いつの間にか異世界転移してイケメンに囲まれていましたが頑張って生きていきます。

アメショもどき

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第2章 街に出てみよう

50話 洗いっこ

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 屋敷2階にあるドアの前。

 見つかったら怒られると言うので、ツヴァイくんたちにお願いして見つからないように誘導してもらった。

 言われた通りについて言ったら本当に誰にも見つかることなくスレイくんの部屋までたどり着くことが出来た。

 ステルスミッションやってるみたいで楽しかった。

「本当にすごいな、ツヴァイたち」

 ヒソヒソ声で楽しそうに言うスレイくん。

 スレイくんも楽しかったみたいだし、ツヴァイくんたちは褒められるし僕ご満悦である。

 ドアの前に立ったスレイくんは、背筋を伸ばして身だしなみを整える――土埃だらけで限界はあったけど――と、ドアを開いて中に入っていく。

 打ち合わせ通り当然といった顔で僕もそれに続く。

「ぼ、坊ちゃまっ!?
 お、お早いお帰りで……お伴のものはどうなさいましたか?
 お戻りになるという連絡はございませんでしたが」

 中にあるソファに座っていた女性の使用人さんが慌てて立ち上がると、お茶菓子をスカートで隠すようにしながら話しかけてきた。

 休憩時間だったのかな?

「知らん。
 はぐれたようだから俺だけ先に帰ってきた」

「さ、さようでございますか。
 すぐに探させてまいります」

 はぐれたと聞いて驚いた顔をしている使用人さん。

 初めて聞いたみたいだけど、報告入ってなかったのかな?

 もう結構な時間経ってるんだけどな。

 親分子分になったあともスレイくんと遊びすぎて、ユニさんとの会談の時間が近づいてきちゃって慌てて戻ってきたくらいだ。

「それより、俺はこれから風呂に入る。
 替えの服と、こいつ用の騎士の服を用意しておけ」

「そ、そのものは一体……?」

 言われてようやくスレイくんの隣に立つ僕のことが意識に入ったらしい。

 そうとう慌ててんな。

「こいつは……俺の家臣だ。
 そんな事はいいから早く用意をしろっ!
 兄上との会談に遅れて母上に怒られても知らんぞっ!」

 家臣っていう時に、ちらりとこっちを申し訳無さそうに見るスレイくん。

 いいよいいよ、本当の家臣にはなれないけど、家臣役するくらいならいくらでもやるよ。

「はっ、はいっ!ただ今ご用意いたしますっ!」

 慌てて食べかけのティーセットをお盆ごと持って部屋を出ていく使用人さん。

 ユニさんちとはずいぶん違った感じだな。

 ゆるくてこっちのほうが働きやすそう。

 そんな事を考えながら部屋から出ていく使用人さんを見送る。

 足音が遠ざかっていくのを確認して、口を開く。

「親分、ちょっと使用人さんに当たり強くない?」

「いいんだよ。
 アイツらはどうせ俺のことバカにしてんだから」

 うーん、たしかにそんな雰囲気はあるけど、スレイくんの態度も原因のひとつな気もするけどなぁ。

 まあ、スレイくんちはなかなか複雑な感じなので、良く分かってないボクがこれ以上なにか言うのは止めとこう。

 スレイくんの部屋は黒を基調とした意外とシックな感じの部屋だった。

 まあ、単に黒が好きなお年頃なだけかもしれない。

 全身黒ずくめだし。

「おい、風呂にはいるぞ」

 見慣れない雰囲気の部屋を見回していると、部屋についたドアの前に立っているスレイくんから声をかけられた。

 さっきもちょっと言ってたけど、スレイくんの部屋にも僕の部屋みたいに個人風呂がついているらしい。

「あ、うん。
 じゃ、ボクはここで待ってるね」

「何言ってるんだ?
 お前も一緒に入るんだよ」

 はぇ?



 スレイくんは、話に聞いた着替えは使用人にやってもらうタイプの貴族様なのかもしれない。

 スレイくんの服を脱がしながらそんな事を考えてた。

「子分がなんでもやってくれるっていうのは楽でいいな」

 だけど、こう言っているところを見ると、逆にやってもらったことなくてやってみたかったのかな?

 ついさっき自分で考えたことだけど即訂正。

 脱がされる動きひとつひとつで楽しそうにしているし、やってみたかったっていうのが正解かもしれない。

 でも、脱がされるのに恥ずかしいんじゃなくって楽しそうなのはさすが貴族様だな。

「えっと、パンツも?」

「当たり前だろう」

 スレイくんは堂々としているけど、僕は少しテレ気味だ。

 ただの着替えの手伝いだからと自分に言い聞かせながら、大事なところからは目をそらしてパンツを脱がす。

「よし。
 お前も早く脱げよ」

「う、うん」

 素っ裸になったスレイくんはそう言って僕が服を脱ぐのを待ってくれている。

 でも、僕はまごまごとしてしまってなかなか服を脱ぐことが出来ない。

 スレイくんの前で裸になるのが恥ずかしいというのも少しあるけど、それ以上に、単純に脱ぎ方が分からない。

 おめかし用の服なのでやたらとボタンやら紐やらヒラヒラやらがついていてどうやって脱いだらいいのか分からない。

「なんだ?お前自分で服脱げないのか?」

 スレイくんに呆れたように言われてしまった。

 自分でも情けない。

「仕方ない子分だなぁ。
 ちょっとじっとしてろよ」

 結局スレイくんが全部脱がせてくれた。

 ちょっと前に『スレイくん自分で着替えしない子かぁ』とか思ってたのに、立場が逆になってしまった。

「あ、ありがとう」

「俺は親分だからな。
 子分の世話くらいしてやるよ」

「お、親分……一生ついていきやす」

「おうっ!」

 小芝居をして笑い合う。

 やっぱり、悪い子じゃないな、この子。

 周りに変な大人しか居なくて、もったいない感じになっちゃった子だな。

 こうなってくると、お継母さんとお祖父さんとやらがどんななのか、心配になってくるなぁ。

 そんな事を考えながら、スレイくんに手を引かれて一緒に浴室に入っていった。



 ――――――



 お風呂では、スレイくんが『洗え』というので洗ってあげたら、スレイくんも僕のことを洗ってくれた。

 恥ずかしかったけど、スレイくんが楽しそうにしてたのでやりたいようにやってもらった。

 『こんなこと初めてだ』って笑ってたけど、毎日家臣他に洗ってもらっている僕と、洗ってもらったことのないスレイくん、どちらが珍しいのかは僕には分からない。

 お風呂から上がって、用意されていたタオルで体を拭こうとしたら、スレイくんが僕の前に来た。

「おい、体を拭け」

 手足を大の字に開いちゃってるし、もう拭いてもらう気満々だ。

 どう考えてもそれぞれで拭いたほうが効率いいと思うけど、嬉しそうに笑ってるから仕方ない。

 手に取ったタオルをスレイくんの頭にかぶせて、わざとワシャワシャと乱暴に水気を取っていく。

「やめろよー」

 そんなこと言われるけど、楽しそうなので無視だ。

「手、こっちに伸ばして」

 頭の水気を取り終わると、顔首肩と降りていって、今度は手を伸ばしてもらう。

 スラリと長い腕を取って水気を拭っていく。

 両腕を拭き終わったら、次は胸だ。

「ふふっ」

 ちょっとくすぐったかったのか、スレイくんの口から笑いが漏れた。

「くすぐったい?」

「いや、気持ちいいもんだって思っただけだ」

 そう言われると悪い気分はしない。

 お腹と背中を拭ききって、次は問題の腰回りだ。

 ここは洗うときも少し揉めたけど、お風呂の中ではスレイくんは『親分の言うことが聞けないのか』とまで言ってきたのでここでも諦めて無心で拭う。

 年に似合わぬ凶悪なものもきちんと拭いて、あとは両脚を拭いておしまい。

「はい、おしまい」

「よし。
 次はお前の番だな」

 体を洗っているときと同じことを言われた。

 もしかしたらと予想はしてたので、諦めて楽しそうにしているスレイくんに拭いてもらう。

 スレイくんの体を拭いている間にだいたい乾いてきちゃってたけど、スレイくんは構わずにガシガシと僕の体を拭いている。

 ちょっと痛いけど、楽しそうだから我慢だ。

「坊ちゃま、お着替えをお持ちいたしまた」

 部屋のドアの開く音がしたと思ったら、脱衣所の外から使用人さんが声をかけてくる。

「騎士の服の用意もしたか?」

「は、はい。ご指示通りご用意いたしました」

「よし。
 ならお前はもう出ていっていいぞ」

「はっ?いえ、しかし……」

 うろたえている使用人さん。

 見覚えのない僕がスレイくんと一緒にいるわ、部屋にツヴァイくんたちはいるわで気が気でないんだろう。

 気持ちは分かる。

 と言うか護衛の人たちとは連絡取れてないんだろうか?

 まあ連絡取れてたら護衛の人たちがここに駆け込んできそうだから、連絡取ってないほうが僕は都合がいいけど。

「何をしている。
 俺は出て行けといったぞ?」

「は、はいっ!
 何かございましたらすぐにお呼びくださいっ!」

 スレイくんに追い出されて、慌てで出ていく使用人さん。

「親分、あたりが強い」

「だ、だって、変に居座られても面倒だろ?」

 む、それはたしかに。

 僕が黙り込むと、安心したようにまた体を拭き始めるスレイくん。

 身をかがめて腰回りから足の先までしっかり拭いてくれる。

 さっき同じこと僕もやったけど、こうやってるとどっちが親分でどっちが子分だかわかんないな。

 まあ、スレイくんは楽しそうにやってるから大丈夫だろう。

「よしっ、拭き終わったぞ。
 早く着替えちまおう」

 そう言って脱衣所から出ていくスレイくんを追って、僕とフィーアくんも出ていった。

 ……フィーアくんいつから居たんだろう?



 脱衣所から出ると、スレイくんがまた大の字になっていたので、服を着せてあげた。

 と言っても、飾りの多いおめかし服だったから、スレイくんの指示を聞きながらだ。

 これ多分スレイくん1人でも着れるやつだな。

 スレイくんの服を着替えさせ終わると、今度はスレイくんが僕の着替えを手伝ってくれた。

 今度の服はおめかし服ほどゴテゴテしてないので、1人でも着れそうだったけど、スレイくんが着せたそうにしてたから着させてもらった。

 お風呂の中でのことといい、スレイくんは誰かをかまったりかまわれたりするのが嬉しくて仕方ないみたいだ。

 一体いつもはどんな生活をしているんだろう?

 今度ユニさんに聞いてみよう。

「あとは兄上との会談の時間になったら誰かが呼びに来るから、それまではのんびりしてようぜ」

 そう言ってソファに寝っ転がるスレイくん。

 せっかくのおめかしが皺にならないか心配だったけど、まあいいか。

 それじゃ、僕ものんびり待ってようかとソファに座りかけたところで思いついた。

 今更だけど、僕、このまま会談に出ちゃっていいんだろうか?

 ユニさんの方は僕が後で説明するから構わないとしても、スレイくん側のほうが問題になりそう。

 僕はユニさんは条件が整えばスレイくんに跡継ぎを譲っていいって思ってるって知っているけど、スレイくん側はそうじゃない。

 そんなところにユニさんの恋人の僕がスレイくん側に潜り込んだりしたら……大変なことになりそう。

 思いついたことを、ユニさんが跡継ぎを譲る気があるところらへんは省いてスレイくんに伝えると、スレイくんはソファに寝っ転がったまま苦笑を浮かべた。

「そんなん別に気にすんなよ。
 どうせ俺は怒られんのには慣れてるし」

 完全に後々怒られる気でそんなこと言われても、僕が困る。

 かと言って、今更出ないって言ったらスレイくんが悲しむのは確実だし……。

 困ったときにはイヴァンさんなんだけど、流石に今呼ぶ訳にはいかない。

 どうしようかなと頭を悩ませていたら、意外と頼れるかわいいエルフの顔が頭に浮かんだ。

「えっと、親分、もう1人僕の知り合いを呼んでもいい?」

 スレイくんはソファから体を起こすと、不思議な顔をしたままだけど頷いてくれた。



 ――――――



「いでよアッキーっ!」

 大きく手を上げてアッキー召喚の呪文を唱える。

 ……。

 ……。

 まあ、当然出てこない。

 スレイくんも、何やってんだこいつ?って顔で僕を見てる。

 ごめん、僕の中の小学生がまだ騒いでいるだけだから気にしないで。

「ということで、ツヴァイ、アッキーを呼び出したいんだけど、なんか手ある?」

 こういう時はツヴァイくん頼りである。

「呼んだか?」

 一陣の風のあと唐突に目の前にアッキーが現れた。

「ええっ!?」

「なんだ?自分で呼んでおいて驚くでない」

 い、いや、そりゃ驚くって。

 あまりの出来事にツヴァイくんたちも一瞬武器に手をかけていた。

 アッキーだって分かってすぐに手を降ろしたけど、年少組なんかはまだ驚いた顔してアッキーを見てる。

「え?どうして?呼んだの分かったの?」

「ん?分かってて呼んだんじゃなかったのか?
 魔名を教えたろ?だからお前が我を呼んだら伝わるんだぞ」

 うぇ?そんなシステムになってるの?

「なんだ、本当に知らんかったのか」

 アッキーは少し呆れ顔。

「人間どもに伝わっているような魔名を知られたらいいなりになるなんて言うのは迷信だが、魔名を教えた相手には特別な繋がりができる。
 まあ『あ、なんか呼んでる』程度のもんだがな」

 ま、まじかぁ。

 というか、あれ本当に魔名だったんだ……間違えて人前で呼んじゃわないように気をつけよ。

「弟にも伝わるからたまになんか話しかけてやるがいい。
 『あ、あの話してる』程度には通じるから、向こうもなんかリアクションがあるだろう」

 まじか。

 それはいいこと聞いた。

 ミッくんには簡単に会えないから寂しかったんだ。

「って、あれ?
 僕ミッくんの名前教えてもらってないよ?」

 そういえば結局、アッキーの弟のミツサダくんとはお互い名前を教え合ってないままだ。

 僕はアッキーから名前は教えてもらってたけど、それでいいのかな?

「ああ、それについてはこの間の手紙に書いてあるから教えたことになっている。
 結局は魔力的な繋がりだからな。
 本人が教えた気になってれば大丈夫だ」

 あー、ミッくんが帰ったあとにアッキーがミッくんからの手紙を持ってきてくれたけど、あれに書いてあるのか。

 僕は文字読めないし、誰かに読んでもらうのも気恥ずかしいからそのまんまなんだよなぁ。

 アッキーにも『そのうち読めるようになってから、自分で読めばいい』って言われてたから大事にしまってあるけど、誰かに見せないでよかった。

「ん?ということは、アッキーはミッくんの手紙の内容知ってるの?」

 ならこの際だから教えてほしい。

「いや、名前となんか約束のことについて書いたという話だけは聞いたが、細かい内容は知らん」

 約束については心あたりがあるから、本当に誰にも見られてなくってよかった。

「でも、そうなんだ。
 ミッくん、僕も約束忘れてないからねー」

 手紙に書いてまでくれたミッくんの気持ちが嬉しくて、僕も伝えておこうと思った。

 本当にこれで伝わってるのかな?

 ミッくんの顔を思い出してたら、目の前になんか降ってきた。

 手乗りサイズのちっちゃな木の彫り物で、2本の細い木が枝でつながった変わった形をしてた。

「連理の枝か。
 あやつもずいぶん可愛いことをするようになったな」

 アッキーがそんなこと言ってるけど、僕にはよく分からない。

 とりあえずミッくんからのプレゼントらしいので、大事に取っておこう。

「で、なんの用だ?
 我の顔が見たくなったと言うだけではあるまい?」

 そうだった。

「あ、まずは紹介なんだけど、この人は僕の親分でユニさんの弟さんのスレイくん」

 アッキーは親分ってところで不思議そうな顔をしていたけど、まあその説明はそのうちにしよう。

 とりあえずスレイくんを紹介して……って、そういえばさっきっから静かだな。

 どうしたんだろうと思って、座っているスレイくんの方を見ると……なんか腰抜かしてた。

 ソファに座り込んだまま腰を抜かしてしまっている格好で、アッキーを指さしている。

 その指も震えすぎて指先が全然定まっていない。

「エ、エルフだぁ……」

 そのままスレイくんはなんかオバケでも見たかのような声を上げた。
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