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国家権力
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親友の死を目の当たりにしたアンズは虚ろな目をした放心状態でその場に座り込んでいた。
両手にはアリサの形身である血まみれの二丁拳銃(邪滅聖魂)が収まっている。
そんな時、入り口から射し込んでくる光を遮って青い制服を着た五人の警官がドタドタと部室の中へ土足で足を踏み入れる。
『うっ…これは酷い』
その中の一人の警官が部屋の惨状につい、言葉をもらす。
アンズは無気力のまま目だけは警官達の動向を映しだしていた。
『こっちは息がある大丈夫だ』
『こっちも問題ない』
警官達は気を失っている陸上部の部員達の脈や鼓動を調べ、結果を確認しあっている。
『とりあえずは表に連れて行くんだ…ここは刺激が強すぎる。気付いて落ち着きを取り戻したら話を聞いてみてくれ』
『はい』
長官らしき人物の言葉に警官達は返事をする。
『では、先生も外に出ていて下さい。危険ですから。後で話をうかがわせて頂きます』
『…はい』
部室に残った長官を合わせた警官達はアンズの側まで歩み寄ると囲む様に腰をおろした。
『さて、アンズ…学生(アリサ)殺害容疑で逮捕する。署までご同行願おうか』
『…さつ…が…い』
アンズが今にも消えてしまいそうな声量で呟(つぶや)く。
(さつがい…わたし…殺害…ア…リ…サ…アリサ…!!)
『…え!?』
死んでいた瞳に生気が戻る。
『ほらっ、立つんだ!!』
もう一人の警官がアンズの腕を荒々しくひっぱる。
『…いたっ』
『まったく何て奴だ。…クラスメートを殺すなんて…苛められたか何かだろうけど』
アンズの顔を見ながらもう一人の警官が呟く。
『!!…そんなっ、私殺してないっ、私じゃないっ!!』
アンズは完全に我を取り戻すと、必死に無実を叫ぶ。
『こらっ、暴れるんじゃないっ…話なら署でゆっくりと聞いてやる』
警官はそう言ってアンズの腕を背中にねじり上げる。
『痛い、私じゃないっ、信じてくださ…ぃ…信じて』
涙を流しながら、警官の腕の中でもがき続けるアンズ。
『アンズせんぱいっ』
アンズの耳にコウの可愛い声が響く。
『コウちゃんっ!…くっ…いた』
『危険だ…下がりなさいっ』
部室に駆けつけたコウ達に向かって長官が声をかける。
『何してるんですかぁっ、アンズせんぱいは殺してないですっ、アリサせんぱいを心配してっ…うぅ』
コウなりに一生懸命で必死な叫び。
『…君の先輩を信じたいという気持ちはよくわかる…だが…』
『本当なんですっ!…せんぱいは、黒いマントで赤い目の人、えぇと魔族に殺されたんですっ!!』
長官が話し終える前にコウは口を挟んだ。
『コウちゃんの言ってることはうそじゃないっ』
『わたしたちも襲われたんだよっ』
イフ、ジェネの二人も絵里に続いて声を荒げる。
『…ふう…』
長官は部室に残っている他の二人の警官の顔を交互に見る。
一人は首をかしげ、もう一人は呆れた顔をしていた。
『スズフミもノエルも言ってやってよ』
ジェネが後ろにいるノエルとスズフミの袖をひっぱる。
『そうだよ、何でだまってんの』
イフの言葉にノエルとスズフミは困った表情でお互いの顔を見合った。
ノエルとスズフミの二人にはわかっていたのだ。こんな非常識なことを信じてもらえるわけはないと…、
しかし、諦めるのではなく何か良い方法はないものかと、それぞれ考えを巡らせていた。
『取りあえずはだ。これ以上、我々の邪魔をするのであれば、公務執行妨害で逮捕しなくてはならなくなる…そこをどいてもらおう』
長官は静かな言葉でコウ達四人を制した。
『公務執行妨害ってそんな…』
スズフミの口から言葉がもれる。
『…くっ』
ノエルは唇を強く噛み締める。
…そして二人は黙って道をあけた。
『…どうしてっ…どうしてです…かぁ』
涙目のコウの視線がノエルとスズフミの心に痛みを与える。
『そうだよっ…何で道をあけるのさっ』
『アンズちゃんがかわいそうじゃないの?』
『…ノエルさんもスズフミさんも…ひどい』
イフとジェネの、コウの言葉が二人の心の痛みを更に深める。
『黙れよっ!!』
『…ひっ』
『うわっ』
『きゃあっ』
三人の言葉の攻撃に耐えかねたノエルが怒鳴り声をあげる。いつもの明るいノエルからは考えられないような純粋な恐さを抱かせる声。
『そんなわけないだろ…わたしだって…スズだって…そりゃ助けてあげたいさ…でも、魔族なんて言ったって信じてもらえるわけないじゃないかよっ、証拠だってないんだっ…それにここでわたし達まで捕まったら誰がアンズの無実を証明するんだよっ』
『あっ…』
『うっ…』
『…うぅ』
『…そして、それはアンズちゃんだけじゃない…命を落としたその子のためにもなるはずだよ』
スズフミが優しい声で、ノエルの言葉に付け加える。
両手にはアリサの形身である血まみれの二丁拳銃(邪滅聖魂)が収まっている。
そんな時、入り口から射し込んでくる光を遮って青い制服を着た五人の警官がドタドタと部室の中へ土足で足を踏み入れる。
『うっ…これは酷い』
その中の一人の警官が部屋の惨状につい、言葉をもらす。
アンズは無気力のまま目だけは警官達の動向を映しだしていた。
『こっちは息がある大丈夫だ』
『こっちも問題ない』
警官達は気を失っている陸上部の部員達の脈や鼓動を調べ、結果を確認しあっている。
『とりあえずは表に連れて行くんだ…ここは刺激が強すぎる。気付いて落ち着きを取り戻したら話を聞いてみてくれ』
『はい』
長官らしき人物の言葉に警官達は返事をする。
『では、先生も外に出ていて下さい。危険ですから。後で話をうかがわせて頂きます』
『…はい』
部室に残った長官を合わせた警官達はアンズの側まで歩み寄ると囲む様に腰をおろした。
『さて、アンズ…学生(アリサ)殺害容疑で逮捕する。署までご同行願おうか』
『…さつ…が…い』
アンズが今にも消えてしまいそうな声量で呟(つぶや)く。
(さつがい…わたし…殺害…ア…リ…サ…アリサ…!!)
『…え!?』
死んでいた瞳に生気が戻る。
『ほらっ、立つんだ!!』
もう一人の警官がアンズの腕を荒々しくひっぱる。
『…いたっ』
『まったく何て奴だ。…クラスメートを殺すなんて…苛められたか何かだろうけど』
アンズの顔を見ながらもう一人の警官が呟く。
『!!…そんなっ、私殺してないっ、私じゃないっ!!』
アンズは完全に我を取り戻すと、必死に無実を叫ぶ。
『こらっ、暴れるんじゃないっ…話なら署でゆっくりと聞いてやる』
警官はそう言ってアンズの腕を背中にねじり上げる。
『痛い、私じゃないっ、信じてくださ…ぃ…信じて』
涙を流しながら、警官の腕の中でもがき続けるアンズ。
『アンズせんぱいっ』
アンズの耳にコウの可愛い声が響く。
『コウちゃんっ!…くっ…いた』
『危険だ…下がりなさいっ』
部室に駆けつけたコウ達に向かって長官が声をかける。
『何してるんですかぁっ、アンズせんぱいは殺してないですっ、アリサせんぱいを心配してっ…うぅ』
コウなりに一生懸命で必死な叫び。
『…君の先輩を信じたいという気持ちはよくわかる…だが…』
『本当なんですっ!…せんぱいは、黒いマントで赤い目の人、えぇと魔族に殺されたんですっ!!』
長官が話し終える前にコウは口を挟んだ。
『コウちゃんの言ってることはうそじゃないっ』
『わたしたちも襲われたんだよっ』
イフ、ジェネの二人も絵里に続いて声を荒げる。
『…ふう…』
長官は部室に残っている他の二人の警官の顔を交互に見る。
一人は首をかしげ、もう一人は呆れた顔をしていた。
『スズフミもノエルも言ってやってよ』
ジェネが後ろにいるノエルとスズフミの袖をひっぱる。
『そうだよ、何でだまってんの』
イフの言葉にノエルとスズフミは困った表情でお互いの顔を見合った。
ノエルとスズフミの二人にはわかっていたのだ。こんな非常識なことを信じてもらえるわけはないと…、
しかし、諦めるのではなく何か良い方法はないものかと、それぞれ考えを巡らせていた。
『取りあえずはだ。これ以上、我々の邪魔をするのであれば、公務執行妨害で逮捕しなくてはならなくなる…そこをどいてもらおう』
長官は静かな言葉でコウ達四人を制した。
『公務執行妨害ってそんな…』
スズフミの口から言葉がもれる。
『…くっ』
ノエルは唇を強く噛み締める。
…そして二人は黙って道をあけた。
『…どうしてっ…どうしてです…かぁ』
涙目のコウの視線がノエルとスズフミの心に痛みを与える。
『そうだよっ…何で道をあけるのさっ』
『アンズちゃんがかわいそうじゃないの?』
『…ノエルさんもスズフミさんも…ひどい』
イフとジェネの、コウの言葉が二人の心の痛みを更に深める。
『黙れよっ!!』
『…ひっ』
『うわっ』
『きゃあっ』
三人の言葉の攻撃に耐えかねたノエルが怒鳴り声をあげる。いつもの明るいノエルからは考えられないような純粋な恐さを抱かせる声。
『そんなわけないだろ…わたしだって…スズだって…そりゃ助けてあげたいさ…でも、魔族なんて言ったって信じてもらえるわけないじゃないかよっ、証拠だってないんだっ…それにここでわたし達まで捕まったら誰がアンズの無実を証明するんだよっ』
『あっ…』
『うっ…』
『…うぅ』
『…そして、それはアンズちゃんだけじゃない…命を落としたその子のためにもなるはずだよ』
スズフミが優しい声で、ノエルの言葉に付け加える。
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