【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

君の幸せを誓う②

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――――僕はこれが、ただの幸せな夢ではないと薄々感づいていた。


過去を夢で追う事は勿論あったが、もっと断片的だ。
それにそういう時は自分の思った通りの行動は全く出来ない。


だが今はどうだ。


自由に動け、好きなように話せる。


そして確実に一日一日を、…生きている。

食事を抜けば若い身体は物凄く空腹を強く感じるし、排泄もするし、眠らなければ体調を崩す。



(……過去に戻った…というのか?)



毎日、新聞をチェックしては、過去と同じ日付、同じ出来事が並び、起こっていく。


(もしも、これが追体験の特殊の夢なのだとしても、セレスティア、君をここでだけでも幸せにできたら…)



◇◆◇◆


この頃はまだ末の子が産まれる前で、夫婦の寝室を使っていたのでふたりで寝台に座る。


「セレスティア、もしかして母が毎回あの様に口を出してきていたのだろうか…。あまり晩餐の時間を取れなくて申し訳なかったね…」


「ウィル様…、いいえ、ウィル様は国や領民、そして家のために働かれているのですから。どうか謝らないでくださいませ」


(…セレスティア…そんな風に思って、”以前の僕”にも一言も相談せずに…ずっと耐えていたのか…?)


「確かにそうも言える。だが、僕に君よりも大事なものはないんだよ。君が辛い想いをしているのなら、相談してらえると、僕は嬉しいんだ。」


そっと手を取って、自分の手を重ねた。

こういった親愛のスキンシップは”以前の僕”もよく取っていた。


僕の言葉を受けて、セレスティアは目を見開いて呆然と見つめてくる。


「…?セレスティア?分かってくれるかい?」


きゅっと手を握って、言葉を重ねる。


すると、セレスティアの瞳がみるみる濡れて、幾筋もの涙になって零れ落ちた。

ぎょっとするところかもしれない。でも以前の僕で、君の強がりに慣れていた。

抱え込んでしまう君の力を最初に抜くのは、いつも、彼だったけれど。



「セレス…、ひとりで我慢しないでくれ。僕が絶対に君の味方だと覚えておいて…」



美しい涙を流す君を、子どもにするように膝に抱き上げて、肩に頭を預けさせる。
セレスは僕を見上げて、ぼんやりと涙を流し続ける。


「愛しているよ…僕の唯一。」


(たとえ君が、他の男を選んでも。…我ながら、重いね)


「ウィルさま…、ウィルさま…っ」

君は僕の夜着を掴んで、潤んだ瞳で必死に見つめてくる。


(あ、まず、い)


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