Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ アンズ特別編

ぐれおねP

文字の大きさ
上 下
8 / 9

国家権力

しおりを挟む
 親友の死を目の当たりにしたアンズは虚ろな目をした放心状態でその場に座り込んでいた。 

 両手にはアリサの形身である血まみれの二丁拳銃(邪滅聖魂)が収まっている。 

そんな時、入り口から射し込んでくる光を遮って青い制服を着た五人の警官がドタドタと部室の中へ土足で足を踏み入れる。 

『うっ…これは酷い』 

 その中の一人の警官が部屋の惨状につい、言葉をもらす。 

 アンズは無気力のまま目だけは警官達の動向を映しだしていた。 

『こっちは息がある大丈夫だ』 
『こっちも問題ない』 

 警官達は気を失っている陸上部の部員達の脈や鼓動を調べ、結果を確認しあっている。 

『とりあえずは表に連れて行くんだ…ここは刺激が強すぎる。気付いて落ち着きを取り戻したら話を聞いてみてくれ』 
『はい』 

 長官らしき人物の言葉に警官達は返事をする。 
 
『では、先生も外に出ていて下さい。危険ですから。後で話をうかがわせて頂きます』 
『…はい』 

 部室に残った長官を合わせた警官達はアンズの側まで歩み寄ると囲む様に腰をおろした。 

『さて、アンズ…学生(アリサ)殺害容疑で逮捕する。署までご同行願おうか』 
『…さつ…が…い』 

 アンズが今にも消えてしまいそうな声量で呟(つぶや)く。 

(さつがい…わたし…殺害…ア…リ…サ…アリサ…!!) 

『…え!?』 

 死んでいた瞳に生気が戻る。 

『ほらっ、立つんだ!!』 

 もう一人の警官がアンズの腕を荒々しくひっぱる。 

『…いたっ』 
『まったく何て奴だ。…クラスメートを殺すなんて…苛められたか何かだろうけど』 

 アンズの顔を見ながらもう一人の警官が呟く。 

『!!…そんなっ、私殺してないっ、私じゃないっ!!』 

 アンズは完全に我を取り戻すと、必死に無実を叫ぶ。 

『こらっ、暴れるんじゃないっ…話なら署でゆっくりと聞いてやる』 

 警官はそう言ってアンズの腕を背中にねじり上げる。 

『痛い、私じゃないっ、信じてくださ…ぃ…信じて』 

 涙を流しながら、警官の腕の中でもがき続けるアンズ。 

『アンズせんぱいっ』 

 アンズの耳にコウの可愛い声が響く。 

『コウちゃんっ!…くっ…いた』 
『危険だ…下がりなさいっ』 

 部室に駆けつけたコウ達に向かって長官が声をかける。 

『何してるんですかぁっ、アンズせんぱいは殺してないですっ、アリサせんぱいを心配してっ…うぅ』 

 コウなりに一生懸命で必死な叫び。 

『…君の先輩を信じたいという気持ちはよくわかる…だが…』 
『本当なんですっ!…せんぱいは、黒いマントで赤い目の人、えぇと魔族に殺されたんですっ!!』 

 長官が話し終える前にコウは口を挟んだ。 

『コウちゃんの言ってることはうそじゃないっ』 
『わたしたちも襲われたんだよっ』 

 イフ、ジェネの二人も絵里に続いて声を荒げる。 

『…ふう…』 

 長官は部室に残っている他の二人の警官の顔を交互に見る。 

 一人は首をかしげ、もう一人は呆れた顔をしていた。 

『スズフミもノエルも言ってやってよ』 

 ジェネが後ろにいるノエルとスズフミの袖をひっぱる。 

『そうだよ、何でだまってんの』 

 イフの言葉にノエルとスズフミは困った表情でお互いの顔を見合った。 

 ノエルとスズフミの二人にはわかっていたのだ。こんな非常識なことを信じてもらえるわけはないと…、 

 しかし、諦めるのではなく何か良い方法はないものかと、それぞれ考えを巡らせていた。 
 
『取りあえずはだ。これ以上、我々の邪魔をするのであれば、公務執行妨害で逮捕しなくてはならなくなる…そこをどいてもらおう』 

 長官は静かな言葉でコウ達四人を制した。 

『公務執行妨害ってそんな…』 

 スズフミの口から言葉がもれる。 

『…くっ』 

 ノエルは唇を強く噛み締める。 

 …そして二人は黙って道をあけた。 

『…どうしてっ…どうしてです…かぁ』 

 涙目のコウの視線がノエルとスズフミの心に痛みを与える。 

『そうだよっ…何で道をあけるのさっ』 
『アンズちゃんがかわいそうじゃないの?』 
『…ノエルさんもスズフミさんも…ひどい』 

 イフとジェネの、コウの言葉が二人の心の痛みを更に深める。 

『黙れよっ!!』 
『…ひっ』 
『うわっ』 
『きゃあっ』 

 三人の言葉の攻撃に耐えかねたノエルが怒鳴り声をあげる。いつもの明るいノエルからは考えられないような純粋な恐さを抱かせる声。 

『そんなわけないだろ…わたしだって…スズだって…そりゃ助けてあげたいさ…でも、魔族なんて言ったって信じてもらえるわけないじゃないかよっ、証拠だってないんだっ…それにここでわたし達まで捕まったら誰がアンズの無実を証明するんだよっ』 

『あっ…』 
『うっ…』 
『…うぅ』 
『…そして、それはアンズちゃんだけじゃない…命を落としたその子のためにもなるはずだよ』 

 スズフミが優しい声で、ノエルの言葉に付け加える。 

    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ 第二部 what is it?idol

ぐれおねP
青春
わたしの名前は神咲舞ありさ。弥勒高校に通う二年生。先週、路上でスカウトされて、今日はオーディションの日。スカウトされたのになんでオーディション?っておもうんだけど、その人の話を聞いてちょっとおもしろそうだからいってみようかなって思ったんだ。アイドルのオーディションなんて、この先また受けられるかわかんないし。何事も経験だよね。ぐれおねさんっていったっけ。面白い人だったなぁ。話にうまくてのせられちゃった感あるんだけど。まっ、大丈夫でしょ。 主人公は高校生になっても、人を疑うことをあまりしない。ノー天気で少し子供っぽい女の子。髪の色は赤くそれを右側でまとめているサイドテール。後ろ髪は長い。その髪にはオレンジ色の星の形をしたヘアピンをつけている。スタイルは良く、目もパッチリしている感じの美少女。 そんな彼女がアイドルの候補生となり、その仲間やライバル。一癖も二癖もある事務所の人達との交流をコメディときにはシリアスに綴る。表でははそんなありきたりな物語。しかして隠された真実。その謎を追う探索パート。猟奇シーンありな一粒で多分二度おいしい作品。 ※前回にあげた四つの作品が第一部となっております。

処理中です...