いつの間にか異世界転移してイケメンに囲まれていましたが頑張って生きていきます。

アメショもどき

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第2章 街に出てみよう

38話 貴族

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 夕食も終わって食後のティータイム。

 今日のお茶請けはモレスくんちでもらった砂糖菓子だ。

 果物の果汁が入ってるみたいで、ちょっと酸味があって美味しい。

「あ、これなかなか美味しいですね。
 簡単に食べられて懐に忍ばせとくことも出来るし、疲れたときとかに良さそうです。
 イヴァン、少し多めに仕入れておいてください」

「承知いたしました」

 ユニさんにも好評みたいだ。

「さて、では、具体的にこれからどうするか考えてみましょうか。
 まずはスリの子の件からですかね」

「とりあえずアティーノ親方って人のところで荷運びやってるって言ってたから、その線からあたってみようと思ってる。
 まずはどんな様子か見てみてそれ次第かな」

 まずは見つけるところからだ。

 一応手がかりはあるからなんとかなるだろう。

 時間はかかるかもしれないけど、必ず見つける。

「イヴァン?」

「はい、坊ちゃま。
 すでにアティーノ・カルノアの所在は把握済みでございます。
 明日までお時間をいただければその少年の所在もつかめるかと存じます」

 何事もないことのように報告するイヴァンさんと、満足そうにうなずくユニさん。

 ……イヴァンさん怖い。

 食事の時に話したばかりなのにいつ調べたんだろう。

 いつどうやって調べたのかとか考えてると怖くなるから忘れよう。

 あの子の居所はイヴァンさんが調べてくれる。

 それで良し。おしまい。

「では、そちらの件はイヴァンの報告待ちということで。
 問題はリザードマンの方ですね」
 
「あの……リザードマンさんたちだけど、このままでも問題ないってことはないかな?
 優秀な戦士として有名だって言ってたし、いい人に雇ってもらえるとか……」

「無理ですね」

 万が一の希望にかけてみたけど、ユニさんにバッサリ一刀両断された。

「どれだけ優れた戦士であっても、言葉が通じなければ意味はありません。
 それどころか意思疎通が出来ない以上まともな奴隷としても扱われないでしょう。
 闘技場に買われて獣として扱われるのが最上とすら言えるかもしれません」

 やっぱりそうだよねぇ。

 言葉が通じないっていうムリゲー感は僕も身に沁みて分かってる。

「あの、僕の翻訳の魔具みたいのが他にあったりは……」

 ダメ元で聞いてみるけど。

「世界の何処かにはあるかもしれませんが、少なくともこの国にはそのひとつだけですね」

 やっぱり相当な貴重品だよね?これ。

「あの、本当に返さなくていいの?これ」

「絶対に受け取りません」

 にっこり笑顔のユニさん。

「王城では飼ってやれんのか?
 お前ら下等種はそういう悪趣味なの好きだろ」

 言い方は悪いけど、アッキーの言う通りだ。

 王様とか貴族様とか引き取ってくれないんだろうか?

「師匠の言う通りそういう趣味を持った人もいますが、今回は無理ですね。
 王族や貴族にはパレード前に話を通しているはずなので、パレードに回ってきたということは要らないと言われたということになります」

 やはり言葉が通じないというのが大きいのかと、と続けるユニさん。

 そうなってくると、あとはたまたまいい人に買われるのを祈るか……僕が買うかか。

 深呼吸をして頭に空気を送る。

 砂糖菓子で糖分も補給だ。

 紅茶で喉を湿らせて、万全の体制で口を開く。

「あのさ、僕のご褒美だった離れを作るっていう話し、無しにしてリザードマン5人の買い取りに変えてもらえないかな?」

 僕の言葉を聞いたユニさんはびっくりした顔をしていた。

「あー、それが、そういうわけにはいかなくて。
 男爵家としての体裁はいい加減整えないわけにはいかないので離れを作るのは確定事項になっています」

 僕の作戦、一歩目でいきなり頓挫。

 えー、そうなるとリザードマンを買う原資がなくなる。

 あ、いや、待てよそういえばさっきユニさんがお金はなんとかなるって言ってたな。

「なら、さっきユニさん僕はお金で解決できることならなんとかなるって言ってたけど、それ本当?」

「ええ、本当ですよ。
 それ忘れちゃったのかなってびっくりしました」

 さっきのはそのびっくり顔だったのか。

 どうにも僕に今僕がお金もちだって言う実感が無いからなぁ。

 気分的には未だに無一文だ。

 と言うか、そのお金だってユニさんが出してくれるっていう話なだけなんじゃないだろうか?

「えっと、それは具体的にどういうお金なんだろう?
 ユニさんに出してもらうって話なら僕のワガママに使う訳にはいかないと思う」

「まあ、私としてはハルのワガママでいくらでも私のお金を使ってくれてかまわないんですけどね。
 むしろ嬉しいです」

 ユニさんが僕をダメにしようとする。

 ユニさんの言う通りに生きてたらクズの僕が出来上がりそうで怖い。

「まあ、それは考えておいてもらうとして、さっき言ったのはまっとうな報酬と報奨ですよ。
 まずは異世界の知識を提供してくれたことと、実験に協力してくれたことの報酬として、金貨500枚。
 とりあえずこれだけでおそらくはリザードマン全員買えますね」

 ちょっ、えっ、はっ!?

「いやいやいや、なにその金額っ!?」

 高すぎだろうそれ。

 金貨500がどれくらいの価値なのかまだよく分かってないけど、奴隷5人分って、一般年収5人分って考えただけでも千万単位の話だ。

 いくらなんでもそんな大金がもらえるとは思えない。

「まっとうな報酬だと思いますよ?
 全く見たことも聞いたこともない知識や技術の話を当家が独占できるんですからね。
 さらに言えばこれはまず最初の最低限の報酬ですので、今後、資料の解析が進みさらに有用な利用法が確立されたらその都度報酬を増やすつもりです」

 ……まあ、言われてみればファンタジー世界に転移した人が現代知識で無双するのはよくある話だからそれくらいの価値はあるのかもしれない。

 僕自身の知識はともかくとして、今回は教科書とかスマホとか持ち込んでるしなぁ。

 あれをこの世界の頭がいい人が見たら色々出来るのかもしれない。

 あれ?僕結構まずいことしてる?

「大丈夫、ハルが嫌がるようなことには絶対に利用しませんから」

 僕の顔色から考えていることを読み取ったのか、優しい顔でそんな事を言ってくれるユニさん。

 ユニさんがそう言うなら大丈夫だと思うくらいには好きになってしまってるのが、やばいかもしれない。

「あとは、この間の私を助けてくれた分の報奨ですね」

「え?でも、あれはミゲルくんのお手柄で……」

「もちろんミゲルの功績が特別大きいのは確かですよ。
 でも直接的に私を助けたのはハルですからね。
 ハルが最上の功績者となるのは当然です」
 
 ユニさんの言葉を聞いたミゲルくんも頷いてる。

 ただユニさんの側にいただけの僕としては全然そんな実感ないんだけど……。

「サクラハラ様、もしあのときサクラハラ様があの場にいなかったらとお考えください」

 僕がいなかったら……ああ、あんなに早く目覚めることはなくって、あの時イヴァンさんの言ってたとおりに下手するとユニさんが老衰で亡くなるまで目覚めなかったかもしれないのか。
 
「ノイラート様がサクラハラ様の特性に気づいたことも間違いなく大功ですが、こちらは時間はかかってもいつかしら気づいたことであったと愚考いたします。
 しかし、サクラハラ様の存在はなくてはならないものでした」

 そこまで丁寧に説明してもらってようやく実感を持てた気がする。

 それでも、ただいただけなのは確かだからちょっと申し訳ない気はするけど。

「ハルが納得してくれたようなので具体的な報奨ですが、これを期にハルにはうち直轄の領地を分け与えて男爵になってもらいました」

「なんでっ!?」

 なるほど、それがこの前からちょいちょい出てきてた『男爵』の真相か。

 僕、知らぬ間にこの世界の貴族になる。

 やだ。なにそれ、怖い。

「ハルが困惑するのはわかりますが、正式に私の愛人にするにはこれが手っ取り早いんですよ。
 ハルのものは私のものだし、私のものはハルのもの。
 そういうことでいいじゃないですか」

 むぅ……そういわれてしまうと反対しづらい……。

 僕としてはいつまでも日陰者でもかまわないけど、大っぴらにユニさんとイチャイチャできるならそれに越したことはない。

 言われるとおり、僕のものはユニさんのものなんだから別にいいか。

 …………あれ?ユニさんの理論だと、ユニさん経由で莫大なものが僕のものに?

「父にも話を通しているのでもう撤回は無理です」

 異議を唱えようとしたらユニさんに機先を制された。

 うぐぐ……これはお父さんにも挨拶にいかないといけない流れだな。
 
 胃が痛くなってきた気がする。

 指さして笑ってるアッキーは後でお仕置きだ。

「ということで男爵領からの収入が年にだいたい金貨4,000くらい。
 まあこちらは領内への投資や家臣などへの報酬もあるのでそのままハルのものってわけじゃないですけどね」

「えっと……よくわからないんだけど、それってどれくらいの金額なんだろう?」

 すごい大金なのは分かるけど、具体的にどれくらいなのか見当もつかない。

 ……いや、この際見当なんてつけないほうがいいのかもしれないけど。

「うーん、『どれくらい』ですか……。
 なんて言ったらいいでしょうねぇ?」

 思案顔のユニさんにイヴァンさんがフォローを入れる。

「二等市民、いわゆる一般的な市民の年の収入が金貨30枚ほどとなっております」

 えっと、こういうファンタジー世界の場合、年収は日本より低くなる傾向があるらしいから、金貨1枚でざっくり10万円って考えよう。

 それが4,000枚だから……。

 よ、4億円……。

 ちょっと目が回ってきた。

 ここらへんのお金のことはユニさんに丸投げしよう。

「ち、ちなみに、リザードマンさん買うにはいくらくらいかかるんだろう?」

「一般的な奴隷で1人金貨50枚といったところでございましょう。
 ただ、此度のリザードマンの場合となりますと瑕疵が大きすぎますのでかなりお安くなるかと存じます」

 どっちにしても、全然問題なく買える値段か。

「それじゃ、リザードマンさん買っちゃっても問題ないのかな?」

「買うことには問題ないですね」

 よしっ……って、買うこと『には』?

「えっと……『には』って?」

 なんかすごい含みのある言い方だけど、どういうことだろう?

「買うのはかまわないんですが、買ったあとどうするんですか?」

「え、自由にしてあげればいいんじゃないの?」

 イヴァンさん以外の全員に苦笑いされたっ!?

「言葉もわからんやつをそこらに放り出すというのか。
 お前もなかなか悪趣味な遊びをするな」

「さ、流石にそれは考えてるよ。
 捕まったってところまで送ってあげればいいんじゃないかな?」

 幸いそのくらいできるだけのお金は持ってるみたいだし、僕。

「恐らくそういう訳にはいかないかと存じます。
 只今事情を調査させているところではございますが、通常奴隷……捕虜になどなることのありえないリザードマンが捕虜となっている以上、一族が滅んだか何かしらの事情があって戻れなくなっているものかと愚考いたします」

 なるほど、ただ家に帰すってわけにはいかないのか。

 そうしたらどうしよう。

 仕事を見つけてあげるにしても言葉が通じないんじゃどうしようもないし。

 僕の話し相手になってもらう?

 いやいやそんなバカな。

 いくら僕のお金とはいっても、そんな無駄遣いはできない。

 もうこうなったら、申し訳ないけどユニさんの家の使用人として……。

 あ、そうだ使用人だよ。

「使用人になってもらうとかどうかな?」

 どうよっ、とドヤ顔で言ってみる。

 なかなかいい考えだと思うんだ。

 ユニさんち見てる限り使用人はまだまだ必要なんだと思うし。

「まあ、そうなりますよね」

「それが妥当だと思います」

「そんなところだろう」
 
 あれ?ドヤってたのにみんななんか普通に頷いてる。
 
 ちくしょう、みんなの中ではもう予想済みか。

「じゃあ、サクラハラ家の使用人として雇うってことでいいのかな?」

「「「は?」」」

 あれ?なんかイヴァンさん以外に何いってんだこいつって顔された。

 え?あれ?予想されてたんじゃ?

「えっ?いや、だって、ユニさんちに得体の知れないリザードマンの使用人なんて雇ってもらえないだろうし……」

「ああ、そこまで考えていたんですね」

 失礼な、僕だって無い知恵絞ったんだぞ。

「そうですね、実際のところ当家では奴隷を使用人にするわけにはいかないので下働きか何かをやってもらうつもりでした」

 やっぱりかー。

 ユニさんちの使用人さんたちは、下手すればどころか殆どが貴族様か良いところのうちの人らしい。

 そんなところに、元奴隷で言葉の通じないリザードマンなんて雇ってもらえないだろう。

 でも、幸いなことに出来たばっかりでまだ人員が4人しかいない男爵家がここにある。

 離れがどんなものか分からないけど、ユニさんのことだからミゲルくんたち4人で回せる規模のものになるはずがないから、新たに使用人を確保するのは自分でもいい案だと思う。

「でも、その場合使用人の教育はどうするんですか?」

「え?ミゲルくんたちに教えてもらって僕がするよ?」

 僕しか言葉が通じないんだから当然だ。

 ミゲルくんたちならイヴァンさん仕込みだから、リザードマンさんたちもどこに出しても恥ずかしくない使用人になれるだろう。

 ……僕がまず仕事覚えないとだけど。

 即答した僕になんかユニさんは苦笑い。

 なんかまずったかな?

 結構僕やる気なんだけど、ダメ?

「意地悪な質問をしました。
 そこら辺はうちのイヴァンに任せてもらっていいですよ」

「え……でも、言葉が……」

 言葉が通じないんじゃさすがのイヴァンさんでも……と思ってたんだけど、なんかユニさんはドヤ顔。
 
「ふっふっふっ、うちのイヴァンを舐めないでいただきましょうか。
 イヴァン、リザードマン語の心得は当然ありますね?」

「はい、多少は心得てございます。
 教育程度でしたら問題ありません」

 なんとっ!?

「躾のなっていないものをどこに出しても恥ずかしくない使用人に仕立て上げるのは?」

「はい、慣れたものでございます」

「では、そのリザードマンたちをハルの使用人として立派に育て上げることが出来ますね?」

「坊ちゃまとサクラハラ様のご許可がいただけましたならば」

 どうですっ!?と言った超ドヤ顔のユニさん。

 可愛い。

 思わずユニさんとイヴァンさんに拍手だ。

「では、明日早速彼らを買ってくるとしましょうか」

「うんっ!」

 ユニさんの言葉に大きく頷く僕だった。

 ……売り切れてたらどうしよう。
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