流され追放令嬢は隣国の辺境伯に保護されました

そうみ

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今夜キメるわ

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 夕方、少し遅い時間に宿場町に着いた。
 ケインの馬スバトは逃げてきた襲撃者の馬、六頭を率いていた。流石ケインの愛馬である。ちゃっかり馬を引き抜いてきている。手綱を引かなくても勝手に付いてくる馬たちを引き連れて宿に向かい、大所帯になるからと馬丁に多めの心付けを渡した。たっぷりの水と飼い葉をもらって、ブラッシングしてもらったスバトは機嫌が良さそうだった。リラも乗馬を教わる間に何度もスバトの世話になっているので、ちょっとくらいなら気持ちもわかるのだ。
 部屋を取る時に、行きと同じく二部屋取ろうとしたケインに、リラは一部屋でお願いします、と慎ましやかな声で訴えた。
 もう婚姻したのだから、同じ寝室でも良いのではないか。
 ケインはリラの言う通りに一部屋にしたが、その後の食事の場では一言も口を聞かなかった。ケインの気遣いを無視したようで、怒っているのかもしれない。

 などど殊勝に考えたリラは、部屋に入るとソファに座るケインの隣にくっつくように腰掛ける。ケインは一瞬身を固くしたが、リラに反応したのはそれだけ。黙ったまま眉間に皺を寄せている。
 リラはどんどん不安になってきて、ケインにもたれかかりながらお怒りですか、と聞いてみた。

「怒っているといえば、そうかもしれない」
「申し訳ありません」
「何故リラが謝る」
「……?」
「今思い返せば、ひと太刀で済ませたのは温過ぎたような気がする。もっと甚振ってやれば良かった」

「午後の、でしょうか。わたくしが一部屋と差し出がましいことを言ったのをお怒りなのでは」
「あいつらのことに決まっているだろう。怖い目に合わせてすまなかった。夜襲に警戒して同室にしたんだろう? ちゃんと守るから、リラは安心して寝ているといい」

 ケインの言葉に、リラは頬を膨らませた。
 伝わっていない。
 襲撃に恐怖などなかった。ケインがそばにいて、恐れる理由がないからだ。

「ケイン様、わたくしは──」
 
 言い淀むのは、慣れないからだ。ケインがそばにいてくれて頼もしいこと、妻と呼んでくれて嬉しいこと、そんな素直な気持ちをどうやって伝えれば良いのかわからない。
 まだ覚悟は決まっていないけれど、リラから襲ってしまえばいいのか。言葉に出来ないなら、態度で示せば。ケインは優しすぎて、未だリラに触れると傷つけるのではないかと恐れている様子がある。ケインに強く抱きしめて欲しい、それをどうやって伝えれば。
 明日も騎馬での移動の予定だが、今夜キメてしまえば、明日は移動を諦めて延泊する手もある。
 
「わたくしは」

 リラの決死の言葉はドアを荒く叩く音に遮られた。
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