齢で、後継を探しているという話があったので、僕は彼を推した。
デイビッド本人にも、面接という体で会いに行ったこともある。
『…どうして貴女様の様な方が?』
警戒した様子のデイビッドに、「有能だとある貴族から聞いたから」とだけ答えておいた。
彼の有能さを一番に知っているのは僕だ。最期まで彼の能力が衰えないというお墨付きが出来るのも。
丁度あの会合のあった日まで、あの会場と契約を交わしているから、それまではそこの集合住宅に住むという。
デイビッドが勤める事が決まった子爵家は、ここから馬車で3日かかる。
―――大丈夫。
(どんなに会いたくても、衝動的に行くのは難しい距離。…子ども達は会いづらくなってしまうが…)
デイビッドには、前回の会合の日である1週間後の昼間に正式な書簡を届けに行くと伝えている。
全ての手筈が整って、僕は執務机に書類を片付けて鍵をかけた。
それから、セレスティアの寝室へは向かわず、自身の部屋へと足を進めた。
◇◆◇◆
明日は遂に約束の日。
この一週間、僕は視察に出る日が多く、彼女は彼女で妊娠・出産で休んでいたお茶会の開催の準備や他家への参加、それに子ども達のケアで忙しくしていた。
君の部屋へ向いてしまいそうな足を踏みとどめるのも、今日で終わり。
―――今日で。
(おわり…)
必死に足を動かして、自室の扉を開けて湯浴みへと向かう。
自身の着衣を解いて、湯殿へ向かって。
それが終わればもう眠るだけ。
じわり、と涙が浮かぶ。
せめて、寝顔だけ、見に行ってもいいだろうか。
せめて、髪を撫でるのだけは、許されないだろうか。
せめて、せめて…
「……セレス、ティア…」
(愛している、僕の、生涯。…僕の、永遠)
すぐそこまで来ている恐怖の渦に飲み込まれそうになって、足元がなくなるような心地がして体がぐら、と傾いた。
その時、僕を支える様に細い腕が体に巻き付く。
「呼んでくださいましたか?」
手の感触も、柔らかなその声も、僕の最愛の妻のもの。
「…セレス…?」
僕の声は滑稽なほど掠れていた。
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