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死に戻り編
母の凶行④
しおりを挟むもう居ない祖母の言葉をセレスティアの口から聞くなんて。
「…私たちのルイスはまだ小さいですが、きっと何歳になっても心配で、万が一亡くす時が来てしまったら、普段通りに出来る筈もありません。悲しみを逃せなくて一番近い人に八つ当たりしてしまったのかもしれません…。それにその時のお母様も最愛の旦那様を亡くされていて、抵抗する気力もなく深く受け止めざるを得なかっただろうと思います。私もウィル様をもしも…亡くしたら…絶対に…そうなってしまうと…感じますから…」
「セレスティアさん…」
セレスティアの最後の声は涙声だった。
あまりにも愛しくて、誇らしくて、母ごと彼女を抱きしめる。
君が僕ら親子の一番の被害者だっていうのに、どうしてそんな風に考えられるんだろう。
どうしてそんな風に全てを包むように許せるんだろう。
――何度だって君に恋を重ねる。
胸が詰まって、良い言葉など出てこない。
君に安心して欲しくて、”僕は君を置いていかない”と、こめかみに何度も唇を押し当てる。
セレスティアがくすぐったそうに、幸せそうに笑ってくれるのが堪らなく嬉しい。
「ああもう、だらしない顔をして!ウィリアム!離してちょうだい」
照れたように母は僕の腕を抜け出した。
セレスティアも抜け出そうとしたけれど、逃さず腕に閉じ込める。
「母上、昨日分かったのですが、セレスティアが三人目を宿してくれました。孫が増えますね」
「!まあ…!」
母の顔が分かりやすく喜色満面となる。
「…僕は授けてあげた、とは思いません。セレスティアが大変な思いをして産んでくれるんです。…母上にも、感謝していますよ、産んでくださって、育ててくださって、ありがとうございます。」
「…まさか貴方からそんな言葉をもらう日が来るなんて…。それも、セレスティアさんのお陰なのね…。…ありがとう、…取り乱してごめんなさい…。それから、妊娠おめでとう。さあ!冷やしてしまうわ!中に入って!」
「母上が引き留めていたくせに…」
はあ、とため息を吐いて反論する僕をセレスティアが笑いながら止めた。
◇◆◇◆
やはり少し疲れたらしいセレスティアを寝台に寝かせて、暖かい飲み物を持ってくるよう伝えるために廊下に出ると母がまだ居た。
セレスティアの様子が気になるらしい。
「…少し横にならせます。」
「そう。…何か果物も用意しようかしら…」
そわそわとする母に、気になっていた事を尋ねる。
「母上、セレスティアなら引く手あまただから、僕を自由にしやすいだろうと婚約者に選んだのですか?」
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