流され追放令嬢は隣国の辺境伯に保護されました

そうみ

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女神の愛し子

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 この国やその周辺では、男神と女神の一対の夫婦神が信仰されている。神々の加護を持つ子供は稀に生まれ、それぞれ特別な力を持つ。
 男神は武力を象徴し、その加護は武技。女神の加護は魔法だ。加護が外見にまで溢れ出たものは愛し子と呼ばれ、加護の力が強く、神と同じ髪や瞳の色を持つとされる。
 女神は夜明けを司る。全てのものが生まれいでる朝、その象徴する色は明けに染まる紫雲と、その下に広がる草原の大地。リラの瞳と同じく、光によって濃紺から緑に変化する。

「女神の、愛し子」

 若い女性にそう呼ばれて、リラは今メガネをかけていなかったことを思い出した。あまりよろしくない事態かもしれない。気持ちに焦りはあれど、表情は変わらない。

「リラちゃん、あなた魔法の加護があるのね?」

 目の前の、リラの頬を挟み込んでいる女性は誰だろう。疑問に思いながらもリラは挟み込まれた可動域ギリギリで頷いた。
 魔法のことは誰にも言っていない。マルカ国では女神の加護は知られていても、愛し子のことは王家にしか知らされない機密事項だ。だからリラの瞳に溢れた加護を見つけたのは神殿だけで、そのことを知る王家に王子妃候補とされた。神々の愛し子の力は貴重で、その存在を公にはせず、さらに王家の外に出すべきではないと考えられているのだ。

「申し訳ありません」

 隠していたというより、忘れていたのだが、それでも結婚する相手に隠し事はよくなかった。リラは殊勝な顔を思い出しながら謝罪した。
 目の前の女性はふるふると首を振った。

「あなたが隠そうと思っていたことも無理はないの。でもこの国では、女神の愛し子を無碍に扱うことはないわ。だから安心して」

 頬から手が離れるとそっと顎まで撫でられた。
 リラは何を安心するのか理解できていなかったが、とりあえず隠していたことは許してもらえたことはわかった。辛かったわね、と労るように見られたが、何か辛いことでもあったかリラには覚えがない。
 女性と入れ替わりにリラの前にケインが押し出されるが、薄い寝衣だけのリラと目線を合わせられず、ぎゅうっと目を閉じている。そんな気遣いもケインらしいとリラは好ましく思った。

「ケイン様」

 今度はリラがケインの両頬を手で挟み込む。目の前で顔を固定すれば、余計なところを見られないだろうと思ったのだ。

「あの、わたくし」
「おやすみのおきゃくさま、おきた?」

 リラが魔法のことを告白しようと口を開いた瞬間、小さな子供の声がして、引き止める手をすり抜けて女の子がリラのベッドサイドまで走ってきた。
 ケインと同じ、鉄錆色の髪に、明るいみずいろの瞳。あどけなく柔らかな顔立ちだがどこかケインに似ている。
 リラは女の子に目を落として、言いかけた言葉より先に、浮かんだ疑問を口に出していた。

「ケイン様の、お子……?」

 リラの手を振り解いた勢いで立ち上がって真っ青になっているケインと、女の子と面差しが似ている先程の女性を見比べる。

「ちが」
「ダメよ、マーガレット。きちんとお客様にご挨拶しなくては」
「はい、おかあさま」

 おかあさま、と呼んだ。

 リラは無表情なりにパニックになっていた。お母様と、女の子にそっくりなケイン。察したケインは慌てて母子を指して叫んだ。

「これは母と妹だ!」

 親子ほど年の離れた妹と呼ばれた女の子は、レディのお辞儀をしてリラにぺこりと頭を下げた。

「はじめまして、マーガレット・アイネ・サスティアともうしましゅ」

 ちょっと噛んでいた。
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