1 / 1
源氏断絶
しおりを挟む
若い叔父によく似た、すべてを見通したかのような澄んだ仏の顔に、何度も問いかける。
あなたが、私の父上を殺したのですか?
―そうだ。
嘘だ!あなたは、あの時まだ子供だったはずだ!
―将軍の私の名が用いられた以上、私がやったということだ。
あなたも、北条の祖父に廃されそうになったというのに。何故北条を許せるのですか!
―許すのだ、将軍だから。
和田との戦だってそうだ!あなたが好んでやったことじゃないのに責めを負わされて!
―背負うのだ、耐えるのだ、将軍だから。
弟を、栄実を殺すよう命じたのもあなたですか?
―そうだ、私が決めて命じた、将軍だから。
何故北条を、武をもって倒そうとしないのだ!私の父上だったら、きっとそうしている!
―生かすのだ、世に必要だから。
殺すんだ!北条を!あなたに源氏将軍としての誇りがあるのなら!
―源氏将軍は私の代で終わらせる。
どういうことだ⁉
―源氏はあまりに多くの血を流し過ぎた。次の将軍には、京より親王様をお迎えする。神聖な皇家であれば、臣下が血で汚すという最悪の事態は起こらぬであろうから。
源氏の血を断絶するなど、我らが父祖への冒涜だ!
―源氏の血を完全に絶やすわけではない。そなたの妹を親王様の御息所として、その血統をつないでいくことにした。
源氏には俺がいる!
―源氏の男の血は、争いの種にしかならない。だから、男はやめて、女の血を残すことにしたのだ。北条の血も残る、母上も北条の叔父御も納得した。
次の将軍は俺がなるべきだ!
―将軍は私である!そなたではない!私が決めるのだ!
ならば、俺はあなたを殺して将軍になる!
―私を殺して将軍になって、そなたは何をするつもりなのだ、何がしたいのだ?
そんなのはどうでもいい!あなたは、私の父上の敵、源氏の裏切り者だ!だから殺す!
―私はそなたの義父でもある。朝臣でもある右大臣を殺すということは、朝廷への謀反でもある。親殺し、主殺し、朝敵、これほどの重罪人を、次の将軍と認めるものなどいない。
俺は将軍だ!だから、何でもできるし、何でもやっていいんだ!
―それは違う。良き臣の補佐を受けて、最後は自分で決断を下し、その責を負う、それが将軍の務めだ。
うるさい!うるさい!俺が四代目だ!
銀世界の闇の中、気づいた時には、若い叔父の首を掻き切っていた。
親殺し、主殺し、朝廷への謀反を犯した重罪人は、将軍となることなく、己が首をもってその責めを負うことになった。
あなたが、私の父上を殺したのですか?
―そうだ。
嘘だ!あなたは、あの時まだ子供だったはずだ!
―将軍の私の名が用いられた以上、私がやったということだ。
あなたも、北条の祖父に廃されそうになったというのに。何故北条を許せるのですか!
―許すのだ、将軍だから。
和田との戦だってそうだ!あなたが好んでやったことじゃないのに責めを負わされて!
―背負うのだ、耐えるのだ、将軍だから。
弟を、栄実を殺すよう命じたのもあなたですか?
―そうだ、私が決めて命じた、将軍だから。
何故北条を、武をもって倒そうとしないのだ!私の父上だったら、きっとそうしている!
―生かすのだ、世に必要だから。
殺すんだ!北条を!あなたに源氏将軍としての誇りがあるのなら!
―源氏将軍は私の代で終わらせる。
どういうことだ⁉
―源氏はあまりに多くの血を流し過ぎた。次の将軍には、京より親王様をお迎えする。神聖な皇家であれば、臣下が血で汚すという最悪の事態は起こらぬであろうから。
源氏の血を断絶するなど、我らが父祖への冒涜だ!
―源氏の血を完全に絶やすわけではない。そなたの妹を親王様の御息所として、その血統をつないでいくことにした。
源氏には俺がいる!
―源氏の男の血は、争いの種にしかならない。だから、男はやめて、女の血を残すことにしたのだ。北条の血も残る、母上も北条の叔父御も納得した。
次の将軍は俺がなるべきだ!
―将軍は私である!そなたではない!私が決めるのだ!
ならば、俺はあなたを殺して将軍になる!
―私を殺して将軍になって、そなたは何をするつもりなのだ、何がしたいのだ?
そんなのはどうでもいい!あなたは、私の父上の敵、源氏の裏切り者だ!だから殺す!
―私はそなたの義父でもある。朝臣でもある右大臣を殺すということは、朝廷への謀反でもある。親殺し、主殺し、朝敵、これほどの重罪人を、次の将軍と認めるものなどいない。
俺は将軍だ!だから、何でもできるし、何でもやっていいんだ!
―それは違う。良き臣の補佐を受けて、最後は自分で決断を下し、その責を負う、それが将軍の務めだ。
うるさい!うるさい!俺が四代目だ!
銀世界の闇の中、気づいた時には、若い叔父の首を掻き切っていた。
親殺し、主殺し、朝廷への謀反を犯した重罪人は、将軍となることなく、己が首をもってその責めを負うことになった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
穂に出でにけり
shingorou
歴史・時代
北条泰時の源実朝への伝えられなかった片想い…
源実朝の和歌と北条泰時の和歌を引用していますが、それぞれの歌は実際にはこういった場面で用いられたものではありません、念のため。
薙刀姫の純情 富田信高とその妻
もず りょう
歴史・時代
関ヶ原合戦を目前に控えた慶長五年(一六〇〇)八月、伊勢国安濃津城は西軍に包囲され、絶体絶命の状況に追い込まれていた。城主富田信高は「ほうけ者」と仇名されるほどに茫洋として、掴みどころのない若者。いくさの経験もほとんどない。はたして彼はこの窮地をどのようにして切り抜けるのか――。
華々しく活躍する女武者の伝説を主題とし、乱世に取り残された武将、取り残されまいと足掻く武将など多士済々な登場人物が織り成す一大戦国絵巻、ここに開幕!
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
ライヒシュタット公の手紙
せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを巡る物語。
ハプスブルク家のプリンスでもある彼が、1歳年上の踊り子に手紙を? 付き人や親戚の少女、大公妃、果てはウィーンの町娘にいたるまで激震が走る。
カクヨムで完結済みの「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」を元にしています
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
なんか、あれですよね。ライヒシュタット公の恋人といったら、ゾフィー大公妃だけみたいで。
そんなことないです。ハンサム・デューク(英語ですけど)と呼ばれた彼は、あらゆる階層の人から人気がありました。
悔しいんで、そこんとこ、よろしくお願い致します。
なお、登場人物は記載のない限り実在の人物です
勝利か死か Vaincre ou mourir
せりもも
歴史・時代
マレンゴでナポレオン軍を救い、戦死したドゥゼ。彼は、高潔に生き、革命軍として戦った。一方で彼の親族は、ほぼすべて王党派であり、彼の敵に回った。
ドゥゼの迷いと献身を、副官のジャン・ラップの目線で描く。「1798年エジプト・セディマンの戦い」、「エジプトへの出航準備」、さらに3年前の「1795年上アルザスでの戦闘」と、遡って語っていく。
NOVEL DAYS掲載の2000字小説を改稿した、短編小説です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【受賞作】小売り酒屋鬼八 人情お品書き帖
筑前助広
歴史・時代
幸せとちょっぴりの切なさを感じるお品書き帖です――
野州夜須藩の城下・蔵前町に、昼は小売り酒屋、夜は居酒屋を営む鬼八という店がある。父娘二人で切り盛りするその店に、六蔵という料理人が現れ――。
アルファポリス歴史時代小説大賞特別賞「狼の裔」、同最終候補「天暗の星」ともリンクする、「夜須藩もの」人情ストーリー。
生克五霊獣
鞍馬 榊音(くらま しおん)
歴史・時代
時は戦国時代。
人里離れた山奥に、忘れ去られた里があった。
闇に忍ぶその里の住人は、後に闇忍と呼ばれることになる。
忍と呼ばれるが、忍者に有らず。
不思議な術を使い、独自の文明を守り抜く里に災いが訪れる。
※現代風表現使用、和風ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる