1 / 9
膝枕
しおりを挟む
力を抑え、辺りに注意を配りながら。
さすがは天才のアンズ、力に目覚めまだ一日しか経っていない今の時点でもうある程度はコントロールできるようになっていた。
しかし、黒い影は魂の輝きで人間を判断することができる。いくらアンズが力をコントロールができるようになったとはいえ意味をなさない。逃れる術はないのだ。
『ふははははっ、みつけたぞ』
目的であるアンズの姿を視界に捉えた黒い影の口元が緩む。背中にはためいている漆黒のマントが生き物のように蠢き、アリサを死に至らしめた鋭利な刃物へと姿をかえる。
音をたてず、アンズの命を奪うべく忍び寄る。
だが、その気配に周囲へと常に注意をはらっていたアンズはすぐ気づくことができ、余裕をもって備えるべく立ち上がろうとするが、膝に違和感を覚えコウを膝枕していたことにきづいた。
その場から動くことができないのだ。アンズの優しさが生んだ悲劇だった。黒き刃が速度をあげ迫りくる。アンズは視線を下げ、コウの顔をみた。
(アリサがせっかく助けてくれたのに、死ぬわけにはいかないっ)
アンズは即座に状況を分析し、機転をきかせた。自分のもてる全ての力を防御に集中させる。
『これはっ・・・この輝きは・・・あ奴の生きようという意思か、ふはは、素晴らしい』
目を閉じ、力を集中させたアンズ。自らを信じ、目を開いて黒き刃にそなえる。
『・・・えっ』
目前まで迫っていた複数の矢先は、何故かその動きを止めていた。
シュルシュルシュルッ
主の黒い影のもとへと黒い刃が戻っていく。
安心したアンズは身体の力が抜けると同時に、コウの様子が気になり視線を落とした。
防御壁を創り出せたと信じていたアンズは、力が自身の身体を強靭にしただけということに気づき、血の気が引くのを感じた。
(あのまま攻撃されていたらコウちゃんは死んでいた)
『くっ』
アンズは強く唇を噛み締めると
『こうちゃんっ、こうちゃんっ!おきてっ!!』
必死にコウの身体を強く揺さぶり、
パンパンッ
そして頬を叩いた。
コウを思うが故の行動だった。
『うう~んっ』
アンズの膝の上で軽く寝返りをうつコウ。瞼をゆっくり開けると、視界にぼんやりとアンズの顔が映りこむ。
『・・・あれっ・・・アンズせんぱい・・・?』
普段と変わらない舌ったらずな喋り方。
『こうちゃんっ!!』
『えっ!?』
いつも静かなアンズからは考えられないような大きな声に驚き、コウは心地よい膝枕から勢いよく上半身を起こす。
そしてそのアンズの鬼気迫る表情に朦朧としていた意識もたちまち元に戻る。
黒い影の動向を確認するため、そちらに強い視線を向ける。コウもその視線の先が気になり、振り向いた。
『ひっ』
空に浮かぶ黒い影の異様な姿。怪しく光る赤い目恐怖を覚え、小さな悲鳴をあげる。
ソッ
黒い影から視線を外さず、震えるコウの肩に手を乗せたアンズは、口を開いた。
『・・・大丈夫、こうちゃんは私が絶対に守るから』
アンズの優しくも力強さを感じさせる声、その横顔に安心感を覚え、
『アンズせんぱい・・・はい』
コウは落ち着きをとり戻すと頷いた。
『・・・ありがとう』
アンズは一瞬目をふせ、優しく口元を緩めると真剣な表情に戻り、小さな声でささやいた。
『いい?・・・私が注意をひくから、その隙に全速力でここから逃げて』
コクリ
コウも真剣な表情をつくりだし、無言で頷いた。
アンズとコウがその行動に移ろうとしたまさにそのとき、黒い影の口元が動いた。
『心配するな・・・私の狙いはあくまで特性変異人である貴様の魂。・・・それに用などない。待っててやるから早くいけっ』
『!!・・・ありがとう・・・さっ、かめちゃん』
アンズは黒い影に軽く礼をのべ、コウを立たせると、真っ直ぐに目を見つめ、逃げるよう合図する。
『・・・アンズ・・・せんぱい・・・ひっく・・・』
コウの目に涙が浮かぶ。
『私なら大丈夫だからっ・・・』
アンズは立ち上がり、優しく微笑みかけるとコウの頭を撫でた。
そんなアンズの優しい笑顔を脳裏に焼きつけたコウは、言われた通りにこの場から離れるべく、アンズに背を向けると全力で駆け出した。
(アンズせんぱい・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・)
心のなかでアンズに何度も謝りながら、走り続ける。
そんなコウの姿を息を潜めながら追う四つの赤い目があった。影の獣サイレントだ。
『ふっ・・・』
上空からその様子を眺めていた黒い影の口元が怪しく緩む。
『はぁ、はぁっ』
ドンッ
『きゃあっ』
コウの華奢な身体が何か見えないものにぶつかり、大きく弾かれる。
ドタッ
それから地面にうちつけられた。
『・・・ぐっ・・うぅ』
全身を強打し、コウはすぐに立ち上がることができない。
それを待っていたかのように、影の獣達がコウに襲いかかる。獲物を前に大量の唾液が飛び散る。
『いっ・・・いやああぁっ』
コウの悲鳴がこだまする。
さすがは天才のアンズ、力に目覚めまだ一日しか経っていない今の時点でもうある程度はコントロールできるようになっていた。
しかし、黒い影は魂の輝きで人間を判断することができる。いくらアンズが力をコントロールができるようになったとはいえ意味をなさない。逃れる術はないのだ。
『ふははははっ、みつけたぞ』
目的であるアンズの姿を視界に捉えた黒い影の口元が緩む。背中にはためいている漆黒のマントが生き物のように蠢き、アリサを死に至らしめた鋭利な刃物へと姿をかえる。
音をたてず、アンズの命を奪うべく忍び寄る。
だが、その気配に周囲へと常に注意をはらっていたアンズはすぐ気づくことができ、余裕をもって備えるべく立ち上がろうとするが、膝に違和感を覚えコウを膝枕していたことにきづいた。
その場から動くことができないのだ。アンズの優しさが生んだ悲劇だった。黒き刃が速度をあげ迫りくる。アンズは視線を下げ、コウの顔をみた。
(アリサがせっかく助けてくれたのに、死ぬわけにはいかないっ)
アンズは即座に状況を分析し、機転をきかせた。自分のもてる全ての力を防御に集中させる。
『これはっ・・・この輝きは・・・あ奴の生きようという意思か、ふはは、素晴らしい』
目を閉じ、力を集中させたアンズ。自らを信じ、目を開いて黒き刃にそなえる。
『・・・えっ』
目前まで迫っていた複数の矢先は、何故かその動きを止めていた。
シュルシュルシュルッ
主の黒い影のもとへと黒い刃が戻っていく。
安心したアンズは身体の力が抜けると同時に、コウの様子が気になり視線を落とした。
防御壁を創り出せたと信じていたアンズは、力が自身の身体を強靭にしただけということに気づき、血の気が引くのを感じた。
(あのまま攻撃されていたらコウちゃんは死んでいた)
『くっ』
アンズは強く唇を噛み締めると
『こうちゃんっ、こうちゃんっ!おきてっ!!』
必死にコウの身体を強く揺さぶり、
パンパンッ
そして頬を叩いた。
コウを思うが故の行動だった。
『うう~んっ』
アンズの膝の上で軽く寝返りをうつコウ。瞼をゆっくり開けると、視界にぼんやりとアンズの顔が映りこむ。
『・・・あれっ・・・アンズせんぱい・・・?』
普段と変わらない舌ったらずな喋り方。
『こうちゃんっ!!』
『えっ!?』
いつも静かなアンズからは考えられないような大きな声に驚き、コウは心地よい膝枕から勢いよく上半身を起こす。
そしてそのアンズの鬼気迫る表情に朦朧としていた意識もたちまち元に戻る。
黒い影の動向を確認するため、そちらに強い視線を向ける。コウもその視線の先が気になり、振り向いた。
『ひっ』
空に浮かぶ黒い影の異様な姿。怪しく光る赤い目恐怖を覚え、小さな悲鳴をあげる。
ソッ
黒い影から視線を外さず、震えるコウの肩に手を乗せたアンズは、口を開いた。
『・・・大丈夫、こうちゃんは私が絶対に守るから』
アンズの優しくも力強さを感じさせる声、その横顔に安心感を覚え、
『アンズせんぱい・・・はい』
コウは落ち着きをとり戻すと頷いた。
『・・・ありがとう』
アンズは一瞬目をふせ、優しく口元を緩めると真剣な表情に戻り、小さな声でささやいた。
『いい?・・・私が注意をひくから、その隙に全速力でここから逃げて』
コクリ
コウも真剣な表情をつくりだし、無言で頷いた。
アンズとコウがその行動に移ろうとしたまさにそのとき、黒い影の口元が動いた。
『心配するな・・・私の狙いはあくまで特性変異人である貴様の魂。・・・それに用などない。待っててやるから早くいけっ』
『!!・・・ありがとう・・・さっ、かめちゃん』
アンズは黒い影に軽く礼をのべ、コウを立たせると、真っ直ぐに目を見つめ、逃げるよう合図する。
『・・・アンズ・・・せんぱい・・・ひっく・・・』
コウの目に涙が浮かぶ。
『私なら大丈夫だからっ・・・』
アンズは立ち上がり、優しく微笑みかけるとコウの頭を撫でた。
そんなアンズの優しい笑顔を脳裏に焼きつけたコウは、言われた通りにこの場から離れるべく、アンズに背を向けると全力で駆け出した。
(アンズせんぱい・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・)
心のなかでアンズに何度も謝りながら、走り続ける。
そんなコウの姿を息を潜めながら追う四つの赤い目があった。影の獣サイレントだ。
『ふっ・・・』
上空からその様子を眺めていた黒い影の口元が怪しく緩む。
『はぁ、はぁっ』
ドンッ
『きゃあっ』
コウの華奢な身体が何か見えないものにぶつかり、大きく弾かれる。
ドタッ
それから地面にうちつけられた。
『・・・ぐっ・・うぅ』
全身を強打し、コウはすぐに立ち上がることができない。
それを待っていたかのように、影の獣達がコウに襲いかかる。獲物を前に大量の唾液が飛び散る。
『いっ・・・いやああぁっ』
コウの悲鳴がこだまする。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ 第二部 what is it?idol
ぐれおねP
青春
わたしの名前は神咲舞ありさ。弥勒高校に通う二年生。先週、路上でスカウトされて、今日はオーディションの日。スカウトされたのになんでオーディション?っておもうんだけど、その人の話を聞いてちょっとおもしろそうだからいってみようかなって思ったんだ。アイドルのオーディションなんて、この先また受けられるかわかんないし。何事も経験だよね。ぐれおねさんっていったっけ。面白い人だったなぁ。話にうまくてのせられちゃった感あるんだけど。まっ、大丈夫でしょ。
主人公は高校生になっても、人を疑うことをあまりしない。ノー天気で少し子供っぽい女の子。髪の色は赤くそれを右側でまとめているサイドテール。後ろ髪は長い。その髪にはオレンジ色の星の形をしたヘアピンをつけている。スタイルは良く、目もパッチリしている感じの美少女。
そんな彼女がアイドルの候補生となり、その仲間やライバル。一癖も二癖もある事務所の人達との交流をコメディときにはシリアスに綴る。表でははそんなありきたりな物語。しかして隠された真実。その謎を追う探索パート。猟奇シーンありな一粒で多分二度おいしい作品。
※前回にあげた四つの作品が第一部となっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる