誰かこの暴走を止めてください

日比木 陽

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後編

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愛しい唇を性急に合わせにかかり、舌で上唇を舐めた。


「は、…」


好き。好き、その声が。吐息すらも。


開いた唇に舌を入れて、彼の唾液を啜る。

応えてくれた舌に夢中になりながら、彼の服を脱がせにかかる。

キスでもらえる精気など知れている程度の筈なのに、身体が大喜びしている事に驚く。

終いにはうっとりと、私を貪る動きに身を任せてしまう。

「ふ、ぁッ」

タニセンの上着だけは脱がせたものの、もうその手は彼のTシャツに縋り付いているだけだ。

私のブレザーが脱がされて、シャツの上から触ってもらえる事に全身で狂喜している。

その大きな手が私を乱していくことが、嬉しくて堪らない。

「んアッ」

ツツ…と乳輪近くに触れられて、堪らず仰反る。

もっと触れて欲しくて、彼の首に腕を回して縋り付く。
愛しい男に胸を揉みしだかれながらのキスは、全てをどうでもよくさせるのだと知った。


「…届書いてもらってからって、思ってたけど…無理だッ。今日だけインコーキョーシでも許して?」

…何かを強請られてる。ぼんやりしてしまった頭では意図を正しく汲み取れない。でももう何だっていいから。お願いだから満たして欲しい。

「うんッわかった、から、…もっとして?」

「…ッッ!は、もー反則…勃ち過ぎてイテ…」


ドサリと身体が反転させられた。
押し倒されるのは苦手だった筈なのに、この愛しい雄に見下ろされるのは堪らなく幸せなのは何故だろう。

上からボタンを外す手を手伝って、下からボタンを外す。
どうか直接触って欲しい。
ブラジャーのホックも自ら外し、自身を差し出す事で懇願を示す。


願いは叶えられ、キスを受けながら、張り詰めた乳首を優しく掌で捏ねられた。

「んっ♡ン、ふッ♡」

もっと、もっとと強請るように舌を彼の舌に擦り合わせる。
彼が伸ばしたままの指が胸の先端を挟んで引いた。

「ふっう、んんんんッ♡」

それだけで愛液が更に溢れてしまう。

「かわいい…普段から可愛いけど、こんなトロトロの顔して…。もう絶対俺にしか見せんなよ…?」

「…?」
タニセンの言葉自体は「ドSキャラですか?」っていうものなのに、声が。
声があまりにも悲痛で。

理解ができずに見上げた私に、苦笑を漏らしながら言葉を継ぎ足す。

「お前が堂浦と付き合った時、ヤったんだろうなって分かった日、…俺、泣いた。」

――嘘だ!

反射的に思った。でも俯いて髪を垂らして表情を隠すなんて。
タニセンらしくないことが、もっと真実味を帯びさせる。

「初めて来た日から、絶対お前だって俺を求めてた筈なのに…なんで…って。」

ドッと心臓が鳴った。
そうだ、求めていた。
欲しくてたまらなかった。

でも、それをおくびにも出さずに過ごしていたつもりだった。


「いや、俺だって、経験が無い訳じゃない。歳だって上だ。…お前の今しかない学生時代の恋愛に口を出すのも狭量過ぎるって…言い聞かせたけど…」

なんで…
ポツリ、ポツリと紡がれた言葉が、私への想いを纏っている。


「アイツと別れても…来てくれるどころか、別のやつに与えてやるし…今日は、田代に同情してただろ。与えそうになってた。」

そう言ってギ、と強い目で見られた。
燃えてる様に強いけど、憎まれてなんていない。
私を手に入れる、決意の目だ。

「田代でいいなら、もう俺でいいだろう…!今日から絶対!俺だけにして」

灼熱の目で、訴える内容があまりにも可愛すぎて。

なんでこんなに愛しいんですか…?あんた。

「…アンタだけはダメだったの。」

「何で!」

「タニセンが淫行教師で懲戒免職なんてなったら、私一生後悔するし」

私だって、胸に上った愛しさ全部を込めて、見つめ返した。
「大好きだし、物凄く欲しかったけど、タニセンが笑ってる方が大事だったの。」

私の行いは、タニセンを傷つけたんだね。
でも私は、過去の私を、間違ってたとは思えない。

「傷つけたのだけは、ごめんね」

「…なんでそんな女神み、あんの。可愛いし綺麗だし。降参するしかねーの、なんか悔しい。俺が駄々っ子みたいじゃねぇか…」

「めがみみ」

くすくす笑ってると、胸に顔を押し付けて放った彼の懇願の声が私へと届く。

「もう俺だけに、与えて」

愛しすぎる駄々っ子め。


それにしても、その「与える」って何だ?

「与えるってさっきから言ってるけど、奪われるんだよ?精気。」


胸に縋る頭を撫でて、言い聞かせる。


むくりと起き上がって、口づけを降らせてきた。
可愛い、気持ちいい、愛しい。

うっとりと見上げると、ニヤリと笑った彼が告ぐ。

「俺、”糧の一族”の血が入ってるらしいんだけど。最も淫魔の”生涯の糧”に近い存在なんだって。平たく言うと絶倫?らしいよ」

カテノイチゾク…?

聞いたことのない単語が出てきた。
”生涯の糧”は知ってる。姉の夫がそうだ。
奪われ続ける存在だろうに、嬉々としてなりたがっていたのを知っている。


「糧なんて言って、結局気持ちいい行為で俺に食べられるのに、可愛いよな。ツンデレなの?淫魔」

あまりの発言に、固まって返事ができない。

……大物過ぎないか?
あぁ、ずっと。
一生他人を搾取してゆく自分を許せていなかったんだな、私は。

そうでなければ、今の発言がこれほどまでに心を軽くすることはなかった。


「すげーね?タニセン。はははっ」

「やっと、そういう笑顔、見れた。すげーカワイ。」


今まで何で気づかなかったの?と思う程、タニセンの表情は、目は、私をかわい~!って言ってる。


こんな奇跡が来るんだね…。
急激に実感した幸せを胸で抱えきれなくなって、タニセンに腕を伸ばす。


「タニセ…健斗…?大好き。これからは健斗が全部食べて?」


この人なら大丈夫。

私が、…与えるの。そう思える程に。


「…あぁ、くそ。可愛い。今までの色々全部この日の為だったって、思いたくなるな。美夜…ありがとう、いただきます、一生。」


◆◇◆◇


ちゅ、る。じゅ。
舌が混ざるんじゃないかと思う程長いキスの間に、もうぐっしょりと濡れてしまっていた下着が取り払われる。

健斗の長くてエロい指で、胸を可愛がられた所為で、下腹に溜まった疼きが我慢できないほどになっていた。

「けんとっ、も、欲し、だめ…?♡」

「は、俺も欲しい…、ごめ、挿れる…」

ごそっとジャージから出てきた健斗のモノが、見た事ない大きさで。

処女ならば恐れおののいただろう、でも私は期待で更に滴らせてしまう。
「入るとこ想像して、垂らしたの?か~わい♡」

ニヤニヤしている健斗が、私に先端を擦り付けて見上げてくる。

焦らすような動きに、泣きそうになりながら腰を押し付けた。

「はや、くぅ♡」

「んッ、挿れるよ…ッハ、」

「は♡あああああぁッ♡」

にゅぷ、ずぶ、と挿ってくる、愛しい人の中心をうっとりと受け入れる。

初めて受け入れる大きさに、ギチ、と少し入口が引き攣れる。
でも絶対やめて欲しくない。

想いが届いたのか、健斗も夢中なのか、ずず…と奥へと進んでいく。

「んぅっ♡…あぁ…アぁぁッッ♡♡」

「っはッヤバッ」

奥に到達した途端にイってしまう。
両足に力が入って太ももがブルブル震える。
中もギュウゥッと健斗を締め付けてうごめく。

きっとバレてしまっているだろう。

荒い呼吸で、恥ずかしいと嬉しいで、ない交ぜの感情に翻弄されていると、

「ン、無理だ…く、あぁッ」

私のナカで凄い質量のモノが、跳ねている。

それから精気が急速に満たされていくのが分かった。

…健斗が果てたのだ。硬度は全く変わらないが。

発情状態が少し治まって、体も楽になる。

安堵の息をついて、彼を見上げると、片手で顔を覆っていた。

「健斗?」

少し体を起こして、健斗を覗き込む。

「可愛すぎて…マジで、童貞みたいな事に…、恥ず…、美夜の中すげーし、こんなに好きな子抱くの初めてだし…、」

大の男が恥ずかしそうに言い訳を並べている。私の中に挿ったまま。

「あははっ」
「くそー、笑うなよぉ。次、絶対気持ちよくさせるからッ」

まだ顔を覆ってる手にちゅっちゅっとキスを降らせる。
大好き、愛しいと。

「次、我慢できそうなら、健斗の家がいいな…裸でくっつきたい。」

私の言葉に、中のモノがググッと太くなった。
うそ、さっき以上に大きいが…

「ごめん、もっかいだけさせて…、そっから俺ん家、いこ?」


普段の優しい目じゃなくて、情欲を孕んだ色の目に貫かれて私は簡単に陥落してしまう。

キスで舌を絡めながら、再び体を横たえられた。

愛しい人に包まれながら、この凄い質量のモノで擦られたらどうなってしまうのか。
改めて胸を高鳴らせてしまう。

最奥に挿っていたモノがずるッと出て行く時に、あまりの快感に全身がビリビリと反応する。

「んアァッ!?♡♡あっ、まッ、あああんッ♡♡」

「はーッ、ハ、きもち…、美夜も…よさそ、で良かった…」

—―良い、なんてものじゃない。

「や、ああぁ!♡な、なに…?あぁんっ♡もうこすっちゃダメぇっ♡」

未知の快感に、恐怖を抱いて思わず弱音が漏れる。

「か、かわい…ッ!また出ちまうだろ…?ちょっとかわいいのひかえて…?」

トントンっと最奥を恐ろしく気持ちいいモノでノックされている。
ずっと軽くイってるので、中は彼をキュウキュウと締め付け続ける。

「アッん♡はぁンッ♡も、トントンしなッで♡」

「とろけた顔さいこ――…ットントンじゃもう足りない?りょっかい♡」

何か不穏な言葉を聞いた気がしたが、感じ入って返事が出来ない。

途端ズルウッと中を埋めていた健斗のモノがギリギリまで引き抜かれた。
それだけでも耐えがたい快感なのに、ズズじゅッッと勢いよく最奥を埋められて目の奥がチカっと光った。

「―――――ッッッ♡♡♡」

声にならず、はくはくと口だけが動きながら、今までにない程の絶頂を味わう。
全身が痙攣するかのように、ビクッ、ビクッと動くのを自身では制御できない。

「うあ!?うー…ッ吸いつくッ…ッく、そ…でるっ」

今度は腰を震わせながら、健斗は長い射精をした。
先ほどよりも更に精気が流れ込んできた。その優しい温かさに泣きたくなる。
愛しい人のものは、これほどまでに満たされるのか。

は、は、とお互い荒く早い息を整えて視線を絡ませる。

「ん、は…マジできもちいーな…、慣れるまで早漏かも、ごめん」

「…私も、すごい、きもち、から…早漏で助かる…」

「いや慣れたらこんな早くないはず…ッ!」

「ふふ、お手柔らかに…」

「セックスの後すら女神み…」

「また言ってるし…はは」


そう呟いたのまでは、覚えている。
ものすごく満たされて、安心しきって…。

…次に目を覚ましたのは、健斗の部屋の寝室だった。



◆◇◆◇


薄暗い、まだ陽が昇りきっていない夜の終わり。
大好きな人の腕と匂いに包まれて目を覚ます、そんな幸せが来るなんて昨日までの私は想像すらしなかった。

見た事のない天井、見た事のないベッドで起きたというのに、隣に健斗が居れば何も不安はない。
この場所以上に安心できる場所はない、そんな奇跡が。

「…わたしに降るなんて…」

「んん…いやだ…みや、振らないで…」

ポツリと呟いた私に、健斗が見当違いの寝言で返事をした。

寝言すらちょっとヘタレって。それに何でそれにときめくの、私は。
自分でツッコミを入れて赤面する。

きっと、他の人が同じ事を言っても、私はこんな風に受け止めない。

こんなになるのは、アナタだから、だ。

もっと見せて。
隙の無い大人の健斗の、その中を。


――繁殖期に、そのまま精液を受け止めたのだから、私は孕んだのだと思う。
繁殖期の発情がこれ程までに凪いでいる事が何よりの証拠だ。


淫魔の繁殖は、特殊だ。

これは母に説明を受けたのと、姉の様子を見て知っている。

淫魔に宿った子の核を、魔力を行使して、体外へと導くと子が自ら繭を張る。

その繭へ定期的に淫魔が精気を送り続ける。

精気を送り続ける為には、淫魔自身が精気に満ちている必要があって、その精気を提供し続けるのが、”生涯の糧”となった淫魔の子の父、淫魔の夫だ。

その期間、実に2年。

その話を聞いた時は、夫はかなりゲッソリと細るのではないかと心底心配した。

だがその実、少しヨレっとしたのは姉の方だった。
元々発育も遅かったのと、体力がある方でもなかったからだろうか。

搾り取られたかと思った姉の夫は、会う度にツヤツヤしい表情をしていたから、もしや淫魔に”生涯の糧”にと選ばれるひとは、絶倫なのかもしれない…健斗の談もあるし…、イヤ、姉の夫が絶倫かどうかは考えるのを放棄しよう。2人とも幸せそうで何より。うんうん。


「み~や♡」

寝ぼけた声と共に、健斗の腕の力が強まった。

腕の中から見上げると、ぼんやりとした目なのに笑み崩れた幸せそうな顔で健斗が私を見ていた。

「かんがえごと?」

眠すぎて、全部ひらがな発音になってる。

「うん、私、きっと孕んだよね…?」

そう零した言葉に健斗の目は、寝ぼけたものではなくなった。

「うん、その筈だ。フェロモンがいつも以上に出てたし、昨日のあれは繁殖期なんじゃないかと思う。……戸惑ってる?」

さっきまでの、私の健斗じゃなくなって、タニセンに戻ってしまった。

「こっちのセリフだよ。タニセン?」

タニセンって呼ばれた事に対して、複雑なのか、瞳が揺れる。

「俺が、戸惑う筈ない。繫殖期に入ったのが、俺の前に居る時で本当に嬉しい。でも…美夜は、その年で孕む気は本意じゃないか、と…」

何だろうな、絶対離す気はないんだろうけど、私の意志を優先しなきゃという大人の葛藤で揺れてるのかな。

「私がね、いつまでも自分に正直にならないから、あのタイミングで繁殖期を起こしたのかもね、私の本能が。健斗を離すな~!って。」

ニッと笑って、目の前の彼に伝える。
後悔も、不安もないって事を。

「美夜…」

「でも知ってる?2年もさ、健斗が精気を定期供給しなきゃだよ…、なが…「知ってる!めちゃくちゃ楽しみ!普通妊娠したら、控えるものらしいのに、ホント”生涯の糧”ってボーナスステージだよな…!」

あ、健斗に戻った。
また斜め上の感想が、私をすくい上げる。

「俺の家に繭作ってくれる?…そんで一緒に住んで欲しい…。」

タニセンの顔はもう鳴りを潜めて、チラッとかわいく見てくる。

それを”自分のオネダリ”扱いにしちゃうのも可愛いな…。私がお願いしなきゃいけない事だったと思うのに…。

「ありがとう…。一緒に住みたい、健斗」

「良かった!早速する?部屋見る?」

「え!?一人暮らしなのに部屋あまってるの?」

広い部屋に住んでるんだな…。薄給という訳でもないんだ…?と失礼なことを思う。

「うん、美夜に一目ぼれした時に、ここに越して来たから。子どもが産まれ?孵化?してもそのまま子ども部屋にもできるよ!」

にこにこした健斗が私を抱き上げて、自分の家ツアーを開始した。

「美夜に惚れた自覚もなかった時にね、毎朝起きたら泣いててさ、実家に来てたばーちゃんに相談したんだ。そしたら、片割れの淫魔に会ったんじゃろって。そこで、”糧の一族”の話も詳しく聞いて。片割れの淫魔に夢ですら来てもらえない悲しみで泣いて起きるらしい。いや~もう俺の枕塗れないな。」

何個もガチャッとドアを開けながら、サラッとすごい話をしなかったか?

「違う液体で濡らしてくれていいよ、美夜の匂いで寝る「変態ッ!」」

べしっとおでこに平手でツッコミを入れても、にこにこが崩れない…変態。

「それで、俺の運命のひとなんだって、納得したら。もう子ども部屋何部屋もあるような物件契約しちゃったよね。」

「は?じゃあ使わない部屋いっぱいのこの部屋に1年以上ひとりで!?」

「うん。だって最期は俺のとこに来るんだって、確信してたから。」

…タニセン(健斗の大人の仮面)、戻ってきて。

「それに2人で使う家具も、もう揃ってるよ。でも気に入らないなら替えようか。一応美夜の好きなブランドや色味で揃えたつもりだけど」

「…なんで私の好みこんなに正確に知ってるの…?「盗み聞きと聞き取りで」」

タニセ…

「あと、懲戒免職の事気にしてたけど、俺美夜が卒業したら教師やめるから。大丈夫。でも今日は婚姻届け出しにいこうね?これで何も障害なくなるし。ご両親のサインはもう貰ってるから。」

タニセ――――ン!
「生活費も問題なく配当で賄えるし。あと、生涯の糧には給付もあるんだって。」

ちょ、ま、

「美夜の進学先に一緒に行くのも楽しそうだな」

な――――――!?


【誰かこの暴走を止めてください!!】




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ほんと面白そうなひと選んだわよね~美夜も。健斗さんだったかしら」

「え?普通の好青年じゃなかった?谷川さん。先生だし。」

「も~、佳夜は鈍いったら。」

「お義母さん、佳夜はこの鈍さが可愛いので…。」

「ふふ、パパとママはラブラブでしゅね~」

「秋君も変わった人って思ったの?」

「……」

「同じ匂いがしたんじゃないかしら?嫁への重さが。婚姻届けの証人、どちらも娘婿が先にサインを迫ってきたもの~」

「?秋君と一緒だったら、やっぱり好青年だよね」

「……佳夜…ッ」

「今日も眠れないわね、もう産まれたのに」




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