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無力

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場所は変わって、ここはすぐ目の前にある体育館。 

『ふう…これでよしっと』 
『スズ、ごくろうさまっ…大丈夫、疲れたんじゃない?』 

傷ついたバレー部員達を介護する為、治癒能力を使い続けたスズフミに向かってノエルは優しく言葉を投げかける。 

『ありがとうノエル、私なら大丈夫だよ』 

スズフミはノエルに笑顔を見せる。 

『スズフミさんありがとうございます。おかげで他のバレー部のみんなも助かりました』 

ユウナが真面目な顔で頭をさげる。 

『ううん…それは違うよ』 
『えっ?』 
『うん…ユウナが体をはってみんなを守ったからみんな無事なんだよ…それがなかったら私は多分、力になれなかったと思う』 
『…スズフミさん…』 

ユウナはスズフミの優しさに目の奥が熱くなるのを感じた。 

『さすがスズ、良いこというね…んっ、そういえばさっきの大きな音なんだったんだろう』 

ノエルが思い出したかのように話をきりだした。 

『ほんとおおきな音だったよね』 
『うん、おおきかった』 

イフとジェネはお互いの顔を見合って頷(うなづ)き合っている。 

『もしかしてまた魔族とかだったりして』 
『ええ~もうやだぁっ』 

ジェネの決してわざとではない言葉に希美が過剰反応する。 

『…ありえない話じゃないかも…ね』 

ノエルの表情から笑みが消え、険しくなる。 

『ノエル…?』 
『スズ…みんな。わたしちょっと見てくるっ』 

ノエルはそう言いながら慌ただしく立ち上がる。 

『ノエルさんっ、一人でですか?わたしも行きますよ』 
『大丈夫だって、ちょっと様子を見てくるだけだからさっ』 

立ち上がろうとするユウナにノエルは笑顔で答える。 

『でもっ』 
『…ユウナ…わたし自分の身を守るだけで精いっぱいだから…』 
『あ…』 

ノエルは申し訳無さそうにひとみユウナを制す。その一言で全てを理解(自分は足手まとい)したユウナは首を縦に振った。 

『…わかりました』 
『…ごめん…行ってくる』 

体育館の外に向かって駆け出す真里。その小さな後姿を追うひとみの目からながれる涙が頬をつたって落ちる。 

(くそっ…何も力になれないなんて) 

『ちっくしょおっ!!』 

人一倍正義感の強いユウナは、自分の無力さを悔やみその場へ崩れ落ちた。 

ノエルは耳に残るひとみの悲痛の叫びに心を痛めながら、体育館の外へと足を踏み出した。 

そして少し歩き、キョロキョロと辺りを見回した後言葉を投げかけた。 

『かまちゃんっ、いる?』 

その声に答え小さな旋風の後、小さな白い獣が姿を現す。 

『かまちゃんっ』 
『キュウンッ』 

小さな鳴き声をあげるとかまちゃん(妖怪かまいたちの子供)が真里にゆっくりと歩み寄る。 

『おいでっ』 

近くまできた白い獣を、ノエルは両腕を広げ出迎える。 

『よいしょっと』 

ノエルは優しくかまを抱き抱えると頭を撫でた。 

『キュウゥゥン』 

かまは気持ち良さそうに目を細める。 

『…かまちゃん、わたしに力をかしてっ』 

言葉の通じあえないかまを相手に独り言のようにノエルは声をかけ気を引き締めと体育館裏に向かって歩き出した。 

そして体育館裏。ノエルは辺りを見回すとすぐに一人の人影に気付いた。 

それに呼応するかのように腕の中のかまが飛び降り、眩(まばゆ)い輝きを放ちだす。それから風陣剣へと姿を変えた。  浮かび上がる剣を手に取るノエル。 

『…かまちゃん…あいつ敵ってこと?…くっ』 

ノエルはその人影を探るように見る。 

自分と同じ魅録高校の学生服を着た女生徒、ネクタイの色から一年生だということが見て取れた。 

しかし、どうしても敵(魔族)にはみえない…まったく殺気が感じられないのだ。 

風陣剣をぎゅっと握り締め、その人影の方へと向かう。 

女生徒がノエルの気配に気付いたのか、振り向いた。 

『いやぁっ、こないでえぇっ』 

女生徒が震えた声で叫ぶのと同時に女生徒を守る様に壁らしきものが現れその一部がノエルに向かって勢い良く迫り来る。 

『くっ…』 

ノエルは風陣剣を前に構え防御態勢をとるが勢いを弱めることは出来ても、止めるまでには到(いた)らず跳ね飛ばされる。 

『うわあぁっ』 

ドンッ 

小さな体が体育館の壁に叩きつけられる。 

『…ぐっ…いてて…なんなんだよ』 
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