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第2章 街に出てみよう
39話 奴隷商
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昨日と同じ僕とアッキーとアレクさんの三人で、奴隷商のお店の前まで来ている。
「ハル、エル、モノケロス卿からの注意は忘れていないな」
僕に確認してくるアレクさん。
「交渉担当はアレクさん。
僕とエルはできるだけ黙ってる」
他にも色々あったけど、基本はこれだ。
僕たち要るのかな?と思ったけど、奴隷を買う時に主人となる人間が居ることは思った以上に大事なんだそうな。
一応買う買わないの決定権も僕にあることになっている。
アッキーは前と同じく護衛兼アドバイザーだ。
いつもありがとう。
今日はいっぱいお礼するからね。
「よし、では行くぞ」
歩き出すアレクさんに続いていく僕とアッキー。
さあ、僕の男爵としての初仕事。
使用人の獲得だ。
奴隷商という響きからは思いつかないほど明るい受付で、モノケロス子爵家……ユニさんちとして奴隷を買いに来たと告げる。
店先に奴隷の一人もいないんだけど、本当にここは奴隷商なんだろうか?
受付のお姉さんに案内されて、店の奥に入っていくと廊下の先に着飾ったカエルさんがいた。
ああ、いや、あれはカエル人さんか。
「これはこれは、なんでもモノケロス子爵様からのご用命とか。
ありがたいことでございます。
私は、当商会の会長ポパピエルセムミス・ミルトニスフヒと申します」
「ポパ……?」
ごめん、アレクさん、こっち見られても僕も聞き取れなかった。
このポパ……さん、名前も驚いたけど、これでこの人普通の人間だ。
カエルにしか見えないのに……。
いや、人の容姿をとやかくいうのは失礼か。
ただ、そんな容姿なので年が全然分からない。
頭は禿げ上がってるし声からしてもかなりの年に聞こえるんだけど肌艶だけなら若く見えるし……。
「覚えづらい名前でございましょう?
私もこればかりは親を恨んでおります。
どうぞ、気軽に奴隷商、とお呼びくださいませ」
そう言って優雅に一礼をする奴隷商さん。
今まで見た誰よりも優雅な仕草だった。
「さあさあ、大事なお客様をこんなところに立たせておくわけには参りません。
どうぞ、この部屋の中でお寛ぎになってお待ち下さい」
奴隷商さんはかたわらのドアを開くと僕たちを中に招き入れてくれる。
中はひと目でお金がかかっているのが分かるのに悪趣味な感じが全くしない不思議な部屋だった。
下手するとユニさんの家にあるものより高価に見える調度品が置いてあるのに、全体としての雰囲気は清廉ですらある。
「それでは、このお部屋で少々お寛ぎくださいませ」
そう言うと、奴隷商さんは部屋に入らないままドアを閉めてしまう。
「……なんか色々と呆気にとられちゃったけど、僕たちまだ要件伝えてないよね?」
「あ、ああ、そういえばそうだな。
すまん、俺も雰囲気に飲まれてしまった」
なんか化かされでもしたかのような顔をしているアレクさん。
多分僕もそんな顔をしていると思う。
「まあ、敵意は一切なかったし、イヴァン坊から聞いてた流れでもある。
ここはあやつがどう出てくるか見ていればよかろう」
アッキーだけが泰然としてソファに座ってテーブルに置かれてたワインを飲んでいる。
「ほぉ、アルキーノ産とは、一見の者にここまでのものを出すか」
アッキーはちょっと驚いたあと、ワインを飲み干して2杯目をついでいる。
良いものだったのかな?酔っ払わないようにね。
まあ、とりあえずもうこうなったらなるようにしかならない。
緊張しててもしょうがないからのんびり奴隷商さんが来るのを待とう。
アッキーの隣りに座ってこれまたテーブルの上に置かれてたお菓子を食べた。
うっまっ!?
なにこれっ!?ヨハンナさんのお菓子より美味しいお菓子初めて食べたっ!
夢中で食べてたらすぐに無くなってしまったので、2つ目を手に取る。
アレクさんはそんな僕らのことを呆れた目で見ていた。
――――――
僕はお菓子を、アッキーはワインを食べ飲み尽くしそうになる辺りで、部屋の奥にあったドアが開く。
あんなところにドアあったんだ。
部屋の奥、一段高くなったところにあるドアから奴隷商さんが入って来た。
「さあさあ、皆様、お待たせいたしました。
まずは当商会が誇る商品のご紹介から始めさせていただきたいと思います」
奴隷商さんはそう言うと優雅な仕草でこちらに一礼をして、ドアの方へ合図を送る。
露出の多い服に身を包んだお姉さんが、手枷と足枷をはめられた男の人を連れてくる。
多分アレクさんと同じくらいの年の筋肉質の金髪の美形さんで、露出のやたら多い下着だけをつけていて……なんていうか裸よりエロい。
「こちらは、隣国でも名のしれた剣士でその強さと美しさは吟遊詩人に広く歌われております。
此度の戦役で剣士隊の隊長となっていた所を我軍に捕縛されました。
こちら、金貨500枚となっております」
500枚というと……5千万っ!?高っ!?
剣士さんに続いてやはり手枷足枷をされた、赤髪の少年が連れてこられる。
やっぱり際どい下着を着た、ユニさんやアッキーと並べるレベルの美形さんでなんか股間を強調するようなポーズで立ってる。
ていうか、勃ってる。でっかい。
あ、アレクさん、うへぇって顔してる。
眼福とか思っててごめんなさい。
「こちらも隣国産でございます。
齢まだ17才にして流した浮名は数知れず、泣かした男女は数知れずの強者でございます。
捕虜にした際には取り返すために千の女剣士が突撃を敢行したそうでございます。
こちら、金貨400枚となります」
流石に千人は大げさに言ってるんだろうけど、本当でも不思議じゃないほどの美貌だ。
更に続いて、今度は傷跡だらけの体をした髭面のおじさんが連れてこられる。
最初の人以上に筋骨隆々で、この人も半裸だけどなんて言うかまともな腰布だ。
「こちらは、隣国でバーサーカーと呼ばれ味方からも恐れられた剣士でございます。
その腕前は並の剣士10人が一斉に向かってきても物ともせず、剣を振るえば岩をも砕くほどだとか。
こちら、金貨200枚となります」
その堂々とした立ち姿は、なんの心得もない僕ですら強いんだということがひと目で分かった。
護衛かなんかとして買うのかな?
続いて入ってきたのは、おお、ウサ耳の獣人さんだ。
かなりちっちゃな可愛らしい子で僕よりだいぶ年下に見える。
この子はこの子でまた際どい下着を着てる。
「さて、こちらはラビィ種の男性です。
奴隷として出回るのも珍しいですが、さらに珍しいのはその年齢。
無粋ですので詳細は申しませんが、その年齢に似合わぬラビィ種特有の性豪さはご主人さま自らお確かめくださいませ。
こちら、金貨300枚となります」
なんか潤んだ目で見つめられると買いたくなってくるからやめてほしい。
アレクさんはさらに、うへぇだ。
最後に連れてこられたのは、なんていうか普通の子だった。
いや、まあ確かに金髪碧眼の整った顔立ちはしているんだけど、先の3人を見たあとだとまあ普通だ。
筋肉にしたって僕とたいして変わらないくらいの普通の子に見える。
それこそ年齢も僕とたいして変わらなさそうだ。
着ている服も普通の腰布だ。
「さて、こちらにおわしますは、隣国でも豊領として知られるシャンルイス公爵領のご領主様のご落胤……と噂される少年でございます。
真偽の程は定かではありませんが、公爵家のご血族を奴隷にしてみると言うのもご一興ではございませんでしょうか?
こちら、金貨100枚となります」
今までの本人たちも売り込むぞって感じだった奴隷さんたちと違って、最後の子だけは悲しそうな顔をして俯いている。
なんていうか、本当に普通の子だ。
この子が貴族の子供『かも』っていうだけで金貨100枚、一般奴隷さん二人分っていうのはぼったくりな気がする。
「さて、ここまでが当商会がお客様にオススメする自慢の逸品たちでございます。
お気に召しましたるものはおりましたでしょうか?」
これで終わりと優雅に一礼する奴隷商さん。
「では、最後の子をもらおうか」
僕たちを従わせた主人っぽくソファの真ん中に座ったアレクさんの声を聞いて怯えた顔をする最後の子。
ここまではイヴァンさんに教えられたとおりだ。
イヴァンさん曰く、一見の客には最初に奴隷商さんの方で売りつけたい奴隷を見せてくるだろうから、その中の一番安い奴隷でいいから買うようにと言われている。
値段が合わなかったり、買いたいと思えない奴隷ばかりだったら一度帰ってくるように言われてたけど、最後の子ならいいやと思った。
奴隷は奴隷でも色んな用途があって、一般奴隷はだいたい金貨50枚から、剣闘奴隷や兵士なんかの危険なことをさせられる奴隷は金貨100枚から、そして、その……エッチなことが出来るのはだいたい金貨200枚からと決まっているらしい。
売買契約時に決められた用途以外で使うと罰せられるらしいので、一般奴隷を買ってそっち用にとかは一応出来なくなっているらしい。
他の人はいくらでも買い手はつくだろうけど、最後の子はとても剣闘とか出来るようには見えないし、一般奴隷としてあの普通さで普通の奴隷の倍じゃ相当なもの好きしか買わないと思う。
ここは、金貨50枚は奴隷商さんへの顔見せ代と思うことにしよう。
「おおっ、これはありがとうございますっ!
すぐに契約の準備を整えますので少々お待ちくださいませ」
大げさに頭を下げる奴隷商さん。
明らかに過剰演出なのに嫌味に見えないから不思議だ。
5人の奴隷も帰っていったし、顔見せはすんだからここからは本題だ。
決められた通りにアレクさんが「そういえばリザードマンの奴隷を仕入れたと聞いたのだが」と言って本題に入る。
「さて、そろそろつまらん芝居はやめて腹を割って話そうではないか」
はずだったのに、アッキーがなんかいい出した。
「ちょっ、ア……エルっ、交渉はアレクさんに任せないとっ」
アレクさん越しにアッキーの袖を引っ張って小声で注意する。
「お前ら気づかんかったのか?
このノーマル堅物やユニ坊に紹介するには奴隷の選定がおかしかったろうが」
へ?奴隷の選定?
思わずアレクさんと顔を見合わせてしまう。
えーっと、まず筋肉ムキムキの美形さんが来て、次に美少年来て、ムキムキおじさん来て、ウサギのエロ少年来て、最後に普通の少年。
………………あ、女の人がいない、っていうか基本的に僕向けだ。
そういや、アレクさんずっと『うへぇ』って顔してたなぁ。
アレクさんも気づいたみたいで、ピンときたって顔してる。
アッキーはすごいドヤ顔だ。
下等種がとか思ってそう。
「下等種が」
てか言われた。
「こやつは何も知らない顔をしておいて全て調べ済みということよ。
のぉ?ポパピエルセムミス」
すげぇ、アッキーこの人の名前覚えてる。
「ご明察のとおりでございます、高貴なる方」
この場合の『高貴なる方』っていうのは貴族じゃなくって、エルフってことだろう。
アッキーのこともバレバレか。
すごいな、この奴隷商さん。
ほへーと奴隷商さんの顔見てたら、なんか苦笑された。
なんでっ!?
「そこまで調べ済みなら我らの求めるものも分かっておろう。
さっさと連れてくるがよい」
「承知いたしました。
しかし、まずは自慢の商品をお見せするのも仕事のうち。
しかも、あの商品たちとは全く言葉が通じず、商品の状態もよろしくなく、下手にご紹介しては当商会の恥となるかと思いまして」
「構わぬから連れてこい」
有無を言わさぬアッキーに、奴隷商さんはいつもの優雅な一礼をする。
そしてパンパンと大きく2回手を叩くとドアが開いて手枷足枷をつけたリザードマンさんたちが屈強な男の人たちに引きずられてきた。
昨日は元気に叫んでいた人も今はぐったりとしている。
昨日から元気のなかった4人はもはや生きているのかすら分からない。
たった一日でこんなに……なにをやったんだ?
思わず奴隷商を睨みつけてしまう。
しかし、奴隷商はそよ風でも吹いたかのように表情ひとつ変えずに一礼する。
「誤解なきように弁明させていただきますが、この商品たちの惨状、私共がなにかいたしましたわけではございません。
しかし、この商品たちはすでに絶望しきってしまっており飲食を受け付けようといたしません。
当方でも無理矢理にでも食べさせようとしたのですが、終いには吐いてしまうようになり廃棄を考えていたところでございます」
そうだったのか……。
廃棄っていうのは引っかかるけど、それなら奴隷商さんに悪いところはないと思う。
「早とちりして、ごめんなさい」
睨みつけてしまったことを侘びて、奴隷商さんに頭を下げる。
また苦笑された。
だからなんでっ!?
僕の声が聞こえたのか、昨日叫んでたリザードマンさんが顔を上げる。
「オオっ、お前……イヤ、貴方は昨日ノ……頼ム……弟たちダケデモ……ドウカ、ドウカ……」
リザードマンさんが涙を流しながら必死で頭を下げている。
「これこの通り言葉も一切通じぬ商品たちです。
通訳ができるものから探さねばならず費用がかさむばかりの商品たちでございます。
出来ることと言ったら、痛めつけて体に教え込むことのみでしょうが、この体でそれに耐えられるか」
奴隷商さんの言葉にカチンと来た。
「この人たちのことはいくらであっても僕が買い取りますっ!」
なんか涙止まんない。
いくらでもとか言っちゃったけど、もういいや。
アレクさんも焦った顔してるけど知ったことか。
……足りなかったら分割とか出来るかな?
「オオッ……オオッ……ありがトウ……ありがトウ……」
リザードマンさんが崩れ落ちて、頭を床に叩きつけるように頭を下げてる。
ああっ、落ち着いて。せっかく助かったのに死んじゃうから落ち着いて。
「おや?雰囲気が伝わりましたかな?
まるで貴方様のお言葉が伝わったかのような……」
「余計な詮索はせぬがいい。
で、こやつらは全部でいくらだ?」
そうだそうだいくらなんだっ!?
分割はできますかっ!?
「左様ですな。
もう廃棄寸前でございますし、当方の品質管理不足ということで、それぞれ金貨1枚ずつでいかがでしょうか?」
はぇ?
「えっと……全員で金貨5枚ですか?」
「左様でございます。
こうなってしまってはもはや商品とはなりません。
当商会の不手際でございまして、値をつけるのも恥ずかしい限りではございますが、私も商人。
無料ご奉仕とはまいりませんので最安値である金貨1枚とさせていただきました。
ご不満かとは思いますが、なにとぞご寛恕の程を」
そう言って、今までで一番大げさにまるで劇のように深々と礼をする奴隷商さん。
「……えっと、分かりました、金貨5枚で買い取ります……」
なんか拍子抜けした。
「ハル、エル、モノケロス卿からの注意は忘れていないな」
僕に確認してくるアレクさん。
「交渉担当はアレクさん。
僕とエルはできるだけ黙ってる」
他にも色々あったけど、基本はこれだ。
僕たち要るのかな?と思ったけど、奴隷を買う時に主人となる人間が居ることは思った以上に大事なんだそうな。
一応買う買わないの決定権も僕にあることになっている。
アッキーは前と同じく護衛兼アドバイザーだ。
いつもありがとう。
今日はいっぱいお礼するからね。
「よし、では行くぞ」
歩き出すアレクさんに続いていく僕とアッキー。
さあ、僕の男爵としての初仕事。
使用人の獲得だ。
奴隷商という響きからは思いつかないほど明るい受付で、モノケロス子爵家……ユニさんちとして奴隷を買いに来たと告げる。
店先に奴隷の一人もいないんだけど、本当にここは奴隷商なんだろうか?
受付のお姉さんに案内されて、店の奥に入っていくと廊下の先に着飾ったカエルさんがいた。
ああ、いや、あれはカエル人さんか。
「これはこれは、なんでもモノケロス子爵様からのご用命とか。
ありがたいことでございます。
私は、当商会の会長ポパピエルセムミス・ミルトニスフヒと申します」
「ポパ……?」
ごめん、アレクさん、こっち見られても僕も聞き取れなかった。
このポパ……さん、名前も驚いたけど、これでこの人普通の人間だ。
カエルにしか見えないのに……。
いや、人の容姿をとやかくいうのは失礼か。
ただ、そんな容姿なので年が全然分からない。
頭は禿げ上がってるし声からしてもかなりの年に聞こえるんだけど肌艶だけなら若く見えるし……。
「覚えづらい名前でございましょう?
私もこればかりは親を恨んでおります。
どうぞ、気軽に奴隷商、とお呼びくださいませ」
そう言って優雅に一礼をする奴隷商さん。
今まで見た誰よりも優雅な仕草だった。
「さあさあ、大事なお客様をこんなところに立たせておくわけには参りません。
どうぞ、この部屋の中でお寛ぎになってお待ち下さい」
奴隷商さんはかたわらのドアを開くと僕たちを中に招き入れてくれる。
中はひと目でお金がかかっているのが分かるのに悪趣味な感じが全くしない不思議な部屋だった。
下手するとユニさんの家にあるものより高価に見える調度品が置いてあるのに、全体としての雰囲気は清廉ですらある。
「それでは、このお部屋で少々お寛ぎくださいませ」
そう言うと、奴隷商さんは部屋に入らないままドアを閉めてしまう。
「……なんか色々と呆気にとられちゃったけど、僕たちまだ要件伝えてないよね?」
「あ、ああ、そういえばそうだな。
すまん、俺も雰囲気に飲まれてしまった」
なんか化かされでもしたかのような顔をしているアレクさん。
多分僕もそんな顔をしていると思う。
「まあ、敵意は一切なかったし、イヴァン坊から聞いてた流れでもある。
ここはあやつがどう出てくるか見ていればよかろう」
アッキーだけが泰然としてソファに座ってテーブルに置かれてたワインを飲んでいる。
「ほぉ、アルキーノ産とは、一見の者にここまでのものを出すか」
アッキーはちょっと驚いたあと、ワインを飲み干して2杯目をついでいる。
良いものだったのかな?酔っ払わないようにね。
まあ、とりあえずもうこうなったらなるようにしかならない。
緊張しててもしょうがないからのんびり奴隷商さんが来るのを待とう。
アッキーの隣りに座ってこれまたテーブルの上に置かれてたお菓子を食べた。
うっまっ!?
なにこれっ!?ヨハンナさんのお菓子より美味しいお菓子初めて食べたっ!
夢中で食べてたらすぐに無くなってしまったので、2つ目を手に取る。
アレクさんはそんな僕らのことを呆れた目で見ていた。
――――――
僕はお菓子を、アッキーはワインを食べ飲み尽くしそうになる辺りで、部屋の奥にあったドアが開く。
あんなところにドアあったんだ。
部屋の奥、一段高くなったところにあるドアから奴隷商さんが入って来た。
「さあさあ、皆様、お待たせいたしました。
まずは当商会が誇る商品のご紹介から始めさせていただきたいと思います」
奴隷商さんはそう言うと優雅な仕草でこちらに一礼をして、ドアの方へ合図を送る。
露出の多い服に身を包んだお姉さんが、手枷と足枷をはめられた男の人を連れてくる。
多分アレクさんと同じくらいの年の筋肉質の金髪の美形さんで、露出のやたら多い下着だけをつけていて……なんていうか裸よりエロい。
「こちらは、隣国でも名のしれた剣士でその強さと美しさは吟遊詩人に広く歌われております。
此度の戦役で剣士隊の隊長となっていた所を我軍に捕縛されました。
こちら、金貨500枚となっております」
500枚というと……5千万っ!?高っ!?
剣士さんに続いてやはり手枷足枷をされた、赤髪の少年が連れてこられる。
やっぱり際どい下着を着た、ユニさんやアッキーと並べるレベルの美形さんでなんか股間を強調するようなポーズで立ってる。
ていうか、勃ってる。でっかい。
あ、アレクさん、うへぇって顔してる。
眼福とか思っててごめんなさい。
「こちらも隣国産でございます。
齢まだ17才にして流した浮名は数知れず、泣かした男女は数知れずの強者でございます。
捕虜にした際には取り返すために千の女剣士が突撃を敢行したそうでございます。
こちら、金貨400枚となります」
流石に千人は大げさに言ってるんだろうけど、本当でも不思議じゃないほどの美貌だ。
更に続いて、今度は傷跡だらけの体をした髭面のおじさんが連れてこられる。
最初の人以上に筋骨隆々で、この人も半裸だけどなんて言うかまともな腰布だ。
「こちらは、隣国でバーサーカーと呼ばれ味方からも恐れられた剣士でございます。
その腕前は並の剣士10人が一斉に向かってきても物ともせず、剣を振るえば岩をも砕くほどだとか。
こちら、金貨200枚となります」
その堂々とした立ち姿は、なんの心得もない僕ですら強いんだということがひと目で分かった。
護衛かなんかとして買うのかな?
続いて入ってきたのは、おお、ウサ耳の獣人さんだ。
かなりちっちゃな可愛らしい子で僕よりだいぶ年下に見える。
この子はこの子でまた際どい下着を着てる。
「さて、こちらはラビィ種の男性です。
奴隷として出回るのも珍しいですが、さらに珍しいのはその年齢。
無粋ですので詳細は申しませんが、その年齢に似合わぬラビィ種特有の性豪さはご主人さま自らお確かめくださいませ。
こちら、金貨300枚となります」
なんか潤んだ目で見つめられると買いたくなってくるからやめてほしい。
アレクさんはさらに、うへぇだ。
最後に連れてこられたのは、なんていうか普通の子だった。
いや、まあ確かに金髪碧眼の整った顔立ちはしているんだけど、先の3人を見たあとだとまあ普通だ。
筋肉にしたって僕とたいして変わらないくらいの普通の子に見える。
それこそ年齢も僕とたいして変わらなさそうだ。
着ている服も普通の腰布だ。
「さて、こちらにおわしますは、隣国でも豊領として知られるシャンルイス公爵領のご領主様のご落胤……と噂される少年でございます。
真偽の程は定かではありませんが、公爵家のご血族を奴隷にしてみると言うのもご一興ではございませんでしょうか?
こちら、金貨100枚となります」
今までの本人たちも売り込むぞって感じだった奴隷さんたちと違って、最後の子だけは悲しそうな顔をして俯いている。
なんていうか、本当に普通の子だ。
この子が貴族の子供『かも』っていうだけで金貨100枚、一般奴隷さん二人分っていうのはぼったくりな気がする。
「さて、ここまでが当商会がお客様にオススメする自慢の逸品たちでございます。
お気に召しましたるものはおりましたでしょうか?」
これで終わりと優雅に一礼する奴隷商さん。
「では、最後の子をもらおうか」
僕たちを従わせた主人っぽくソファの真ん中に座ったアレクさんの声を聞いて怯えた顔をする最後の子。
ここまではイヴァンさんに教えられたとおりだ。
イヴァンさん曰く、一見の客には最初に奴隷商さんの方で売りつけたい奴隷を見せてくるだろうから、その中の一番安い奴隷でいいから買うようにと言われている。
値段が合わなかったり、買いたいと思えない奴隷ばかりだったら一度帰ってくるように言われてたけど、最後の子ならいいやと思った。
奴隷は奴隷でも色んな用途があって、一般奴隷はだいたい金貨50枚から、剣闘奴隷や兵士なんかの危険なことをさせられる奴隷は金貨100枚から、そして、その……エッチなことが出来るのはだいたい金貨200枚からと決まっているらしい。
売買契約時に決められた用途以外で使うと罰せられるらしいので、一般奴隷を買ってそっち用にとかは一応出来なくなっているらしい。
他の人はいくらでも買い手はつくだろうけど、最後の子はとても剣闘とか出来るようには見えないし、一般奴隷としてあの普通さで普通の奴隷の倍じゃ相当なもの好きしか買わないと思う。
ここは、金貨50枚は奴隷商さんへの顔見せ代と思うことにしよう。
「おおっ、これはありがとうございますっ!
すぐに契約の準備を整えますので少々お待ちくださいませ」
大げさに頭を下げる奴隷商さん。
明らかに過剰演出なのに嫌味に見えないから不思議だ。
5人の奴隷も帰っていったし、顔見せはすんだからここからは本題だ。
決められた通りにアレクさんが「そういえばリザードマンの奴隷を仕入れたと聞いたのだが」と言って本題に入る。
「さて、そろそろつまらん芝居はやめて腹を割って話そうではないか」
はずだったのに、アッキーがなんかいい出した。
「ちょっ、ア……エルっ、交渉はアレクさんに任せないとっ」
アレクさん越しにアッキーの袖を引っ張って小声で注意する。
「お前ら気づかんかったのか?
このノーマル堅物やユニ坊に紹介するには奴隷の選定がおかしかったろうが」
へ?奴隷の選定?
思わずアレクさんと顔を見合わせてしまう。
えーっと、まず筋肉ムキムキの美形さんが来て、次に美少年来て、ムキムキおじさん来て、ウサギのエロ少年来て、最後に普通の少年。
………………あ、女の人がいない、っていうか基本的に僕向けだ。
そういや、アレクさんずっと『うへぇ』って顔してたなぁ。
アレクさんも気づいたみたいで、ピンときたって顔してる。
アッキーはすごいドヤ顔だ。
下等種がとか思ってそう。
「下等種が」
てか言われた。
「こやつは何も知らない顔をしておいて全て調べ済みということよ。
のぉ?ポパピエルセムミス」
すげぇ、アッキーこの人の名前覚えてる。
「ご明察のとおりでございます、高貴なる方」
この場合の『高貴なる方』っていうのは貴族じゃなくって、エルフってことだろう。
アッキーのこともバレバレか。
すごいな、この奴隷商さん。
ほへーと奴隷商さんの顔見てたら、なんか苦笑された。
なんでっ!?
「そこまで調べ済みなら我らの求めるものも分かっておろう。
さっさと連れてくるがよい」
「承知いたしました。
しかし、まずは自慢の商品をお見せするのも仕事のうち。
しかも、あの商品たちとは全く言葉が通じず、商品の状態もよろしくなく、下手にご紹介しては当商会の恥となるかと思いまして」
「構わぬから連れてこい」
有無を言わさぬアッキーに、奴隷商さんはいつもの優雅な一礼をする。
そしてパンパンと大きく2回手を叩くとドアが開いて手枷足枷をつけたリザードマンさんたちが屈強な男の人たちに引きずられてきた。
昨日は元気に叫んでいた人も今はぐったりとしている。
昨日から元気のなかった4人はもはや生きているのかすら分からない。
たった一日でこんなに……なにをやったんだ?
思わず奴隷商を睨みつけてしまう。
しかし、奴隷商はそよ風でも吹いたかのように表情ひとつ変えずに一礼する。
「誤解なきように弁明させていただきますが、この商品たちの惨状、私共がなにかいたしましたわけではございません。
しかし、この商品たちはすでに絶望しきってしまっており飲食を受け付けようといたしません。
当方でも無理矢理にでも食べさせようとしたのですが、終いには吐いてしまうようになり廃棄を考えていたところでございます」
そうだったのか……。
廃棄っていうのは引っかかるけど、それなら奴隷商さんに悪いところはないと思う。
「早とちりして、ごめんなさい」
睨みつけてしまったことを侘びて、奴隷商さんに頭を下げる。
また苦笑された。
だからなんでっ!?
僕の声が聞こえたのか、昨日叫んでたリザードマンさんが顔を上げる。
「オオっ、お前……イヤ、貴方は昨日ノ……頼ム……弟たちダケデモ……ドウカ、ドウカ……」
リザードマンさんが涙を流しながら必死で頭を下げている。
「これこの通り言葉も一切通じぬ商品たちです。
通訳ができるものから探さねばならず費用がかさむばかりの商品たちでございます。
出来ることと言ったら、痛めつけて体に教え込むことのみでしょうが、この体でそれに耐えられるか」
奴隷商さんの言葉にカチンと来た。
「この人たちのことはいくらであっても僕が買い取りますっ!」
なんか涙止まんない。
いくらでもとか言っちゃったけど、もういいや。
アレクさんも焦った顔してるけど知ったことか。
……足りなかったら分割とか出来るかな?
「オオッ……オオッ……ありがトウ……ありがトウ……」
リザードマンさんが崩れ落ちて、頭を床に叩きつけるように頭を下げてる。
ああっ、落ち着いて。せっかく助かったのに死んじゃうから落ち着いて。
「おや?雰囲気が伝わりましたかな?
まるで貴方様のお言葉が伝わったかのような……」
「余計な詮索はせぬがいい。
で、こやつらは全部でいくらだ?」
そうだそうだいくらなんだっ!?
分割はできますかっ!?
「左様ですな。
もう廃棄寸前でございますし、当方の品質管理不足ということで、それぞれ金貨1枚ずつでいかがでしょうか?」
はぇ?
「えっと……全員で金貨5枚ですか?」
「左様でございます。
こうなってしまってはもはや商品とはなりません。
当商会の不手際でございまして、値をつけるのも恥ずかしい限りではございますが、私も商人。
無料ご奉仕とはまいりませんので最安値である金貨1枚とさせていただきました。
ご不満かとは思いますが、なにとぞご寛恕の程を」
そう言って、今までで一番大げさにまるで劇のように深々と礼をする奴隷商さん。
「……えっと、分かりました、金貨5枚で買い取ります……」
なんか拍子抜けした。
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幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
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