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アイドル

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アリスは親友の異常ともとれる行動の意味がわからない自分にはがゆさを感じていた。


『ねぇ、アリス…ヨルコって確か、降霊師とかいう家系の生まれじゃなかった?』

降霊師とは…自分の身体にこの世を去った者達の霊を降ろし、会話や未練を訴えさせたりする者のこと。

『えっ?…はい…でもヨルコにはそんな力はないって…わたしにはよくわかんないんですけど、悲しい思いをさせなくてすむっておばさんよろこんでた』
『そうなんだ…でもさ、ヨルコの奴何かに怯えてたよな…その力に目覚め始めたのかもっ、それで霊を感じた~みたいな』

ソラがこんなことを言うには訳があった。自分も何者かの声に誘われ、気付いたらここにいたのだから。

『…そうなんですかね…ヨルコ大丈夫かな』

アリスは先ほどまでのヨルコの姿を思い出すと胸が詰まる思いだった。

『ところで、さっきから気になってるんだけどあれ何?』

ソラが神社の方を指差す。

『多分、ドラマの撮影かなんかだと思いますけど』
『へぇ…そうなんだ』

面白く無さそうなソラの口調。ソラの夢…それはアイドルになることだった。
しかし両親の反対で叶わなくなった。羨ましさから嫉妬心が生まれたのだ。

ソラはその中で見知った顔を見つけ目を丸くした。

『…って、イフジェネじゃんっ!!』

嫉妬心を大きな驚きが消し去る。

『えっ、ソラさんあの二人しっとるんですか?』
『うん、知ってる。なにやってんだよあいつら』

少し興奮気味のソラは神社の前に向かって歩み出した。アリスもその後をついてゆく。

銃を構えた警官達を前にして、イフ(秦)・ジェネ(鷹)の二人もそれに気付き、血のりのついた刀を手に持ったままソラの方へと歩み寄る。

そして初めて顔を合わす四人。

『…待っていた』

ひと時の沈黙の中、始めに口を開いたのはイフ(秦)だった。

『えっ!?』

予想を裏切る男のような声色に驚きを隠せないソラ。そして自分をここまで導いた謎の声と一致したことに更なる驚きを覚えた。

シュンッ

イフ(秦)が刀を振り上げ、顔前にその斬り先を持ってくる。刀にこびり付いていたま新しい血液が顔に飛び散る。

『うっ』
『…お前も俺達と同じく親を憎んでいる』

鼻腔を刺激する生臭い血の匂い。

(…この血、本物だ…)

ある理由から家を飛び出したソラは、道を外れ不良のようにになってしまっていた。

喧嘩も日常茶飯事の為、血の匂いもよく知っているのである。

『アリス下がってっ、あの刀本物だ!!』

ソラはアリスに向かって叫んだ。

『えっ!?』

その声の勢いに押され、後ろに下がるアリス。震えた声で尋ねる。

『ソラさん、刀がほんものって』
『刀にこびり付いた赤いものが見えるだろ、あれ本物の血っ…多分警官の』

話を聞いたアリス。顔からみるみる血の気が引いていき吐き気をもよおす。ソラの方も強がって見せてはいるが両膝が震えていた。

『…ぐっ…なに』

急に美貴の頭の中に思い出したくも無い、でも、忘れる事の出来ない過去の忌まわしい映像が鮮明にうかびあがる。

―父がリストラされた日―

―父に殴られる母―

―父の浮気―

―母の隣の知らない男―

そして、父・母の二人に虐待される幼き頃の自分…ソラの姿。

(…憎い…私の夢を打ち砕き、私に暴力を振るった親が憎いっ…あいつ等はその報いを受けるべきなんだっ)

自分自身でも心の中が憎悪で満たされていくのがわかる。

(…私がこうなったのもあいつ等のせいだっ…許せない…あいつら許せないっ)

『…殺すっ、殺してやる!!』

人の子供として一番してはならない事…親殺し。それに手を染めてしまいそうな感情に駆られるソラ。

『ソラさん!?』

アリスが心配になり声をかける。

パアアァァァァッ

そんな感情を打ち消すかのようにソラの胸元のペンダントが強い輝きを放つ。

ソラの手が無意識のうちに伸びてそれを掴む。

心に侵食していた親に対しての殺意が徐々に和らいでいく。

『…何て暖かい光なんだ』

ジェネ(鷹)は幸悦な表情でその光に魅入っている。

『鷹っ、騙されるんじゃない、こんな物はまやかしだっ!!』

イフ(秦)はそう叫ぶと、魅入られているジェネ(鷹)の手を引き、その光の何かを拒絶するかのように足早でその場から離れた。

『…お父さん…お母さん…』

ペンダントを握った瞬間、頭の中に流れ込んできた先ほどとはまた違う過去の記憶。

自分を優く包み込むような笑みを浮かべ、可愛がってくれた両親の姿。家族団らんだった頃の幸せな思い出。

次々と流れ込んでくる懐かしくも、切ない思い出に、ソラの頬を一筋の涙が伝って下に落ちる。

『…ソラさん…泣いてるんですか』

ソラに言われ後ろに下がっていたアリスが、今まで一度も見たことの無い、尊敬する先輩の寂しそうな背中に耐えかねて声をかける。

ソラの体がびくっと震え、ソラは涙を流したのを隠すように声のトーンを上げる。

『なっ、何言ってんだよ、私が泣くわけないじゃんっ、ゴミが目に入っただけっ!』

震えの混じる声でお決まりの台詞を吐くと、ソラは右腕で急ぎ涙を拭う。

『ソラさ…』
『ごめんアリス、私帰るね』

涙を流した情けない自分の姿を見せたくないのだろう、アリスの言葉を遮るとソラは一度も後ろに振り返らず歩き出した。

だんだんと、少しずつ小さくなってゆく哀愁感漂う後姿。アリスは声をかけずにいられなくなり走り出す。

『ソラさんっ!!』

声を聞き取ったソラがその場で足を止める。

『…なに?』

いつもと違って元気の無い声。後姿からでも迷惑だということが感じ取られた。

『あのっ…』

アリスが遠慮がちに口を開くと、ソラがゆっくりと振り返る。

『アリスさ…私帰るっていったはずだけど…なんか大事な用なわけ?』

輝きを失い疲れきったソラのつり上がり気味の目が《一人にして欲しい》とアリスに訴えかける。

『…家族の人達、心配してると思う…ソラさんが家に帰ったらきっと喜ぶんじゃ…』
『えっ?』

ソラの目が驚きから大きく見開き、アリスを見据える。

『うっ…』

(おこられるっ)

アリスは喧嘩をしている時のソラの荒れている姿を思い出し、肩をすくめる。
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