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死に戻り編
最悪の日の1年前②
しおりを挟む「愛くるしいな…この頬め」
「おひげやーっ」
ふにふにと僕の頬でルイスの頬をこすると小さな手でくすぐったそうに抵抗してくる。
(孫も可愛いが、やはり、…自分の子どもが一番可愛いな)
自身が過ごしたこの時期は、領主としての仕事を爵位を預かってくれていた叔父から引き継いでまだ数年、それに若かった故に余裕もなくて、執務机に噛り付いて必死に日々の業務をこなしていて…子ども達との思い出が本当に少なかった。
(幸せな夢だ)
暴れるルイスをあやしていると、視線を感じる。
「ん?」とセレスティア達を見やると、呆然とした表情で僕を見ているではないか。
「どうした?」
「…!いえ、……いえ…」
セレスティアが明らかに言い淀んでいるので、聞き出そうと身を乗り出した時、今度はバン!と侍従が入ってくる。彼も若いな。
「旦那様!御仕度のお時間が過ぎます!お早く!」
今日の夢は慌ただしいな。
いつもなら面倒な事などせずに、甘い世界に浸っていられるのに。
…そういえば、匂いや感触がある夢なんて初めてだ。
「ウィル様…!」
セレスティアがそう言うならば行こうか。
僕はやっと立ち上がって、ガウンを羽織って部屋を出た。
セレスの部屋だったのか。
今は住んでいないとはいえ、慣れ親しんだ廊下を、自身の身支度用の部屋へと歩いていく。
一線を退いてからは、こんな風に慌ただしくなかったから、少し楽しくもなってくる。
「今日の来客は誰だったかな?」
「は、本日の来客は…――」
侍従と打ち合わせをしながら、相手の好みや互いの関係性を踏まえた装いを選んで身に着けていく。
「旦那様…私が…」
「ああ、もう終わったから大丈夫だよ。今日必要な書類に加えて、西部の資料も一緒に置いておいておくれ」
そういえばこの頃は侍従にしてもらっていたんだった。
デイビッドが来てからは、自分で身に着ける癖がついた。
(…見栄だったのかもしれないな…)
ふ、と笑んで、机の上の新聞の内の一紙をを無意識に広げる。
バサリと広げて、一面の見出しを流し読みする。
「…ん?」
『皇太子殿下ご成婚!』
見た事のある見出しに思わず目を見張る。
そうして日付を確認すると、記憶通りの日付だった。
あの最悪の日、僕が君と運命を別った日から丁度1年前の日付がそこにはあった。
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