6 / 10
幸せ
しおりを挟む
ソラは本能でアリスの心のうちを理解していた。その震える小さな体をおさめるかのように、抱きしめる力を強める。
ザアアアアァァァッ
ソラ自身も打ちつける雨によって徐々にずぶ濡れになってゆく。
『ごめんね…ごめんね…ごめんね…ごめんね…』
ソラは涙をながしながら、何度も同じ言葉を繰り返す。
『・・っくしゃんっ!!』
『…あっ』
アリスの大きなくしゃみにより、ソラは今の自分達の現状を再認識すると、降りしきる雨からアリスを守るような態勢をとり、
『アリス…中に入ろ』
小屋の中へと誘導した。
それからソラはアリスを玄関に腰掛けさせると、玄関の引き戸を閉め寒気を遮断する。
アリスの体を小屋の中の暖かさが包み込む。それと同時に、雨で濡れた衣服の冷たさを感じさせた。
『ちょっと待ってなよ、今、お風呂わかすからさ』
靴を脱いで、ソラは奥のほうへとかけて行く。
体力を消耗し、下を向いていたアリスは、顔を上げ虚ろな瞳でそんなソラの後姿を追った。
そして、目前に広がる予想だにしなかった綺麗な小屋の中に大きな驚きを覚える。
『…えっ、なにこれっ』
目を大きく見開いたまま、周囲を見渡す。
チーンッ
電子レンジの終了音からしばらくして、奥のほうから右手に、湯気が立ち上るコーヒーカップを持ったソラが歩いてくる。
アリスの側までくると腰をおり、手に持ったコーヒーカップを手渡す。
『はい、ココア。あったまるよ』
アリスは、それを火傷(やけど)しない様に注意をはらって受け取る。
『あったか…』
そして冷えきった手の平を温めるようにカップを握る。
『ソラさん、いただきます』
『どうぞっ』
と、笑顔のソラ。アリスはカップに口をつけると、ゆっくりココアをすすった。
ズズズッ
『あつっ…でも、すごくおいしい』
スッ
そしてすぐまた、カップに口をつける。
『もうすぐお風呂もわくと思うからさ、あったまって帰りな…って何…泣いてんだよ…』
アリスの頬を一筋の涙が連なって光に反射していた。
『…うぅ…うっ…ソラ…さん…ごめっ…ごめんなさい…アリスが…アリスが行こうて言わなかったらっ…』
ソラの優しさがアリスの心を締め付け、刺激しされ、涙となってあふれ続ける。
『…アリス』
ソラの涙腺も刺激され、目頭が熱をおびる。
しかし、それは母親に捨てられたことや、新しい旦那のこととは明らかに違っていた。
今、目の前にいる人間が自分の為に涙を流してくれ、心配してくれている。こんな自分を必要としてくれている。それが嬉しかったのだ。
『アリス…ありがとう…』
自然とその言葉が口から出てくる。
『うぅっ…ひっく…ぇ…?』
涙目でソラの方を見るれいな。
『…何でもない。気にしないでいいってこと』
『…でも』
『っていうかさぁ…アリスは私を元気づけにきてくれたんでしょ、なら、泣かないでもらいたいんですけど』
ソラは無理につくってはいない本物の笑顔をアリスに向ける。
『あっ…っく…はい…』
アリスは手で涙をぬぐうとみきソラに笑顔をかえした。
『そうそう、それでいいんだよ』
ピー、ピー。
『んっ、お風呂が沸いたみたいだ、アリス先に入ってきなよ。その間に濡れた服を乾燥機にかけといてあげるからさっ』
『えっ、はい…でも、ソラさんは?…ソラさんだってぬれてる』
アリスは確かめるように、ソラの袖をつかむ。
『私ならだいじょうぶだって…ふふ、それとも一緒に入る?』
ソラは小悪魔のように意地悪な笑みを向けると、アリスの反応を楽しそうに待った。
『えっ?…はい。アリスはべつに、それでもいいですけど』
アリスは驚く様子も見せず、平然とこたえる。
『えっ!?』
(…まじで?…冗談で言ったつもりなんだけど…アリスは人前で裸になんのはずかしくないのかよ…少なくとも私はものすごくはずかしいってのっ)
ソラはそんな自分の気持ちを悟(さと)られないように冷静を装い尋ねる。
『…あのさ…アリスは恥ずかしかったりさぁ…しないの?』
『…そりゃ、はずかしくないっ、ていえば嘘になるけど…たぶん、ソラさんだから大丈夫なのかも』
『…はは…そうなんだ…』
ソラの無理につくったような乾いた笑い。
(嬉しいんだか…嬉しくないんだか…はぁ、覚悟を決めるしかないな…よしっ)
『…えと…じゃ、さっそくはいろっかアリスっ…後からついてきて』
ソラはぎこちなく言葉をくりだした。
『はいっ』
アリスは湿(しめ)った靴と靴下を脱ぐと、急いでソラの後をついてゆく。きょろきょろと落ち着かない様子で辺りを見回した。
『…ソラさん、ちょっと聞いてもいいですか?』
『んっ何、アリス?』
ソラは軽く後ろに振り向く。
『…この建物の中って、ソラさんがぜんぶ一人で考えてやったんですか?』
アリスはソラに少し興奮気味に尋ねる。
『うん、まぁねっ。でも、けっこういいっしょ?』
『はいっ、めっちゃきれいだし…ちゃんとかたづけられてるし…はぁ~、すごいなぁ、アリスの部屋なんかもう、なにこれってかんじでちらかってるもん』
『あははっ…でもなんか、アリスらしいよそれ』
『うわ、ひどっ』
そう言ってはいるが、アリスの顔は笑っていた。
『あははっ、ごめん、ごめん』
(わたし今、心のそこから笑ってる…久しぶりに…これがしあわせ…)
『…あっ、そうだ。今度、コウとヨルコもつれてきていいですか?…二人にもこの、ソラさんの家みせてあげたいっ』
はしゃぐアリスの言葉におされながらもソラは頷(うなづ)く
『えっ…あぁ、うん。別にかまわないけど』
ソラはそう言ってその場に立ち止まると、アリスの方に振り返った。
『アリス、ついたよ。ここが脱衣所…そんで、お風呂は奥になってる』
『はい…ってうわ、ひろっ』
アリスはゆうにはち八畳(じょう)はあるであろう脱衣所の中を見渡し、驚きと歓喜の声をあげる。
『そんなに驚くことじゃないと思うけど…まぁ、もとはみんなで使っていた集会場だからね。
それよりほら、早くはいっちゃいなよ。あっ、服はそこの乾燥機になげといていいよ
、わたしがかけとくから』
『えっ、そんくらいアリスじぶんでやりますよ。ソラさんにわるいもん』
『気にしなくていいって、それより、せっかくわかしたお風呂がさめちゃうじゃん、早くはいりなよ』
ソラは、笑顔を浮かべ言った。
(アリス、気を使わなくていいのに。ほんといいやつだよな…私なんかになんで笑顔をむけてくれるんだろ…)
『あっ、はい、そんじゃ』
アリスは自分の上着に手をかける。
『…あぅ』
アリスは赤みのおびた顔をソラの方へ向ける。
『…ソラさん…あの…』
『んっ、どうかした?』
先ほどからアリスに視線を向けたまま、外さないソラがこたえる。
『なんで、アリスのことみてるんですか?めっちゃ、はずかしいんですけど』
『あぁっ、ごめんっっ』
ソラはアリスを見つめていた自分の今の姿に気付き、あたふたと視線をそらした。
(なにやってんだろ私…でもほんとにアリスの笑顔をみていたい…幸せな気持ちになれるから…ずっと一緒にいてほしい…だって楽しいじゃんっ…はなれたくない!!
…ん?、ってうわっ、何、この感情は、これじゃ恋する乙女だよっ)
『やばいってっ』
『ソラさん?』
アリスは一人、手を振り回し暴れているソラに声をかける。
『あっ、いや、なんでもないから、き、気にしないでっ』
…とソラは言ったものの顔を赤くし、言葉からも焦りがうかがわれるので不自然極まりない。
『ぷっ、あはははっ』
アリスはいつものソラからは考えられない、その慌てた様子に笑いが込み上げてきた。
『な、なに笑ってるんだよ、もうっ、いいからお風呂入っちゃいなよっ、ていうか入るよっ』
『ぷくくっ…はぁい』
顔を赤くしたまま怒るソラ。アリスとは反対の棚に歩いてゆくと、恥ずかしさを通り越したのか、いそいそと服を脱ぎ始めた。
アリスも目の前の棚に脱いだ服を投げ入れる。
バスタオルを身体に巻いたソラは、着ていた服を乾燥機の中に放り込むとアリスの方を見た。
ソラと同じようにアリスもバスタオルを身体に巻いてはいるのだが、まだ慣れていないため手で押さえていないと落ちてしまうのか、そうならないように注意しているようだ。
それでも何とか自分の脱いだ服を両手に抱えると恥ずかしそうに顔を赤らめソラの元へ、ぺたぺたと音を立てて歩いてゆく。
『はい、ごくろうさまっ』
ソラは優しい笑みをうかべながら、すぐ側まできたアリスの腕から服を取り上げると、乾燥機へ同じように投げ入れた。
『すいませんっ…ふぅ、たすかったぁ。ソラさんってやっぱやさしい』
『そう、普通じゃない?』
ソラは照れ笑いを隠しながら、アリスを背に浴場へと向かう。
(やさしいか…でも、それはアリス、あんたにだけだよきっと…わたしにとって今、いちばん大切なのはもしかして…)
アリスもバスタオルを落ちないようにぎゅっと握り、その後をついてゆく。
ガララッ…
スライド式の戸をあけると、湯舟からたちのぼり充満している湯気が二人の視界を覆う。しかしそれは一瞬。
『うわぁっ、ひろおぃ、銭湯みたい』
アリスは目前に姿をあらわした大浴場を見渡しながら歓喜の声をあげる。
…といっても大体、普通の家にある風呂場の約八倍程度の広さなのだが、
『私はさきに身体あらっちゃうけど、アリスはどうする?』
ソラが後ろではしゃいでいるアリスに声をかける。
『んじゃ、アリスもそうします』
『そう、わかった。じゃ、好きな場所つかってっ』
『はいっ』
ソラはすぐ側の洗い場に腰をおろし、アリスは恥ずかしいのか、それとも気を使っているのか、少しはなれて桶に腰掛けた。
二人は各自、身体を洗い始める。距離があるせいか、ソラもアリスも身体に巻いてあったバスタオルを相手の視線を気にする事無くはだいた。だが、すぐ代わりに石鹸から泡立つ泡が身体を覆い隠し、バスタオルの代わりを果たす。
―約、二十分後―
『あ~、さっぱりした』
洗い終わったソラは、再度バスタオルを身体に巻き、頭を振り、水分をざっと振り払うと、他の小さめなタオルを頭に巻いて湯舟に身体をうずめる。
『うぅ~さいっこう』
ソラは幸悦な表情で、中年男のように両手を広げ、背もたれによりかかる。
ザアアアアァァァッ
ソラ自身も打ちつける雨によって徐々にずぶ濡れになってゆく。
『ごめんね…ごめんね…ごめんね…ごめんね…』
ソラは涙をながしながら、何度も同じ言葉を繰り返す。
『・・っくしゃんっ!!』
『…あっ』
アリスの大きなくしゃみにより、ソラは今の自分達の現状を再認識すると、降りしきる雨からアリスを守るような態勢をとり、
『アリス…中に入ろ』
小屋の中へと誘導した。
それからソラはアリスを玄関に腰掛けさせると、玄関の引き戸を閉め寒気を遮断する。
アリスの体を小屋の中の暖かさが包み込む。それと同時に、雨で濡れた衣服の冷たさを感じさせた。
『ちょっと待ってなよ、今、お風呂わかすからさ』
靴を脱いで、ソラは奥のほうへとかけて行く。
体力を消耗し、下を向いていたアリスは、顔を上げ虚ろな瞳でそんなソラの後姿を追った。
そして、目前に広がる予想だにしなかった綺麗な小屋の中に大きな驚きを覚える。
『…えっ、なにこれっ』
目を大きく見開いたまま、周囲を見渡す。
チーンッ
電子レンジの終了音からしばらくして、奥のほうから右手に、湯気が立ち上るコーヒーカップを持ったソラが歩いてくる。
アリスの側までくると腰をおり、手に持ったコーヒーカップを手渡す。
『はい、ココア。あったまるよ』
アリスは、それを火傷(やけど)しない様に注意をはらって受け取る。
『あったか…』
そして冷えきった手の平を温めるようにカップを握る。
『ソラさん、いただきます』
『どうぞっ』
と、笑顔のソラ。アリスはカップに口をつけると、ゆっくりココアをすすった。
ズズズッ
『あつっ…でも、すごくおいしい』
スッ
そしてすぐまた、カップに口をつける。
『もうすぐお風呂もわくと思うからさ、あったまって帰りな…って何…泣いてんだよ…』
アリスの頬を一筋の涙が連なって光に反射していた。
『…うぅ…うっ…ソラ…さん…ごめっ…ごめんなさい…アリスが…アリスが行こうて言わなかったらっ…』
ソラの優しさがアリスの心を締め付け、刺激しされ、涙となってあふれ続ける。
『…アリス』
ソラの涙腺も刺激され、目頭が熱をおびる。
しかし、それは母親に捨てられたことや、新しい旦那のこととは明らかに違っていた。
今、目の前にいる人間が自分の為に涙を流してくれ、心配してくれている。こんな自分を必要としてくれている。それが嬉しかったのだ。
『アリス…ありがとう…』
自然とその言葉が口から出てくる。
『うぅっ…ひっく…ぇ…?』
涙目でソラの方を見るれいな。
『…何でもない。気にしないでいいってこと』
『…でも』
『っていうかさぁ…アリスは私を元気づけにきてくれたんでしょ、なら、泣かないでもらいたいんですけど』
ソラは無理につくってはいない本物の笑顔をアリスに向ける。
『あっ…っく…はい…』
アリスは手で涙をぬぐうとみきソラに笑顔をかえした。
『そうそう、それでいいんだよ』
ピー、ピー。
『んっ、お風呂が沸いたみたいだ、アリス先に入ってきなよ。その間に濡れた服を乾燥機にかけといてあげるからさっ』
『えっ、はい…でも、ソラさんは?…ソラさんだってぬれてる』
アリスは確かめるように、ソラの袖をつかむ。
『私ならだいじょうぶだって…ふふ、それとも一緒に入る?』
ソラは小悪魔のように意地悪な笑みを向けると、アリスの反応を楽しそうに待った。
『えっ?…はい。アリスはべつに、それでもいいですけど』
アリスは驚く様子も見せず、平然とこたえる。
『えっ!?』
(…まじで?…冗談で言ったつもりなんだけど…アリスは人前で裸になんのはずかしくないのかよ…少なくとも私はものすごくはずかしいってのっ)
ソラはそんな自分の気持ちを悟(さと)られないように冷静を装い尋ねる。
『…あのさ…アリスは恥ずかしかったりさぁ…しないの?』
『…そりゃ、はずかしくないっ、ていえば嘘になるけど…たぶん、ソラさんだから大丈夫なのかも』
『…はは…そうなんだ…』
ソラの無理につくったような乾いた笑い。
(嬉しいんだか…嬉しくないんだか…はぁ、覚悟を決めるしかないな…よしっ)
『…えと…じゃ、さっそくはいろっかアリスっ…後からついてきて』
ソラはぎこちなく言葉をくりだした。
『はいっ』
アリスは湿(しめ)った靴と靴下を脱ぐと、急いでソラの後をついてゆく。きょろきょろと落ち着かない様子で辺りを見回した。
『…ソラさん、ちょっと聞いてもいいですか?』
『んっ何、アリス?』
ソラは軽く後ろに振り向く。
『…この建物の中って、ソラさんがぜんぶ一人で考えてやったんですか?』
アリスはソラに少し興奮気味に尋ねる。
『うん、まぁねっ。でも、けっこういいっしょ?』
『はいっ、めっちゃきれいだし…ちゃんとかたづけられてるし…はぁ~、すごいなぁ、アリスの部屋なんかもう、なにこれってかんじでちらかってるもん』
『あははっ…でもなんか、アリスらしいよそれ』
『うわ、ひどっ』
そう言ってはいるが、アリスの顔は笑っていた。
『あははっ、ごめん、ごめん』
(わたし今、心のそこから笑ってる…久しぶりに…これがしあわせ…)
『…あっ、そうだ。今度、コウとヨルコもつれてきていいですか?…二人にもこの、ソラさんの家みせてあげたいっ』
はしゃぐアリスの言葉におされながらもソラは頷(うなづ)く
『えっ…あぁ、うん。別にかまわないけど』
ソラはそう言ってその場に立ち止まると、アリスの方に振り返った。
『アリス、ついたよ。ここが脱衣所…そんで、お風呂は奥になってる』
『はい…ってうわ、ひろっ』
アリスはゆうにはち八畳(じょう)はあるであろう脱衣所の中を見渡し、驚きと歓喜の声をあげる。
『そんなに驚くことじゃないと思うけど…まぁ、もとはみんなで使っていた集会場だからね。
それよりほら、早くはいっちゃいなよ。あっ、服はそこの乾燥機になげといていいよ
、わたしがかけとくから』
『えっ、そんくらいアリスじぶんでやりますよ。ソラさんにわるいもん』
『気にしなくていいって、それより、せっかくわかしたお風呂がさめちゃうじゃん、早くはいりなよ』
ソラは、笑顔を浮かべ言った。
(アリス、気を使わなくていいのに。ほんといいやつだよな…私なんかになんで笑顔をむけてくれるんだろ…)
『あっ、はい、そんじゃ』
アリスは自分の上着に手をかける。
『…あぅ』
アリスは赤みのおびた顔をソラの方へ向ける。
『…ソラさん…あの…』
『んっ、どうかした?』
先ほどからアリスに視線を向けたまま、外さないソラがこたえる。
『なんで、アリスのことみてるんですか?めっちゃ、はずかしいんですけど』
『あぁっ、ごめんっっ』
ソラはアリスを見つめていた自分の今の姿に気付き、あたふたと視線をそらした。
(なにやってんだろ私…でもほんとにアリスの笑顔をみていたい…幸せな気持ちになれるから…ずっと一緒にいてほしい…だって楽しいじゃんっ…はなれたくない!!
…ん?、ってうわっ、何、この感情は、これじゃ恋する乙女だよっ)
『やばいってっ』
『ソラさん?』
アリスは一人、手を振り回し暴れているソラに声をかける。
『あっ、いや、なんでもないから、き、気にしないでっ』
…とソラは言ったものの顔を赤くし、言葉からも焦りがうかがわれるので不自然極まりない。
『ぷっ、あはははっ』
アリスはいつものソラからは考えられない、その慌てた様子に笑いが込み上げてきた。
『な、なに笑ってるんだよ、もうっ、いいからお風呂入っちゃいなよっ、ていうか入るよっ』
『ぷくくっ…はぁい』
顔を赤くしたまま怒るソラ。アリスとは反対の棚に歩いてゆくと、恥ずかしさを通り越したのか、いそいそと服を脱ぎ始めた。
アリスも目の前の棚に脱いだ服を投げ入れる。
バスタオルを身体に巻いたソラは、着ていた服を乾燥機の中に放り込むとアリスの方を見た。
ソラと同じようにアリスもバスタオルを身体に巻いてはいるのだが、まだ慣れていないため手で押さえていないと落ちてしまうのか、そうならないように注意しているようだ。
それでも何とか自分の脱いだ服を両手に抱えると恥ずかしそうに顔を赤らめソラの元へ、ぺたぺたと音を立てて歩いてゆく。
『はい、ごくろうさまっ』
ソラは優しい笑みをうかべながら、すぐ側まできたアリスの腕から服を取り上げると、乾燥機へ同じように投げ入れた。
『すいませんっ…ふぅ、たすかったぁ。ソラさんってやっぱやさしい』
『そう、普通じゃない?』
ソラは照れ笑いを隠しながら、アリスを背に浴場へと向かう。
(やさしいか…でも、それはアリス、あんたにだけだよきっと…わたしにとって今、いちばん大切なのはもしかして…)
アリスもバスタオルを落ちないようにぎゅっと握り、その後をついてゆく。
ガララッ…
スライド式の戸をあけると、湯舟からたちのぼり充満している湯気が二人の視界を覆う。しかしそれは一瞬。
『うわぁっ、ひろおぃ、銭湯みたい』
アリスは目前に姿をあらわした大浴場を見渡しながら歓喜の声をあげる。
…といっても大体、普通の家にある風呂場の約八倍程度の広さなのだが、
『私はさきに身体あらっちゃうけど、アリスはどうする?』
ソラが後ろではしゃいでいるアリスに声をかける。
『んじゃ、アリスもそうします』
『そう、わかった。じゃ、好きな場所つかってっ』
『はいっ』
ソラはすぐ側の洗い場に腰をおろし、アリスは恥ずかしいのか、それとも気を使っているのか、少しはなれて桶に腰掛けた。
二人は各自、身体を洗い始める。距離があるせいか、ソラもアリスも身体に巻いてあったバスタオルを相手の視線を気にする事無くはだいた。だが、すぐ代わりに石鹸から泡立つ泡が身体を覆い隠し、バスタオルの代わりを果たす。
―約、二十分後―
『あ~、さっぱりした』
洗い終わったソラは、再度バスタオルを身体に巻き、頭を振り、水分をざっと振り払うと、他の小さめなタオルを頭に巻いて湯舟に身体をうずめる。
『うぅ~さいっこう』
ソラは幸悦な表情で、中年男のように両手を広げ、背もたれによりかかる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

未熟な最強者の逆転ゲーム
tarakomax
ファンタジー
過労死したサラリーマンが転生したのは、魔法と貴族が支配する異世界。
のんびり暮らすはずだったアーサーは、前世の知識でスローライフを満喫……するはずだった。
だが、彼が生み出した「ある商品」が、世界を揺るがすことになる。
さらに、毎日襲いかかる異様な眠気――その正体は、この世界の"禁忌"に触れる力だった!?
そして彼が挑むのは、 "魔法を使ったイカサマ" に立ち向かう命がけの心理戦!
ババ抜き、人狼、脱出ゲーム……
"運" すら操る者たちの「見えない嘘」を暴き、生き残れ!!
スローライフ? そんなものは幻想だ!!
「勝たなきゃ、生き残れない。」
知略で運命を覆せ! これは、未熟な最強者が"逆転"に賭ける物語――!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる