Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ ~第三話~ 呪われし二対の妖刀vs思い出のペンダント。

ぐれおねP

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帰宅

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『いつもの私なら…』
『…えっ?』

予想していたのと違ったソラのやわらかい口調にアリスは安心感よりも驚きを覚えたが、黙って次の言葉を待った。

『いつもの私なら大きなお世話っ、うざいって思うんだろうけど…なんでだろうな…私自身、親達の顔をみたくなっちゃってる』

ソラは頭の中で一番幸せだった頃の家族の姿を思い浮かべる。

その後、嬉しそうな表情を一瞬覗かせただけで、すぐに元の寂しそうな表情に戻った。

『っ…だったらソラさん、今から家に行ってみませんかっ』

アリスはそんなソラに声をかける。

『ええっ、今から!?』

アリスの考え、言葉に驚きを隠せないソラ。心を決める時間も無く、選択をせまられる。

正直、両親に会えるという嬉しさが先にきたが、自分が家を飛び出した時のことや、過去の忌まわしい気憶を思い出すと首を縦に振ることは出来なかった。

『…無理だよ』

ソラのどうすることもできない寂しさ、辛さを感じさせる言葉。

ソラの過去を知らないアリスがその深い意味を理解出来るはずもなかった。

だがそんな事以上に、恐く感じる時もあるが頼り甲斐があって優しい先輩の変わり果てた姿に耐えられなかったのだ。

『…ソラさんの過去にどんなことがあったか、わたしにはわからない…でも、結果は行動してからついてくるもんだって…』

満面の笑顔をみせるアリス。

『行ってみましょうよ、ソラさんっ』

グイグイ

そして袖を引っ張る。ソラは閉ざされた氷河期のような心がとけていき、だんだんと温まっていくのを感じた。

(…アリスが自分で言ってたっけ《わたしは落ち込んだりして元気の無い人を楽しくさせることができる》それが特技だって…ほんとかもな。…アリスありがとう)

ひと時の沈黙の後、ソラはアリスに心配かけまいと頑張って笑顔をつくり口をひらいた。

『…アリスの言うとおりかも、うじうじ悩んでるなんて私らしくないな…』

ソラの家は今二人のいるコンビ二付近から、すぐの所にあった。

横に並んで本当の兄弟のようにソラ家に向かうソラとアリス。会話が弾んだせいもあり、あっという間に家の玄関の前につく。

『…間違いない、ここ私の家だ』

ソラは表札を目で確認した後、家の外見全体をみわたす。

(…なにも変わってない…なんかほっとした)

『ソラさん…ブザー押さないんですか?』

ソラの心中を察してか控えめなアリスの言葉。

『…うん』

アリスに言われ、おぞおずと呼び鈴に指を伸ばすソラ。頭の中を色々な思いが駆けめぐる。

ピンポーンッ

辺りに呼び出し音が響き渡る。ソラの心臓の鼓動が早くなる。

早く両親に会いたい感情と拒絶されたり、忘れられていたらどうしようなどのマイナス感情が激しくぶつかり合う。

ガチャッ

『!!』

ドアの開く音にソラの心臓が飛び出しそうになる。

顔を上げることができず、下を向いているソラ。無言の時間がとても長く感じられた。

辛抱溜まらずゆっくりと顔をあげる。

ソラの瞳に映し出される人影…この家を飛び出してから、約、一年半ぶりに見た母親の顔は思い出の中と違わなかった。…当たり前だが一年半はかなり長い。

『あなた…ソラなの…?』

久しぶりに聞く事ができた母親の声。ソラの整った顔が涙がでくずれる。

『…お母さん』

目にたまっていた熱い涙が溢れ出す。

『お母さんっ!!』

今もなお、溢れ続ける涙をそのままに感情の赴(おもむ)くまま母親の暖かいであろう胸に飛び込もうとする。

『…帰って』
『えっ…』

飛び込む前に聞こえた言葉に、ソラはその動作を中断する。聞き違いであってほしさから震える声で尋ねる。

『…お母さん…?』
『…帰りなさいって聞こえなかった?…そしてもう二度と私達の前に現れないでっ』

ソラは母親のその言葉を聞いてすぐにそこから逃げ出したくなったが、

『おい、なんだ。なんの騒ぎだよ』

という、母親の後ろから聞こえる声に父親の事を思い出し、それは出来なかった。

『…お父さん?』

母親に拒絶され、心を深くえぐられたソラは、縋(すが)るような声色でただ一言そう言うと、恐る恐るその声の主の方へ視線を向けた。

『!?』

ソラの顔が寂しさに引きつり、男との視線を逸らした。

自分の思い出の中とは違う、若々しい姿。そして声色。まったく別の人間だった。

『お父さん?…いやそれより、へぇ~可愛いじゃんっ』

若い男のいやらしい視線が、自分の体全体をなでまわすのを美貴は感じた。

『おっ…そっちの奴もなかなか…まだガキだけどな。美少女ってやつ?』

そう言いながらにたにたとやらしい笑みをうかべ今度はアリスのほうを見る。

そしてアリスが自分を睨みつけているのに気付くと鼻で笑った。

『へっ、まあいいや、お母さんって言ってたけど…へぇ、お前の前の男の子供かぁ?』

若い男は長い髪を持つ、綺麗で年の割に若々しい美貴の母親の肩に腕をまわすと二人に見せびらかすような態度をとり、様子の変化に興味をそそいだ。

『…そう…よ。前の馬鹿のね』

ソラの母はゆっくりと過去を思い出すように言うと忌々しそうに唇を噛み締めた。

『へぇ…俺、こいつの新しい旦那さん。よろしくっ』

―新しい旦那さん
―新しい旦那さん
―新しい旦那さん
―新しい旦那さん
―新しい旦那さん

その言葉がソラの頭に響き渡り、強く胸を締め付ける。

『…う…うそ…』
『…ソラさん』

アリスは心配そうに名前を呼ぶ。ソラは目頭が熱くなり、涙をながしそうになるのを必死に耐えながら何処へ行く訳でもなく駆け出した。

『ソラさん!!』

走り出したソラの後姿を目で追いかける。アリスはすぐに追いたい衝動にかられるが、すぐに向き直り密着する二人を睨みつけ言葉をぶつける。

『…こんなことゆう権利はわたしにはない…でもっ、あんたらはパパ、ママとして、人として最低だよっ!!』

母に帰ってくるなと言われ、父親に会う事も叶わず、両親の離婚。そして再婚…いくらソラが打たれ強いとはいっても、あまりにも酷い仕打ちだった。

アリスの大好きな両親は優しい…もしそんなパパ、ママにあんな態度をとられたら、胸が張り裂けんばかりの思いだろう。生きる気力を失ってしまうかもしれない。アリスはそんな気持ちだった。

『くっ…』

キッ

アリスは、今一度二人に鋭い睨みをきかすと、

ダダダッ

目の奥を熱くしながら、まだ何とか見えるソラの後姿を全速力で追いかける。

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