Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ ~第三話~ 呪われし二対の妖刀vs思い出のペンダント。

ぐれおねP

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幸せ

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ソラは本能でアリスの心のうちを理解していた。その震える小さな体をおさめるかのように、抱きしめる力を強める。

ザアアアアァァァッ

ソラ自身も打ちつける雨によって徐々にずぶ濡れになってゆく。

『ごめんね…ごめんね…ごめんね…ごめんね…』

ソラは涙をながしながら、何度も同じ言葉を繰り返す。

『・・っくしゃんっ!!』
『…あっ』

アリスの大きなくしゃみにより、ソラは今の自分達の現状を再認識すると、降りしきる雨からアリスを守るような態勢をとり、

『アリス…中に入ろ』

小屋の中へと誘導した。

それからソラはアリスを玄関に腰掛けさせると、玄関の引き戸を閉め寒気を遮断する。

アリスの体を小屋の中の暖かさが包み込む。それと同時に、雨で濡れた衣服の冷たさを感じさせた。

『ちょっと待ってなよ、今、お風呂わかすからさ』

靴を脱いで、ソラは奥のほうへとかけて行く。

体力を消耗し、下を向いていたアリスは、顔を上げ虚ろな瞳でそんなソラの後姿を追った。

そして、目前に広がる予想だにしなかった綺麗な小屋の中に大きな驚きを覚える。

『…えっ、なにこれっ』

目を大きく見開いたまま、周囲を見渡す。

チーンッ

電子レンジの終了音からしばらくして、奥のほうから右手に、湯気が立ち上るコーヒーカップを持ったソラが歩いてくる。

アリスの側までくると腰をおり、手に持ったコーヒーカップを手渡す。

『はい、ココア。あったまるよ』

アリスは、それを火傷(やけど)しない様に注意をはらって受け取る。

『あったか…』

そして冷えきった手の平を温めるようにカップを握る。

『ソラさん、いただきます』
『どうぞっ』

と、笑顔のソラ。アリスはカップに口をつけると、ゆっくりココアをすすった。

ズズズッ

『あつっ…でも、すごくおいしい』

スッ

そしてすぐまた、カップに口をつける。

『もうすぐお風呂もわくと思うからさ、あったまって帰りな…って何…泣いてんだよ…』

アリスの頬を一筋の涙が連なって光に反射していた。

『…うぅ…うっ…ソラ…さん…ごめっ…ごめんなさい…アリスが…アリスが行こうて言わなかったらっ…』

ソラの優しさがアリスの心を締め付け、刺激しされ、涙となってあふれ続ける。

『…アリス』

ソラの涙腺も刺激され、目頭が熱をおびる。

しかし、それは母親に捨てられたことや、新しい旦那のこととは明らかに違っていた。

今、目の前にいる人間が自分の為に涙を流してくれ、心配してくれている。こんな自分を必要としてくれている。それが嬉しかったのだ。

『アリス…ありがとう…』

自然とその言葉が口から出てくる。

『うぅっ…ひっく…ぇ…?』

涙目でソラの方を見るれいな。

『…何でもない。気にしないでいいってこと』


『…でも』
『っていうかさぁ…アリスは私を元気づけにきてくれたんでしょ、なら、泣かないでもらいたいんですけど』

ソラは無理につくってはいない本物の笑顔をアリスに向ける。

『あっ…っく…はい…』

アリスは手で涙をぬぐうとみきソラに笑顔をかえした。

『そうそう、それでいいんだよ』

ピー、ピー。

『んっ、お風呂が沸いたみたいだ、アリス先に入ってきなよ。その間に濡れた服を乾燥機にかけといてあげるからさっ』
『えっ、はい…でも、ソラさんは?…ソラさんだってぬれてる』

アリスは確かめるように、ソラの袖をつかむ。

『私ならだいじょうぶだって…ふふ、それとも一緒に入る?』

ソラは小悪魔のように意地悪な笑みを向けると、アリスの反応を楽しそうに待った。

『えっ?…はい。アリスはべつに、それでもいいですけど』

アリスは驚く様子も見せず、平然とこたえる。

『えっ!?』

(…まじで?…冗談で言ったつもりなんだけど…アリスは人前で裸になんのはずかしくないのかよ…少なくとも私はものすごくはずかしいってのっ)

ソラはそんな自分の気持ちを悟(さと)られないように冷静を装い尋ねる。

『…あのさ…アリスは恥ずかしかったりさぁ…しないの?』
『…そりゃ、はずかしくないっ、ていえば嘘になるけど…たぶん、ソラさんだから大丈夫なのかも』
『…はは…そうなんだ…』

ソラの無理につくったような乾いた笑い。

(嬉しいんだか…嬉しくないんだか…はぁ、覚悟を決めるしかないな…よしっ)

『…えと…じゃ、さっそくはいろっかアリスっ…後からついてきて』

ソラはぎこちなく言葉をくりだした。

『はいっ』

アリスは湿(しめ)った靴と靴下を脱ぐと、急いでソラの後をついてゆく。きょろきょろと落ち着かない様子で辺りを見回した。

『…ソラさん、ちょっと聞いてもいいですか?』
『んっ何、アリス?』

ソラは軽く後ろに振り向く。

『…この建物の中って、ソラさんがぜんぶ一人で考えてやったんですか?』

アリスはソラに少し興奮気味に尋ねる。

『うん、まぁねっ。でも、けっこういいっしょ?』
『はいっ、めっちゃきれいだし…ちゃんとかたづけられてるし…はぁ~、すごいなぁ、アリスの部屋なんかもう、なにこれってかんじでちらかってるもん』
『あははっ…でもなんか、アリスらしいよそれ』
『うわ、ひどっ』

そう言ってはいるが、アリスの顔は笑っていた。

『あははっ、ごめん、ごめん』

(わたし今、心のそこから笑ってる…久しぶりに…これがしあわせ…)

『…あっ、そうだ。今度、コウとヨルコもつれてきていいですか?…二人にもこの、ソラさんの家みせてあげたいっ』

はしゃぐアリスの言葉におされながらもソラは頷(うなづ)く

『えっ…あぁ、うん。別にかまわないけど』

ソラはそう言ってその場に立ち止まると、アリスの方に振り返った。

『アリス、ついたよ。ここが脱衣所…そんで、お風呂は奥になってる』
『はい…ってうわ、ひろっ』

アリスはゆうにはち八畳(じょう)はあるであろう脱衣所の中を見渡し、驚きと歓喜の声をあげる。

『そんなに驚くことじゃないと思うけど…まぁ、もとはみんなで使っていた集会場だからね。

それよりほら、早くはいっちゃいなよ。あっ、服はそこの乾燥機になげといていいよ
、わたしがかけとくから』

『えっ、そんくらいアリスじぶんでやりますよ。ソラさんにわるいもん』
『気にしなくていいって、それより、せっかくわかしたお風呂がさめちゃうじゃん、早くはいりなよ』

ソラは、笑顔を浮かべ言った。

(アリス、気を使わなくていいのに。ほんといいやつだよな…私なんかになんで笑顔をむけてくれるんだろ…)

『あっ、はい、そんじゃ』

アリスは自分の上着に手をかける。

『…あぅ』
アリスは赤みのおびた顔をソラの方へ向ける。

『…ソラさん…あの…』
『んっ、どうかした?』

先ほどからアリスに視線を向けたまま、外さないソラがこたえる。

『なんで、アリスのことみてるんですか?めっちゃ、はずかしいんですけど』

『あぁっ、ごめんっっ』

ソラはアリスを見つめていた自分の今の姿に気付き、あたふたと視線をそらした。

(なにやってんだろ私…でもほんとにアリスの笑顔をみていたい…幸せな気持ちになれるから…ずっと一緒にいてほしい…だって楽しいじゃんっ…はなれたくない!!

…ん?、ってうわっ、何、この感情は、これじゃ恋する乙女だよっ)

『やばいってっ』
『ソラさん?』

アリスは一人、手を振り回し暴れているソラに声をかける。

『あっ、いや、なんでもないから、き、気にしないでっ』

…とソラは言ったものの顔を赤くし、言葉からも焦りがうかがわれるので不自然極まりない。

『ぷっ、あはははっ』

アリスはいつものソラからは考えられない、その慌てた様子に笑いが込み上げてきた。

『な、なに笑ってるんだよ、もうっ、いいからお風呂入っちゃいなよっ、ていうか入るよっ』

『ぷくくっ…はぁい』

顔を赤くしたまま怒るソラ。アリスとは反対の棚に歩いてゆくと、恥ずかしさを通り越したのか、いそいそと服を脱ぎ始めた。

アリスも目の前の棚に脱いだ服を投げ入れる。

バスタオルを身体に巻いたソラは、着ていた服を乾燥機の中に放り込むとアリスの方を見た。

ソラと同じようにアリスもバスタオルを身体に巻いてはいるのだが、まだ慣れていないため手で押さえていないと落ちてしまうのか、そうならないように注意しているようだ。

それでも何とか自分の脱いだ服を両手に抱えると恥ずかしそうに顔を赤らめソラの元へ、ぺたぺたと音を立てて歩いてゆく。

『はい、ごくろうさまっ』

ソラは優しい笑みをうかべながら、すぐ側まできたアリスの腕から服を取り上げると、乾燥機へ同じように投げ入れた。

『すいませんっ…ふぅ、たすかったぁ。ソラさんってやっぱやさしい』
『そう、普通じゃない?』

ソラは照れ笑いを隠しながら、アリスを背に浴場へと向かう。

(やさしいか…でも、それはアリス、あんたにだけだよきっと…わたしにとって今、いちばん大切なのはもしかして…)

アリスもバスタオルを落ちないようにぎゅっと握り、その後をついてゆく。

ガララッ…

スライド式の戸をあけると、湯舟からたちのぼり充満している湯気が二人の視界を覆う。しかしそれは一瞬。

『うわぁっ、ひろおぃ、銭湯みたい』

アリスは目前に姿をあらわした大浴場を見渡しながら歓喜の声をあげる。

…といっても大体、普通の家にある風呂場の約八倍程度の広さなのだが、

『私はさきに身体あらっちゃうけど、アリスはどうする?』

ソラが後ろではしゃいでいるアリスに声をかける。

『んじゃ、アリスもそうします』
『そう、わかった。じゃ、好きな場所つかってっ』
『はいっ』

ソラはすぐ側の洗い場に腰をおろし、アリスは恥ずかしいのか、それとも気を使っているのか、少しはなれて桶に腰掛けた。

二人は各自、身体を洗い始める。距離があるせいか、ソラもアリスも身体に巻いてあったバスタオルを相手の視線を気にする事無くはだいた。だが、すぐ代わりに石鹸から泡立つ泡が身体を覆い隠し、バスタオルの代わりを果たす。

―約、二十分後―

『あ~、さっぱりした』

洗い終わったソラは、再度バスタオルを身体に巻き、頭を振り、水分をざっと振り払うと、他の小さめなタオルを頭に巻いて湯舟に身体をうずめる。

『うぅ~さいっこう』

ソラは幸悦な表情で、中年男のように両手を広げ、背もたれによりかかる。
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