いつの間にか異世界転移してイケメンに囲まれていましたが頑張って生きていきます。

アメショもどき

文字の大きさ
上 下
92 / 140
第3章 学園に通おう

77話 借金

しおりを挟む
 まだ使用人さんの方を紹介してもらっていないけど、とりあえずバナくんの売買契約書を先にもらった。
 
 一刻も早く重そうな手枷と足枷を外してあげたかった。

 ……それだけだったんだけど……。

 手枷足枷が外れて自由になったバナくんの態度に戸惑いを隠せない。

 バナくんは急に態度が悪く……なんてことはもちろん無い。

 あ、いや、考えようによっては『態度』は悪い。

 手足が自由になったバナくんは、両手両足を使って全身で僕に抱きついてきている。

 まるで兎の獣人じゃなくってコアラの獣人みたいだ。

 すごい幸せそうにほっぺたを僕に擦りつけているので引き剥がすのも忍びない。

 しかし、これから使用人になってもらう奴隷さんを紹介してもらうっていうのにこの態度はどうなんだろう。

 僕、向こうから断られたりしない?

「その時はその時かと思います。
 主さまのあるがままの姿を見ていただいたほうがよろしいかと」

 ムーサくんの言葉にツヴァイくんもウンウンと頷いている。

 ほんと、ツヴァイくん人間の言葉わかるようになってきたね。

 まあ、でも、たしかに下手に表向きだけ繕って後で失望されるよりはいいか。

「……ん?
 いや、流石にこれがいつものあるがままの姿ってわけじゃないと思うけどっ!?」

 常にこんなベタベタイチャイチャしているのが日常ってわけじゃない。

 聞こえの悪いことを言う2人に必死に抗議するけど、2人でやれやれといった感じに笑い合っていて、僕と目を合わせてくれない。

 え?いつもこんなじゃないよね?



 ――――――



 なんか納得いかないけど、紹介してくれる奴隷さんの用意ができたらしいので抗議はまた後にしよう。

 バナくんは結局コアラのままだ。

 とりあえず、一般奴隷さんが着ている頭からかぶるだけのダボタボなワンピースみたいな服だけは着させてもらった。

 ……なんかバナくん本人に嫌がられたけど、無理言って着てもらった。

 ちょっとぶーたれた顔して不満そうにしてたけど、頭なでてたら機嫌も治ったみたいだ。

 小さい頃の弟を思い出して実に可愛い。

 いや、それより、今は紹介してもらう奴隷さんに集中しないと。

 頭を切り替えて、奴隷さんが入ってくるのを待つ。

「おにいちゃぁん」

 バナくんは飽きてしまっているのか、甘えた声を上げて僕の首筋をカプカプ噛んでいる。

 ……これは強敵だ……。



 じゃれ合っているうちにステージ?のドアが開き、屈強な従業員さんたちに連れられて2人の奴隷さんが入ってきた。

 バナくんを見てて我慢ができなくなったのか、左右から僕の腕に抱きついていたムーサくんとツヴァイくんも離れてきちんと座り直してくれる。

 バナくんはまだカプカプしているけど、もうこれは諦めよう。

 せめて僕自身は真面目にやってるということを示すためにも、表情を引き締める。

 キリッと厳しいご主人さまフェイスを作ったつもりだけど、向かいに座っている奴隷商さんが微笑まし気に見ているところを見ると失敗しているみたいだ。

 ならもういつもの気の抜けた顔でいいや。

 表情に気合を入れるのを止めて、真面目にステージ?の方を見る。

 そこには、普通の奴隷さんの着る長いワンピースのような服――貫頭衣というらしい――を来た2人の男女がいた。

 2人とも同じくらいの年齢に見えるけど、いくつくらいだろう?

 これくらいの大人の人って年齢分かりづらいんだよなぁ。

 お父さんよりだいぶ上だけど、お祖父ちゃんなんかよりは少し若くみえる。

 5、60歳くらいだろうか?

 2人ともヒューマン種の人で、男性の方は背筋のしっかりした痩身のおじさん。

 女性の方はちょっと恰幅の良い、こちらも背筋のしっかりしたおばさんだ。

 2人とも、奴隷さん用の粗末な貫頭衣を着て、髪も洗ったままの有り体に言ってみすぼらしい恰好なんだけど……。

 なんて言うか、立ち姿がシュッとしてる。

 姿形も年齢もぜんぜん違うのに、なぜかイヴァンさんを思い出した。

「この2人は、つい最近までとある貴族の下で奉公をしていた者たちでございます」

 なるほど、それなら立ち姿がしっかりしているのも納得だ。

「子爵家の使用人として長年勤め、男性の方は家令を、女性は男性の妻で使用人頭を任されておりました」

 ご夫婦なのか。

 しかし、家令と言ったらイヴァンさんと同じ立場の人だ、使用人頭だってヨハンナさんと同じだし、なんでそんな立場の人が奴隷に?

「彼らになにがあったんでしょう?」

 相当な事情がなければ奴隷になんかならないような人たちだと思うけど……。

「つい先日のことでございますが、彼らの仕えておりました子爵家が不祥事によりお取り潰しとなりまして……」

 なるほど、『相当な事情』があったのか。

「しかし、仕えていた家がお取り潰しになったとはいえ、仕えていた人たちも奴隷になったりするものなんですか?」

 この人達は経済奴隷だって話だから、借金のカタとかそういう話のはずだ。

 まだこの世界の……と言うか、貴族の仕組みがよくわかってない僕にとっては、貴族の家はひとつの会社みたいな感じにしかとらえられていない。

 そんな僕の感覚からすると、会社が潰れたからって社員まで借金を負うのはなんかピンとこない。

 それとも、彼ら個人として借金があったとかなんだろうか?

 そうなると、借金の内容次第では買うかどうか考えないとなぁ。

「さようでございますな。
 普通の使用人でしたら主家がお取り潰しになったと言っても、それはあくまで主家の事情。
 勤め先が急になくなり路頭に迷うということはあるかもしれませんが、すぐに当店の商品になるということはございません。
 もちろん、個人的な借金があるなどという場合は別でございますが」

 やっぱりそうだよね。

 流石にお取り潰しイコール使用人たちに借金、とはならないよね。

「ということは、この人達には個人的な借金が?」

「さようでございますが、家令や使用人頭ともなりますと少々事情が異なりまして。
 使用人とは言え彼らほどの立場になりますと、他の使用人や屋敷内のこと、場合によっては領地のことにいたるまで様々なことを差配する必要上、主の名ではなく彼ら自身の名で取り交わしている証文などもございまして」

「そんな事があるんですか?」

「はい。
 もちろん基本的には主の決済を頂いたあとになるのでしょうが、緊急の要件で主の決済をいただけない場合や、いただくまでもないような少額の場合など、まま有ることのようでございます」

 たしかにいちいち主に聞きに行っていられない時もあるか。

 イヴァンさんなんかも、結構いろんなことを任されてるみたいだしなぁ。

「本来でしたら、もちろん後々主家の方から支払いがあるのですが、今回のように突然のお取り潰しなどとなりますとそれも間に合わずに彼ら自身の借金となってしまうのでございます」

 それは……ついてないというかなんというか……。

 しかし、貴族の家がお取り潰しになるとこういうことになるのか。

 曲がりなりにも男爵としては身につまされる思いだ。

 やっぱり、僕なんかが貴族やるなんて分不相応な気がするなぁ……。

 まあ、その件はまたじっくり考えよう。

 とりあえずは寮の使用人確保だ。

「それで、彼らのお値段はいくらになるのでしょうか?」

 それだけの立場になった人なら有能なのは間違いないだろうし、値段も結構するんじゃ……。

「2人合わせて金貨50枚でございます」

「安っ!」

 思わず声が出てしまった。

 え、だって、一般的な一種奴隷さんが平均金貨50枚って聞いたから、一人頭その半分だよ?

 さらにいえば、バナくんひとり分の値段だ。

 流石になんか裏があるんじゃ……。

 そういえば、『いわくつき』って話だったから、それか?

「もちろん、安いにはそれなりの理由がございます。
 しかし、そちらの説明はあとのこととさせていただいて、まずは金貨50枚として商品の品定めをしてはいただけないでしょうか?」

 そんな事を言う奴隷商さん。

 やっぱり、『いわくつき』のせいで安くなっているらしい。

 そして、それはそれとして2人の品定めをしろ、と。

 意味が分からないけど、2人がどんな人か知らなきゃいけないのはどっちにしても同じこと。

 ここは奴隷商さんに言葉通りにとりあえず話してみることにしよう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

大好きな兄ちゃんにアナニーをみせる弟!

ミクリ21
BL
お兄ちゃんにアナニーをみせる弟の話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...