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人への文句は8割自分へのブーメラン
第10話 隣人の苦労は知りたくないし知らないから隣の芝生はなんか青く見える
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僕の新しいバイト先、何でも屋の岩戸屋の朝は早い。
実家から通う僕の始めの仕事は、ナギさんを起こすことだ。
どうせ昨日もワダツミで飲んでいたのだろう。僕は酒の味を知らないけど、そんなにいい物なのだろうか。だとしても、バイトに毎朝起こされるのは如何なものだと思う。
「ナギさん、おはようございます。仕事の時間ですよー」
インターホン程度で起きないことはここ数日で分かっている。合鍵を使い中へ入る。いつも通り来客室のソファーで寝てるはずだ。
「全く、いい加減起きて……」
僕は目を疑った。くたびれた三十路の男がいると思われたそこには、銀髪褐色の美しい少女が寝ている。
「エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ァ!?」
は?何やってんのあの人?そりゃいい歳した男だもん。女性の1人や2人連れ込んでいたっておかしくない。でも幼いじゃん。明らかに未成年じゃん。犯罪じゃん。どーすんのコレ。どーなんのコレ。僕は通報した方がいいの?でも僕も何か言われるんじゃないの?疑われるんじゃないの?なんなら顔とか全国に乗って一生ネットの宝物扱いなんじゃないの?
「うるさい。起こすな」
「どぅぐぅらぁぁぁ!?」
僕の思考はどうやら口から漏れていたようだ。
だが、そんなことはどうでもいい。ナギさんの起こした問題から目を背けられるなら、僕は笑顔で少女の御御足から放たれた一撃を受け入れよう。
ここで僕の意識は幕切れた。
⬛︎
「つまりニィナちゃんはお姫様なんだね?」
「うん」
「いや『うん』で納得できるかい!?」
「厳密に言えばドウェイン・ジョン島のロック族の姫」
「なにその島民全員ムキムキそうな名前の島!?」
「ケンスケ、そのツッコミはナギヨシがもうやってる」
昏倒から目覚めた僕は、ナギさんの未成年淫行が誤解だったことを伝えたられた。
だがそれ以上に、目の前の少女が異国のお姫様である事実の方が強烈だった。
「……私の国は戦争で滅んだ。だけど王族の血族である私が見つかって、王国復権派の連中が躍起になって探してる。中でも復権派のリーダー『オコイエ』は武力知力共に秀でてる。アイツが本格的に動き出したら逃げきれないかもしれない」
憂鬱な顔をして俯くニィナちゃんに、僕はかける言葉浮かばなかった。
本や映画のお姫さまと言えば、優雅で幸せな生活を送っている。なんなら白馬のハンサムな王子様付きだ。言わば、女の子の憧れの存在なのだ。
だが、現実はどうだろうか。少なくとも目の前の彼女は幸せには見えない。隣の芝生が青く見えるのは、芝生の青さを知らないからなのでは無いだろうか。
「もしお前が捕まったらどうなる?」
「始めにオコイエと無理やり結婚させられる。次にオコイエはドウェイン・ジョン島を国家として認める様に世間に訴える。もし無理でも私を担ぎあげて、武力と政治で伸し上がるかな」
「そうなりゃ戦争もやむを得ないってか?」
「そうだね」
「……」
僕らが取り扱ってる案件は所謂国際問題だ。下手をしたら全世界を巻き込むことになるかもしれない。
僕は下手をこいた後の未来を想像し、思わず生唾を飲み込んだ。
「私は護ってくれとは言わない」
「え?」
「そもそも私の問題をオウカが無理矢理、ナギヨシに頼んだだけ。断られてもまた1人で逃げ続ける。今までと何も変わらない」
「そんな……。ナ、ナギさんどうするんですか?」
個人とお姫様。2つの立場を持つ彼女のどちらを受け入れればいいのか、僕は分からなかった。
ここでお姫様のニィナちゃんを選べば、僕らは危険な目にも合わず岩戸屋としての日々を過ごすだろう。
個人のニィナちゃんを取れば、僕らの立場は一気に危うくなり、酷ければ殺される。
ナギさんは一体どうするのだろうか?僕は彼の動向を見守る。
「じゃあ勝手にしろ。お前1人でも何とかなるんだろ」
ナギさんはただ一言そう言った。僕は思わず耳を疑った。
「え……ナ、ナギさん?」
「ンだよ。本人が頼むつもりがねーんだろ?だったら、俺も受けない。ソイツの言う通り、ババアが世話焼いただけだ」
僕はてっきりナギさんは二つ返事で請け負う気がしていた。だが、彼の返答はその真逆だったのだ。僕はおもわず声にしてしまう。
「……見損ないましたよ!ナギさんッ!!」
「見損なうも何も勝手に期待したのはテメーだろうが。俺は人を守れる自信なんて最初からねー んだよ。そもそも岩戸屋の方針は『依頼を守る』だ。無い依頼をどうやって守るんだよ」
「うん。それでいい。話を聞いてくれただけでもうれしかった。ありがとう」
「ニィナちゃん!?」
ニィナちゃんはぺこりと頭を下げた。ソファから立ち上がり、彼女は出口に向かって歩き出す。本当に、本当にこれで良いのだろうか。彼女をこのまま見送っていいのだろうか。
僕は、姉さんが捕まった時の事がフラッシュバックした。あの時、僕はすぐに動けなかった。それでも立ち向かえたのはナギさんの存在があったからだ。
だが、ナギさんにその面影は無い。
「ニィナちゃん!僕が依頼を受ける!!」
「え?」
「せめてニィナちゃんが安全にこの街から出られる様に、僕が力になるよ!!」
「いい、の?」
「力不足かもしれないけど……困った人は見過ごせないんだ」
「ケンスケ……」
「ナギさんもそれでいいですよね!!」
僕は上司であるナギさんに、岩戸屋の意向で無いことは承知した上で理不尽な怒りをぶつけた。
けれど、僕の心に僕自身が嘘がつけなかった。ナギさんと決別しても、僕は彼女を救いたいと心からそうおもったのだ。
「あぁ。だがこれだけは忘れるな。依頼を受ける責任を負うってのは楽じゃねーぞ」
「責任から逃げるよりかはマシです……!」
「……じゃあテメーも勝手にしろ。俺は漫画でも読んどくわ。今週の少年スクワットまだ開いてねーんだ」
ナギさんは僕らに目もくれず、雑誌を開き読み始めた。僕はその様に呆れることさえ忘れ、ニィナちゃんの手を取った。
「行こう!ニィナちゃん!!」
「でもナギヨシが」
「ナギさんは漫画読むので忙しいらしいよ。いいから行こう」
「う、うん……」
せめて、彼女を危険を遠ざけるための手段を見つけなくては。航路か、それとも空路か。何処まで連れていけばいいのかプランは未だ決まっていない。
それでも僕がナギさんに助けてもらった様に、今度は僕がナギさんの代わりになってニィナちゃんの力になるんだ。
僕は腹を括り、ニィナちゃんの手を取って外へ駆け出した。
実家から通う僕の始めの仕事は、ナギさんを起こすことだ。
どうせ昨日もワダツミで飲んでいたのだろう。僕は酒の味を知らないけど、そんなにいい物なのだろうか。だとしても、バイトに毎朝起こされるのは如何なものだと思う。
「ナギさん、おはようございます。仕事の時間ですよー」
インターホン程度で起きないことはここ数日で分かっている。合鍵を使い中へ入る。いつも通り来客室のソファーで寝てるはずだ。
「全く、いい加減起きて……」
僕は目を疑った。くたびれた三十路の男がいると思われたそこには、銀髪褐色の美しい少女が寝ている。
「エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ァ!?」
は?何やってんのあの人?そりゃいい歳した男だもん。女性の1人や2人連れ込んでいたっておかしくない。でも幼いじゃん。明らかに未成年じゃん。犯罪じゃん。どーすんのコレ。どーなんのコレ。僕は通報した方がいいの?でも僕も何か言われるんじゃないの?疑われるんじゃないの?なんなら顔とか全国に乗って一生ネットの宝物扱いなんじゃないの?
「うるさい。起こすな」
「どぅぐぅらぁぁぁ!?」
僕の思考はどうやら口から漏れていたようだ。
だが、そんなことはどうでもいい。ナギさんの起こした問題から目を背けられるなら、僕は笑顔で少女の御御足から放たれた一撃を受け入れよう。
ここで僕の意識は幕切れた。
⬛︎
「つまりニィナちゃんはお姫様なんだね?」
「うん」
「いや『うん』で納得できるかい!?」
「厳密に言えばドウェイン・ジョン島のロック族の姫」
「なにその島民全員ムキムキそうな名前の島!?」
「ケンスケ、そのツッコミはナギヨシがもうやってる」
昏倒から目覚めた僕は、ナギさんの未成年淫行が誤解だったことを伝えたられた。
だがそれ以上に、目の前の少女が異国のお姫様である事実の方が強烈だった。
「……私の国は戦争で滅んだ。だけど王族の血族である私が見つかって、王国復権派の連中が躍起になって探してる。中でも復権派のリーダー『オコイエ』は武力知力共に秀でてる。アイツが本格的に動き出したら逃げきれないかもしれない」
憂鬱な顔をして俯くニィナちゃんに、僕はかける言葉浮かばなかった。
本や映画のお姫さまと言えば、優雅で幸せな生活を送っている。なんなら白馬のハンサムな王子様付きだ。言わば、女の子の憧れの存在なのだ。
だが、現実はどうだろうか。少なくとも目の前の彼女は幸せには見えない。隣の芝生が青く見えるのは、芝生の青さを知らないからなのでは無いだろうか。
「もしお前が捕まったらどうなる?」
「始めにオコイエと無理やり結婚させられる。次にオコイエはドウェイン・ジョン島を国家として認める様に世間に訴える。もし無理でも私を担ぎあげて、武力と政治で伸し上がるかな」
「そうなりゃ戦争もやむを得ないってか?」
「そうだね」
「……」
僕らが取り扱ってる案件は所謂国際問題だ。下手をしたら全世界を巻き込むことになるかもしれない。
僕は下手をこいた後の未来を想像し、思わず生唾を飲み込んだ。
「私は護ってくれとは言わない」
「え?」
「そもそも私の問題をオウカが無理矢理、ナギヨシに頼んだだけ。断られてもまた1人で逃げ続ける。今までと何も変わらない」
「そんな……。ナ、ナギさんどうするんですか?」
個人とお姫様。2つの立場を持つ彼女のどちらを受け入れればいいのか、僕は分からなかった。
ここでお姫様のニィナちゃんを選べば、僕らは危険な目にも合わず岩戸屋としての日々を過ごすだろう。
個人のニィナちゃんを取れば、僕らの立場は一気に危うくなり、酷ければ殺される。
ナギさんは一体どうするのだろうか?僕は彼の動向を見守る。
「じゃあ勝手にしろ。お前1人でも何とかなるんだろ」
ナギさんはただ一言そう言った。僕は思わず耳を疑った。
「え……ナ、ナギさん?」
「ンだよ。本人が頼むつもりがねーんだろ?だったら、俺も受けない。ソイツの言う通り、ババアが世話焼いただけだ」
僕はてっきりナギさんは二つ返事で請け負う気がしていた。だが、彼の返答はその真逆だったのだ。僕はおもわず声にしてしまう。
「……見損ないましたよ!ナギさんッ!!」
「見損なうも何も勝手に期待したのはテメーだろうが。俺は人を守れる自信なんて最初からねー んだよ。そもそも岩戸屋の方針は『依頼を守る』だ。無い依頼をどうやって守るんだよ」
「うん。それでいい。話を聞いてくれただけでもうれしかった。ありがとう」
「ニィナちゃん!?」
ニィナちゃんはぺこりと頭を下げた。ソファから立ち上がり、彼女は出口に向かって歩き出す。本当に、本当にこれで良いのだろうか。彼女をこのまま見送っていいのだろうか。
僕は、姉さんが捕まった時の事がフラッシュバックした。あの時、僕はすぐに動けなかった。それでも立ち向かえたのはナギさんの存在があったからだ。
だが、ナギさんにその面影は無い。
「ニィナちゃん!僕が依頼を受ける!!」
「え?」
「せめてニィナちゃんが安全にこの街から出られる様に、僕が力になるよ!!」
「いい、の?」
「力不足かもしれないけど……困った人は見過ごせないんだ」
「ケンスケ……」
「ナギさんもそれでいいですよね!!」
僕は上司であるナギさんに、岩戸屋の意向で無いことは承知した上で理不尽な怒りをぶつけた。
けれど、僕の心に僕自身が嘘がつけなかった。ナギさんと決別しても、僕は彼女を救いたいと心からそうおもったのだ。
「あぁ。だがこれだけは忘れるな。依頼を受ける責任を負うってのは楽じゃねーぞ」
「責任から逃げるよりかはマシです……!」
「……じゃあテメーも勝手にしろ。俺は漫画でも読んどくわ。今週の少年スクワットまだ開いてねーんだ」
ナギさんは僕らに目もくれず、雑誌を開き読み始めた。僕はその様に呆れることさえ忘れ、ニィナちゃんの手を取った。
「行こう!ニィナちゃん!!」
「でもナギヨシが」
「ナギさんは漫画読むので忙しいらしいよ。いいから行こう」
「う、うん……」
せめて、彼女を危険を遠ざけるための手段を見つけなくては。航路か、それとも空路か。何処まで連れていけばいいのかプランは未だ決まっていない。
それでも僕がナギさんに助けてもらった様に、今度は僕がナギさんの代わりになってニィナちゃんの力になるんだ。
僕は腹を括り、ニィナちゃんの手を取って外へ駆け出した。
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