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タイトルと説教は短いに限る

第6話 魔法が使えるってまだ信じている大人こそ真の魔法使い

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 テンセイは手をかざし、ブツブツと何かを呟く。すると、彼の手の周囲の空間が蜃気楼の様にゆらゆらと揺らぎ始めた。

「――めらあぎふぁいあ」

 聞き馴染みの無い単語が発せられると同時に、テンセイの掌から炎の塊が発射された。それは真っ直ぐにナギヨシ目掛けて飛んでいく。呆気に取られるナギヨシの鼻先に触れると、炎の塊は小規模な爆発を起こす。

「ハッハァー!見たか?これが私たち金城グループの誇る最強のヒットマン、『伊勢貝いせがいテンセイ』だぁ!」

 眼前に広がる黒煙を前にノゾムは高笑いをする。
 だが、その笑顔も長くは続かなかった。

「ゲホッゲホッ!……やめろよぉ。まだ爆発でアフロになるなんて古典的なギャグ、俺は披露したかねーぜ?」

 煙を払いながらナギヨシが現れる。身体に煤は付けているものの、外傷は見られない。

「テメェ、何故生きてやがる!」
「実際危なかったぜ?鼻っぱしらが少し焦げちゃったもん。んで、オタクなんなの?伊勢貝テンセイさん?いきなり人に火器使っちゃダメだろぉ?花火だって人に向けちゃダメだってお母さんから学ぶだろ」

 話しかけられたテンセイは、冷ややかな目線をナギヨシに送る。その瞳は、一撃で仕留められなかった不可解さを語っていた。

「オレの村では最弱の魔法。実は世間的には最強だった件について。~なのに何故この男は立っている?~」
「なんなのその喋り方。最近のラノベのクソ長タイトルみたいなんですけど」
「何って……ただ喋ってるだけだが?~喋り方すら異質なオレ。場を支配する~」
「支配してねーよ。ただの質問だよ。異質も異質、むしろ変質者だよ」

 頭に疑問符を浮かべるテンセイに、ナギヨシは頭を抱える。突拍子の無い存在に脳が追いつかない。

「クックック、こいつは伊勢貝いせかいテンセイ。お前も見ただろ?こいつの常識を覆す力『魔法』を!」
「確かに驚かされたよ。そのなんの捻りも無い名前にもな。だが一体どんなマジックだ。魔法も奇跡も他所ではどうかしらんが、現実ここにゃ存在しねーだろ」
「言ったろ?こいつはじゃない」
「なんだと?」

 ノゾムは、ここぞとばかりに得意気な顔をする。現実の住人ではない。ナギヨシはその言葉に戸惑った。まさか本物の異世界転生者なのかと。

「コイツはな、2次元が好きすぎて自分も2次元の存在だと錯覚した……重度のオタクだ」
「それもうただのキモオタじゃねーか!なんのドヤ顔だよ!」
「強いて言えば、自分のことを異世界転生した勇者だと思ってる……ただの精神異常者だ」
「だからただの精神異常者なんだよ!なんなの?自分は2次元の住人だから3次元の現実は転生した扱いなの!?」
「詳細に言えば、3次元から2次元に転生し、また3次元に帰還したから……ハッピーエンド後の勇者だな」
「頭ハッピーの人生エンド族じゃねぇか!エルフもドワーフもドン引きだわ!!」
「エルフ、ドワーフの姫と婚約し、種族間の戦争を終わらせたオレ~異種族逆玉ハーレムで成り上がる~」
「オメーは黙ってろよ!!じゃあなんだ?魔法使えるのも2次元パワーか?」
「それはこいつが……30歳童貞の魔法使いだからだ」
「なんでそこだけ現実ゥ!?」
「理屈はないが納得はするだろ」
「確かに……」

 明らかに破綻した理屈ではあるが『30歳で童貞を迎えると魔法使いになれる』。嘘か誠か解き明かした者はいないが、この通説は世間一般の常識である。
 そしてこの通説は今この瞬間、真に変わった。
 そう。『伊勢貝テンセイ』その人こそが、生き証人である。

「貞操守護者のオレ。いつの間にか最強魔法の使い手に~今更奪おうとしてももう遅い~」
「差し出されても貰わねーよ。ただの30代童貞じゃねーか」
「……」

 テンセイの目には薄らと涙が溜まっている。苦行の果てに身につけた魔術を真っ向から否定された彼は、口を一文字に結んでいた。その身は少しばかり震えている。

「え、泣いてんの?世界救ったのに心はナイーブなの?あ、ごめん。救ったのも脳内の出来事だったか」
「ちょ、やめろよ!テンセイ泣かすなよ!テンセイかっこいいよ!!だってほら、金城お抱えのヒットマンじゃん!なかなかいないよ魔法使えるヒットマンなんて!!」
「……」
「魔法使えても女の子は仕留められないヒットマン(笑)」
「だから辞めろって!!テンセイいじけちゃってるじゃん!!テンセイ大丈夫だって!!今度ほら、可愛い女の子紹介するから!!だから童貞くらいでヘコむなって!」
「腰はヘコれねぇ癖にな」
「お前はもう黙ってて!!」

 煽るナギヨシ。庇うノゾム。俯くテンセイ。人質であるソラも、助けを求めることを忘れていた。結果として生まれる硬直状態。
 それを破ったのは、テンセイだった。

「――ひゃどぶふぶりざどぉぉぉぉ!!」

 突如氷の柱が地面から現れる。テンセイはただ俯いていたのではなかった。彼は目尻を濡らしながらも詠唱をしていた。
 それは涙を凍らしながら地を走り、回避の遅れたナギヨシの左腿を貫いた。破裂音と同時に血液が勢いよく吹き出す。その血さえ数秒の後に凍てついてしまう。
 彼は紛うことなき魔法を使う殺し屋ヒットマンなのだ。
 
「痛ってぇなぁオイ!!」
「最強呪文氷結魔法で世界を統べる~何ってただ怒りに身を任せただけだか?~」
「実力は確かってかぁ……!」

 その凄まじい攻撃に、雇い主のノゾムでさえ恐怖を覚える。だが、彼の行動もまた速かった。

「来い女ァ!!」
「キャッ!?ら、乱暴はしないで……」
「見ただろ?あの男はもう死ぬ」
「そんな……止めてください!!」
「立場が分かってねぇなぁ!!いいか?お前は私の元で金を稼ぐんだよ。弟は助けに来ない!あの男は死ぬ!!全く楽しみなことばっかりだなぁ!」
「くっ……!」

 涙を堪えるソラを捕まえ、ノゾムは高笑いをしながら彼女を2階へ連れていく。
 演目は勿論異世界転生。勇者が魔王を倒す様を見るため、特等席へ足早に歩みを進めるのだった。
 
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