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第三章 皇帝と公子の教示と矜持

第27話

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 半日かけて一行は、カヴィーリャの町に戻ってきた。クレメンスどころか、公子殿下の姿も認めた町長は腰を抜かしそうになった。だが、無事に孫娘以下さらわれた娘たちが全員戻ってきたことに、町を挙げて祝いの席を設けると言い出した。

「いや、それには及ばぬ。我々はこれから都まで行かねばならぬのでな」
「そ、そんな。それではわしらの気が済みませぬじゃ」
「その気持ちだけ受け取っておく。ベネディクト、この町に結界を頼む」
「御意」

 高司祭であるベネディクトが、魔物が絶対に入り込めない強固な結界を町全体に張り巡らせた。これで魔物からだけでも町は守られるだろう。

「駐在武官を、ここへ」

 今度はロベルトが凛とした声で告げた。やがて町の男衆によって引きずり出された駐在武官は、ロベルトの顔を見て真っ青になった。何故、こんな辺境に公子殿下がいるのだと顔が物語っている。

「町を護る任務を帯びていながら、私欲に負けた罪は深い。任を解き都にて軍事裁判にかけ、然るべき処置を下す。よいか?」
「は、はい」

 うなだれた駐在武官は、その場で魔法による手枷と足枷をはめられ、荷馬車の中に放り込まれた。こうなると女性であるミーナを共に馬車に乗せるわけにいかず、彼女は都での一件が終着するまで、ここカヴィーリャの町にいることになった。いずれ全ての片が付いたら、この町を経由して帝国へ行くのだ。

「フィオリーノさん、ロベルト様をお願いいたします」
「はい、任せてください」

 町の武器屋で新たに細鞭を買ったフィオリーノは、頼もしく請け負う。このカヴィーリャの町から都までは、約半日。今から出発すれば午後にはたどり着く。クレメンスたちは旅商隊の恰好で、ロベルトたちは明らかに高貴な格好という、なんとも目を引く一行だが、彼らを襲ったところで返り討ちに遭うことは間違いないのだ。

 ロベルトは、新しく人生が開けていく瞬間を、確かに感じ取っていた。このプラテリーア公国の公子ではなく、ヴァイスハイト帝国に仕えるロベルトという新しい身分に、心を躍らせていた。 

 町を出てすぐに、ロベルトはクレメンスに今すぐ姉を父親の傍から引き離したいので、何か策はないかと問うた。辺境の地とはいえ都で公女が謀反を起こしたとなれば、噂はあっという間に聞こえてくる。自分たちが町に戻ってくる間、急を告げる早馬が街道を行き交わなかったということは、イザベラはまだ行動を起こしていないとみてよい。

 ふむ、と少し思案した皇帝クレメンスは、魔術師のヴィーラントに、転移用の魔方陣を描くよう命じる。

「マックス、帝都に戻って蒼旗連隊に連絡を。すぐさま軍を率いて公国付近にあるダークエルフの森を、公国側から襲撃したように見せかけろ、と」
「御意。蒼旗連隊だけでよろしいのですか?」

 皇帝が頷くと、ヴィーラントは懐から一人分の転移魔方陣が描かれた用紙を取り出し、地面に広げる。マクシミリアンがその中央に立ち、ヴィーラントが少量の魔力を流すと、まばゆい光を放ち、やがてその姿は光と共に消えた。

「伝令用のクリーチャーを」

 続けてそう魔術師に命じると、羽根ペンから一羽のカラスを創り出した。それに帝国語で、公国内にいる“草”に命令を下す。さすがに帝国語を理解できないロベルトは、何を吹き込んだのか判らない。

「さあ参ろうか。本当に公国を亡ぼしても良いのだな?」
「かまいません」
「父親も?」
「ええ」
「よろしい。ならば、仕掛けるぞ」

 いよいよ動き出す、プラテリーア公国への侵攻作戦。もちろん求婚する予定のイザベラ公女が巻き込まれては、元も子もない。そのための、陽動作戦をマクシミリアンを通して蒼旗連隊隊長であるクヴァンツ大将に授けた。公女は軍部内でも信頼の高い指揮官と聞く。ダークエルフ侵攻と聞けば、とりあえず出陣するだろうというのが、ロベルトの意見だ。

「今日が事実上の、公国の最期だ」

 クレメンスの台詞に、ロベルトはこみ上げる笑みを隠し切れなかった。
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