いつの間にか異世界転移してイケメンに囲まれていましたが頑張って生きていきます。

アメショもどき

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第2章 街に出てみよう

46話挿話 ドラゴニュート

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 ボクの名前はノイン・ベルゼターク。

 ちょっと前まで9番って呼ばれてたけど、お館様にノインっていう立派な名前をもらった。

 ボクたちベルゼターク族はここからずっと遠くにある、黒き森ってところに住んでいた。

 黒き森には僕たちドラゴニュートの部族がたくさんあって、昔は小競り合いを繰り返していたらしい。

 でも、ちょっと前に前のお館様……ボクのお父様が他の部族をやっつけたからボクが卵から孵った頃にはもう平和で静かな森だった。

 その平和が終わったのは今年の新春の祭りのとき。

 いつもの新春のお祝いとして従属氏族のギリネルグ族が持ってきた献上品が入っているはずの箱から大量のヒューマンの兵士が出てきた。

 武装したヒューマンは、武具を持ち込んではいけないことになっている宴の場にいた他の部族の偉い人やお父様の家臣たちを切り伏せると、館の門を開けて更に大勢のヒューマンの兵士とギリネルグ族を呼び込んだ。

 そこからは2番兄様についていくのに必死でよく覚えていない。

 宴の儀礼服のままのお父様が剣ひとつだけを持って、僕たちを逃がすために大量の兵士たちに立ちふさがってくれたのだけはしっかり覚えてる。



 黒き森から落ち延びてから1週間くらい経った。

 結局2番兄様と落ち延びられたのは、僕と、3番兄様、4番お兄ちゃんと、6番お兄ちゃんだけだった。

 はじめは家臣や他の家族もいたんだけど、家臣たちはみんな僕たちを逃がすために犠牲になって、他の家族達は兵士から逃げる間に散り散りになってしまった。

 殺されたのを見てしまった子もいるけど、他の散り散りになった家族たちはみんな無事で居ると信じたい。

 僕ら5人は岩陰や草陰に身を隠しながらなんとか逃げ続けていた。

 こんなところじゃ人目につきやすいのは分かっているけど、森はボクらドラゴニュートのテリトリーなので入ったらすぐに見つかってしまう。

 食べ物も得られないので人間の民家から失敬してなんとか食いつないでいた。

 対価としてヒューマンの間でも価値があるらしい金の装飾品を置いてきた。

 ボクらを襲ってきたヒューマン相手にそんな事することないと思ったんだけど、2番兄様は真面目だからなぁ。

 

 なんとか隠れられていた気でいたボクらが捕まったのもそんな風に食べ物を失敬した日の夜だった。

 深夜、物音に眠りから目を覚ましたら松明に囲まれていた。

 普段ならこんな事あるはずないのに、しばらくまともに飲み食いも出来てなければ、眠れてもいなくて注意力が鈍っていたみたいだ。

 何人か義性になっても突破するしかない、そう思ってボクらが武器を手にしたとき、松明の中からニコニコとした太った人が出てきてなにか言ってきた。

 何を言っているのかわからないけれど、手にはパンと干し肉のようなものを持っている。

 そのヒューマンはニコニコとしたまま敵意はないと示すように、手に持ったパンと干し肉ごと両手を高く掲げて、ゆっくりと近づいてくる。

 そして、武器を構えて警戒するボクの前にパンと干し肉を置くと、またゆっくりと少し下がった。

 食べていいということだろうか?

 しばらく何も食べていなかったところに、今日、中途半端に一口だけパンを食べてしまったので無性にお腹が空いている。

 目の前に置かれたパンと干し肉しか目に入らない。

 ニコニコ顔の方を見ると、やっぱりニコニコした顔のままでどうぞどうぞというような仕草をしている。

「……感謝する」

 2番兄様が頭を下げてそう言うと、パンをゆっくりと味わうようにひとくち食べて、さらに干し肉も同じようにひとくち食べると、固唾を飲んで見守るボクたちに頷く。

 毒とかは入っていないみたいだ。

 3番兄様が分けてくれたパンと干し肉に夢中で食いつく。

 美味しい……。

 干し肉とは言え、久しぶりに食べたお肉の味は涙がでるほど美味しかった。

 ボクたちが食べているのを見たヒューマンたちに安堵の空気が流れる。

 食べ終わった僕らをニコニコ顔が手招きしている。

 ボクたちはちょっと悩んだあと、顔を見合わせてうなずきあう。

 ボクは……いや、2番兄様もみんなも絶望の淵で感じた優しさを信じたかったのかもしれない。

 ボクたちは武器をしまうと、ニコニコ顔に招かれるまま村の中に入っていった。

 こうしてボクらは捕らえられた。



 目を覚ましたら目の前にニコニコ顔の顔があった。

 招かれた家でご飯を食べていたら急に眠くなってきて、気づいたら手枷足枷をはめられて地面に転がされていた。

 毒見はしたのにと思ったけど、体から少し甘い匂いがすることに気づいた。

 強い眠りの香を部屋に充満させられたみたいだ。

 絶望的な状態から抜け出せた気になって、気が抜けすぎていた。

 周りを見回すけど、案内されたのとは別の窓ひとつない部屋で兄様たちの姿もない。

「兄様たちをどうしたっ!?」

 ニコニコ顔……いや、ニヤニヤ顔を睨みつけるけど奴はどこ吹く風だ。

 服に手をかけてきたので、暴れて手を振り払う。

 手枷さえなければお前なんて素手でも殴り殺してやるのに。

 そう思って睨みつけていたら、思いっきりお腹を蹴り上げられた。

「げふっ!」

 そのまま何度も何度も体中を思いっきり蹴られる。

 手枷足枷をはめられたボクには丸くなって身を守ることしかできない。

 体中が痛くて涙が止まらない。

 ニヤニヤ顔がまた服に手をかけてくる。

 思わず暴れそうになるけど、ニヤニヤ顔が手を振り上げただけで体が凍りついてしまう。

 大人しくなったボクを見たニヤニヤ顔は、ボクが着ていたお父様からもらった儀礼服を引き破ってボクを裸にする。

 それからニヤニヤ顔はボクに色々痛いことをした。

 この後のことは思い出したくない。

 ただ、ボクが『こんなことをされながら生きてるなら死んだ方がいいや』と思うには十分だった。


 
――――――



 唇に柔らかいものが触れて、口の中に液体が流れ込んできた。

 甘い……。

 その甘い液体を流されるがままに飲み込んでいく。

 目の焦点がはっきりしてくるとボクに口移しで何かを飲ませているヒューマンの子供の顔が見えた。

 思わず唇を噛みちぎってやろうかと思うけど、頭を優しく撫でられる感触にそんな考えも溶けて消えていってしまう。

 泣きながらボクの顔を心配そうに見ているし、なんなんだろう?このヒューマンは。

 なんかよく分かんないけど、このヒューマンに抱っこされているだけですごい落ち着く。

 近づいてきただけで気持ち悪くなったニヤニヤ顔とは大違いだ。

 泣き顔は何度かそうやって頭を撫でながらボクに液体を飲ますと、離れていってしまう。

 もっと抱っこしててほしいと思ってその姿を目で追うと、泣き顔は6番お兄ちゃんを抱っこして液体を口移しし始めていた。

 その後ろには4番お兄ちゃんと3番兄様の姿もあって、ちょっと離れたところに2番兄様もいた。

 みんなぐったりしてたけど、不思議ともう大丈夫っていう気分になってボクは目を閉じた。



 ――――――



 それからボクらはお館様に名前をもらって臣下になった。

 ヒューマンからすると奴隷らしいけど、どうせボクの命はお館様のものなのでどうでもいい。

 お館様の臣下になってから、ボクたちはのんびりと暮らさせてもらっている。

 本当はボクの一族たちがどうなったか気になるけど、イヴァンというヒューマンが調べてくれると言うので任せている。

 薄情な話だけど、今のボクらはお館様のことで頭が一杯で、お館様が一番なのだ。

 たまにイヴァンから一族たちの消息を聞かされるけど、死んじゃってたり奴隷になっていたりいい話は聞けない。

 一族のことは、なんとかするというイヴァンを信じて任せることにしている。

 それくらいボクらはお館様のお世話で手一杯だ。

 なんせお館様は、ボクらが寂しそうにしていると飛んできてくれるくせして、自分はいつも寂しそうにしている。

 ボク達がいるところではいつも笑顔でいてくれてるけど、ボクたちに気づいてなかったり、ふと意識から外れたりするととたんに寂しそうな顔になる。

 お屋敷の中にはこんなにいっぱい人がいるのに、なぜかお館様はすぐにひとりぼっちっていう雰囲気になってる。

 説明されてもよく理解できなかったけど、すごく面倒くさい迷子になっちゃっているらしいから、そのせいなのかもしれない。

 酷いときには誰も来ない物陰で1人で泣いているんだそうだ。

 たまたまそれを見てしまったというドライ兄様が言っていた。

 なんで兄様がそんなところにいたのかは聞かないでおいた。

 兄様たちは素直に寂しがれないから大変だ。

 別の日、別の物陰で逆に泣いているところを見られたドライ兄様がお館様に抱きしめられて頭を撫でられているのを見てしまった。

 しばらくドライ兄様の機嫌が良かった。



 話しはズレたけど、お館様は思った以上に寂しがりやなのでボクはお館様の手が空いているときを見計らって抱っこしてあげている。

 ……ごめん、そうやって理由つけて抱っこしてもらってる。

 お館様に抱っこしてもらうと、良い匂いがしてドキドキしてフワフワーってして気持ちいい。

 定期的に抱っこしてもらわないとボクはもうだめだ。

 お館様中毒になっちゃってる。

 いや、これが冗談じゃないから怖い。

 ボクはたまたま、抱っこされ続けてドキドキがすごくなってなんかよく分かんない気分になってきたら離れてたけど、長い時間抱きついちゃってたゼクスお兄ちゃんはもうだめだ。

 ゼクスお兄ちゃんは元々お館様の匂いが好きだって言ってて、徐々に抱きつく時間長くなってるなーと思ってたけど、今ではとうとう誰かが来るまで離れなくなってしまった。

 しかも絶妙に人が来づらい所を選んで抱きつきに行くので、今はボクが程々のところでさり気なく通りかかることにしている。

 そのせいか最近ゼクスお兄ちゃんのボクを見る目がちょっと怖い。

 今度またお館様の洗濯物を取ってきてご機嫌を取っておこうと思う。

 自分じゃ恥ずかしくて取りに行けないらしい。



 フィーアお兄ちゃんも抱きつくのが好きな方だったけど、1度本当にたまたま屋敷のヒューマンに見られてしまってすごい恥ずかしい思いをしたらしい。

 よく分からないけど、尋常じゃない恥ずかしがり方でそれ以来人前で抱きつかなくなっちゃった。

 その代わりフィーアお兄ちゃんは夜中にお館様の布団に忍び込むようになってしまった。

 そのまま朝まで一緒に寝てることもあって卑怯なので兄弟みんな全力で阻止しようとしてるんだけど止められた試しがない。

 忍び込んでくる時は番をしている人のところにお館様1人か聞きに来て、これから忍び込みますって宣言するのに1度として阻止できたことがない。

 この間はとうとう4人全員で阻止しようと見張ってたけど、翌朝にはお館様のベッドで一緒に寝てた。

 ドアも窓も天井裏も、イヴァンに無理言って部屋の隠し通路まで聞いて見張ってたのに駄目だった。

 お館様は別にいいって言ってるし、悔しいけどもうどうしようもないって諦め気味だ。

 

 ツヴァイ兄様はそんなボクらのことを仕方ないなぁという感じで見てるけど、ボクはツヴァイ兄様が兄弟で1番甘えん坊なのを知ってる。

 昔は強くて優しくてかっこいい頼れる兄様だったのに。

 いや、今もそれはそうなんだけど、今の兄様はそんな昔の兄様の上にお館様のことを四六時中考えている兄様が乗っかってる。

 お館様が近くを通りかかるといつも目で追ってるし、どんなに遠くにいてもお館様の声は聞き逃さない。

 出てくる話はいつも『この間のお館様』か『今お館様は何をしているだろうか』だ。

 そんなに好きならもっと抱っこしてもらえばいいのにって思うけど、ツヴァイ兄様は全然抱っこしてもらわないで腕が触ったとかですごい喜んでる。

『何やってるんだろうね?』ってドライ兄様に言ったら『大人は色々大変なんだよ』って言われた。

 大人になったらああなっちゃうんじゃボクはちょっとやだなぁ。



 またなんか話がズレてボクの兄弟の恥ずかしいところ暴露大会みたいになっちゃった。

 まあとにかくボクは――そして恐らく兄弟たちみんなも――いつも寂しそうなお館様を何とかすることばっかり考えてる。

 できるだけ一緒にいてあげるのがいいと思ってたけど、ボクは最近もっといいことを思いついた。

 ボクが寂しくなったのはお父様やお母様、他の家族達が居なくなってからだ。

 お館様にもお父様もお母様も居ない。

 いや、居ないわけではないらしいけど、そうとう会うのが難しいらしい。

 ボクはお館様のお父様にもお母様にもなれないけれど、ボクとお館様がお父様とお母様になって、ボクがお館様の卵をいっぱい産めば家族がいっぱいできる。

 そうなったらお館様も寂しくなくなるんじゃないだろうか?

 これはいいアイデアじゃないかな?

 問題はどうすれば卵が産めるかわからないことなので、今度お館様に聞いてみようと思う。

 楽しみだ。
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