93 / 140
第3章 学園に通おう
78話 夫婦
しおりを挟む
ソファを立って2人のところに歩いていく。
奴隷商さんは2人を呼んでくれるって言ってたけど、やっぱり足枷は重そうだし、大した距離があるわけじゃないし僕が歩いていくことにした。
僕がバナくんを降ろして立ち上がると、護衛としてツヴァイくんも立ち上がるけど……まあ、今度は止めなくていいか。
2人に危険があるとは思わないけど、バナくんみたいに怖がったりもしないだろうからツヴァイくんの好きにさせよう。
バナくんはまだちょっとツヴァイくんのこと怖いみたいだから、ソファで待ってるかな?と思ったら、僕について来た。
そして、ツヴァイくんの反対側に回ると、ちょっと恥ずかしそうにしながら僕の腕に抱きついてくる。
それを見て対抗心が湧いちゃったのか、ツヴァイくんが僕に寄り添って手を握ってくる。
ヤバい、色々我慢し過ぎてツヴァイくんのワガママな部分が漏れてきちゃってる。
とうとう最後には、ソファに残ってくれてそうだったムーサくんまで僕の後ろについて、服の裾をつまんでる。
使用人になってくれるかもしれない人たちのところに初めての挨拶に行くというのに、なんかよく分からない陣形が出来上がってしまった。
ちょっと離れてついてきてる奴隷商さんも生暖かい目で見ているし、恥ずかしい。
と言うか、これ絶対向こうから断られるやつだ。
いや、まあ、でも、前にムーサくんも言ってたけど、雇う前に僕んちのありのままの姿を見てもらうというのもひとつの考え方だろう。
……いや、ここまで恥ずかしい状態はあんまりないけど、最悪の状況を先に見てもらうのは有りだ。
後で知られて、騙されたと思われるよりよっぽど良いと考えよう。
そう諦めをつけて、この陣形のまま2人に寄っていく。
2人の前まで行くと、2人揃って跪いてくれる。
手枷のせいでちょっと変な格好になっちゃってるけど、それでも慣れた感じで、なんていうか絵になる雰囲気だ。
「僕の名前は、ハルマサ・サクラハラ。
貴方がたの名前を教えてください」
僕の言葉を聞いて、男性の方が顔を伏せたまま答える。
「私はクラウス・ビューナーと申します。
隣におりますのは、妻のカミラでございます」
「クラウスさんとカミラさんですね。
とりあえず顔を上げてください」
言われたとおり素直に顔を上げて、僕たちを見るクラウスさんたち。
近寄っていった時もそうだけど、僕らの有様を見ても眉ひとつ動かさないな、この2人。
内心どう思ってるか分からないけど、少なくとも一切表には出さない。
やっぱり、ちょっとイヴァンさんとヨハンナさんを思い出す。
「貴方がたは寮の使用人は出来ますか?」
僕の言葉を聞いて、クラウスさんは数秒考えるような間を取ったあと口を開く。
「寮の使用人をした経験はございませんが、おそらく可能だと思います。
私もカミラも20年ほどお屋敷の使用人をいたしておりましたので、一般的な事柄でしたら対応できるかと思います」
「あれ?20年だけなんですか?」
見た目から考えると結構短かったので驚いた。
転職組?
「その後、20年ほどは家令として家の取りまとめに従事しておりましたため、現場からは離れております。
カミラも同じくここ20年ほどは使用人の取りまとめに回って、現場からは退いておりました」
なるほど、そういうことか。
しかし40年お屋敷づとめとは、大ベテランさんだ。
……だからこそ問題も出てくるな。
「もし僕が貴方がたを買った場合、現場に戻っていただいて、貴方がたから見れば孫のような年の家臣たちの指示を聞いていただくことになりますが、それは問題有りませんか?」
「問題ございません」
今度は即答だった。
やっぱり内心がどう思っているかは分からないけど、話を聞く限りは買っても問題ない気がする。
ムーサくんの方をちらっと見ると、ムーサくんも頷いてくれる。
「貴方がたの他にご家族は?」
年齢的にお子さんやお孫さんがいてもおかしくないけど、一緒に奴隷になったりしてないよね?
なってるようならどうにか考えないと。
「…………我々に子供はおりませんし、ともに両親は亡くなっております」
その割には、なんか変な沈黙があったな。
答えづらい話って感じでもなかったし……。
「包み隠さずに言っていただけると嬉しいです」
ストレートに聞いてみた。
これでも隠すようなことなら、それ含めて買うかどうするか考えよう。
「………………」
答えてくれないのかな?というくらい沈黙が続いたあと、クラウスさんが重い口を開いた。
「……勤めておりましたお家に孫のような年の若様がおりまして、その方の安否が気がかりでございます」
あー、なるほど。
お取り潰しになったって言ってたし、たしかにそれは心配かもしれない。
こうなってくると子爵様とやらがどうなったのかは僕も気になるなぁ。
ちょっと離れたところにいる奴隷商さんなら知っているかもと、顔を見てみるけど……。
「その話はまた後ほど……」
知らないわけじゃないみたいだけど、答えてもらえなかった。
これも『いわく』絡みなのかなぁ?
少し話しただけだけど、落ち着いたしっかりした人みたいだし、問題はないと思う。
奥さんの方とは話できなかったけど、やっぱり落ち着いた様子でパッと見不安になる要素はなかった。
何より僕たちの有様を見ても表情ひとつ変えなかったのがいい。
どちらにせよ、一緒に仕事してみないと性格なんてわからないし、第一印象は良い、ってところで満足しておこう。
「ありがとうございます。
最後に質問ですが、当家に雇われてもいいと思ってくださいますか?」
「……」
今度の沈黙も、子供のことを聞いたときほどじゃないけど、長かった。
僕の方がお断りされるやつかーと思い出したところで、クラウスさんが口を開く。
「……お許しいただけますのならば」
僕の質問への返事にしては少し変な感じだったけど、これも『いわく』絡みなんだろう。
あとは、奴隷商さんから話を聞くしか無い。
奴隷商さんは2人を呼んでくれるって言ってたけど、やっぱり足枷は重そうだし、大した距離があるわけじゃないし僕が歩いていくことにした。
僕がバナくんを降ろして立ち上がると、護衛としてツヴァイくんも立ち上がるけど……まあ、今度は止めなくていいか。
2人に危険があるとは思わないけど、バナくんみたいに怖がったりもしないだろうからツヴァイくんの好きにさせよう。
バナくんはまだちょっとツヴァイくんのこと怖いみたいだから、ソファで待ってるかな?と思ったら、僕について来た。
そして、ツヴァイくんの反対側に回ると、ちょっと恥ずかしそうにしながら僕の腕に抱きついてくる。
それを見て対抗心が湧いちゃったのか、ツヴァイくんが僕に寄り添って手を握ってくる。
ヤバい、色々我慢し過ぎてツヴァイくんのワガママな部分が漏れてきちゃってる。
とうとう最後には、ソファに残ってくれてそうだったムーサくんまで僕の後ろについて、服の裾をつまんでる。
使用人になってくれるかもしれない人たちのところに初めての挨拶に行くというのに、なんかよく分からない陣形が出来上がってしまった。
ちょっと離れてついてきてる奴隷商さんも生暖かい目で見ているし、恥ずかしい。
と言うか、これ絶対向こうから断られるやつだ。
いや、まあ、でも、前にムーサくんも言ってたけど、雇う前に僕んちのありのままの姿を見てもらうというのもひとつの考え方だろう。
……いや、ここまで恥ずかしい状態はあんまりないけど、最悪の状況を先に見てもらうのは有りだ。
後で知られて、騙されたと思われるよりよっぽど良いと考えよう。
そう諦めをつけて、この陣形のまま2人に寄っていく。
2人の前まで行くと、2人揃って跪いてくれる。
手枷のせいでちょっと変な格好になっちゃってるけど、それでも慣れた感じで、なんていうか絵になる雰囲気だ。
「僕の名前は、ハルマサ・サクラハラ。
貴方がたの名前を教えてください」
僕の言葉を聞いて、男性の方が顔を伏せたまま答える。
「私はクラウス・ビューナーと申します。
隣におりますのは、妻のカミラでございます」
「クラウスさんとカミラさんですね。
とりあえず顔を上げてください」
言われたとおり素直に顔を上げて、僕たちを見るクラウスさんたち。
近寄っていった時もそうだけど、僕らの有様を見ても眉ひとつ動かさないな、この2人。
内心どう思ってるか分からないけど、少なくとも一切表には出さない。
やっぱり、ちょっとイヴァンさんとヨハンナさんを思い出す。
「貴方がたは寮の使用人は出来ますか?」
僕の言葉を聞いて、クラウスさんは数秒考えるような間を取ったあと口を開く。
「寮の使用人をした経験はございませんが、おそらく可能だと思います。
私もカミラも20年ほどお屋敷の使用人をいたしておりましたので、一般的な事柄でしたら対応できるかと思います」
「あれ?20年だけなんですか?」
見た目から考えると結構短かったので驚いた。
転職組?
「その後、20年ほどは家令として家の取りまとめに従事しておりましたため、現場からは離れております。
カミラも同じくここ20年ほどは使用人の取りまとめに回って、現場からは退いておりました」
なるほど、そういうことか。
しかし40年お屋敷づとめとは、大ベテランさんだ。
……だからこそ問題も出てくるな。
「もし僕が貴方がたを買った場合、現場に戻っていただいて、貴方がたから見れば孫のような年の家臣たちの指示を聞いていただくことになりますが、それは問題有りませんか?」
「問題ございません」
今度は即答だった。
やっぱり内心がどう思っているかは分からないけど、話を聞く限りは買っても問題ない気がする。
ムーサくんの方をちらっと見ると、ムーサくんも頷いてくれる。
「貴方がたの他にご家族は?」
年齢的にお子さんやお孫さんがいてもおかしくないけど、一緒に奴隷になったりしてないよね?
なってるようならどうにか考えないと。
「…………我々に子供はおりませんし、ともに両親は亡くなっております」
その割には、なんか変な沈黙があったな。
答えづらい話って感じでもなかったし……。
「包み隠さずに言っていただけると嬉しいです」
ストレートに聞いてみた。
これでも隠すようなことなら、それ含めて買うかどうするか考えよう。
「………………」
答えてくれないのかな?というくらい沈黙が続いたあと、クラウスさんが重い口を開いた。
「……勤めておりましたお家に孫のような年の若様がおりまして、その方の安否が気がかりでございます」
あー、なるほど。
お取り潰しになったって言ってたし、たしかにそれは心配かもしれない。
こうなってくると子爵様とやらがどうなったのかは僕も気になるなぁ。
ちょっと離れたところにいる奴隷商さんなら知っているかもと、顔を見てみるけど……。
「その話はまた後ほど……」
知らないわけじゃないみたいだけど、答えてもらえなかった。
これも『いわく』絡みなのかなぁ?
少し話しただけだけど、落ち着いたしっかりした人みたいだし、問題はないと思う。
奥さんの方とは話できなかったけど、やっぱり落ち着いた様子でパッと見不安になる要素はなかった。
何より僕たちの有様を見ても表情ひとつ変えなかったのがいい。
どちらにせよ、一緒に仕事してみないと性格なんてわからないし、第一印象は良い、ってところで満足しておこう。
「ありがとうございます。
最後に質問ですが、当家に雇われてもいいと思ってくださいますか?」
「……」
今度の沈黙も、子供のことを聞いたときほどじゃないけど、長かった。
僕の方がお断りされるやつかーと思い出したところで、クラウスさんが口を開く。
「……お許しいただけますのならば」
僕の質問への返事にしては少し変な感じだったけど、これも『いわく』絡みなんだろう。
あとは、奴隷商さんから話を聞くしか無い。
1
お気に入りに追加
1,085
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる