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7話

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コンコンと控えめにノックをする。

「入れ」

扉を開くとウィルがカーテンの近くに立って外を眺めていた。

「あ、あの…」

僕が話し出すと気がついたのかゆっくりとこちらに向かってきた。

「ユリだったのか。どうした?」

「あ、えと…」

「うん?」

ゆっくりと僕が話し出すのを待ってくれる。

けれどなかなか話し出すことができなくて、俯いてしまった。

「ユリ、こっちにおいで。少し茶でも飲もうか」

僕の手をゆるく握りイスまで連れていってくれた。

「今日は疲れただろう。ゆっくりするといい」

そう言って紅茶をいれてくれた。

「ありがとうございます…」

ウィルが僕の緊張を解こうと色々と軽く話をしてくれて少しずつ緊張がほぐれていった。

「あの…」
 
「どうした?」

ドキドキとする心臓の音を聞きながらも勇気を振り絞って言ってみた。

「は、発情期のこと、なんですが…」

「あっ、ああ。」

「あ、えと、その…」

「ゆっくりで構わないよ」

にっこりと軽く微笑んでくれる。

ウィルが待ってくれている。

そう思うとゆっくりとではあるが口を開くことができた。

「あの、発情期のとき、ウィルが良ければ、一緒にいてほしいです」 

「わかった。言いづらいことなのに言ってくれてありがとう」

「あ、いえ、その、ありがとう。ウィル…」

「いやむしろユリの隣にいさせてくれてありがとう。今日はもう夜も遅い。ゆっくり休んでくれ」

「はい。ありがとうございます」

そう言って僕は部屋へと戻っていった。



《ウィル視点》

敬語が抜けてきて少しずつではあるが自分のことをポツリポツリと話してくれるユリが可愛くて仕方がない。

言いづらいだろうが発情期中の過ごし方については聞いておく必要がある。

相手の同意なしにフェロモンの事故で襲ってしまう事件が他の貴族だけでなく民の間でも問題になっている。

ユリの望まないことは絶対にしたくない。

嫌われたくない、というのもあるがユリを傷つけたくはない。

それに"Ωはあまり生まれない"と言われているが実際は違う。

αと同じ数だけ存在している。

唯一無二の相手を求めて努力をし、Ωを守る存在としてαは進化してきた。

しかし、Ωなしにはαの力は成り立たないということを気づかれるわけにはいかないと考えたとある時代の王様がΩは守る対象ではなく発情期のある哀れな存在だと広めた。

その事によってΩの地位は下がってしまった。

Ωが淘汰され略奪され、襲われたことによって数が減っていってしまった。

だが、本来は対となり守る存在がいるはずだ。

それがΩが減少したことにより狂った多数のαが闇に手を染めるようになってしまった。

だがαはそれだけに留まらず他人の唯一のΩさえも選ぶようになってしまった。

運命の番、と呼ばれるのは伝説とされるようになったのはそういうことだ。

Ωの数が減っていったことでαもまた変化していく。

運命の番はもともと選ばれるべき対の存在だ。
 
フェロモンが強力で抗えないとされているが、それは当たり前だ。

間違えて他の対を選ばないようにそうなっているからだ。

だが、退化した、いや進化したと言われる今の時代にはただ相性の良いフェロモンだとされている。

このことは上位の貴族ですら知らない話だ。

俺はたまたま教育係が特殊な人間だったから知ったことだ。

街に出掛けると決まったときに喜んでいた姿も可愛かったが普段とは違って結ってあるホワイトブロンドの髪はとても可愛らしかった。

まさかユリが俺をカッコいいと言ってくれるとは思っていなかったから言われた時は恥ずかしいところを見せてしまった。

まあ、ユリが楽しそうだったから良しとしよう。

ユリが俺のために剣のアクセサリーを選んでくれて嬉しくて舞い上がりそうだった。


絶対に大切に、失くさないようにしようと心に誓った。

ただ、ユリが"初めて"こんな素敵なものと言っていたのが少し気になる。

たんに俺から貰ったものが初めてで喜んでいるのだとしたら良いのだが誰からもプレゼントを貰っていなかったということだろうか。

いや、しかし、そんなわけないだろう。

深く考えすぎだと思い頭を振る。

少し夜風にあたろうとベランダへ向かおうとしたところでノックの男が聞こえた。

こんな時間に誰だろうかとも思ったがとりあえず中にいれることにした。

すると、ユリが来てくれた。

まさかユリが来るとは思わず動揺する心を落ち着けながらユリの方へと向かっていった。


話づらそうにしていたが、最後には小さな声でポツリと話してくれて良かった。

だがきっとユリは知らないのだろう。Ωだけでなくそもそもバースの知識があまりないようだった。

いくら緊急抑制剤キットを使い、普段から強い抑制剤を飲んでいたとしても発情したΩの前では我慢できるものじゃない。

そのことくらいは少し大きくなれば教えられることだった。

だから学年だけでなくバース性によっても学校内では建物や教育方法が異なっている。

これは俺が言い出したことだし、ユリを一人にしておきたくなかった。

少しでも辛い想いをさせたくない俺のエゴだ。

だが、知らずにいるのは良くない。
ユリがきちんと自分で考えて選択できるようにバース性について軽くでも教えようと思いながら眠りについた。





    
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