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両親

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ノエルは何かの気配を感じ目をあける。

・・・と、そこには手入れされたかのように綺麗な毛並みの白い獣が、まるで死の間際にいる自分達を守るかのように存在していた。その体長は50センチ程だ。

 その謎の獣は、キュオオオォォォォンッと小さな身体からは想像も出来ないくらいの咆哮をあげる。それと同時に辺りに凄まじい勢いの旋風が巻きおこる。

ビュオオオオォォォォォッ

 地面の砂を巻き上げ、枯れ葉を撒き散らし、それはノエル達を死に誘うべく、眼前に迫り来る二つの大型の竜巻を食らいつくす程の勢いだった。

『・・・すご』

 ノエルは両の目を丸くし、その光景に魅いられたように視線をそらすことができない。

キュイイィィン、キュウイイン

 そんなときスズフミの頭の中に幼い子供のような声が聞こえてくる。何かを必死に誰かに訴えるような・・・そんな感じだ。

・・・それは数多の者を傷つけてきた、非情な子供の声色とは一致しなかった。一度も聞いたことのない声だ。

 スズフミはなんとかその言葉を聞き取れるよう、精神を集中する。そしてやがて、それは鮮明に頭の中へ響くようになる。

(イフ、ジェネは殺させないっ、おとうさん、おかあさんもうやめてよっ!!)

(イフ、ジェネは・・・殺させないって・・・それにおとうさん、おかあさん・・・えっ、誰?)

 スズフミはその声の主をみつけるべく顔をあげる。そして辺りを見回す。・・・視界に映る見覚えのない白い獣の姿に目が釘付けとなる。

キュイイィィン

 またスズフミの頭の中に声が聞こえてくる。

(やめてえぇぇぇ!!)

 それに呼応するかのように更に勢いを増す旋風。強大な力で二つの竜巻を弾き飛ばす。勢いが弱まり、地面にうちつけられたそれらは、やがて二つの姿を形づくってゆく。

 白く美しい毛並み、鋭利な鎌のような両手・・・体長を除けば目の前にいる謎の獣と同じであった。

 スズフミはようやく理解することができた。先ほどから頭に響く謎の声・・・それは目の前の小さな白い獣であること。そして地面に横たわっている二匹がその両親。

 何故かまではわからないが、イフ、ジェネを助けるためにしたことなのだと・・・。

『・・・あ~あ、もうっ、パパとママが子供に負けちゃしょうがないでしょっ』

 子供は呆れ果てたようにそう呟くと指を動かす。

 クンッと横たわっていた二匹の獣が何かに引っ張られるかのように空中へと浮かび上がる。そして宙に浮かぶ子供のもとまで運ばれ落とされる。白い獣達の弱った身体が落下の衝撃でビクンッと跳ねる。

その一連の動作はゲームセンターにあるクレーンゲームを思い起こさせる。

・・・スズフミはそのとき、二匹の白い獣の目から流れ出た涙を見逃さなかった。

 勿論、自分達が傷つくのに涙したわけではない。・・・操られ、我が子を手にかけなくてはならない過酷な定めに涙したのだ。獣とはいっても自分達の子供が大切なこと、可愛いことに違いはない。心優しいスズフミはそれを自分の事のように心を痛めていた。

『よぉし、こんどは負けないぞぉ。ぼくも本気だしちゃうかんねっ!!』

 子供はまるでゲームでも楽しむかのように再び指を動かす。

・・・そしてまた、親の白い獣達は竜巻へと姿を変えていく。

キュ、キュオオォォンッ
オオッ、キュオオォォン
キュオン

 スズフミの頭の中に子を思う両親の声が聞こえてくる。要領を覚えたのか・・・いやそうではないのだろう。スズフミの相手を気遣う心が精神を集中させたのだ。

(これ以上はたえられない・・・このままでは私たちの手であの子を殺めてしまう・・・あなた・・・)
(あぁ、やむおえんな・・・ならば方法は一つしかない)
(・・・はぃ)

(ちょっと・・・まさかっ・・・だめだよっ・・・そんな悲しいこと・・・)

『やめてえぇぇぇっ!!』

 スズフミの相手を思うがゆえの心からの叫び。

キュオオンッ

 スズフミの思いは届かず、白い獣の夫婦最後の言葉を聞き届けてしまう。

(強く生きなさい・・・)
(強く生きるんだ・・・)

 重なりあう、子を思う白い獣夫婦の言葉。

 時を同じくして愛しあうもの同士のお互いを切り刻む音。

ズババババババババッ

 飛び交う赤い鮮血、美しい白が赤く染まってゆく・・・そして絶命。

『えっ・・・仲間われ・・・た・・・助かったの?』

 スズフミとは違い、そこにある深い意味を知らないノエルはほっと胸を撫で下ろす。そんなノエルの心情を読みとるスズフミ。


『・・・ノエル』
『スズ、助かったんだよねっ、わたしたちっ』

 嬉しそうにしている親友を苦々しく思いながらスズフミはゆっくり口を開く。

『・・・ノエル 、そんなに嬉しそうにしないで・・・この子がかわいそうだよ・・・』
『・・・えっ・・・』

 ノエルの表情が困惑を物語る。スズフミは話を続けた。

『・・・私ね・・・なんでかはわからないけど・・・人以外の生き物の言葉もわかるみたい・・・ううん・・・気持ちが理解できるっていうのかな・・・』
『えっ・・・それ・・・ほんと?』
『・・・うん・・・自分でも・・・信じられないんだけど・・・間違いないとおもう・・・』
『・・・んー、スズが嘘をつくはずなんてないもんね・・・わたし信じるよ』

 すずふみの表情がパァっと明るくなる。いくら親友とはいえ、余りにも現実離れした話である。信じてもらえるのか正直のところ不安だったのだろう。

『・・・信じてくれるんだ。やっぱり優しいねノエルは・・・』

 笑顔を一瞬だけ覗かせたすずふみ。すぐに寂しそうな表情に戻り話を続ける。

『・・・あの男の子の下で命を落とした白い獣達ね・・・この子のおとうさん、おかあさんだったんだよ・・・。操られて、自分達の大事な子どもを傷つけてしまうことに、た・・・耐えられなくなって・・・それでね・・・自分達で死ぬことを選んだんだ・・・』

 スズフミの目のまわりは涙で熱くなっていた。涙脆いノエルは溢れでる涙を隠すように頭を下げる。

『・・・そんな物語があったなんて・・・わたし考えもしなかったよ』
『作戦会議おわったぁ?』
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