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第二部 デッサン

許婚・3

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 息子とは対照的に、母は相変わらす笑顔のままで呑気に茶を啜っている。

「詳しい話は、円城寺さんたちがお見えになってからと思いましてね」
「ちょっと待ってください。たちって、複数ですか?」
「当たり前でしょう? 嫁入り前のお嬢さんが一泊されるというのに、単身でいらっしゃるわけないでしょう」

 一泊という単語に、馨は更に焦る。なぜ依頼をするだけなのに泊まっていくのだ。ここ、おおい町は福井県といっても嶺南という地域で、京都に程近い。充分に日帰りできる。

「再来年には嫁入りですからね。我が家に慣れ親しんで頂こうと思いまして」

 表情を読んだのか、母は袖で口元を隠して上品に笑った。

「ただし、佳奈さんはまだ高校生ですし、十七歳です。淫らな振る舞いは、決して許しませんよ」

  するわけないだろうと声を荒げると、母は懐から護符ふだを一枚取りだし、見せつけるようにひらひらと動かした。

「監視は付けておきますから。万が一、破廉恥なことをしでかしたら……どうなるか判っていますよね?」

 護符に書かれている梵字から察するに、あれは十二神将のひとり因達羅インダラ大将――即ち帝釈天だ。式神の中でも最強の部類に入る十二神将を引っ張り出してくる辺り、単なる脅しでないことが判る。

「物騒なものを出さないでください。僕はそんなことをしませんよ」

 十八歳未満など論外だし、合意なしでの淫行など馨の本意ではない。憤然とした面持ちで腕を組むと、母はくすくすと笑う。

「承知していますよ、そんなことは」

 なら聞くなよと不満を胸の内に押し留め、馨は溜息を吐いた。母はとても上機嫌でその手許から因達羅大将の護符が消え、馨の背後に取り憑いたことに不覚にも若い当主は気付くことが出来なかった。
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