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第二部 デッサン
散華・2
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「ああああ姉さん、姉さんはどこ? 苦しい、煙が、煙が。息が、息が出来ない。助けて姉さん!」
佳奈の腕の中で舞と一体化した櫻子の魂が、己の死に際を再現していく。夜遊びで家を空けることの多かった双子の姉に、必死で助けを求める。激しく咳き込み、口から涎を垂れ流しながら舞は暴れる。退魔師たちは一心不乱に真言を唱え続ける。それらは櫻子の魂にも届いているはずなのに、よほど理不尽に死を迎えねばならなかった怨みが強いのか、成仏を促すありがたい経文をかき消すような大声を上げ続ける。
「死にたくない死にたくない死にたくない。どうして私だけがこんな目にあうの? 姉さんは、いつだって自由奔放に生きているのに。私だってもっと自由に生きたいのに」
生前、誰にも言えなかったであろう櫻子の本音が舞の口を通じて吐き出される。手負いの獣のように暴れる舞を抑え込もうと必死だが、佳奈は割と華奢な方だ。舞とて華奢には違いないが、今は異常な膂力で友人を引き剥がそうとしている。
「鐡、銅。佳奈さんの手助けを頼む」
退魔師たちの聖なる文言は少しずつだが、舞の身体から櫻子の怨念を引き剥がしつつある。現にスマホから浮かび上がる櫻子の浄化された魂は、確実に輝きを強め顔だけだったその魂は、上半身をも浮かび上がらせている。二体の式神たちはするりと結界内に入ると、舞の魂と櫻子の怨霊を切り放すべくその大太刀を振るう。
「ぎゃああああっ!」
肉体には何の傷も付いていないが、半ば以上魂が同化しているために浄化の剣は想像を絶する苦痛を与えるようだ。泣き叫ぶ舞の姿から目を逸らしたいが、自分を信じてこの縁招寺に連れてきてくれた舞の気持ちを、助けてやって欲しいという眞篤和尚の期待に応えたい思いが佳奈を踏み留まらせる。何より自分は、退魔師・久遠馨の許婚であるという自覚が強かった。馨にみっともないところを見せたくない。これから先、どんな形であれサポートする立場になるのだ。初仕事で逃げ出したくないと佳奈は強く思った。
「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラマニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」
二人の光明真言が本堂の空気を震わせる。百目蝋燭の周囲に並べた護符たちから金色の光が溢れ、それは太い柱となって結界全体を覆った。鐡と銅の太刀が櫻子の怨念を切り裂く。
「あ、ああああっ」
苦痛にのたうち回る舞を抱きしめながら、必死に佳奈は声をかけ続ける。
「上田さん、負けないで。怨霊に身体を乗っ取られてはダメ、自分を強く持って。お願い、悪霊なんかに負けないで。せっかく友達になれたから、わたし、もっと上田さんのこと知りたいの。お願い、負けないで!」
「姉さん……どこ? あああああっ! と、友達……円城寺さん。わ、私」
櫻子と舞の魂が徐々に分断されつつある。スマホから浮かび上がる櫻子の浄化された魂も、今や下半身が現れ始めた。舞の目には理性の光がともるようになり、佳奈の呼びかけにも応じ始めた。
佳奈の腕の中で舞と一体化した櫻子の魂が、己の死に際を再現していく。夜遊びで家を空けることの多かった双子の姉に、必死で助けを求める。激しく咳き込み、口から涎を垂れ流しながら舞は暴れる。退魔師たちは一心不乱に真言を唱え続ける。それらは櫻子の魂にも届いているはずなのに、よほど理不尽に死を迎えねばならなかった怨みが強いのか、成仏を促すありがたい経文をかき消すような大声を上げ続ける。
「死にたくない死にたくない死にたくない。どうして私だけがこんな目にあうの? 姉さんは、いつだって自由奔放に生きているのに。私だってもっと自由に生きたいのに」
生前、誰にも言えなかったであろう櫻子の本音が舞の口を通じて吐き出される。手負いの獣のように暴れる舞を抑え込もうと必死だが、佳奈は割と華奢な方だ。舞とて華奢には違いないが、今は異常な膂力で友人を引き剥がそうとしている。
「鐡、銅。佳奈さんの手助けを頼む」
退魔師たちの聖なる文言は少しずつだが、舞の身体から櫻子の怨念を引き剥がしつつある。現にスマホから浮かび上がる櫻子の浄化された魂は、確実に輝きを強め顔だけだったその魂は、上半身をも浮かび上がらせている。二体の式神たちはするりと結界内に入ると、舞の魂と櫻子の怨霊を切り放すべくその大太刀を振るう。
「ぎゃああああっ!」
肉体には何の傷も付いていないが、半ば以上魂が同化しているために浄化の剣は想像を絶する苦痛を与えるようだ。泣き叫ぶ舞の姿から目を逸らしたいが、自分を信じてこの縁招寺に連れてきてくれた舞の気持ちを、助けてやって欲しいという眞篤和尚の期待に応えたい思いが佳奈を踏み留まらせる。何より自分は、退魔師・久遠馨の許婚であるという自覚が強かった。馨にみっともないところを見せたくない。これから先、どんな形であれサポートする立場になるのだ。初仕事で逃げ出したくないと佳奈は強く思った。
「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラマニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」
二人の光明真言が本堂の空気を震わせる。百目蝋燭の周囲に並べた護符たちから金色の光が溢れ、それは太い柱となって結界全体を覆った。鐡と銅の太刀が櫻子の怨念を切り裂く。
「あ、ああああっ」
苦痛にのたうち回る舞を抱きしめながら、必死に佳奈は声をかけ続ける。
「上田さん、負けないで。怨霊に身体を乗っ取られてはダメ、自分を強く持って。お願い、悪霊なんかに負けないで。せっかく友達になれたから、わたし、もっと上田さんのこと知りたいの。お願い、負けないで!」
「姉さん……どこ? あああああっ! と、友達……円城寺さん。わ、私」
櫻子と舞の魂が徐々に分断されつつある。スマホから浮かび上がる櫻子の浄化された魂も、今や下半身が現れ始めた。舞の目には理性の光がともるようになり、佳奈の呼びかけにも応じ始めた。
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