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第一章 オーディション

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ここはある一軒家。弥勒高校に通う普通の女の子。神咲舞ありさの部屋。JKであるありさは学生服を着ている。今の時期はブレザーのようだ。緑色のチェック柄に、ネクタイも緑。これは二年生を表わしている。ちなみに一年生は赤、三年生は青である。特徴的な赤い髪の右サイドテール。後ろ髪は胸辺りまで伸びている。その前髪には星のヘアアクセサリをつけ、身だしなみ程度の薄化粧。眼は大きく、控えめにいっても美少女といえるだろう。最近の女子高生は発育がいいなぁ。という言葉は皆さまもよく耳にしていることだろう。スタイルもよく若干幼顔だ。というように外見では非の打ちどころがないありさだが。性格がちょっと残念なのである。

どう残念なのかを説明するとまずはとにかく天然、(例)真夏の暑い日差しがじりじりと体力を奪う学校の教室で人目はばからず靴下を脱ぎ、ネクタイを外して上着を脱ぎ、胸元をはだけさせる。通称 あっつぅい

同級生の男子高生談 「ありさは可愛いけど行動が頭を抱える。ほんと恋愛感情は湧かないなぁ」

や、友人との会話や世の中での話題など、お気に召したら後先考えず一直線。さらに人懐っこいが度を越えてる。見ず知らずの人の会話に口を出したりなどは日常茶飯事なのである。一緒にいる友人なんかはさぞ迷惑であろう。ただそんな彼女だからこそ、一緒にいても退屈しない。男女あわせ友人は多くいるようだ。

そんな彼女は先週、路上スカウトを受けたアイドルのオーディションに今から向かうところだ。その時スカウトに貰った名刺を右手で持ち、弾力性の高いベッドに腰かけ、両足をバタバタしている。名刺にざっと目を通している。

「ふむふむ。事務所の名前はっと…まだない。考え中。え?。アイドル養成所みたいなもの。ぐれおねプロデューサー。うわっ、これよくみたら胡散臭すぎる。でも…なんか惹かれる。なんだろ」

ありさの胸にはドキドキが、興奮冷めやらないようだった。あらたな物語はここから始まる。

「オーディションには学生服で来るように。ブレザーも可って書いてある。持ち物は何もいらないんだね。あははっ、これは楽でいいね。お財布だけ持っていこうっと」

普通であれば。「ちょっ、これヤバくない?警察に行った方がいいんじゃ…」「きっとAV撮影だよこれ。」みたいな感じで少なからず不安にかられるようなものだが、ありさにいたってはそんな感情は微塵もなかった。やはり普通ではない。変な女の子なのだ。ありさは身支度といっても化粧品や財布の入ったバックを肩にかけるだけだが。意気揚々とオーディション会場に向かうべく、家を出た。会場は隣町にあるようだ。住所は貰った名刺の裏に記載してある。彼女は変わった子ではあるが、頭が悪いわけではない。むしろ良い方だ。会場のある駅で下車し、そこに向かう。

「うぅ、おなかすいたよう。誰かご飯プリーズ、恵まれない私に愛の手を…」

などと、腹部を抑え、前かがみになったり。声色をかえ、意味不明なセリフを口走りながらありさは歩を進める。周りの人の視線が痛々しい。

「きっとここだな、表札にはぐれおねプロデューサーって書いてあるし」

ここでも普通の人なら、「表札にプロデューサー?って普通は苗字や社名を書くものじゃないの?」などと嫌悪感を抱くものだが、彼女にはそんなものはない。その表札がある奥の建物に視線を向ける。

「でかっ!!なにこれデカすぎるんですけどぉ!?」

第一声がそれだった。通常。生徒数の多い学校などの養成所はもちろん大きいものであるが、スカウトされるなどして案内される場所などは、大抵が事務所である。こじんまりとしている場合が多い。この建物は横に広いタイプで二階建て。イメージ的にはドライブスルーのような大きさである。全体的に白く、潔白な感じだ。外から見ても。隅々まで手入れが行き届いている。入り口はどうやら、自動ドアのようで、左右に開くお洒落な感じだ。ありさはその自動ドアをくぐる。

「すっごい綺麗。それにいい匂い」

内装も白がメインで、どこか高級ホテルを思い起こさせるような壮観だった。

「こんにちは。本日、オーディションに来られた方ですか?」
「あっ、はい。そうですっ」

急に背後から声をかけられたありさは驚いて大きく声を張り上げてしまう。その様子を微笑ましく思ったのか、女性は笑顔で話を続ける。服装はフリルのついた可愛らしいメイドスタイル。色合いは基本の白と黒。頭にはプリムをつけていて、髪はみつあみを丸く左右両方で結っている。見た目は若く、ありさと同年代ぐらいだ。

「ありささま、ですよね。ご挨拶が遅れました。わたくしは当館のメイド、ヨルコと申します。あなた様を主の元までご案内するよう仰せつかっております」

メイドの少女ははフリルのついたスカートを捲し上げ。優雅にお辞儀をする。

「ではこちらへどうぞ」
「えっ、なにこの王子様の舞踏会にお呼ばれしたようなシチュエーションは。わたしお姫様なの、そうなの?もしかしてアイドルのオーディションとか言いつつ、未来の花嫁探しなんじゃ、主様っていってたし。てまさかだよね。私まだ16だし。いやいや、何妄想してんだ私」
「ありささま、どうかいたしましたか?」

そんな妄想全開。自己完結中のありさに一夫先を歩くヨルコがその場で振り向き声を発する。

「あははっ、なんでもないです、ただの独り言です」
「そうですか、ご気分が悪くなったりしたら、すぐにお声がけくださいね」

そして再び前に向き直り歩き始める。その歩き方は優雅で乱れのない、洗練された動きだった。

「かっこいい…」

その様子を見たありさからため息がこぼれる。

「こちらのお部屋になります」

ヨルコは部屋の入り口のドアをノックすると、その部屋にありさを招き入れる。

「ありがとうございます」

ありさはそうヨルコに頭をさげると、部屋の中へと足を踏み入れる。部屋の中は小奇麗で、真ん中には大きなガラステーブル。それを囲むようにソファーが並べられ。そのソファーには二人の男性らしき人影がみえる。

「よっ、久しぶり。こんなに早く来るとは思わなくて、おもてなしの準備はまだしてないぜ。そんなところに立ってても疲れるだろ。こっちにきて座んなよ」

男性の一人がアリサに手招きをする。髪は長く、銀色の髪に青いメッシュがかかっている。目には赤いふちの眼鏡をかけている。ネックレスをつけているところをみると、お洒落に気を使う人物だということが見て取れた。

「あっ、はい…ありがとうございます!!」

ありさは珍しく緊張しているようで、足早に歩を歩めると遠慮がちにその男の向かいのソファーへと腰かけた。少女が座ったのを確認すると、その男は眼鏡を右の中指でクイっと上にあげ、少女を見据えなおすと口を開いた。

「まずは来てくれてありがとう。先に自己紹介させてもらおう。俺はぐれおねという。一応プロデューサーになるが。まぁ、そんなに気を使わなくていいぜ。それでこっちははらみちゃん。うちの専属カメラマンになる。それとありさちゃんをここに案内した女の子はヨルコちゃんだ。ここでメイドとして働いてもらっている。いまのところこの三人がスタッフになっている。少ないけどね。さて、オーディションだが面談でもやるか?」
「え?…あの。それを私にきかれても」
「そりゃ、そうだよな。わりぃ、わりぃ。じゃあ、さっさと。ありさちゃん合格ね」
「はい…?え?あの、まだなんにもしてないんですけど…」
「簡単にいうと君のかわりはいないということさ。俺のイメージにぴったり合ってるからな。うーん、これをいうと怪しまれるから言いづらいが」

ぐれおねは右の手で頭をかくと、バツが悪そうに言葉をつづけた。

「うーん、なんていうか。前からありさちゃんのことチェックしてて。見てたんだよな」
「ふえぇっ!!、それってストーカーっていうんじゃ。もしかして…エッチなこと考えてたり。してないですよね?」
「いやいや、それは大丈夫だ。ついていったりはしてないし。ただ俺はありさちゃんのオーラに魅せられた。表現はしにくいんだが。一目見て惹かれたというか、うーん、難しいな」
「魅せられたなんてそんな、恥ずかしいじゃないですかぁ」

ありさは両方の手の平をに頬持っていくと顔を赤くしながら、身悶えした。そのあとぐれおねの方をちらりとみると嬉しそうに口を開いた。

「それでぇ…えへへ、わたしのどこら辺が魅力的なんでしょうか?」
「ふむ…天然なところかな」
「天然なんてそんな…てっ、ん?」
「ありさちゃんの同級生のみんなから、色々な話を聞いてね。この子はいいって思ったんだよな」
「…はぁ、そうですか…しょうじき、なにがいいのわかんないですけど。ありがとうございます…」

ありさは自分が求めていた返答。多分可愛いとか、カッコいいとかであろう。をぐれおねがいってくれると期待していたのだが、的が大きく外れて違っていたため、目に見えて元気がなくなっていた。その様子を見て彼女の様子に気がついたぐれおねは言葉を追加する。

「あと、これはアイドルにとってとても大切なこと。笑顔が大事だ。その笑顔で他の人を幸せにできる。本当の意味ならこれは。実は大体のアイドルがみんなできていない。というのも、つくった笑顔ではダメだからだ。それと俺が求めるアイドル象。聞いてほしい。顔が可愛ければそれはある意味人気はでるだろう。だが、知っているか?化粧である程度、可愛くなれることを。これは極端な例だが、ごく普通の男性だとしてもメイクやウィッグでで可愛い女の子になれてしまうんだ。ほんとよくみても気づかないレベルでな。すなわち、ある意味誰でも可愛くなれる。そして視聴者に好まれる性格をつくり、それを演じればファンも増えてくるだろう。だがそれは俺が求めるものではない。もちろん、視聴者やファンに好まれるアイドル象をつくるのは間違いだとは思っていない。それで人を幸せにできているからな」

「ぐれおねさんは語りだすと長いんだよね。ごめんねありさちゃん。時間はだいじょうぶかい?」

ぐれおねの隣に座っていたもうひとりの男性。カメラマンであるはらみが口をはさむ。だが返事はなかった。彼女は周りの声が聞こえないほどプロデューサーであるぐれおねの話に聞き入っていたのだ。その目線は真剣そのもので、ぐれおねの目を見据えていた。人は情で動くという。男の熱い思いが彼女の心を揺れ動かしたのであろう。

「あっ、わるいな。話がながくなっちゃって」
「だいじょうぶです。もっとお話きいてみたいです。まだぐれおねさんのもとめているアイドル聞いてないから」
「さすがは、心で語るぐれおねさんといったところか。ありさちゃんがあんなに真剣に」

はらみは隣にいるぐれおねとありさの顔を交互に見た。

「俺が求めるアイドルそれはNatural(自然)だ。顔は作らない。性格も飾らない。その人柄のままでだ。核である心はつくれないからな。話は長くなってしまったが、ありさちゃんにはそれができる。そのオーラをもっているということだな。人はそれぞれ個だ。だから神咲舞ありさのかわりはいないんだよ」
「そんなこといわれたのはじめてです…なんか感動してなみだが。ごめんなさい。人に必要とされるってこんなに幸せに思えることなんですね」
「そっか、そんなに喜んでくれたならよかった。これで話は終わりだ。答えは家に帰ってゆっくり考えてみてくれ」

コトッ コトッ コトッ

人数分の食器をおく音が聞こえる。

「お話はおわりましたか、ミルクティです。どうぞ。おあついので気をつけてくださいね」

ヨルコだった。話が終わったタイミングをみはからったのだろう。ありさたちの前のガラステーブルに飲み物がおかれる。ありさはそんな彼女の笑顔をみると、あたたかい気持ちになった。それと同時に先ほどのぐれおねの言葉が頭をよぎる。

(心はつくれない。そっかこれがよるこさんなんだ。ほんと笑顔をみるだけで癒される。安心できる)

ありさは机におかれたミルクティーを片手で持ち、コップの底面に手をそえ、口に運ぶとそれを口に含む。

「おいしいっ!!こんなおいしいミルクティーのんだことないです。心まであったまるような」
「ふふ、愛情いっぱいそそいでますから」

よるこはそういうと悪戯っぽくウィンクした。

「はぁ、かわいい…。はっ、私、ヨルコさんに見惚れてた!?」
「はははっ、ありさちゃんは感情性豊かでみていてあきないな」
「うぅ…恥ずかしい」

ありさは顔を赤くしながら下をむく。そのあと正面を向きながら、それが自然の流れのように口を開いた。

「うん、私…アイドルやってみたいです。ここでぐれおねさんやみなさんと。なんていうか一緒にいると居心地がいいし、がんばれる気がするから…えと、他のところだと頑張れないとか、そういうことじゃなくて。えと、えと。その…なんか、今日幸せでした。心があたたかくなったっていうか。そんな思いを多くの人にも感じさせてあげたい。私にそれができるならそうしたい。そうおもいました」

「そうか、そんな言葉が聞けるとは思ってなかった。嬉しいぜ」
「これからよろしくありさちゃん。可愛くいっぱいとってあげるからね」

ぐれおねとはらみが言葉を繋ぐ。そんな三人の様子にヨルコは笑顔でいた。
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