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第1章 異世界で暮らそう
25話 魔力
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僕が泣き止むまで10分くらいかかった。
その間ユニさんはずっと僕を抱きしめて背中を撫でてくれてたけど、心配かけたんだからそれくらいやってくれて当然だと思う。
泣き止んだ今もユニさんは後ろから僕に抱きついているけど、もう今日はこのままでいいと思う。
とりあえず仕切り直して実験再開。
「ハルを驚かしてしまいましたが、あの水晶はああいった感じに手をかざした者の魔力を読み取って、幻影の種類で属性を。大きさで魔力の強さを表す魔道具です」
たまに後ろから僕の耳をハムハムしながらユニさんが改めて説明してくれる。
ちょっと恥ずかしいけど、今日はこのまま好きにさせる。
むしろ、もっと甘やかせ。
「属性は見たまんまで、私は火、イヴァンは土ですね。
ミゲルはたしか水でしたよね?
せっかくなんで見せてあげてください」
「承知いたしました」
ユニさんに言われて、ミゲルくんも水晶に手をかざす。
「水の場合は水晶から水があふれるように見えます。
先程も言ったとおり、幻影ですから溺れたりしないので安心してくださいね」
今度は予めどうなるか説明してくれた。
ユニさんの言った通り、ミゲルくんが手をかざした水晶から水が溢れてくる。
溢れる水は、2メートル位かな?ミゲルくんの全身を飲み込んだあたりで止まった。
これも説明されてなかったら、びっくりして飛びついてるやつだな。
なんかこの水晶心臓に悪い。
ミゲルくんが手を離すと、溢れていた水もスッと消える。
分かっていたことだけど、ホッとした。
「えっと、それじゃ僕は光の魔力ってこと?」
光の魔力とかすごい勇者っぽいっ!
やっぱり来たかっ!?僕の時代っ!
落ち込んでいたテンションがもどってくる。
「うーん……」
でも、後頭部からはユニさんの唸り声。
あれ?光の魔力ってなんかまずかった?
……はっ!?レアすぎて迫害の対象とか?
やばい、僕かっこいい。
「光の魔力なんてないはずなんですよねぇ……」
はぇ……?
「この水晶自体は同種のものが、それこそニホン人がいた時代よりも昔からあるのですが……。
一度も火・水・土とここにはいませんが風の4つ以外の魔力が現れたことはないんですよね」
「え?光とか闇とかは?」
「ありません」
えええええー。
「え、じゃ、じゃあ、明かりの魔法とかないの?」
「明かりの魔法はありますよ。
でも、明かりの魔法は火か風の魔法ですね」
「え?火は分かるけど、風って?」
火で明かりは想像しやすいけど、風で明かりってなんだろう?
「私も魔法学には詳しくないのですが、風の魔力の派生魔力、雷の魔力を使った魔法の中に明かりの魔法があるそうです。
派生魔力の持ち主はあまりいないので私も実際には見たことありませんが」
雷というと……電気で発光とかそんな感じかな?
「じゃ、僕も雷の魔力を持ってるとか……」
「うーん……。
派生魔力を持っているものも水晶は派生前の魔力として反応するはずなんですが……。
それにもしそうだとしても、ただ光っているだけでは雷とは判断しづらいかと……」
「そうなると……僕の魔力は何なんだろう?」
「うーん……」
唸ったまま考え込んでしまったユニさん。
イヴァンさんならっ!
「サクラハラ様。
……申し訳ございません」
謝られた。
まさかのミゲルくんっ!
……なんかもう頭下げてる。
いやいや、考え直そう。
謎の魔力っ!かっこいいじゃないかっ!
落ちかけたテンションを無理矢理上げる。
「属性はともかく魔力があることは確かなんだよねっ!?
それなら僕も魔法使えるよねっ!?」
属性がわからなくても、魔力があることは確かなんだ。
しかも、あの光り方を見る限り僕の魔力は相当強いはずっ!
「うーん……」
しかし、またまた後ろから唸り声。
え、魔法使えないの?魔力あるのに?
「魔法はそれぞれの属性の魔力を使うことを原則として構成されているので、ハルのように属性がわからない状態ではどの魔法が使えるか……。
魔法を使えるように練習するだけでも時間がかかるので、ハルの状態では練習が足りなくて使えないのかそもそも属性が合わなくて使えないのかすらわからない状態になってしまうかと……」
ええええぇー、そんなぁ……。
せっかく僕にも出来ることが見つかりそうだったのに……。
希望が見えたばかりだっただけに、凹む。
「坊ちゃま、第1段階まででしたら属性は関係なく使えるかと」
「あ、そうですね。
あれなら魔法を使った気にはなれるかもしれません」
目に見えて凹んでいる僕を見て、イヴァンさんが助け舟を出してくれる。
『使った気には』っていうのが気になるけど、もうそれでいいや。
「ハル、見ててくださいね」
ユニさんはそう言うと、後ろから僕に抱きついた姿勢のまま右手を前に突き出す。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
ユニさんがそう言う……唱えると、突き出された手のひらの前に赤く輝く精緻な文様が浮かび上がった。
おおおおおおおーっ!魔法だっ!
この世界に来て初めてみた魔法らしい魔法に消え去っていたテンションが上がる。
しかも、ユニさんは僕越しに手を伸ばしているからなんか僕が使っているようにも見える。
文様は数秒で消えてしまったけど、僕のテンションは上がりっぱなしだ。
「あれが僕にも使えるのっ!?」
思わずユニさんの顔を振り返ってしまう。
よほど僕の目がキラキラしていたのだろう、ユニさんは微笑ましそうにニッコリと笑った。
「ええ、今のは魔力紋といって魔力回路を構築しようとしたときに現れるその人固有の文様です。
魔力回路の構築も必要ありませんから、魔力があれば誰でもできますよ」
おおおおおおぉーっ!
魔力があれば誰でもできるなら、僕でも出来るはずっ!
「どうやってやるのっ!?」
「これはただ呪文を唱えるだけです。
私に続けてそのまま言ってくださいね」
ユニさんの言葉にコクコク頷く。
い、いよいよ、僕も魔法を(仮)……。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
ユニさんに続いて呪文を唱える。
ユニさんの手のひらの前に魔力紋が輝く。
それに続いて僕の手のひらの前にも……前にも……あれ?
なにも起こらない。
「ハルハル、そうじゃないです。
魔力を用い第三機構マジケーへ接続です。
唱えるだけですが一言一句あっていないと発動しませんよ」
いけないけない。きちんと同じ呪文を唱えたつもりだったけど、どこか間違ってたみたいだ。
今度こそ、とユニさんの唱えたとおりに呪文を唱え直す。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
………………なにも起こらない。
ユニさんも不思議顔……と言うか、何やってるんだろう?って顔?
「坊ちゃま、翻訳の魔具が詠唱まで翻訳してしまっているのではないかと」
あー、なるほど、呪文にしてはずいぶん日本語っぽいなって思ったんだ。
ユニさんもなるほどって顔をしている。
「ハル、今度は魔具を外してから私の真似をしてみてください。
魔具を外したら私は呪文だけを言いますから、それを繰り返してくれれば大丈夫です」
「うん、分かった」
頷いたあと、ユニさんに見せるようにネックレスを外す。
「■■■■■■」
それを見たユニさんが、一拍置いたあと聞き慣れない言葉を口にした。
できるだけ聞こえたとおりになるように、僕も呪文を唱える。
「■■■■■■」
………………やっぱり発動しない。
言い間違えたかな?と思って振り返ってユニさんの顔を見るけど、ユニさんも不思議顔。
「■■■■■■」
もう一回ユニさんが呪文を繰り返したので、僕もあとに続く。
「■■■■■■」
やっぱり発動しない。
「■■」
それを見たユニさんが今度は、短く区切って呪文を教えてくれる。
「■■」
出来る限りそれを真似して口にしてみたつもりだ。
「■■」
「■■」
「■■」
「■■」
区切り区切りだけど、最後まできちんと言えたはず。
……でも発動しない。
やばい、泣きそう。
俯いて涙をこらえていたら、ユニさんに肩を叩かれた。
振り向くとユニさんがネックレスをするようにジェスチャーをしているので、素直に従う。
「……呪文はあっているんですが、なんかダメみたいですね」
「なんでえええぇぇぇぇぇぇっ!?」
――――――
落ち込んでしまった僕をあやしながら、ユニさんとイヴァンさんにミゲルくんまで交えて会議中。
結構長いこと色々と意見を出し合ってるけど、結論は出ない。
僕の魔力、謎。
今は本当に魔力なのかどうかが議題になっているけど、やっぱり結論は出そうにない。
とりあえず今わかっていることは、魔力紋が出せない以上いわゆる魔法は使えない、ってことだった。
せっかく役に立てることあったと思ったのになぁ……。
「……ここで私達だけで話し合っててもどうしようもなさそうですね」
「左様で御座いますな。
サクラハラ様、私の古い知人に魔法学を研究している変じ……人物がおりますので、今度話を聞いてみましょう」
今イヴァンさん変人って言いかけたよね?
なんかユニさんもすごく嫌な顔をしている。
イヴァンさんが口を滑らせかけるほどの変人で、ユニさんにこんな顔をさせる人物って……、怖いけど怖すぎてかえって興味あるな。
「時間があるときでかまわないのでよろしくお願いします」
イヴァンさんに深々と頭を下げる。
魔法とは関係なく、イヴァンさんにすら変人と言わせるその人に普通に会ってみたい。
「かしこまりました」
ほんと、暇なときでいいからね。
「あれ?僕が魔法使えないってなると魔法の実験はこれで終わり?」
ユニさんたちにもこの結果は予想外みたいだったから、もしかしたら予定を全て潰しちゃったかもしれない。
「うーん、そうですね。
ハルの魔法への適正に関するテストはとりあえずは保留ですかね」
僕にどうにかなることではないんだけど、なんかごめんなさい。
「続きはあの人を招聘してからにしましょう。
イヴァン、私からも頼みますのであの人の都合のいい時に時間をいただけるようにお願いしてみてください。
くれぐれも丁重にお願いします」
「かしこまりました」
「本当に手間かけてすみません」
深々とお辞儀をするイヴァンさんに僕ももう一度一礼。
無駄な手間をかけてしまって申し訳ない。
まあ、散々な結果ではあったけど、痛いことはされなかったし良かったと思うことにしょう。
「さあ、それじゃ次は反応実験にいきますよー」
うきうきとした様子のユニさん。
やっぱり、そう上手くはいかないよねー。
――――――
とりあえずもう大きく動くことはないということで、僕とユニさんはイヴァンさんとミゲルくんが持ち込んでくれたテーブルセットに座ってる。
ユニさんいわく、紅茶でも飲みながらゆっくりやりましょうとのことだ。
雰囲気はほのぼのしているけど、反応実験という言葉の響きが怖い。
なにか『反応』させられるんだろうなぁ……。
「さて、それじゃこれからハルの魔法への反応実験を始めますね」
お茶請けのチーズケーキ――ミゲルくん作で美味しい――を食べ終わったところで、ユニさんがそう切り出してきた。
なにをされるんだろう……緊張する。
「これからごく弱く調整した魔法を何種類かハルにかけていきます。
これはそれぞれの魔法がハルにどのような効果を及ぼすか……我々と同じ効果が出るのかどうかを確かめるためのテストです」
なるほど、ゲームとかでいう耐性値の調査みたいなものかな?
「事前にどのような効果の魔法で、どのくらいの刺激が来るかは説明するので、その説明と違う効果や強さだったらすぐに言ってくださいね」
説明してくれるユニさんにコクンと頷く。
「それじゃ、まずは私が火の攻撃魔法をハルに放ちます。
攻撃魔法と言っても、触れたところに魔力を流して熱するというごく単純な効果なので変な影響は出ないはずです」
まあ、たしかにどんな影響が出るのかわからない状態で、頭を混乱させる魔法かけまーすって言われるよりは安心か。
話を聞く限り、本当は触れたところを火傷か下手すると炭化させる魔法なんだろうから、怖いは怖いけど。
「威力は熱いスープの入った食器に触った程度に調整します。
もしそれよりも少しでも熱く感じたり、違う刺激があったり、逆になにもなかったりしたらすぐに言ってくださいね」
「うん、わかった」
頷いた僕を見て、ユニさんは僕の左手を取って手のひらに指を向ける。
き、緊張するな……。
「■■■■■■」
ユニさんが小さく呪文を唱えて……指を僕の手のひらに押し付ける。
「……んっ!」
確かに言われた通りユニさんの指が触れたところが熱い食器を持ったみたいに熱い。
まあ、熱いものが来るっていうのは散々予告はされていたから、驚いたけどちょっと声を漏らす程度で耐えられた。
「熱っ!?」
だから、手の熱さよりも、同時にユニさんが急に叫び声を上げて左手を振り出した事に驚いた。
「だ、大丈夫っ!?」
イヴァンさんも駆け寄ってきて、ユニさんの左手を取ってみている。
「す、すみません。
全く予想してなかったから驚いただけで、大したことはないはずです。
『熱くなった食器を押し当てられた』程度ですから」
左手を見ていたイヴァンさんもなんともないと頷いている。
え?それってどういう事?
その間ユニさんはずっと僕を抱きしめて背中を撫でてくれてたけど、心配かけたんだからそれくらいやってくれて当然だと思う。
泣き止んだ今もユニさんは後ろから僕に抱きついているけど、もう今日はこのままでいいと思う。
とりあえず仕切り直して実験再開。
「ハルを驚かしてしまいましたが、あの水晶はああいった感じに手をかざした者の魔力を読み取って、幻影の種類で属性を。大きさで魔力の強さを表す魔道具です」
たまに後ろから僕の耳をハムハムしながらユニさんが改めて説明してくれる。
ちょっと恥ずかしいけど、今日はこのまま好きにさせる。
むしろ、もっと甘やかせ。
「属性は見たまんまで、私は火、イヴァンは土ですね。
ミゲルはたしか水でしたよね?
せっかくなんで見せてあげてください」
「承知いたしました」
ユニさんに言われて、ミゲルくんも水晶に手をかざす。
「水の場合は水晶から水があふれるように見えます。
先程も言ったとおり、幻影ですから溺れたりしないので安心してくださいね」
今度は予めどうなるか説明してくれた。
ユニさんの言った通り、ミゲルくんが手をかざした水晶から水が溢れてくる。
溢れる水は、2メートル位かな?ミゲルくんの全身を飲み込んだあたりで止まった。
これも説明されてなかったら、びっくりして飛びついてるやつだな。
なんかこの水晶心臓に悪い。
ミゲルくんが手を離すと、溢れていた水もスッと消える。
分かっていたことだけど、ホッとした。
「えっと、それじゃ僕は光の魔力ってこと?」
光の魔力とかすごい勇者っぽいっ!
やっぱり来たかっ!?僕の時代っ!
落ち込んでいたテンションがもどってくる。
「うーん……」
でも、後頭部からはユニさんの唸り声。
あれ?光の魔力ってなんかまずかった?
……はっ!?レアすぎて迫害の対象とか?
やばい、僕かっこいい。
「光の魔力なんてないはずなんですよねぇ……」
はぇ……?
「この水晶自体は同種のものが、それこそニホン人がいた時代よりも昔からあるのですが……。
一度も火・水・土とここにはいませんが風の4つ以外の魔力が現れたことはないんですよね」
「え?光とか闇とかは?」
「ありません」
えええええー。
「え、じゃ、じゃあ、明かりの魔法とかないの?」
「明かりの魔法はありますよ。
でも、明かりの魔法は火か風の魔法ですね」
「え?火は分かるけど、風って?」
火で明かりは想像しやすいけど、風で明かりってなんだろう?
「私も魔法学には詳しくないのですが、風の魔力の派生魔力、雷の魔力を使った魔法の中に明かりの魔法があるそうです。
派生魔力の持ち主はあまりいないので私も実際には見たことありませんが」
雷というと……電気で発光とかそんな感じかな?
「じゃ、僕も雷の魔力を持ってるとか……」
「うーん……。
派生魔力を持っているものも水晶は派生前の魔力として反応するはずなんですが……。
それにもしそうだとしても、ただ光っているだけでは雷とは判断しづらいかと……」
「そうなると……僕の魔力は何なんだろう?」
「うーん……」
唸ったまま考え込んでしまったユニさん。
イヴァンさんならっ!
「サクラハラ様。
……申し訳ございません」
謝られた。
まさかのミゲルくんっ!
……なんかもう頭下げてる。
いやいや、考え直そう。
謎の魔力っ!かっこいいじゃないかっ!
落ちかけたテンションを無理矢理上げる。
「属性はともかく魔力があることは確かなんだよねっ!?
それなら僕も魔法使えるよねっ!?」
属性がわからなくても、魔力があることは確かなんだ。
しかも、あの光り方を見る限り僕の魔力は相当強いはずっ!
「うーん……」
しかし、またまた後ろから唸り声。
え、魔法使えないの?魔力あるのに?
「魔法はそれぞれの属性の魔力を使うことを原則として構成されているので、ハルのように属性がわからない状態ではどの魔法が使えるか……。
魔法を使えるように練習するだけでも時間がかかるので、ハルの状態では練習が足りなくて使えないのかそもそも属性が合わなくて使えないのかすらわからない状態になってしまうかと……」
ええええぇー、そんなぁ……。
せっかく僕にも出来ることが見つかりそうだったのに……。
希望が見えたばかりだっただけに、凹む。
「坊ちゃま、第1段階まででしたら属性は関係なく使えるかと」
「あ、そうですね。
あれなら魔法を使った気にはなれるかもしれません」
目に見えて凹んでいる僕を見て、イヴァンさんが助け舟を出してくれる。
『使った気には』っていうのが気になるけど、もうそれでいいや。
「ハル、見ててくださいね」
ユニさんはそう言うと、後ろから僕に抱きついた姿勢のまま右手を前に突き出す。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
ユニさんがそう言う……唱えると、突き出された手のひらの前に赤く輝く精緻な文様が浮かび上がった。
おおおおおおおーっ!魔法だっ!
この世界に来て初めてみた魔法らしい魔法に消え去っていたテンションが上がる。
しかも、ユニさんは僕越しに手を伸ばしているからなんか僕が使っているようにも見える。
文様は数秒で消えてしまったけど、僕のテンションは上がりっぱなしだ。
「あれが僕にも使えるのっ!?」
思わずユニさんの顔を振り返ってしまう。
よほど僕の目がキラキラしていたのだろう、ユニさんは微笑ましそうにニッコリと笑った。
「ええ、今のは魔力紋といって魔力回路を構築しようとしたときに現れるその人固有の文様です。
魔力回路の構築も必要ありませんから、魔力があれば誰でもできますよ」
おおおおおおぉーっ!
魔力があれば誰でもできるなら、僕でも出来るはずっ!
「どうやってやるのっ!?」
「これはただ呪文を唱えるだけです。
私に続けてそのまま言ってくださいね」
ユニさんの言葉にコクコク頷く。
い、いよいよ、僕も魔法を(仮)……。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
ユニさんに続いて呪文を唱える。
ユニさんの手のひらの前に魔力紋が輝く。
それに続いて僕の手のひらの前にも……前にも……あれ?
なにも起こらない。
「ハルハル、そうじゃないです。
魔力を用い第三機構マジケーへ接続です。
唱えるだけですが一言一句あっていないと発動しませんよ」
いけないけない。きちんと同じ呪文を唱えたつもりだったけど、どこか間違ってたみたいだ。
今度こそ、とユニさんの唱えたとおりに呪文を唱え直す。
「魔力を用い第三機構マジケーへ接続」
………………なにも起こらない。
ユニさんも不思議顔……と言うか、何やってるんだろう?って顔?
「坊ちゃま、翻訳の魔具が詠唱まで翻訳してしまっているのではないかと」
あー、なるほど、呪文にしてはずいぶん日本語っぽいなって思ったんだ。
ユニさんもなるほどって顔をしている。
「ハル、今度は魔具を外してから私の真似をしてみてください。
魔具を外したら私は呪文だけを言いますから、それを繰り返してくれれば大丈夫です」
「うん、分かった」
頷いたあと、ユニさんに見せるようにネックレスを外す。
「■■■■■■」
それを見たユニさんが、一拍置いたあと聞き慣れない言葉を口にした。
できるだけ聞こえたとおりになるように、僕も呪文を唱える。
「■■■■■■」
………………やっぱり発動しない。
言い間違えたかな?と思って振り返ってユニさんの顔を見るけど、ユニさんも不思議顔。
「■■■■■■」
もう一回ユニさんが呪文を繰り返したので、僕もあとに続く。
「■■■■■■」
やっぱり発動しない。
「■■」
それを見たユニさんが今度は、短く区切って呪文を教えてくれる。
「■■」
出来る限りそれを真似して口にしてみたつもりだ。
「■■」
「■■」
「■■」
「■■」
区切り区切りだけど、最後まできちんと言えたはず。
……でも発動しない。
やばい、泣きそう。
俯いて涙をこらえていたら、ユニさんに肩を叩かれた。
振り向くとユニさんがネックレスをするようにジェスチャーをしているので、素直に従う。
「……呪文はあっているんですが、なんかダメみたいですね」
「なんでえええぇぇぇぇぇぇっ!?」
――――――
落ち込んでしまった僕をあやしながら、ユニさんとイヴァンさんにミゲルくんまで交えて会議中。
結構長いこと色々と意見を出し合ってるけど、結論は出ない。
僕の魔力、謎。
今は本当に魔力なのかどうかが議題になっているけど、やっぱり結論は出そうにない。
とりあえず今わかっていることは、魔力紋が出せない以上いわゆる魔法は使えない、ってことだった。
せっかく役に立てることあったと思ったのになぁ……。
「……ここで私達だけで話し合っててもどうしようもなさそうですね」
「左様で御座いますな。
サクラハラ様、私の古い知人に魔法学を研究している変じ……人物がおりますので、今度話を聞いてみましょう」
今イヴァンさん変人って言いかけたよね?
なんかユニさんもすごく嫌な顔をしている。
イヴァンさんが口を滑らせかけるほどの変人で、ユニさんにこんな顔をさせる人物って……、怖いけど怖すぎてかえって興味あるな。
「時間があるときでかまわないのでよろしくお願いします」
イヴァンさんに深々と頭を下げる。
魔法とは関係なく、イヴァンさんにすら変人と言わせるその人に普通に会ってみたい。
「かしこまりました」
ほんと、暇なときでいいからね。
「あれ?僕が魔法使えないってなると魔法の実験はこれで終わり?」
ユニさんたちにもこの結果は予想外みたいだったから、もしかしたら予定を全て潰しちゃったかもしれない。
「うーん、そうですね。
ハルの魔法への適正に関するテストはとりあえずは保留ですかね」
僕にどうにかなることではないんだけど、なんかごめんなさい。
「続きはあの人を招聘してからにしましょう。
イヴァン、私からも頼みますのであの人の都合のいい時に時間をいただけるようにお願いしてみてください。
くれぐれも丁重にお願いします」
「かしこまりました」
「本当に手間かけてすみません」
深々とお辞儀をするイヴァンさんに僕ももう一度一礼。
無駄な手間をかけてしまって申し訳ない。
まあ、散々な結果ではあったけど、痛いことはされなかったし良かったと思うことにしょう。
「さあ、それじゃ次は反応実験にいきますよー」
うきうきとした様子のユニさん。
やっぱり、そう上手くはいかないよねー。
――――――
とりあえずもう大きく動くことはないということで、僕とユニさんはイヴァンさんとミゲルくんが持ち込んでくれたテーブルセットに座ってる。
ユニさんいわく、紅茶でも飲みながらゆっくりやりましょうとのことだ。
雰囲気はほのぼのしているけど、反応実験という言葉の響きが怖い。
なにか『反応』させられるんだろうなぁ……。
「さて、それじゃこれからハルの魔法への反応実験を始めますね」
お茶請けのチーズケーキ――ミゲルくん作で美味しい――を食べ終わったところで、ユニさんがそう切り出してきた。
なにをされるんだろう……緊張する。
「これからごく弱く調整した魔法を何種類かハルにかけていきます。
これはそれぞれの魔法がハルにどのような効果を及ぼすか……我々と同じ効果が出るのかどうかを確かめるためのテストです」
なるほど、ゲームとかでいう耐性値の調査みたいなものかな?
「事前にどのような効果の魔法で、どのくらいの刺激が来るかは説明するので、その説明と違う効果や強さだったらすぐに言ってくださいね」
説明してくれるユニさんにコクンと頷く。
「それじゃ、まずは私が火の攻撃魔法をハルに放ちます。
攻撃魔法と言っても、触れたところに魔力を流して熱するというごく単純な効果なので変な影響は出ないはずです」
まあ、たしかにどんな影響が出るのかわからない状態で、頭を混乱させる魔法かけまーすって言われるよりは安心か。
話を聞く限り、本当は触れたところを火傷か下手すると炭化させる魔法なんだろうから、怖いは怖いけど。
「威力は熱いスープの入った食器に触った程度に調整します。
もしそれよりも少しでも熱く感じたり、違う刺激があったり、逆になにもなかったりしたらすぐに言ってくださいね」
「うん、わかった」
頷いた僕を見て、ユニさんは僕の左手を取って手のひらに指を向ける。
き、緊張するな……。
「■■■■■■」
ユニさんが小さく呪文を唱えて……指を僕の手のひらに押し付ける。
「……んっ!」
確かに言われた通りユニさんの指が触れたところが熱い食器を持ったみたいに熱い。
まあ、熱いものが来るっていうのは散々予告はされていたから、驚いたけどちょっと声を漏らす程度で耐えられた。
「熱っ!?」
だから、手の熱さよりも、同時にユニさんが急に叫び声を上げて左手を振り出した事に驚いた。
「だ、大丈夫っ!?」
イヴァンさんも駆け寄ってきて、ユニさんの左手を取ってみている。
「す、すみません。
全く予想してなかったから驚いただけで、大したことはないはずです。
『熱くなった食器を押し当てられた』程度ですから」
左手を見ていたイヴァンさんもなんともないと頷いている。
え?それってどういう事?
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