令嬢は故郷を愛さない

そうみ

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 いや王家が全員フェティシズム持ちと決めつけるのは不敬だろう。第一王子がやけに若い娘の肌質に拘っていただけかもしれない。

 エドはこともなく不敬を口にした。

「あの王家、拘りが強すぎる血筋なんだよね」

 王は足フェチで、特に脹脛の曲線には並大抵ではない拘りがあるらしく、王妃は朝晩の足のマッサージが欠かせない。第一王子はあの通り、第二王子は何故か刃物を舐めるのが好きで、よく口を切っているらしい。舐める刃物には拘りが強く、切れ味と色艶と素材、長さに重さまで、まあ無機物ならそんなに迷惑をかけないのではと思ったが、毎夜王子妃より大好きな刃物と一緒に寝ているそうだ。だから子供がまだいない。第三王子は……とエドが教えてくれかけたが、また船酔いが戻ってきそうになったので今はやめてもらった。サヤは知りたそうだったので申し訳ない。

「そんなことより、その王家はお嬢様を人質にして、辺境伯を落とすつもりだったんだ」

「お馬鹿さんね」

 わたしは鼻で笑ってやった。

 あの父がわたし如きのために辺境を手放すわけがない。調査不足も甚だしい。

「全くだよ。お嬢様が大人しく人質なんかになるわけないのにね。手筈ではお嬢様が王都に入る前に丁重に拉致監禁して、第一王子の側妃に仕立てて王城から出られないようにして、それから辺境に攻め込むつもりだったそうだけど、それが入城までお嬢様を見つけられもしなかったんだから」

 何となく思っていたのと違う方にエドに理解されている気がしたが、それよりも気になることがあった。

「街道の歩哨は、やっぱりわたしを捕まえるためだったのね」

 姿を隠していてよかった。見つかったところで捕まる気はなかったけれど。あと側妃が本気だったことにもかなり驚いた。第一王子のあの氷のような視線で肌具合を吟味されていたのだろうか。思い出すと船酔いが戻ってきそうになる。

「待って。王都の前に傭兵が待機させられていた、あれも王家の仕業かもしれない」

「そうだよ」

 軽くエドは言うけれど、ジェイのような高ランクの傭兵も混じっていた。父に敵うとは思えないが、規律の弛み切った辺境軍より、傭兵の方が良い働きをするかもしれない。

「でも半分以上はこちら側だから。スレインにも混ざってもらって、誘導してもらうしね」

 スレインは別行動だと言われて、そこから確認していなかったが、傭兵に混じって陸路でシャガルを目指しているそとの事。傭兵の中にいてもスレインなら大丈夫。

 けれど、スレインはわたしの指揮下にあるべきだ。

「エド。今まで聞かずにいたけど、スレインを動かしたのも、傭兵を巻き込んだのもあなたよね? こちら側って、どういう事なの」

 エドは小さく首を傾げた。

「もう知ってると思うけど。僕はヤスール側だよ」

「それはわかってる。今この領地戦に紛れてシャガルを獲るつもりなんでしょう? でも、傭兵だけじゃ辺境は落とせないってわかりきっているはず」

「ここに切り札があるからね」

「風魔法?」

「お嬢様だよ」

 にやりと口元を笑みの形に歪めるエドは、王家と同じくわたしを盾にして辺境の制圧を狙っている。

 わたしに害意はなくても、わたしの立場に配慮はない。信じすぎてはいけなかったのだ。
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