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タライ
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『くくっ・・・これで怒りから、アンズの力が開放され、魂の輝きが増す・・・ふふ、ふははははっ・・・さて』
黒い影は歓喜の高笑いをすると、影の獣に喰らわれるであろうコウの方をみた。
ドタンッ ズドッ
『なっ、何だと!?』
地べたに叩きつけられ、微動だにしない影の獣サイレント。口から流れ出る血のようなものが地面に広がってゆく。
そしてもう一匹の影の獣の身体が痙攣し、とまる。
黒い影は以前にみた光景を思い出した。
『くっ・・・あの距離で間にあうわけがないはずだっ・・・まさか!?』
黒い影の顔から笑みが消える。
『・・・うぅ』
倒れていたコウがよろよろと体を起こす。
『大丈夫・・・こうちゃん?』
コウは前方から聞こえる優しい声にひかれ、その方向へ顔を向けた。
『・・・あっ』
そして見覚えのある後ろ姿に声が漏れる。
ズルリ・・・ドサッ
同時にその者の小さな拳から、影の獣の亡骸がずり落ちた。
『・・・気づいていたというのかっ?』
黒い影が驚きを隠すような口調で僕である影の獣を葬り去った者、アンズに言葉を投げかける。
『・・・その質問に答える必要はないです』
その言葉に冷静な口調で答えるアンズ。
『・・・以前は力を制御できず、立っていることもできなかったはずだ・・・この短期間でここまで力を扱えるようになっているとは・・・早い、早すぎる・・・
アリサといい、このアンズといい・・・甘くみていると足元をすくわれるかもしれん・・・それにあやつは頭も切れる』
黒い影は自分に注意も怠らず、コウに手を差しのべているアンズのことを考えていた。
コウはアンズに手を引かれ起きあがる。
『ありがとうご・・・うっ、か・・・は』
笑顔を覗かせていたコウの顔が苦しげな表情にかわる。
『どっ、どうしたの大丈夫こうちゃん!?・・・うっ・・・な・・・に』
アンズの表情も苦しみに歪む。
『アン・・・ズせん・・・ぱい・・・息ができ・・・ないで・・・す』
『こう・・・ちゃん・・・くっ・・・これ・・・は』
アンズは振り返ると、上空の黒い影に視線を向けた。
黒い影の自分達にかざしている手が、禍の元凶であるとすぐに気づくアンズ。
今一度、コウの様子を伺うべく視線を戻した。
コウ
(・・・お父さん、お母さん助けて・・・苦しいよ・・・ヨルコ・・・アリス・・・まだ、やりたいこといっぱいあったのに・・・私死んじゃうよ)
アンズ
(こうちゃんはもう限界・・・私の意識もだんだん朦朧としてきた・・・でも、諦めるわけにはいかない・・・元はといえば私のせいなんだ・・・こうちゃんは絶対に死なせないっ・・・でも、どうすれば)
コウ
(・・・やだっ・・・死にたくないっ・・・死にたくないよ・・・そんなのいやあぁぁ!!)
『・・・何だ!!・・・この魂の輝きはアンズと同等か・・・いやそれ以上だ・・・あれも特性変異人だったとはな・・・ふふふっ、ふはははっ・・・は・・・』
ガイィーンッ
『はぶっ!!』
大きく高笑いをしていた黒い影の後頭部に衝撃がはしる。
『ぐわああぁぁぁっ!!』
バランスを保つことができず、地面に向かって落ちてゆく黒い影。
・・・衝撃の正体、それは全長二メートル強程ある巨大なタライだった。今は自然消滅している。
『・・・かはぁ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・なんでタライが・・・助かっ・・・たけど・・・いったい・・・何が』
呼吸を止められていた窮地から抜け出すことができたアンズは付近を見渡す。
『・・・え?・・・うそ』
コウの声に振りかえるアンズ。
『どうしたの、こうちゃん?』
『今の光景、私が頭の中で思ったのとおなじ・・・なんで?』
コウのそんな独り言のような言葉に考えを巡らせ、アンズは一つの結論を見いだした。
(まさかこうちゃんも私と同じ特別な・・・くっ・・・私最低だ・・・同じ境遇のこうちゃんに一瞬喜んだ)
アンズは唇を強く噛み締めながら、そんな自分を恥じた。
『・・・アンズせんぱいどうしたんですか?』
コウの純粋な可愛らしい声が、アンズの心に突き刺さる。
『・・・こうちゃんごめんね』
『・・・え?』
その言葉の意味がわからないコウはキョトンとした顔でアンズを見ている。
『!!!・・・なに』
そのときアンズは全身の血の気がよだつほどの恐怖を感じ、素早く上空へと視線をあげた。
『・・・許さん・・・この私をあのような無様な目に・・・もう、遊ぶのはやめだ・・・殺す・・・貴様らを殺してくれるっ・・・魂すら残らんほどになぁっ!絶望の中で苦しみもがくがいいっ!!』
黒い影が背中のマントを翻し、体全体を大きく拡げる。胸元のあたりから黒い霧が宙を漂うように次から次へと流れ出す。
黒い影は歓喜の高笑いをすると、影の獣に喰らわれるであろうコウの方をみた。
ドタンッ ズドッ
『なっ、何だと!?』
地べたに叩きつけられ、微動だにしない影の獣サイレント。口から流れ出る血のようなものが地面に広がってゆく。
そしてもう一匹の影の獣の身体が痙攣し、とまる。
黒い影は以前にみた光景を思い出した。
『くっ・・・あの距離で間にあうわけがないはずだっ・・・まさか!?』
黒い影の顔から笑みが消える。
『・・・うぅ』
倒れていたコウがよろよろと体を起こす。
『大丈夫・・・こうちゃん?』
コウは前方から聞こえる優しい声にひかれ、その方向へ顔を向けた。
『・・・あっ』
そして見覚えのある後ろ姿に声が漏れる。
ズルリ・・・ドサッ
同時にその者の小さな拳から、影の獣の亡骸がずり落ちた。
『・・・気づいていたというのかっ?』
黒い影が驚きを隠すような口調で僕である影の獣を葬り去った者、アンズに言葉を投げかける。
『・・・その質問に答える必要はないです』
その言葉に冷静な口調で答えるアンズ。
『・・・以前は力を制御できず、立っていることもできなかったはずだ・・・この短期間でここまで力を扱えるようになっているとは・・・早い、早すぎる・・・
アリサといい、このアンズといい・・・甘くみていると足元をすくわれるかもしれん・・・それにあやつは頭も切れる』
黒い影は自分に注意も怠らず、コウに手を差しのべているアンズのことを考えていた。
コウはアンズに手を引かれ起きあがる。
『ありがとうご・・・うっ、か・・・は』
笑顔を覗かせていたコウの顔が苦しげな表情にかわる。
『どっ、どうしたの大丈夫こうちゃん!?・・・うっ・・・な・・・に』
アンズの表情も苦しみに歪む。
『アン・・・ズせん・・・ぱい・・・息ができ・・・ないで・・・す』
『こう・・・ちゃん・・・くっ・・・これ・・・は』
アンズは振り返ると、上空の黒い影に視線を向けた。
黒い影の自分達にかざしている手が、禍の元凶であるとすぐに気づくアンズ。
今一度、コウの様子を伺うべく視線を戻した。
コウ
(・・・お父さん、お母さん助けて・・・苦しいよ・・・ヨルコ・・・アリス・・・まだ、やりたいこといっぱいあったのに・・・私死んじゃうよ)
アンズ
(こうちゃんはもう限界・・・私の意識もだんだん朦朧としてきた・・・でも、諦めるわけにはいかない・・・元はといえば私のせいなんだ・・・こうちゃんは絶対に死なせないっ・・・でも、どうすれば)
コウ
(・・・やだっ・・・死にたくないっ・・・死にたくないよ・・・そんなのいやあぁぁ!!)
『・・・何だ!!・・・この魂の輝きはアンズと同等か・・・いやそれ以上だ・・・あれも特性変異人だったとはな・・・ふふふっ、ふはははっ・・・は・・・』
ガイィーンッ
『はぶっ!!』
大きく高笑いをしていた黒い影の後頭部に衝撃がはしる。
『ぐわああぁぁぁっ!!』
バランスを保つことができず、地面に向かって落ちてゆく黒い影。
・・・衝撃の正体、それは全長二メートル強程ある巨大なタライだった。今は自然消滅している。
『・・・かはぁ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・なんでタライが・・・助かっ・・・たけど・・・いったい・・・何が』
呼吸を止められていた窮地から抜け出すことができたアンズは付近を見渡す。
『・・・え?・・・うそ』
コウの声に振りかえるアンズ。
『どうしたの、こうちゃん?』
『今の光景、私が頭の中で思ったのとおなじ・・・なんで?』
コウのそんな独り言のような言葉に考えを巡らせ、アンズは一つの結論を見いだした。
(まさかこうちゃんも私と同じ特別な・・・くっ・・・私最低だ・・・同じ境遇のこうちゃんに一瞬喜んだ)
アンズは唇を強く噛み締めながら、そんな自分を恥じた。
『・・・アンズせんぱいどうしたんですか?』
コウの純粋な可愛らしい声が、アンズの心に突き刺さる。
『・・・こうちゃんごめんね』
『・・・え?』
その言葉の意味がわからないコウはキョトンとした顔でアンズを見ている。
『!!!・・・なに』
そのときアンズは全身の血の気がよだつほどの恐怖を感じ、素早く上空へと視線をあげた。
『・・・許さん・・・この私をあのような無様な目に・・・もう、遊ぶのはやめだ・・・殺す・・・貴様らを殺してくれるっ・・・魂すら残らんほどになぁっ!絶望の中で苦しみもがくがいいっ!!』
黒い影が背中のマントを翻し、体全体を大きく拡げる。胸元のあたりから黒い霧が宙を漂うように次から次へと流れ出す。
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