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人への文句は8割自分へのブーメラン

第13話 どこまでいっても最後は意地

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 ゆらりとオコイエが立ち上がる。首をコキコキと鳴らし、大きく深く危機を吐いた。余裕さえ感じるその態度が示す様、彼の体にこれといった外傷は見当たらない。

「いやぁー流石お姫様と言った所か。してやられたよ。君が、行動解除まで理解しているとは。だが、この空間に発生する『力場』を使いこなせるかな?」
「力場?」
「例えばこれだ」

 オコイエは両腕をグッと引き、気合いを溜める。すると腕の周りに赤い火花が散り始めた。それはバチバチと音を立て、腕に赤いオーラを纏わせる。

「ヘキリ・ペレェ!!」

 溜めた気を解放するかの如く、両腕を前に突き出すと、赤い閃光が轟音で放たれた。
 ニィナはガードを固めようとする。だが、瞬時に受けては行けないことを悟り、ギリギリで身を翻した。
 閃光は気の結界に当たると爆発し、周囲の空気を感電させ、焼け焦げた匂いを漂わせた。

「これが高密度のエネルギーで埋め尽くされた結界内だからこそ使える人知を超えた力『ヘキリ・ペレ』だ。気を圧縮し、電気に変換する私の力。いかがかな?」

 ニィナは自分の呼吸が予想以上に乱れていること気付く。予想外の攻撃を避けることに大幅な脳のリソースを使ったのだろう。
 高水準な近接格闘。それに加えて遠距離をカバーする飛び道具ヘキリ・ペェレ
 その存在は密着して戦うことを主とするニィナにとって、この上なく厄介極まりないことだった。

「我が雷光に為す術なく焼かれたまえよニィナ」
「……近付けば関係ない」

 ニィナは距離を詰めるため、一思いに駆け出した。それを黙って見過ごす程オコイエは甘くない。赤い閃光がニィナに向けて容赦なく襲いかかる。
 全身のバネを使い前方に跳び、閃光を掻い潜る。じわりじわりと距離は縮まり、オコイエまであと一跳びの所まで漕ぎ着けた。
 閃光を撃つか、はたまた密着しての攻防に持ち込むか。瞬間的な読み合いが発生する。

「ここだッ!」

 ニィナは跳び上がる。それは今までのジャンプとは違っていた。
 彼女はへキリ・ペレが発生してから跳んだのではなく、撃つことを見越した上で跳んだのだ。ニィナは空中でオコイエの動きを確認する。否、確認ではなくヘキリ・ペレを撃つがあったのだ。
 空中からの急襲を仕掛けようとする彼女の目に映ったのは、オコイエだった。
 彼はただニヤリと笑った。

「マヌ・ストライクゥ!!」
 
 オコイエは空中から仕掛けたニィナに向け、両腕を額の前で交差し、そのままミサイルの様に突っ込んだ。
 そして強力なクロスチョップがニィナの喉元に突き刺さった。

「ガァァァッ!?」
「予想に違わぬ行動をありがとう姫様」
 
 落下点を目掛け飛んで降りたニィナ自身の体重に、オコイエの攻撃力が加算される。彼女の身に訪れた破壊力は想像するのも容易いだろう。
 ニィナは重力に任せて翼を失った鳥の様に自由落下する。片方が意識を失ったのか、気で作られた領域も消失し、倒れ落ちた彼女の元にケンスケが駆け寄った。

「ニィナちゃん!ニィナちゃん起きて!!」
「……」

 ニィナの身体はピクリとも動かない。ケンスケは急いで脈を調べる。

「生きてはいる……!よかった……」
「はたしてそれはどうだろう」
「なんだとっ!?」
「敵を前に意識を失うことは死と同義。彼女の負けだ。ロック族の仕来りに従い、彼女の身は勝者である私が頂こう」
 
 1歩、また1歩とオコイエが2人に近付く。明確な危機に、ケンスケの身体はガタガタと震え始める。ニィナを連れ、一刻も早くこの場から逃げ出さなければならない。だが振動するばかりで芯に力が入らなかった。自分の身体のはずが、微塵も言うことを聞かない。

「クソっ!動け……動けよ僕っ!!」

 身体中の汗が吹き出し、カラカラと乾いた喉。ケンスケの口から掠れた空気の漏れる音が一定間隔で聞こえる。自分はなんて愚かなのだ。あまりにも大きな力を前にした事実が、今更彼の脳を恐怖で支配する。もはやここまでなのか。ケンスケに『諦め』の2文字が突きつけられる。
 しかし極限の緊張感の中、彼は気付く。己の腕の中の温かみに。目覚める気配の無い少女を護れるのは誰か。
 ケンスケは、ニィナから手を離し彼女を護る様に前に立った。

「しっかりしろ僕!」
  
 武市ケンスケは己を奮い立たせる為、両頬を叩いた。
 ニィナを救い、脅威を退けるのは自分自身しかないのだと心に、脳に、身体に痛みで伝える。

「ニィナちゃん、絶対に護るからゆっくり休んでて」
「君は相当愚かだね。ロック族のニィナでさえ敵わないこの私に歯向かうのだから」
「愚かでもなんでもいいっ!僕はニィナちゃんから依頼を受けた。それを、彼女を護るためならお前なんか怖くも何ともない!!」

 ケンスケの身体に震えは無かった。奮い立ったのは彼の心だ。
 気の持ちようで絶対的な実力差が覆ることは、戦いの世界では起こりえない。オコイエの言う通り、ケンスケは愚者であり蛮勇を晒している。
 だが、ケンスケに迷いはなかった。己が生命と引き換えても、護りたい者のために彼はただ駆け出した。
 
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