Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ ~第三話~ 呪われし二対の妖刀vs思い出のペンダント。

ぐれおねP

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二対の妖刀

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一夜明け、日曜日の朝。段差の下にイフ、ジェネの二人はいた。赤い鳥居を見上げている。 

昨日の夕方に学校を飛び出していったアンズの無事と、こつ然と姿を消した、一度も会った事も無いのに心配してスズフミやノエル達と一緒に自分達を探してくれた。 

レツ達と同じように消えたアリサの亡骸。アリサに関しては、アリサ自身の体から流れ出た血の池にその身を浸らせていた姿を目撃したのだが、極めて絶望的な希望の光にすがり神社にお参り(神頼み)にきていたのだ。 

少し長めの石でできた急な階段を二人は踏み外さないよう注意してのぼってゆく。 

ふいにイフが、元気のない口調で口を開いた。 

『ねぇ、ジェネ…』 
『…なに、イフちゃん?』 

下を向きながらイフと同じように元気なく応対するジェネ…二人の脳裏に昨日目の前で起こった惨劇が強く焼きついて放れないのだ。 

『なんで…なんで、こんな事になっちゃったのかな…』 

か細く、今にも消えてしまいそうなイフの言葉。昨日のもう動かないアリサの姿を思い出し、目に涙が溜まる。 

『…うん…』   

ジェネはただ頷(うなず)く事しかできなかった。 

最後の階段をのぼりきり、目の前に見える社に向かって足を進める。 

足を止める二人。 

ジェネはお参りをしようと顔を社の中に祭られている神仏の方へ向けた。横目でイフの様子を確かめる。 

イフはまだ俯(うつむ)いていた。 

『…イフちゃん、お参りしないの?』 

イフの自分と同じ気持ちが痛いほど良くわかるジェネはイフの方を振り返り、優しく声を掛け、返答を待った。 

『……。』 

無言のイフ。 

『お参り…しよ?』 

ジェネは言葉を変え、今一度尋ねる。 

『…意味ないよ』 
『…えっ?』 

イフの昂ぶる感情を押し殺したような声色に驚きを隠せないジェネ。 

『…意味ないっ、こんなことしたって意味ないっ!!…アリサは返ってこない…レツくんだって…アンズちゃんだってもう死んでるんだっ!! 

…神様なんていない…うぅ…うっ』 

感情を抑えきれずに言葉を捲し立てるイフ。止めどなく涙が溢れ出る。 

『・・・イフ・・・ちゃん』 

その様子を寂しそうに見ているジェネの目にも涙が溜まる。 

『…きっと…ノエルもスズフミも…他のみんなも…それで…それでジェネも死んじゃうんだ…うう、もうやだ』 

立ったまま目をこすって、子供のように泣きじゃくるのぞみイフ。 

(わたし…力が欲しい…大切なものを守るために、そしてののイフを悲しみから守るために) 

ジェネの心の中。自分自身の分からぬうちに力を欲する気持ちが広がる。 

『うう…ちから…力だ…わたしに戦う力があればみんなを…ジェネを殺させない…ことができるのにっ』 

何かを決意したのだろう。涙を拭い、ゆっくりと顔を社の中へと向けるイフ。 

『神様お願いします…本当にいるのなら、わたしに力をお与えください…大好きなみんなを守れるならののはどうなってもいいです…しんじゃっても… 

お願いしますっ!わたしに力を下さいっ!!』 

以心伝心というのだろうか、ジェネとイフの二人が行き着いた所は力だった。 

自分の為でなく、他人を守るための力を強く願った。 

『…いふ…』 
『…あっ!』 

イフは何か気になるものを見つけたのか、急に靴をぬぐと早足で神社の奥の方へと進んでゆく。 

『…イフちゃん?』 

ジェネも靴をぬいでその後を追った。 

祭られている神仏の像。そのすぐ目の前にイフはいた。 

飾られている二本の刀を凝視している。 

まるで刀に魅入られたように微動だにしない。 

その二本の刀を囲うように、綱が結ばれており、そこに何やら紙のようなものが何枚もぶら下げられてあった。 

『…何だろう…』 

ジェネはのイフの側に向かいながらも、気になるのか、視線はぶら下がっている紙の方へと向いていた。 

『何か書いてあるみたい…あっ!…はっ!!』 

ジェネは、紙がよく霊媒師などが何か邪悪なものを封じこめたりする時に使う札だと理解するのと同時に、イフの手がその刀にのびるのを目にした。 

嫌な予感のしたジェネはイフに注意を促(うなが)そうと名前をさけんだ。 

『イフちゃんっ!!』 

そして手首を掴む。 

『…放…せ』 

ブンッ 

ジェネの掴んでいる右手をもの凄い力で振り払う。 

『うわっ!?』 

ドタッ 

小手返しのような技で投げられ、尻を強打するジェネ。 

『あいたた…』 

尻を擦(さす)りながら、ゆっくりとイフを見上げる。 

そこには刀を鞘から抜いたイフの姿。切れ味の良さそうな刃を確認するように眺めている。手で刃をなぞり刃こぼれなども調べているようだ。 

今度は急に、ジェネの方へと振り返り刀を眼前に持ってきた。 

『ひっ!?』 

小さな悲鳴を上げるジェネ。尻もちをついたまま、ズルズルと後ずさりする。 

『……。』 

イフは無言でジェネとの間合いを詰めると手に持った刀を振り下ろす。 

『いやああぁぁぁぁぁっ!!』 

社の中にジェネの搾り出したような大きな悲鳴が響き渡る。 

ビュンッ 

風を切り裂く音。 

ズブッ 

振り下ろされた刀は、ジェネの風でなびいたお気に入りの前髪の先を切り、目の前の畳に突き刺さる。 

バタンッ 

横に体を倒し、ジェネはそのまま気を失った。 

イフはその様子を確認すると畳に突き刺さった刀を引き抜き、踵を返す。 

視線は今だ飾られているもう一本の刀に向いていた。 

そしてその前まで歩を進め、正眼の構えで素早く刀を振り下ろす。 

ビュッ、バサッ 

多くの札がぶら下げられている綱が真っ二つにわかれ、封印していた札が役目を終え、燃えて灰になる。 

社の中に妖気が立ち込める。 

それに呼応するかのように、不気味な紫色の妖気に包まれたもう一方の刀がじょじょに宙へと浮かび上がる。 

イフはその様子を黙って眺めていた。 

そんな時、気を失っていたジェネが、ゆっくりと起き上がる。目は虚ろで、足元はおぼつかない。 

刀の放つ妖気に導かれるように、一歩一歩進んでゆく。 

そしてその刀の場所までいくと、イフと同じように無言で刀に手を伸ばした。 

(はっ!!…あれ…わたし…なんでこんな所にいるの?…右手が…うそっ、勝手に…やだっ!イフちゃんたすけてっ!!) 

意識を取り戻したジェネは自分の体の異常に恐怖を覚え、心の中必死でイフに助けをもとめた。 

チャッ 

手に掴んだ刀があいジェネの小さな手のひらに重量感を感じさせる。 

その瞬間。ジェネの意識の中に何者かが入り込む。 

(!!っ…なに…いやっ…来ないで…わたしの中に入ってこない…で) 

ジェネの心(魂)は、その何者かにより、奥の方へと封じこまれ完全に意識を乗っ取られる。 

ダダダダッ…バシャッ 

左側の襖(ふすま)が勢い良く開かれ、年の頃は六十から七十辺りだろうか、この神社の主らしき老人が駆け込んできた。 

見事な薙刀(なぎなた)を手にしている。 

その老人の方へ振り返るイフとジェネの二人。手に持った薙刀に視線を通したあと、老人の顔を見据えた。 

老人の方は、視線を切られた綱の方へ向けると唇を噛み締め、イフ達の方を見た。 

老人は二人に確認するように声をかける。

『…秦(しん)…鷹(よう)…だな?
『…そうだ』
『……。』

頷くイフ。愛らしい声は、男のように変わっていた。ジェネは黙って老人をいまだ見据えている。

『…やはり…しかし、これほどまでとは…』

イフ、ジェネの全身から発せられる妖気、怨念を感じ取る老人

『…だが…やるしかあるまい…』

汗ばむ両手で薙刀を構える。
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