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第1章 戦国の大海原 1567年7月~
第四話 異変と急襲
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「何が起きてる!?」
教頭はお社からの景色が一変していることに動揺を隠せなかった。お社の周り一面が草で覆われ、道が無くなってしまっている。今までの景色とはまるで違う。まさかと思い、教頭はお社を飛び出して向かうのは階段の入り口。しかし、その階段も跡形なく消えてしまっていた。
それに加え、教頭の額からどんどん汗がにじみ出てくる。今度は決して動揺のせいではない。
「校長先生......一体何がどうなってるんですか......!?」
「わ......私にもわかりません……」
校長は 狼狽え、今吉先生は頭をかきむしる。和尚さんの異変と自殺、景色の変化、急激な気温上昇、説明のつかないような出来事が立て続けに起きている為、理解が追いつかない。
「お前たち!今すぐ部屋から出ろ!絶対見るんじゃないぞ!!」
鹿島が死んだ和尚さんのいる部屋から全員を出す。鹿島は上着を脱ぎ彼の首元に手を当てるが、脈はない。身体も冷たく、徐々に死後硬直が始まっている。鹿島は瞳孔の開いた和尚さんの目を手で閉ざし、全身に布を被せる。
屋敷の外に出された生徒たちに沈黙が走る。田渕も声をかけられずにいた。無理もない。人が動脈を切って死ぬ瞬間を間近で見たのだから。
「きよしげ......っ!」
遠藤の声がした。彼は敷地の隅に立ってこちらを見ている。声が震えていることに気づいた達志は嫌な予感を感じ、急いで遠藤の元へと向かう。
同じように遠藤の声を聴いた多くの生徒が達志について来た。遠藤が立っているその場所は、高台の様に辺りの景色が一望できる。しかし、そこは自分たちが知っているはずの世界ではなかった。
「......は?」
そこには、道路も、ビルも、電車も、住宅街も、周りにありふれたものが何一つとして無かった。ただ森と草原、田畑がただ広がっているだけだった。
「......なんで......学校も......なんもねえじゃねぇか......!」
「おれの......俺の家がない......っ!?」
全く違う。彼らの知っている町ではない。
「たつ......くん......」
達志の傍へやって来た唯は恐怖で泣きそうになっている。達志も訳の分からない状況でどう声をかけていいか分からず、ただ立ちすくんでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「皆、まずは落ち着いてくれ。」
生徒たちがお社の造る日陰に集まった後、教頭が皆の前で話をする。横で聞いていた田渕はその場にいる全員の顔を見る。殆どの者が疲れ果てているように見えたが、教頭の目をしっかりと捉えている。人の死を間近で、しかもグロテスクな死に様を見てしまった彼らには、一生のトラウマになってしまうかもしれない。現に田渕自身も人が死ぬ場面を間近で見ることは初めての事であり、彼の手はまだ震えている。何人かの女子は恐怖のあまり泣き出して、女子同士で慰めあっている。
「......和尚さんは鹿島先生によって、お社の裏に埋葬してもらった。その為、お社の裏は立ち入り禁止だ。とにかく先ほどのことは忘れてくれ。そして、この敷地からは離れないように。状況が分からない今、下手に動かない方が良い。」
「それって......家に帰れない......ってことですか?」
「帰るも何も......電話も繋がらないし、第一自分たちの家があるかどうかも定かじゃないだろう。」
教頭の言葉にその場にいた全員が俯く。確かにその通りだ。家が消えてなくなってしまった人がいるのは事実であり、携帯は圏外のまま。異論を唱える者はいなかった。
いや、たった一人だけいた。
「何なんだおい!!テメェさっきから偉そうに抜かしやがって!!帰れねぇだと!?冗談じゃねぇふざけんなよ!!!」
一人の男子生徒がストレスを爆発させたかのように叫び、立ち上がる。そして教頭の前に歩み寄った。
「何だ君は?」教頭は目を細める。男子生徒は教頭をきっと睨む。すると教頭は鼻で 嗤った。
「あぁ、君は確か、暴力沙汰で部を追い出された子だったね。知ってるよ。君の奇行は両手で数えられるほどにはね。全く、そういう下らないことはやめてもらいたいものだね。進学校にあるまじき、学校の恥だ。」
「......んだ......と......?」
「おい落ち着け!こんなところで暴れんな!」
遠藤が男子生徒の前に立つ。男子生徒は遠藤の制服のシャツをがっと掴み、怒鳴り散らした。
「人が死んだんだぞ!こんなとこで落ち着けるかよ!なぁ遠藤!ここどこなんだよ!オイ!!早よ説明してくれや!!」
「やめろ山本!!」
田渕が割って入る。ただでさえ混乱しているというのに、争いが起こってしまっては元も子もない。
「今は落ち着け!争っても仕方ないだろ......な?」
「じゃあ先生は分かんのかよ!?ここがどこなのか!?」
田渕は黙り込む。その男子生徒、名を〈山本虎徹〉は、ふんと鼻息を鳴らし、田渕の手を振りほどいて歩き出す。
「お......おい!どこ行くんだ!?」
「......帰る。こんな息苦しいとこずっといられねぇよ。」
「まて!外がどうなってるのか分からない!今はじっとした方が......!」
山本は何も聞かずに森の中に入り、見えなくなった。生徒の何人かは追いかけた方が良いと言ったが、遠藤はやめておけと否定した。勢いよく掴まれたせいで、制服のボタンが何個か取れてしまっていた。
「......ほっとけよ。あんな奴。」
達志と唯はあんな顔をした遠藤を、出会ってから今まで見たことがなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
山本は歩く。長い草の上で、一歩一歩足を踏み出す。彼はふと先ほどのやり取りを思い出し、ぐっと歯を食いしばった。
「......ちくしょ......っ.......!」
いつもそうだ。喧嘩っ早い彼は、直ぐ頭に血が上り、人に当たってしまう。何も自分だけが焦っているわけでは無い。自分でも分かっている。理性を抑えられなかった自分にも腹が立つ。
〈俺の所属していたサッカー部も、一年の俺の暴行事件が原因で、退部に追い込まれた。〉
その日から、俺の生活は一変した。
彼はふるふると首を振り、きっと前を向く。
今更思い返すな。あんな昔のこと。
俺は帰る。
たとえ、居場所がなくなったとしても、彼には帰らなければならない理由があった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
草原、森を繰り返し、相当な距離歩いたはずなのに、辺りの景色は変わらない。田んぼ、藁で組み立てた家が続く。自分の知らない世界が続く。
「......一体どこなんだよ......ここ......」
山本はそれでも歩き続け、三つ目の森に入る。すると彼は深い森の中に、一筋の光を見つける。山本は思わず早足になる。この森を出たら、きっと自分の知っている世界が広がっているはずだと、その気持ちだけで歩いて来た。
(出口......!)
そう思った時、 肉が腐ったような匂いと、鉄のような匂いが混ざり、彼は鼻を抑える。
(なんだ......このにおい......)
気持ち悪い。不吉な予感がする。しかし、それでも構わず、彼は歩き続ける。そして、森を出た彼はピタリと立ち止まった。
そこには、いつもの景色では無いただの草原が広がっていた。しかし、彼が足を止めたのはそのせいでは無い。強烈な匂いの理由を、彼はここで知ることになったのだ。
開けた草原。そこには無数の死体が転がっていた。皆鎧をつけた、武士のような格好をしている。まるで、〈あの現象〉で見えたような世界。
「......っっ!!」
山本は驚き後ずさりをすると、何かをぎゅっと踏んだ。柔らかい感触。ゆっくりと地面に目を落とすと、山本は言葉を失った。
それは、切り落とされた腕だった。
「うぁあああぁっっ!!!」
山本は腰を抜かす。そして気づく。そこらの数えきれない数の死体が腐敗を始めて、強烈な臭いはそこからやって来ているということを。
なんだこれ
なんだこれ
なんだこれ
彼の息が荒くなる。もう一分もいると、気がおかしくなってしまいそうだと思った山本は、立ち上がろうとする。しかし、恐怖で力が入らない。
その時だった。遠くから草を踏むような音が聞こえる。山本ははっと顔を上げる。遠くから何かがやって来るのが見えた。彼は急いで地面を這いながら、草むらへ隠れる。息を潜めその様子をじっと見ていたが、その正体が何なのかが分かった瞬間、山本は息をのんだ。
「うむ、生きておるものは居らぬな。殿はご帰還なされたご様子。我らも戻るか?」
「戻らねばならん。夕時には戻ると殿に言ってしまったのでな。」
それは、馬に乗った二人の男だった。鎧姿で月代頭に口髭を付けた、時代劇で見る武将のような風貌の二人。山本は両手で口を押さえ、彼らが通り過ぎるのをじっと待った。
(......武将......!?)
山本は通り過ぎた二人に気づかれない様に、後ずさりする。
はやく、せんせいにつたえなきゃ。
山本の頭は混乱していた。しかし、ある言葉が彼の頭の中を横切った
俺たちは、とんでもないことに巻き込まれてしまった。
もう、元の世界には帰れない。
山本は呆然とするが、今はそんな事を考えている暇はない。急いで立ち上がり逃げようとするが、石につまづく。
「ぁっ!!!」
片方の武将はふと後ろを見る。じっと草むらを見ながら、目を細めた。
「......いかがした?」
「何か声が聞こえた様な気がしたが......もしや残党か?」
「あぁ、この辺りは 狸が多いという噂を聞く。それではないか?」
それ以降、草むらから音がすることはなかった。武将は息を吐き、何事もなかったかのように馬を進める。
山の中を走る山本は、勘づき始めていた。
目の前で死んだ和尚さん。リアルな死体。肌が焼けてしまう様な暑さ。景色の変貌。
これは、時代劇のセットなんかじゃない。
この世界は虚構なんかじゃなく、現実だ。
馬鹿馬鹿しい。漫画みたいな話だ。しかし、今はもう疑う余地などない。
もしかしたら俺たちは
山本は走る。ただ無心で、皆のいるあの神社に向かって。
続
教頭はお社からの景色が一変していることに動揺を隠せなかった。お社の周り一面が草で覆われ、道が無くなってしまっている。今までの景色とはまるで違う。まさかと思い、教頭はお社を飛び出して向かうのは階段の入り口。しかし、その階段も跡形なく消えてしまっていた。
それに加え、教頭の額からどんどん汗がにじみ出てくる。今度は決して動揺のせいではない。
「校長先生......一体何がどうなってるんですか......!?」
「わ......私にもわかりません……」
校長は 狼狽え、今吉先生は頭をかきむしる。和尚さんの異変と自殺、景色の変化、急激な気温上昇、説明のつかないような出来事が立て続けに起きている為、理解が追いつかない。
「お前たち!今すぐ部屋から出ろ!絶対見るんじゃないぞ!!」
鹿島が死んだ和尚さんのいる部屋から全員を出す。鹿島は上着を脱ぎ彼の首元に手を当てるが、脈はない。身体も冷たく、徐々に死後硬直が始まっている。鹿島は瞳孔の開いた和尚さんの目を手で閉ざし、全身に布を被せる。
屋敷の外に出された生徒たちに沈黙が走る。田渕も声をかけられずにいた。無理もない。人が動脈を切って死ぬ瞬間を間近で見たのだから。
「きよしげ......っ!」
遠藤の声がした。彼は敷地の隅に立ってこちらを見ている。声が震えていることに気づいた達志は嫌な予感を感じ、急いで遠藤の元へと向かう。
同じように遠藤の声を聴いた多くの生徒が達志について来た。遠藤が立っているその場所は、高台の様に辺りの景色が一望できる。しかし、そこは自分たちが知っているはずの世界ではなかった。
「......は?」
そこには、道路も、ビルも、電車も、住宅街も、周りにありふれたものが何一つとして無かった。ただ森と草原、田畑がただ広がっているだけだった。
「......なんで......学校も......なんもねえじゃねぇか......!」
「おれの......俺の家がない......っ!?」
全く違う。彼らの知っている町ではない。
「たつ......くん......」
達志の傍へやって来た唯は恐怖で泣きそうになっている。達志も訳の分からない状況でどう声をかけていいか分からず、ただ立ちすくんでいた。
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「皆、まずは落ち着いてくれ。」
生徒たちがお社の造る日陰に集まった後、教頭が皆の前で話をする。横で聞いていた田渕はその場にいる全員の顔を見る。殆どの者が疲れ果てているように見えたが、教頭の目をしっかりと捉えている。人の死を間近で、しかもグロテスクな死に様を見てしまった彼らには、一生のトラウマになってしまうかもしれない。現に田渕自身も人が死ぬ場面を間近で見ることは初めての事であり、彼の手はまだ震えている。何人かの女子は恐怖のあまり泣き出して、女子同士で慰めあっている。
「......和尚さんは鹿島先生によって、お社の裏に埋葬してもらった。その為、お社の裏は立ち入り禁止だ。とにかく先ほどのことは忘れてくれ。そして、この敷地からは離れないように。状況が分からない今、下手に動かない方が良い。」
「それって......家に帰れない......ってことですか?」
「帰るも何も......電話も繋がらないし、第一自分たちの家があるかどうかも定かじゃないだろう。」
教頭の言葉にその場にいた全員が俯く。確かにその通りだ。家が消えてなくなってしまった人がいるのは事実であり、携帯は圏外のまま。異論を唱える者はいなかった。
いや、たった一人だけいた。
「何なんだおい!!テメェさっきから偉そうに抜かしやがって!!帰れねぇだと!?冗談じゃねぇふざけんなよ!!!」
一人の男子生徒がストレスを爆発させたかのように叫び、立ち上がる。そして教頭の前に歩み寄った。
「何だ君は?」教頭は目を細める。男子生徒は教頭をきっと睨む。すると教頭は鼻で 嗤った。
「あぁ、君は確か、暴力沙汰で部を追い出された子だったね。知ってるよ。君の奇行は両手で数えられるほどにはね。全く、そういう下らないことはやめてもらいたいものだね。進学校にあるまじき、学校の恥だ。」
「......んだ......と......?」
「おい落ち着け!こんなところで暴れんな!」
遠藤が男子生徒の前に立つ。男子生徒は遠藤の制服のシャツをがっと掴み、怒鳴り散らした。
「人が死んだんだぞ!こんなとこで落ち着けるかよ!なぁ遠藤!ここどこなんだよ!オイ!!早よ説明してくれや!!」
「やめろ山本!!」
田渕が割って入る。ただでさえ混乱しているというのに、争いが起こってしまっては元も子もない。
「今は落ち着け!争っても仕方ないだろ......な?」
「じゃあ先生は分かんのかよ!?ここがどこなのか!?」
田渕は黙り込む。その男子生徒、名を〈山本虎徹〉は、ふんと鼻息を鳴らし、田渕の手を振りほどいて歩き出す。
「お......おい!どこ行くんだ!?」
「......帰る。こんな息苦しいとこずっといられねぇよ。」
「まて!外がどうなってるのか分からない!今はじっとした方が......!」
山本は何も聞かずに森の中に入り、見えなくなった。生徒の何人かは追いかけた方が良いと言ったが、遠藤はやめておけと否定した。勢いよく掴まれたせいで、制服のボタンが何個か取れてしまっていた。
「......ほっとけよ。あんな奴。」
達志と唯はあんな顔をした遠藤を、出会ってから今まで見たことがなかった。
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山本は歩く。長い草の上で、一歩一歩足を踏み出す。彼はふと先ほどのやり取りを思い出し、ぐっと歯を食いしばった。
「......ちくしょ......っ.......!」
いつもそうだ。喧嘩っ早い彼は、直ぐ頭に血が上り、人に当たってしまう。何も自分だけが焦っているわけでは無い。自分でも分かっている。理性を抑えられなかった自分にも腹が立つ。
〈俺の所属していたサッカー部も、一年の俺の暴行事件が原因で、退部に追い込まれた。〉
その日から、俺の生活は一変した。
彼はふるふると首を振り、きっと前を向く。
今更思い返すな。あんな昔のこと。
俺は帰る。
たとえ、居場所がなくなったとしても、彼には帰らなければならない理由があった。
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草原、森を繰り返し、相当な距離歩いたはずなのに、辺りの景色は変わらない。田んぼ、藁で組み立てた家が続く。自分の知らない世界が続く。
「......一体どこなんだよ......ここ......」
山本はそれでも歩き続け、三つ目の森に入る。すると彼は深い森の中に、一筋の光を見つける。山本は思わず早足になる。この森を出たら、きっと自分の知っている世界が広がっているはずだと、その気持ちだけで歩いて来た。
(出口......!)
そう思った時、 肉が腐ったような匂いと、鉄のような匂いが混ざり、彼は鼻を抑える。
(なんだ......このにおい......)
気持ち悪い。不吉な予感がする。しかし、それでも構わず、彼は歩き続ける。そして、森を出た彼はピタリと立ち止まった。
そこには、いつもの景色では無いただの草原が広がっていた。しかし、彼が足を止めたのはそのせいでは無い。強烈な匂いの理由を、彼はここで知ることになったのだ。
開けた草原。そこには無数の死体が転がっていた。皆鎧をつけた、武士のような格好をしている。まるで、〈あの現象〉で見えたような世界。
「......っっ!!」
山本は驚き後ずさりをすると、何かをぎゅっと踏んだ。柔らかい感触。ゆっくりと地面に目を落とすと、山本は言葉を失った。
それは、切り落とされた腕だった。
「うぁあああぁっっ!!!」
山本は腰を抜かす。そして気づく。そこらの数えきれない数の死体が腐敗を始めて、強烈な臭いはそこからやって来ているということを。
なんだこれ
なんだこれ
なんだこれ
彼の息が荒くなる。もう一分もいると、気がおかしくなってしまいそうだと思った山本は、立ち上がろうとする。しかし、恐怖で力が入らない。
その時だった。遠くから草を踏むような音が聞こえる。山本ははっと顔を上げる。遠くから何かがやって来るのが見えた。彼は急いで地面を這いながら、草むらへ隠れる。息を潜めその様子をじっと見ていたが、その正体が何なのかが分かった瞬間、山本は息をのんだ。
「うむ、生きておるものは居らぬな。殿はご帰還なされたご様子。我らも戻るか?」
「戻らねばならん。夕時には戻ると殿に言ってしまったのでな。」
それは、馬に乗った二人の男だった。鎧姿で月代頭に口髭を付けた、時代劇で見る武将のような風貌の二人。山本は両手で口を押さえ、彼らが通り過ぎるのをじっと待った。
(......武将......!?)
山本は通り過ぎた二人に気づかれない様に、後ずさりする。
はやく、せんせいにつたえなきゃ。
山本の頭は混乱していた。しかし、ある言葉が彼の頭の中を横切った
俺たちは、とんでもないことに巻き込まれてしまった。
もう、元の世界には帰れない。
山本は呆然とするが、今はそんな事を考えている暇はない。急いで立ち上がり逃げようとするが、石につまづく。
「ぁっ!!!」
片方の武将はふと後ろを見る。じっと草むらを見ながら、目を細めた。
「......いかがした?」
「何か声が聞こえた様な気がしたが......もしや残党か?」
「あぁ、この辺りは 狸が多いという噂を聞く。それではないか?」
それ以降、草むらから音がすることはなかった。武将は息を吐き、何事もなかったかのように馬を進める。
山の中を走る山本は、勘づき始めていた。
目の前で死んだ和尚さん。リアルな死体。肌が焼けてしまう様な暑さ。景色の変貌。
これは、時代劇のセットなんかじゃない。
この世界は虚構なんかじゃなく、現実だ。
馬鹿馬鹿しい。漫画みたいな話だ。しかし、今はもう疑う余地などない。
もしかしたら俺たちは
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