【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

帰れない夜④

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彼女を想って怒りを露わにするデイビッドに、セレスティアは過去を思い出していた。




映像が流れこんでくる。

リベラ子爵家の庭で無邪気に遊ぶ彼ら、屋敷での楽しそうな会話、彼女の部屋での仲の良い様子…。
彼女の暖かい、そして焦がれる様な気持ちが僕にまで伝わってくる。



(ああ、彼女の初恋はデイビッド、だった、の、だな…)



その内に、セレスティアの気持ちが義父に知られてしまい、デイビッドは義父から解雇を言い渡された。


解雇にセレスティアは激昂していたが、義父に「お前はまた直に家のために嫁入りしてもらう。貴族の義務を自覚しろ」と冷たく言い放たれていた。


自分の軽はずみな行動が、彼から職を奪った後悔が彼女に渦巻いている。

だが僕は、解雇を言い渡されたデイビッドが言い返さなかったことの方が気にとまった。


手など微塵も出していない、その事実を告げれば良かったのに。



(彼女は気づいていない、彼が去ったのはきっと、彼も君のことが…――)






『お嬢様』


デイビッドの声に、思い出から引き戻される。



『解毒薬です、どうぞ飲んでください』

受付付近でデイビッドは彼女に瓶を手渡す。

だが、その頃にはセレスティアは指のコントロールも難しい程になっていた。

飲めそうもない彼女を見かねて、デイビッドが瓶を口へ持っていく。

それを上手く口に含めず、幾ばくか唇から零れる。



デイビッドはため息を吐いて、グイっと瓶を自身の口に含む。


(…やめてくれ…)


そうして、セレスティアの唇に押し当てて、解毒薬を流し込んだ。


≪デイビッド…ッ!≫


セレスティアは腕を回すのを必死で堪えている。


今解毒薬を飲んだからと言って、即効果が消えるというものではなかった。
身体が燃えるように熱く、熱を求めてやまないのを必死に抑えつけている。


(セレス…セレスティア…)



『馬車を手配しました。行きましょう、どちらへ行かれますか?』


デイビッドの聞き方が、皮肉めいて聞こえる。


…頭のおかしい夫の家になど帰らなくていいと、言外に告げていた。




『…た、ターナー、伯爵家へ…』


彼女が迷わず屋敷への帰還を告げたことに、この胸は性懲りもなく歓喜する。


…子ども達を放っては行けないと想っているのは、分かっているけれど。




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