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第32話
しおりを挟む「原因は、これです」
それは、札の貼られた小さな魔物の死骸だった。
今回の騒動は、死の穢れと、魔物の持つ穢れの瘴気によるものだった。見つけた際に穢れ払いをして、念のために封じるための札を貼った。
ちなみにロッゾは意識を回復し、セインの足元で正座して顔を伏せている。前髪が盛大に焦げているのは、地下で意識を取り戻した時に、すべてが明るみになるのを恐れてセインに襲い掛かってきたからだ。
当然ながら、コウキの手痛い洗礼を受けた痕跡だ。
「……どういうことですか? まさか、魔物が現れたんですか」
「いいえ、この鉱山に魔物はいなかったはず。きちんとハンターによって魔物は討伐され、定期的に穢れ払いをしていたのだから」
「ええ、その通りです。ただ、実際に……」
「最近、頻繁に穢れの兆候が表れた」
「はい、その通りです。これまでは数か月に一度お願いしてましたが、ここのところは半月に一回ほどに増えておりました」
その都度、待っていたかのように依頼を受けたのが、ロッゾだった。依頼の掲示板に張り付いていなければ、毎回受けることなどできなかっただろう。
まるで、依頼が来ることがわかっているかのように。
「……商業鉱山の安い依頼を受ける方など、少ないのかと思ってました」
毎回同じ人物が受けていたため、ボダンは勘違いしていたようだ。むしろ、商業鉱山の定期点検、穢れ払いは、たとえ依頼料が安くとも人気の依頼である。安全かつ、必ず成功するからだ。
この業界には初参入だったうえに、見知らぬ土地で、まだ商人同士のコミュニケーションが不十分だったところを、ロッゾに付け込まれたのだろう。
「それでは、穢れはまだ……」
騙されたことも悔しいが、ボダンはさっそく損失を取り戻す算段に頭を巡らせた。
「ああ、大丈夫。地下から上がってくるついでに、こや……ロッゾに場所を吐かせて処理してきた。どうやら、ここの採掘が進むたびに、何か所か仕掛けていたらしい」
術による質の悪い呪いや穢れは対処法が難しいが、ロッゾにその知識や技術がなかったのが幸いした。単純に穢れの原因になるものを、すでに採掘が済んで掘り返されることがない場所へ埋めただけ、という単純な仕掛けだった。
ロッゾはこれまでも、幾度かこの方法を取っていたようだ。
いままで明るみに出なかったのは、回数が少なかったことと、死骸が土に還り、大地の自浄効果によって、運よく清められたため何事もなかったのだろう。
「くそ、あのロルシー崩れが、大丈夫だって言ったから、俺は……」
「やっ、やめろ! 俺は関係ない! だいたい、あれはお前が言い出したことだろうが」
「何言ってやがる、俺はいつも慎重にやってたんだ。それを」
「いい手があるからと、アンタがそそのかしただろうが。ロルシーの名があれば、疑われることはないからと調子のいいことを言って、そのくせ分け前をケチりやがって!」
「そ、そうだ、それだ! お前、ロルシー家の縁者なんだろう? これくらいの騒動ならなんとかしてくれるよな」
盛大に罪の擦り付け合いをしているが、悪事の詳細を暴露をしているだけだと気が付いてないのか。ともかく、醜い争いが続いている。
「言っておくが、ベンはロルシー家とは関係がない」
「な、なに? どういう……」
ため息をついたセインが、地べたに這いつくばる彼らに冷たく言い放った。
「……っ! セ、セイン様! どうか、お許しください。このことは、どうか実家には」
前回の土下座より必死さが半端なかったが、セインはかえって白けた気持ちになった。
ロルシー家から追い出され、おそらくベンは実家から勘当同然で追い出されたのだろう。さらに、その顔に泥を塗るような真似をすれば、本格的に縁を切られ、一族名簿からも抹消されかねないと恐れているのだ。
まったくもって懲りないやつである。
それは、札の貼られた小さな魔物の死骸だった。
今回の騒動は、死の穢れと、魔物の持つ穢れの瘴気によるものだった。見つけた際に穢れ払いをして、念のために封じるための札を貼った。
ちなみにロッゾは意識を回復し、セインの足元で正座して顔を伏せている。前髪が盛大に焦げているのは、地下で意識を取り戻した時に、すべてが明るみになるのを恐れてセインに襲い掛かってきたからだ。
当然ながら、コウキの手痛い洗礼を受けた痕跡だ。
「……どういうことですか? まさか、魔物が現れたんですか」
「いいえ、この鉱山に魔物はいなかったはず。きちんとハンターによって魔物は討伐され、定期的に穢れ払いをしていたのだから」
「ええ、その通りです。ただ、実際に……」
「最近、頻繁に穢れの兆候が表れた」
「はい、その通りです。これまでは数か月に一度お願いしてましたが、ここのところは半月に一回ほどに増えておりました」
その都度、待っていたかのように依頼を受けたのが、ロッゾだった。依頼の掲示板に張り付いていなければ、毎回受けることなどできなかっただろう。
まるで、依頼が来ることがわかっているかのように。
「……商業鉱山の安い依頼を受ける方など、少ないのかと思ってました」
毎回同じ人物が受けていたため、ボダンは勘違いしていたようだ。むしろ、商業鉱山の定期点検、穢れ払いは、たとえ依頼料が安くとも人気の依頼である。安全かつ、必ず成功するからだ。
この業界には初参入だったうえに、見知らぬ土地で、まだ商人同士のコミュニケーションが不十分だったところを、ロッゾに付け込まれたのだろう。
「それでは、穢れはまだ……」
騙されたことも悔しいが、ボダンはさっそく損失を取り戻す算段に頭を巡らせた。
「ああ、大丈夫。地下から上がってくるついでに、こや……ロッゾに場所を吐かせて処理してきた。どうやら、ここの採掘が進むたびに、何か所か仕掛けていたらしい」
術による質の悪い呪いや穢れは対処法が難しいが、ロッゾにその知識や技術がなかったのが幸いした。単純に穢れの原因になるものを、すでに採掘が済んで掘り返されることがない場所へ埋めただけ、という単純な仕掛けだった。
ロッゾはこれまでも、幾度かこの方法を取っていたようだ。
いままで明るみに出なかったのは、回数が少なかったことと、死骸が土に還り、大地の自浄効果によって、運よく清められたため何事もなかったのだろう。
「くそ、あのロルシー崩れが、大丈夫だって言ったから、俺は……」
「やっ、やめろ! 俺は関係ない! だいたい、あれはお前が言い出したことだろうが」
「何言ってやがる、俺はいつも慎重にやってたんだ。それを」
「いい手があるからと、アンタがそそのかしただろうが。ロルシーの名があれば、疑われることはないからと調子のいいことを言って、そのくせ分け前をケチりやがって!」
「そ、そうだ、それだ! お前、ロルシー家の縁者なんだろう? これくらいの騒動ならなんとかしてくれるよな」
盛大に罪の擦り付け合いをしているが、悪事の詳細を暴露をしているだけだと気が付いてないのか。ともかく、醜い争いが続いている。
「言っておくが、ベンはロルシー家とは関係がない」
「な、なに? どういう……」
ため息をついたセインが、地べたに這いつくばる彼らに冷たく言い放った。
「……っ! セ、セイン様! どうか、お許しください。このことは、どうか実家には」
前回の土下座より必死さが半端なかったが、セインはかえって白けた気持ちになった。
ロルシー家から追い出され、おそらくベンは実家から勘当同然で追い出されたのだろう。さらに、その顔に泥を塗るような真似をすれば、本格的に縁を切られ、一族名簿からも抹消されかねないと恐れているのだ。
まったくもって懲りないやつである。
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