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第2章 街に出てみよう
52話 会談
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ちょっと楽しくなってしまっていた僕とスレイくんだったけど、僕たちのお茶を待っているほんの少しの時間の間に重苦しい雰囲気に負けて、2人して俯いてテーブルを見つめてしまっている。
この雰囲気の発生源はスレイくんのお母さんだ。
今ボクたちは大くて豪華なテーブルに、スレイくんのお母さんの家臣だと思われる馬耳の男の人2人、スレイくんのお母さん、また家臣だと思われる若いイケメンさん、少し間が空いてスレイくんに僕。
お母さんの向かいに名前は知らないけど見覚えはある年配の家臣さんに挟まれたユニさん、という風に座ってる。
イヴァンさんやツヴァイくんたち、その他の警護とかの人たちはテーブルから少し離れた壁のところに待機している。
テーブルの上には美味しそうなお茶菓子が一杯並んでいるし、辺りには紅茶の良い匂いが漂っている。
それだけ聞けば普通のお茶会なんだけど……。
お母さんが向かいのユニさんをすごい顔で睨んでる。
ユニさん自身はどこ吹く風とすました顔で紅茶を飲んでいるけど、それを睨むお母さんは下手するとそれだけで問題になるんじゃない?ってレベルですごい形相だ。
顔立ち自体は可愛い感じのものすごい美人さんで、スレイくんのお母さんとは思えないくらい若くみえるけど……。
まあ、なんていうか素直な人なんだろう。
僕の前に紅茶が置かれたので、気まずさをごまかすために喉は渇いてないけど早速口をつける。
お茶を飲むために顔を上げたら、チラッとこっちを見てるユニさんと目が合った。
にっこり笑われた。
これは『後で説明してくださいね』ってことだな。
逆に僕も話聞いてほしいので、小さく頷き返す。
「ほらっ、スレイフルドが遅れてくるからユニコロメド様も気分を害してしまわれたじゃないの。
スレイフルドのせいで雰囲気も悪くなってしまったし、今日はここでお開きといたしませんこと?
本当にユニコロメド様と比べて出来が悪くてお恥ずかしいかぎりですわ」
何いってんだこのババア。
スレイくんがしょんぼりしちゃっただろうが、タンスの角に小指ぶつける呪いかけんぞババア。
まだなんか言ってるババアだけど、結局は自分が早くこの場から立ち去りたいのがありありと見える。
結局ユニさんから僕にお声がかからなかったということは、横領子爵さんの件でユニさんに散々にやり込められたあとだろうから、ユニさんと一緒にいたくないのだろう。
僕もこんなババアと一秒でも一緒にいたくないけど、会談がお開きになったら僕ユニさんと帰らないとだからなぁ。
出来ることならこんなババアのところにこのままスレイくんを残して帰りたくない。
「そうですね」
ババアの声が耳に入っていないかのようにすまし顔で紅茶を飲んでいたユニさんが、ティーカップを置く。
ババアの顔がパアアアッと明るくなった。
「そろそろお暇しようかと思っていましたが、もう少しスレイフルドとお話させてもらおうと思います」
一気にズウウウウンっと暗い顔になるババア。
いい気味だ。
と言うか、顔に出すぎじゃない?このババア。
こんなんで貴族社会でやっていけるんだろうか?
前にユニさんが危険はない人とか言ってたけど、たしかにこの人は危険な感じはしない。
とてもじゃないけど好きになれそうには思えないけど。
「スレイフルド」
まだなんかスレイくんをこき下ろしているババアを無視して、ユニさんがスレイくんの方を向いて声をかける。
「お、おう」
スレイくんは気圧されたようにユニさんから離れた方に……僕の方に体を引きながら返事をする。
ユニさんはそんなスレイくんを見てニッコリと笑う。
「いい家臣が居るんですね」
ユニさんの言葉を聞いてババアとその家臣さんたちは不思議そうな顔をしている。
アッキーの腕輪のお陰でいまいち何の話をしているのか分かっていないのだろう。
「……うん。
あ、いや、こいつは家臣じゃなくって子分で……」
頷いたあとあわてて訂正するスレイくん。
僕がユニさんの恋人だからスレイくんの家臣にはなれないって言ったのを気にしているのかな?
「子分ですか?」
不思議そうな顔をしているユニさん。
『また子供みたいなこと言って恥ずかしい』とか言ってるババアは無視だ、無視。
「うん、家臣じゃないけど、俺の大事な子分だ」
親分……。
やばい、本当に大事なものの話をするような優しい声にキュンと来た。
ユニさんもニコニコと嬉しそうにしている。
「そうですか。
私にも心から大切にしている人がいます。
スレイフルドもその子分のことを大切にしてくれますか?」
「う、うん。
絶対大切にする。誓うっ!」
親分っ!
何の話をしているのか不思議そうにしているババア以下を気にもせずに、席を立ってしまう勢いで必死に訴えかけるスレイくん。
その必死な表情にキュンキュン来ちゃってる。
ユニさんは嬉しそうに笑いながらひとつ頷くと。
「それなら、今度2人でお互いの大切な人の話でもして盛り上がりましょう。
今度はうちの屋敷にご招待しますから、遊びに来てください」
「……あ、ああっ!
うん、行くっ!絶対に遊びに行くっ!」
始めなにを言われているのかわからない感じだったスレイくんだったけど、ユニさんの言いたいことが分かったらテーブルに手をついて身を乗り出してウンウンと何度も頷いた。
その後ろでババアがオロオロしているのが見える。
兄弟が仲良くなりそうなんだからいいことだろうに。
しかし、ちょっとしたイタズラか、スレイくんがカッコつけるためのおまけのつもりで同席したら、なんかユニさん公認の親分子分になってしまった。
まあ、良い方に転がったからオッケーということにしておこう。
僕の想像以上に喜んでしまっているスレイくんが、僕に抱きついてこようとするのを必死で止めながらそんな事を考える。
ごめん、親分、嫌ってわけじゃないけど、ユニさんの前でそれは気まずい。
ニコニコと楽しそうに僕らを見ているユニさんの前で、僕は必死でスレイくんを押し留め続けるのだった。
――――――
あのあと、楽しそうなユニさんと機嫌の良いスレイくんとで少し雑談をしたあと会談はお開きとなった。
ババアはずっとげっそりと嫌そうにしていたけど、本当に兄弟仲良くやってるののなにが嫌なんだろう?
会談のあと、結局僕はスレイくんと一緒にスレイくんの部屋に戻ってきた。
「なんかはじめて兄上と話しした気がする」
ソファに体を投げ出してスレイくんは嬉しそうにしている。
「良かったね」
ユニさんとスレイくんが仲良くなれたようで、僕もニコニコだ。
このまま穏便に跡継ぎ問題も解決してくれるといいな。
「これもハルのお陰だ。
ありがとう」
ちょっと姿勢を正すと、頭を下げるスレイくん。
「いやいや、親分のためならどんと来いだよ」
僕が直接なんかしたわけじゃなくって単なるきっかけになっただけだけど、断るのも変なのでお礼は素直に受けとこう。
「親分……。
あのさ、もう会談終わったけど、これからも親分子分でいてくれるか?」
ちょっと不安げにこちらを見てるスレイくん。
そういや特に期限とかつけてなかったな。
僕はずっとのつもりだったけど、この際だからここではっきり言っておこう。
「親分が僕を大切にしてくれる限りは一生僕は親分の子分だよ」
伊達にキュンキュンさせられてないのだ、それくらいの心構えはもう出来てる。
「おうっ、一生大切にするからなっ!」
……あれ?これなんか恥ずかしいこと言い合ってない?
2人同時にそれに気づいて、お互い真っ赤になった顔を見合わせて笑い合うのだった。
そろそろユニさんが帰る時間なので僕も帰り支度を始めてる。
ちなみに、元々着てたあのヒラヒラの多いおめかし服はまたスレイくんに着せてもらった。
本当に手間のかかる子分でごめんね。
「えっと、俺、本当に兄上の屋敷に遊び行っていいのかな?」
忘れ物とかないか確認してたらスレイくんがそんな事を言ってきた。
「うん、大丈夫だと思うよ」
スレイくんが不安そうにしているので、あえてなんでもないことのようにそう返す。
実際には、ババアとかが邪魔しそうな気もするけどそこらへんはきっとユニさんがなんとかしてくれると思う。
ユニさんが兄弟仲良くすることに積極的でいてくれるのが心強い。
「そっか。
そしたら、またお前とも遊べるな」
「もちろんっ!
楽しみにしてるね」
嬉しそうに言うスレイくんに、僕も満面の笑顔で頷き返す。
あっちの屋敷ならすでに知り尽くした僕のテリトリーだ。
ここじゃ出来ない遊びも一杯できる。
ユニさんと相談してできるだけ早く招待しよう。
「お館サマ、そろそろお時間ニなりマス」
「うん、分かった。
親分、そろそろ時間だって言うから僕行くね」
外していた腕輪を着けなおす。
帰りもツヴァイくん案内のステルスミッションで帰るつもりだけど、念のためだ。
「ちょっとまてよ」
帰りの準備もできて、部屋から出ようとしたらスレイくんに呼び止められた。
なんか忘れ物かな?
振り返ると、スレイくんが服のボタンを引きちぎって僕に突き出してきた。
な、なにごと?
「んっ!今度遊びに行くときまで持ってろ」
あー、いわゆる約束の品だな。
どうしよう。
んー、まあ、後でミゲルくんたちに怒られよう。
ボタンを受け取ると、僕もおめかし服についていたボタンを引きちぎってスレイくんに渡す。
「じゃ僕も。
今度遊びに来た時に取り替えっこね」
「おうっ!」
スレイくんはボタンを大事そうに握りしめている。
僕も絶対になくさないように大事に握りしめる。
「それじゃまた今度ねー」
小さく手を降って、ツヴァイくんに続いて部屋から出ていく。
「おう、またなー」
スレイくんも手を振って見送ってくれた。
うん、思った以上に楽しいお出かけだった。
満足しながらステルスミッションを開始するのだった。
待たせ続けてたルキアンさんにこっぴどく怒られた。
本格的にルキアンさんに頭上がらくなっちゃったかも……。
――――――
帰りは行きと違ってユニさんとイヴァンさんと一緒の馬車だった。
僕の護衛としてツヴァイくんだけが一緒に乗ってる。
ドライくん以下は僕たちの後ろの馬車だ。
「なるほど」
僕から事の顛末を聞いたユニさんがニコニコ顔で頷く。
「談話室にスレイと一緒にハルが現れたときは何事かと思いましたよ」
「びっくりさせてごめんね」
あのときはスレイくんと一緒にユニさんを驚かせようとワクワクしてたけど、今となってはびっくりさせちゃって申し訳なく思ってる。
ちょっとあのときの僕ははしゃぎすぎていた。
スレイくんと一緒にいると僕の中の小学生が首をもたげてきていけない。
「まあ、ハルがスレイと仲良くなれたんならそれで良かったですよ」
ユニさんがそう言ってくれたのでホッとした。
「これで兄弟揃ってハルに食べられちゃいましたね」
気を抜いたところでユニさんが楽しそうに爆弾を投げ込んできた。
「なっ!?なに言ってるのっ!スレイくんとはそういうことはしてませんっ!」
スレイくんはまだまだ子供っ!って感じだから一切そういう雰囲気にはならなかった。
僕もやんちゃな遊び仲間ができた感覚だ。
「冗談ですよ、分かってます。
……と言いたいところですが、薄っすらと靄が出てますけどなんかありましたね?」
なんかニヤニヤ笑ってるユニさんに突っ込まれた。
うぅ……嘘付いてるつもりはないのに……。
「……お、お風呂で洗いっこしている時にちょっとドキっとしたからそれかも……」
だってしょうがないじゃんっ!?
やんちゃなイケメンさんが一生懸命に体……っていうかチンチン洗ってくれるんだよっ!?
逆に無防備にチンチン洗わせてくれるんだよっ!?
隅から隅までっ!
そりゃ、興奮するって……。
大笑いしているユニさんに赤くなって俯いてしまう僕。
ああ……恥ずかしい……。
誰々とエッチしたとか知られるよりもよっぽど恥ずかしい……。
「あー、おかし。
一応言っときますけど、浮気推奨は弟相手でも変わりませんからねー」
『一応言っときますけど』で、弟との浮気は流石にダメですと言われると思ったら、かえって推奨された。
本当にユニさんは僕をダメ人間にする気だと思う。
……推奨されてちょっと喜んでる僕はもうダメ人間かもしれない。
いや、だってねぇ?
親分可愛いし。
まあ、スレイくんの方にそういう気はないだろうから多分大丈夫だと思う。
「しかし、父を通じては兄弟になれなかった私達ですけど、ハルを通じてなら今度こそ兄弟になれるかもしれませんね」
なんかユニさんはしきりにウンウン頷いているけど、ちょっと意味が分からない。
「えっと、何の話?」
聞いてみたけど、『気にしなくていいですよ』ってごまかされた。
うーん、覚えてたら今度アッキーにでも聞いてみよう。
「しかし、そうなってくると、本格的にハルの屋敷の建設を進めたほうが良さそうですね。
それも急ピッチで」
なんか真面目な顔で腕を組んでいってるユニさん。
なんでそういう話になるの?
「イヴァン、早急に建設を。
お金には糸目をつけないので出来得る限り早く作るようにしてください。
この際、きちんとした屋敷は後で建てると考えて装飾等は最低限でかまいません」
「かしこまりました」
かしこまらないでイヴァンさんっ!
お金には糸目大事だよっ!
この雰囲気の発生源はスレイくんのお母さんだ。
今ボクたちは大くて豪華なテーブルに、スレイくんのお母さんの家臣だと思われる馬耳の男の人2人、スレイくんのお母さん、また家臣だと思われる若いイケメンさん、少し間が空いてスレイくんに僕。
お母さんの向かいに名前は知らないけど見覚えはある年配の家臣さんに挟まれたユニさん、という風に座ってる。
イヴァンさんやツヴァイくんたち、その他の警護とかの人たちはテーブルから少し離れた壁のところに待機している。
テーブルの上には美味しそうなお茶菓子が一杯並んでいるし、辺りには紅茶の良い匂いが漂っている。
それだけ聞けば普通のお茶会なんだけど……。
お母さんが向かいのユニさんをすごい顔で睨んでる。
ユニさん自身はどこ吹く風とすました顔で紅茶を飲んでいるけど、それを睨むお母さんは下手するとそれだけで問題になるんじゃない?ってレベルですごい形相だ。
顔立ち自体は可愛い感じのものすごい美人さんで、スレイくんのお母さんとは思えないくらい若くみえるけど……。
まあ、なんていうか素直な人なんだろう。
僕の前に紅茶が置かれたので、気まずさをごまかすために喉は渇いてないけど早速口をつける。
お茶を飲むために顔を上げたら、チラッとこっちを見てるユニさんと目が合った。
にっこり笑われた。
これは『後で説明してくださいね』ってことだな。
逆に僕も話聞いてほしいので、小さく頷き返す。
「ほらっ、スレイフルドが遅れてくるからユニコロメド様も気分を害してしまわれたじゃないの。
スレイフルドのせいで雰囲気も悪くなってしまったし、今日はここでお開きといたしませんこと?
本当にユニコロメド様と比べて出来が悪くてお恥ずかしいかぎりですわ」
何いってんだこのババア。
スレイくんがしょんぼりしちゃっただろうが、タンスの角に小指ぶつける呪いかけんぞババア。
まだなんか言ってるババアだけど、結局は自分が早くこの場から立ち去りたいのがありありと見える。
結局ユニさんから僕にお声がかからなかったということは、横領子爵さんの件でユニさんに散々にやり込められたあとだろうから、ユニさんと一緒にいたくないのだろう。
僕もこんなババアと一秒でも一緒にいたくないけど、会談がお開きになったら僕ユニさんと帰らないとだからなぁ。
出来ることならこんなババアのところにこのままスレイくんを残して帰りたくない。
「そうですね」
ババアの声が耳に入っていないかのようにすまし顔で紅茶を飲んでいたユニさんが、ティーカップを置く。
ババアの顔がパアアアッと明るくなった。
「そろそろお暇しようかと思っていましたが、もう少しスレイフルドとお話させてもらおうと思います」
一気にズウウウウンっと暗い顔になるババア。
いい気味だ。
と言うか、顔に出すぎじゃない?このババア。
こんなんで貴族社会でやっていけるんだろうか?
前にユニさんが危険はない人とか言ってたけど、たしかにこの人は危険な感じはしない。
とてもじゃないけど好きになれそうには思えないけど。
「スレイフルド」
まだなんかスレイくんをこき下ろしているババアを無視して、ユニさんがスレイくんの方を向いて声をかける。
「お、おう」
スレイくんは気圧されたようにユニさんから離れた方に……僕の方に体を引きながら返事をする。
ユニさんはそんなスレイくんを見てニッコリと笑う。
「いい家臣が居るんですね」
ユニさんの言葉を聞いてババアとその家臣さんたちは不思議そうな顔をしている。
アッキーの腕輪のお陰でいまいち何の話をしているのか分かっていないのだろう。
「……うん。
あ、いや、こいつは家臣じゃなくって子分で……」
頷いたあとあわてて訂正するスレイくん。
僕がユニさんの恋人だからスレイくんの家臣にはなれないって言ったのを気にしているのかな?
「子分ですか?」
不思議そうな顔をしているユニさん。
『また子供みたいなこと言って恥ずかしい』とか言ってるババアは無視だ、無視。
「うん、家臣じゃないけど、俺の大事な子分だ」
親分……。
やばい、本当に大事なものの話をするような優しい声にキュンと来た。
ユニさんもニコニコと嬉しそうにしている。
「そうですか。
私にも心から大切にしている人がいます。
スレイフルドもその子分のことを大切にしてくれますか?」
「う、うん。
絶対大切にする。誓うっ!」
親分っ!
何の話をしているのか不思議そうにしているババア以下を気にもせずに、席を立ってしまう勢いで必死に訴えかけるスレイくん。
その必死な表情にキュンキュン来ちゃってる。
ユニさんは嬉しそうに笑いながらひとつ頷くと。
「それなら、今度2人でお互いの大切な人の話でもして盛り上がりましょう。
今度はうちの屋敷にご招待しますから、遊びに来てください」
「……あ、ああっ!
うん、行くっ!絶対に遊びに行くっ!」
始めなにを言われているのかわからない感じだったスレイくんだったけど、ユニさんの言いたいことが分かったらテーブルに手をついて身を乗り出してウンウンと何度も頷いた。
その後ろでババアがオロオロしているのが見える。
兄弟が仲良くなりそうなんだからいいことだろうに。
しかし、ちょっとしたイタズラか、スレイくんがカッコつけるためのおまけのつもりで同席したら、なんかユニさん公認の親分子分になってしまった。
まあ、良い方に転がったからオッケーということにしておこう。
僕の想像以上に喜んでしまっているスレイくんが、僕に抱きついてこようとするのを必死で止めながらそんな事を考える。
ごめん、親分、嫌ってわけじゃないけど、ユニさんの前でそれは気まずい。
ニコニコと楽しそうに僕らを見ているユニさんの前で、僕は必死でスレイくんを押し留め続けるのだった。
――――――
あのあと、楽しそうなユニさんと機嫌の良いスレイくんとで少し雑談をしたあと会談はお開きとなった。
ババアはずっとげっそりと嫌そうにしていたけど、本当に兄弟仲良くやってるののなにが嫌なんだろう?
会談のあと、結局僕はスレイくんと一緒にスレイくんの部屋に戻ってきた。
「なんかはじめて兄上と話しした気がする」
ソファに体を投げ出してスレイくんは嬉しそうにしている。
「良かったね」
ユニさんとスレイくんが仲良くなれたようで、僕もニコニコだ。
このまま穏便に跡継ぎ問題も解決してくれるといいな。
「これもハルのお陰だ。
ありがとう」
ちょっと姿勢を正すと、頭を下げるスレイくん。
「いやいや、親分のためならどんと来いだよ」
僕が直接なんかしたわけじゃなくって単なるきっかけになっただけだけど、断るのも変なのでお礼は素直に受けとこう。
「親分……。
あのさ、もう会談終わったけど、これからも親分子分でいてくれるか?」
ちょっと不安げにこちらを見てるスレイくん。
そういや特に期限とかつけてなかったな。
僕はずっとのつもりだったけど、この際だからここではっきり言っておこう。
「親分が僕を大切にしてくれる限りは一生僕は親分の子分だよ」
伊達にキュンキュンさせられてないのだ、それくらいの心構えはもう出来てる。
「おうっ、一生大切にするからなっ!」
……あれ?これなんか恥ずかしいこと言い合ってない?
2人同時にそれに気づいて、お互い真っ赤になった顔を見合わせて笑い合うのだった。
そろそろユニさんが帰る時間なので僕も帰り支度を始めてる。
ちなみに、元々着てたあのヒラヒラの多いおめかし服はまたスレイくんに着せてもらった。
本当に手間のかかる子分でごめんね。
「えっと、俺、本当に兄上の屋敷に遊び行っていいのかな?」
忘れ物とかないか確認してたらスレイくんがそんな事を言ってきた。
「うん、大丈夫だと思うよ」
スレイくんが不安そうにしているので、あえてなんでもないことのようにそう返す。
実際には、ババアとかが邪魔しそうな気もするけどそこらへんはきっとユニさんがなんとかしてくれると思う。
ユニさんが兄弟仲良くすることに積極的でいてくれるのが心強い。
「そっか。
そしたら、またお前とも遊べるな」
「もちろんっ!
楽しみにしてるね」
嬉しそうに言うスレイくんに、僕も満面の笑顔で頷き返す。
あっちの屋敷ならすでに知り尽くした僕のテリトリーだ。
ここじゃ出来ない遊びも一杯できる。
ユニさんと相談してできるだけ早く招待しよう。
「お館サマ、そろそろお時間ニなりマス」
「うん、分かった。
親分、そろそろ時間だって言うから僕行くね」
外していた腕輪を着けなおす。
帰りもツヴァイくん案内のステルスミッションで帰るつもりだけど、念のためだ。
「ちょっとまてよ」
帰りの準備もできて、部屋から出ようとしたらスレイくんに呼び止められた。
なんか忘れ物かな?
振り返ると、スレイくんが服のボタンを引きちぎって僕に突き出してきた。
な、なにごと?
「んっ!今度遊びに行くときまで持ってろ」
あー、いわゆる約束の品だな。
どうしよう。
んー、まあ、後でミゲルくんたちに怒られよう。
ボタンを受け取ると、僕もおめかし服についていたボタンを引きちぎってスレイくんに渡す。
「じゃ僕も。
今度遊びに来た時に取り替えっこね」
「おうっ!」
スレイくんはボタンを大事そうに握りしめている。
僕も絶対になくさないように大事に握りしめる。
「それじゃまた今度ねー」
小さく手を降って、ツヴァイくんに続いて部屋から出ていく。
「おう、またなー」
スレイくんも手を振って見送ってくれた。
うん、思った以上に楽しいお出かけだった。
満足しながらステルスミッションを開始するのだった。
待たせ続けてたルキアンさんにこっぴどく怒られた。
本格的にルキアンさんに頭上がらくなっちゃったかも……。
――――――
帰りは行きと違ってユニさんとイヴァンさんと一緒の馬車だった。
僕の護衛としてツヴァイくんだけが一緒に乗ってる。
ドライくん以下は僕たちの後ろの馬車だ。
「なるほど」
僕から事の顛末を聞いたユニさんがニコニコ顔で頷く。
「談話室にスレイと一緒にハルが現れたときは何事かと思いましたよ」
「びっくりさせてごめんね」
あのときはスレイくんと一緒にユニさんを驚かせようとワクワクしてたけど、今となってはびっくりさせちゃって申し訳なく思ってる。
ちょっとあのときの僕ははしゃぎすぎていた。
スレイくんと一緒にいると僕の中の小学生が首をもたげてきていけない。
「まあ、ハルがスレイと仲良くなれたんならそれで良かったですよ」
ユニさんがそう言ってくれたのでホッとした。
「これで兄弟揃ってハルに食べられちゃいましたね」
気を抜いたところでユニさんが楽しそうに爆弾を投げ込んできた。
「なっ!?なに言ってるのっ!スレイくんとはそういうことはしてませんっ!」
スレイくんはまだまだ子供っ!って感じだから一切そういう雰囲気にはならなかった。
僕もやんちゃな遊び仲間ができた感覚だ。
「冗談ですよ、分かってます。
……と言いたいところですが、薄っすらと靄が出てますけどなんかありましたね?」
なんかニヤニヤ笑ってるユニさんに突っ込まれた。
うぅ……嘘付いてるつもりはないのに……。
「……お、お風呂で洗いっこしている時にちょっとドキっとしたからそれかも……」
だってしょうがないじゃんっ!?
やんちゃなイケメンさんが一生懸命に体……っていうかチンチン洗ってくれるんだよっ!?
逆に無防備にチンチン洗わせてくれるんだよっ!?
隅から隅までっ!
そりゃ、興奮するって……。
大笑いしているユニさんに赤くなって俯いてしまう僕。
ああ……恥ずかしい……。
誰々とエッチしたとか知られるよりもよっぽど恥ずかしい……。
「あー、おかし。
一応言っときますけど、浮気推奨は弟相手でも変わりませんからねー」
『一応言っときますけど』で、弟との浮気は流石にダメですと言われると思ったら、かえって推奨された。
本当にユニさんは僕をダメ人間にする気だと思う。
……推奨されてちょっと喜んでる僕はもうダメ人間かもしれない。
いや、だってねぇ?
親分可愛いし。
まあ、スレイくんの方にそういう気はないだろうから多分大丈夫だと思う。
「しかし、父を通じては兄弟になれなかった私達ですけど、ハルを通じてなら今度こそ兄弟になれるかもしれませんね」
なんかユニさんはしきりにウンウン頷いているけど、ちょっと意味が分からない。
「えっと、何の話?」
聞いてみたけど、『気にしなくていいですよ』ってごまかされた。
うーん、覚えてたら今度アッキーにでも聞いてみよう。
「しかし、そうなってくると、本格的にハルの屋敷の建設を進めたほうが良さそうですね。
それも急ピッチで」
なんか真面目な顔で腕を組んでいってるユニさん。
なんでそういう話になるの?
「イヴァン、早急に建設を。
お金には糸目をつけないので出来得る限り早く作るようにしてください。
この際、きちんとした屋敷は後で建てると考えて装飾等は最低限でかまいません」
「かしこまりました」
かしこまらないでイヴァンさんっ!
お金には糸目大事だよっ!
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スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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