Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ アンズ特別編

ぐれおねP

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膝枕

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 力を抑え、辺りに注意を配りながら。

 さすがは天才のアンズ、力に目覚めまだ一日しか経っていない今の時点でもうある程度はコントロールできるようになっていた。

 しかし、黒い影は魂の輝きで人間を判断することができる。いくらアンズが力をコントロールができるようになったとはいえ意味をなさない。逃れる術はないのだ。

『ふははははっ、みつけたぞ』

 目的であるアンズの姿を視界に捉えた黒い影の口元が緩む。背中にはためいている漆黒のマントが生き物のように蠢き、アリサを死に至らしめた鋭利な刃物へと姿をかえる。

 音をたてず、アンズの命を奪うべく忍び寄る。

 だが、その気配に周囲へと常に注意をはらっていたアンズはすぐ気づくことができ、余裕をもって備えるべく立ち上がろうとするが、膝に違和感を覚えコウを膝枕していたことにきづいた。

 その場から動くことができないのだ。アンズの優しさが生んだ悲劇だった。黒き刃が速度をあげ迫りくる。アンズは視線を下げ、コウの顔をみた。

(アリサがせっかく助けてくれたのに、死ぬわけにはいかないっ)

 アンズは即座に状況を分析し、機転をきかせた。自分のもてる全ての力を防御に集中させる。

 『これはっ・・・この輝きは・・・あ奴の生きようという意思か、ふはは、素晴らしい』

  目を閉じ、力を集中させたアンズ。自らを信じ、目を開いて黒き刃にそなえる。

『・・・えっ』

 目前まで迫っていた複数の矢先は、何故かその動きを止めていた。

シュルシュルシュルッ

  主の黒い影のもとへと黒い刃が戻っていく。

  安心したアンズは身体の力が抜けると同時に、コウの様子が気になり視線を落とした。

 防御壁を創り出せたと信じていたアンズは、力が自身の身体を強靭にしただけということに気づき、血の気が引くのを感じた。

(あのまま攻撃されていたらコウちゃんは死んでいた)

『くっ』

 アンズは強く唇を噛み締めると

『こうちゃんっ、こうちゃんっ!おきてっ!!』

 必死にコウの身体を強く揺さぶり、

パンパンッ

 そして頬を叩いた。

 コウを思うが故の行動だった。

『うう~んっ』

 アンズの膝の上で軽く寝返りをうつコウ。瞼をゆっくり開けると、視界にぼんやりとアンズの顔が映りこむ。

『・・・あれっ・・・アンズせんぱい・・・?』

 普段と変わらない舌ったらずな喋り方。

『こうちゃんっ!!』
『えっ!?』

 いつも静かなアンズからは考えられないような大きな声に驚き、コウは心地よい膝枕から勢いよく上半身を起こす。

  そしてそのアンズの鬼気迫る表情に朦朧としていた意識もたちまち元に戻る。

 黒い影の動向を確認するため、そちらに強い視線を向ける。コウもその視線の先が気になり、振り向いた。

『ひっ』

 空に浮かぶ黒い影の異様な姿。怪しく光る赤い目恐怖を覚え、小さな悲鳴をあげる。

 ソッ

 黒い影から視線を外さず、震えるコウの肩に手を乗せたアンズは、口を開いた。

『・・・大丈夫、こうちゃんは私が絶対に守るから』

 アンズの優しくも力強さを感じさせる声、その横顔に安心感を覚え、

『アンズせんぱい・・・はい』

コウは落ち着きをとり戻すと頷いた。

『・・・ありがとう』

 アンズは一瞬目をふせ、優しく口元を緩めると真剣な表情に戻り、小さな声でささやいた。

『いい?・・・私が注意をひくから、その隙に全速力でここから逃げて』

コクリ

 コウも真剣な表情をつくりだし、無言で頷いた。

 アンズとコウがその行動に移ろうとしたまさにそのとき、黒い影の口元が動いた。

『心配するな・・・私の狙いはあくまで特性変異人である貴様の魂。・・・それに用などない。待っててやるから早くいけっ』
『!!・・・ありがとう・・・さっ、かめちゃん』

 アンズは黒い影に軽く礼をのべ、コウを立たせると、真っ直ぐに目を見つめ、逃げるよう合図する。

『・・・アンズ・・・せんぱい・・・ひっく・・・』

 コウの目に涙が浮かぶ。

『私なら大丈夫だからっ・・・』

 アンズは立ち上がり、優しく微笑みかけるとコウの頭を撫でた。

 そんなアンズの優しい笑顔を脳裏に焼きつけたコウは、言われた通りにこの場から離れるべく、アンズに背を向けると全力で駆け出した。

(アンズせんぱい・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・)
 
心のなかでアンズに何度も謝りながら、走り続ける。

 そんなコウの姿を息を潜めながら追う四つの赤い目があった。影の獣サイレントだ。

『ふっ・・・』

 上空からその様子を眺めていた黒い影の口元が怪しく緩む。

『はぁ、はぁっ』

 ドンッ

『きゃあっ』

コウの華奢な身体が何か見えないものにぶつかり、大きく弾かれる。

ドタッ

それから地面にうちつけられた。

『・・・ぐっ・・うぅ』

 全身を強打し、コウはすぐに立ち上がることができない。

 それを待っていたかのように、影の獣達がコウに襲いかかる。獲物を前に大量の唾液が飛び散る。

『いっ・・・いやああぁっ』

 コウの悲鳴がこだまする。
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