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第1章 異世界で暮らそう
11話 夕食
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なんやかやあって、ユニさんとお風呂で裸の付き合いをする程に仲良くなった。
異世界実質2日目でかなりのハイペースな気がするけど、僕からすればユニさんはイケメンで可愛いし、ユニさんからすれば大好きな異世界人だしで、まあこんなもんかな?とも思う。
『なんやかんや』をやっているうちに夕食の時間になってしまったことにイヴァンさんが呼びに来てから気づいて、慌ててお風呂から出て、現在談話室で夕食中。
やっぱり貴族として色々心得ているのかユニさんは適切な距離感を保っていて、お風呂でのことなんておくびにも出さない。
むしろ僕のほうがなにかポロッと言っちゃわないか用心しながら夕食を頂いている。
今日の夕食はユニさんは魚料理をメインとした色とりどりな料理で、僕はまた魚介系のリゾットだった。
これはお医者さんから指示の出ているやつだな。
「それにしても不思議ですね。
私は魚が嫌いなのですが、この嘘もわかりますか?」
魚が嫌い、そういった辺りでユニさんの口から黒い靄が出た。
「うん、今のは嘘だよね。
黒いのでてたよ」
「それじゃ、私は牛肉が嫌いです。私は豚肉が嫌いです。私は鶏肉が嫌いです。
どれが嘘かわかりますか?」
うーん……牛肉の時に靄が出たのは間違いない。
だけど、牛肉の靄が残っているせいでちょっと分かりづらかったけど、豚肉のときも鶏肉のときも靄が出ていた気がする。
「多分だけど……全部ウソ?」
「正解です」
ニッコリと微笑むユニさん。
「それじゃ次はちょっと難しいですよ。
私は来週、王弟殿下の晩餐会に参加するために馬車に乗って王城に向かいます。
どうですか?」
「うーん……王弟殿下は嘘。あとは王城も嘘かな?
それ以外は出てなかったと思う」
文章になると靄がいつ出てるのは分かりづらい。
「正解です。
どうです?イヴァン、本当でしょう?」
「はい、驚きの事態です」
イヴァンさんは相変わらずの無表情なので驚いているように見えない。
と言うより、もはやなにを考えているかもわからなくて突然『お前を殺す』とか言ってきても不思議じゃない怖さがある。
「こうなってしまっては仕方ありません。
サクラハラ様にはモノケロス家の秘密を守るために死んでいただきましょう」
……またまたぁ。
冗談を、と思ったけど、イヴァンさんの口から黒い靄は出ていない。
そっか……僕ここで死ぬのか……。
「あの……せめて出来るだけ痛くない方法でお願いします」
リゾットを食べていたスプーンを置き、イヴァンさんに深々と頭を下げる。
それだけがなんの力もない僕に出来る唯一の抵抗だ。
「ハル、ハル、落ち着いてください。イヴァンの冗談ですよ。
………………冗談ですよねっ!?」
苦笑いしていたユニさんも、イヴァンさんのただならぬ雰囲気に慌てだした。
ユニさんにもイヴァンさんが嘘をついていないということがわかったのだろう。
「はい、もちろん冗談、いえ、嘘でございます」
しかし、変わらぬ無表情でそういうイヴァンさん。
と言うか、さっきのイヴァンさんからは黒い靄は出ていない。
つまり嘘をついていなかったはずだ。
死ぬ覚悟までしたのに、もう意味がわからない。
「イヴァン、人の悪い冗談ですよっ!」
ユニさんも流石に厳しい声でイヴァンさんを叱りつける。
「坊ちゃま、サクラハラ様、誠に申し訳ありませんでした。
しかし、これでサクラハラ様も坊ちゃまと同じく定められた対象の嘘しか見抜けないとはっきりいたしました」
「……あ、たしかに。そうですね」
「え?どういうこと?」
一人の相手の嘘しか見抜けない……?
たしかに今はイヴァンさんの嘘を見抜けなかったけど……。
「ハル、この魔法は本来かけた相手一人にしか効果がないのですよ」
あー、そういうことか。
だから、ユニさんは僕の嘘しかわからなくて、僕も――まあかけた覚えはないけど――ユニさんの嘘しかわからないのか。
「やっぱり、嘘が全部わかるようなチート魔法じゃなかったんだ」
「ちーと……?」
「えっと、強すぎてずるい魔法?みたいな意味……かな?」
僕の言葉にユニさんも苦笑い。
「そうですね、そこまで便利な魔法じゃないです。
相手が死ぬまでは対象を切り替えることもできませんし」
へー、そんな制約もあるのか。
それはたしかに不便……って。
「えええええぇぇーっ!?
ぼ、僕が死ぬまで他の人にかけられないのっ!?」
「はい、そうですね」
ニコニコとしながらあっさりうなずくユニさん。
「え?か、解除とかは……?」
「できません」
やっぱりニコニコ顔のユニさん。
なんでそんな貴重な魔法僕なんかにかけちゃったのっ!?
相手の嘘が分かるなんて、貴族からしたら使い道なんていくらでもあるだろうに……。
「サクラハラ様、この魔法はモノケロス一族にのみ使える魔法ですが、すでに世間に存在が知られている魔法でございます。
そのため、ある程度の身分の者たちは対抗するすべを用意しております」
「そうですそうです。
所詮一人にしか使えずに、しかも、嘘を見破るというだけの魔法です。
今となっては配偶者の不義を見破る魔法という以上の価値はありませんからどうかお気になさらずに」
イヴァンさんとユニさん二人がかりでそう言われて、僕も一安心……するにはユニさんがなんか不穏なこと言ってるな?
「配偶者の不義って?」
「昔はともかく、今は婚姻の際に配偶者にかける使い方が一般的なんです。
もし浮気でもしたらすぐわかりますから、処罰して、次婚姻を結ぶことがあったらその時にまたかける、と言った感じですね」
なんてこと無いように話すけど、次の人にかけられるようになるって、その処罰、死罪じゃん。
浮気なんてするつもり無い……と言うか、出来るような身分じゃないけど、色々縮み上がる。
「あはは、そんなに怖がらなくていいですよ。
私はハルがなにをしようと許しますから」
ちょっ、なに言ってるのっ!?
際どいことを言い出したユニさんに驚いて思わずイヴァンさんとヨハンナさんの様子をうかがうけど、二人とも聞こえてないかのように表情ひとつ変えていない。
「それに、そもそも、ハルとの関係のほうが浮気のようなものですからね」
自嘲気味に言うユニさん。
関係云々って言葉を人前で言っちゃってるのも気になるけど、今は浮気という言葉の方が気になる。
僕との関係が浮気ということは……。
「え?ユニさんって結婚してたの?」
「いいえ、結婚はしていませんよ。
いませんが……許嫁はいますし、その子とかは別として、私は跡取り息子なのでいつか正式に何処かの貴族の娘を娶ることになりますね」
あー、そうか、貴族社会だとそういう事はあるよなぁ……。
うわっ、想像以上にショックだ……。
自分で思ってたより、ユニさんのこと好きになってたみたいだな、僕。
「そんな顔しないでください。
こちらの世界ではよくあることなのですよ。
配偶者の他に本当に愛する愛人を持つということは」
……なんかすごい恥ずかしいこと言われた気がするぞ。
「ま、まあ、お互いまだ出会って2日目。
今はまだ色々と気分が盛り上がっちゃってるから、そういうことはもう少し時間を置いて考えよう」
「はい」
僕の逃げとしか取れない言葉に笑顔でうなずくユニさん。
可愛い。
これで異世界人マニアでなければ最高の彼氏なのになぁ。
いや、それじゃ僕とこんな事にならなかったか……。
――――――
かなり恥ずかしいやりとりの後、しばらく二人とも無言で食事を進める。
き、気まずい……。
あ、そうだ。どうせ聞かなきゃいけないことなんだから、色々頭を整理するためにも今聞いてしまおう。
「ユニさん。そろそろはっきり教えてほしいんだけど……。
僕はこれからどうなるの?」
「これからと言いますと?」
「これから僕はどう過ごしたらいいのかな?
えっと……人体実験とか……するんでしょ?」
自分で言いながら不安になったけど、そういえば勝手に僕がそういう妄想をしていただけでユニさんは一言もそんなこと言ってなかったな。
もしかしたら純粋に保護をしてくれていたつもりなのかもしれない。
そうだとしたらなんか僕最低なことを言っている気が……。
「はい、そうですね。最初はそのつもりでした」
ユニさんの口から黒い靄は出ていない。
……わあい……便利だなぁ……。
絶望した顔をしている僕を見て、ユニさんはクスクスと笑う。
「でも、最初からそんなに痛いこととかはしないつもりでしたし、今となってはそんなこと……ハルに嫌われてしまうようなことはできません」
お、おおう?
いき……られる……?
「極力、痛いことはしないようにします」
実験はするんだ……。
まあ、痛いことはしないって言葉を信じよう。
「えっと、痛いことしないならそれでいいよ。
痛いことも少しなら我慢する……」
「本当ですかっ!?」
すごい食いついてきた。怖い。
「少しだよっ!?ほんの少しだけだよっ!?」
「もちろんですっ!
あーっ、どうしましょうか……。あれは諦めてたけど少しなら……。
あっちは無理ですかね?大丈夫……ですよね。
いや、いっそのことあれならギリギリ……耐えられ……る?」
なんかよく分からないけど、怖いこと言い出した。
「あの、多分僕この世界基準の一般人と変わらないか、貧弱なくらいだからお手柔らかにね……」
機械に囲まれてのんのんと暮らしていた現代人が、鎌倉時代のお侍さんと同程度の耐久力を持っているとは到底思えない。
伝承とやらに残る日本人感覚で色々やられたら、まあ、死ぬな。
「もちろんわかってます。
……まずは耐久試験からやりましょうね……うへへへ……」
楽しそうにやばい笑い声を漏らしているユニさん。
耐久試験って、人間相手にするものの響きじゃないんだけど……本当に大丈夫かな?
「お、お手柔らかにね……」
ユニさんが楽しそうだからまあいいかと思ってしまうのは惚れた弱みというやつなのかもしれない……。
――――――
夕食が終わって明日までなんの予定もないということでとりあえず寝室でゴロゴロしている。
今日はいろいろあって疲れた……特に肉体的に。
精神的には朝よりだいぶ前向きになっていると思う。
まだ家族のことを考えると泣きそうだけど。
コンコンコン。
家族のことを思い出してしまったせいで案の定泣きそうになってきたので、お風呂にでも入って気分を変えようと思ったところでドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼いたします。
当座の着替えをお持ちいたしました」
イヴァンさんが夕食の時に話にあった着替えを持ってきてくれた。
銀色のお盆の上に乗せて持ってきてくれた衣類を受け取る。
……うわぁ……持っているだけでサラサラして気持ちいい……。
「ありがとうございます。
こんないいものを……申し訳ありません」
「いえ、どうかお気になさらずに」
…………。
…………?
普段ならここで一礼して帰っていくイヴァンさんが帰っていかない。
「……あ、あの?」
「…………いえ、それでは失礼いたします」
僕が声をかけると、いつものように一礼して帰っていくイヴァンさん。
なにか言いたげにも見えたけど……いつもの無表情のせいでよく分からなかった。
ユニさんとの関係を咎めようとかそういう雰囲気ではなかったと思うけど……。
不思議に思うけど考えても答えは出ない。
いっそのことはっきり聞いちゃえばよかったな……。
とは言え、今更呼び戻すのも気が引ける。
まあ、また次の機会に聞けばいいや。
そう気楽に考えて、もらったばかりの着替えを持ってお風呂に向かった。
――――――
やっぱりお風呂はいい。
日本人ならお風呂だよねっ!心の底からそう思う。
お風呂に入っていると疲れと一緒にストレスも消えていく気がして、明日から頑張ろうって気になれる。
本当にこの世界にお風呂があってよかった。
シャワーはないけどボディソープもシャンプーも近いものがあるしお風呂に関しては言うことない。
全身さっぱりして、足取り軽く脱衣所に出て、着替えを手に取り……。
途方に暮れる。
……着方がわからない。
シャツはシャツだし、パジャマ?と思われる上着もいい。
首から足首あたりまですっぽりと覆うようにできていて、見た感じやたらと長いシャツかワンピースみたいな感じだ。
ちょっと着慣れないけど、頭からかぶればいいだけみたいだからこれは大丈夫。
大丈夫どころかすごい肌触りが良くて、着たらすごい気持ちよさそうだ。
日本で言うシルクみたいな高級品なんだと思う。
問題は……パンツだ。
履き方とか以前に構造がわからない……。
こんなふんどしだかおむつだかよくわからないもの、どうしろと……。
いっその事ノーパンで……とも考えるけど、高級そうなシャツとパジャマ?の素材を考えるとかなり気が引ける。
ならもともと履いてたパンツを履くしか無いかと思うけど……せっかく全身さっぱりしたのに今更汚れたパンツなんて履きたくない……。
仕方ない……イヴァンさんを呼んで履き方を聞こう……。
そう考えたところで、さっきのイヴァンさんの様子がおかしかったのはこの件だったのかな、と思う。
きっと、着替え方を教えてあげようか、それとも差し出がましいか、とか考えてくれてたのだろう。
なんかイヴァンさんには頭上がらなくなりそうだな、僕。
まあ、今後のためにも一度しっかりと教えてもらうことにしよう。
……パンツ履けません、なんて子供みたいで恥ずかしいけど……。
そんな事を考えながら、腰にバスタオル――これもすごいフカフカで気持ちいい――を巻いただけの姿で寝室に戻り、サイドテーブルに置かれたベルを鳴らす。
リンリガチャッ。
鳴らした途端に、ドアが開いた。
ずいぶん反応が早い。
隣で念のため待機でもしていてくれたかな?あれ?でもノックなかったよな?
とか考えるまもなく……。
「ハルっ!?御用ですかっ!?」
僕に用意されたのと同じようなワンピースみたいな寝巻きを着たユニさんが入ってきた……。
「なんでっ!?」
そっかぁ……イヴァンさんが本当にいいたかったのはこのことかぁ……。
「そろそろ呼ばれるかなって、ドアの前で待機してましたっ!」
それを聞いて、ドアの前できちんと正座して待っているユニさんが思い浮かんだ。
……かわいい。
あまりの驚愕でそんなどうでもいいことが頭から離れない。
一度落ち着いて頭を整理しよう。
「えっと……そろそろ呼ばれるかな?って言うと?」
「さっき、ハルがお風呂に入ったみたいなのでパンツのぬが……履き方の分からないハルがそろそろ困る頃かなって思いまして」
あー、異世界人だからきっと分からないだろうと思って……とか考えたところで、実際にユニさんのパンツの脱がし方がわからなかったことを思い出して顔が熱くなる。
「つまり……まあ、動機は置いといて、僕に着替え方を教えてくれるために談話室に待機しててくれた、と?」
「まあ、そういうことですね」
なんか胸を張るユニさん。
かわいい……じゃなくて、暇なのかな?この子。
「あの……イヴァンさんは?」
「寝ました」
そんなわけない。
自信を持って言い切る。そんなわけない。
ていうか、ユニさんの口からどす黒い靄が出ているし……。
本人も嘘がバレてることはわかってるだろうに、なんか自信満々だ。
「………………はあああああぁ……」
なんか色々とくたびれて長い溜め息が出てくる。
「わかりました。
それじゃ、ユニ様、着替えを教えていただけませんか?」
「はいっ!」
満面の笑顔で返事をするユニさんはすごいかわいい。
顔だけはいいんだけどなぁ、この変態。
異世界実質2日目でかなりのハイペースな気がするけど、僕からすればユニさんはイケメンで可愛いし、ユニさんからすれば大好きな異世界人だしで、まあこんなもんかな?とも思う。
『なんやかんや』をやっているうちに夕食の時間になってしまったことにイヴァンさんが呼びに来てから気づいて、慌ててお風呂から出て、現在談話室で夕食中。
やっぱり貴族として色々心得ているのかユニさんは適切な距離感を保っていて、お風呂でのことなんておくびにも出さない。
むしろ僕のほうがなにかポロッと言っちゃわないか用心しながら夕食を頂いている。
今日の夕食はユニさんは魚料理をメインとした色とりどりな料理で、僕はまた魚介系のリゾットだった。
これはお医者さんから指示の出ているやつだな。
「それにしても不思議ですね。
私は魚が嫌いなのですが、この嘘もわかりますか?」
魚が嫌い、そういった辺りでユニさんの口から黒い靄が出た。
「うん、今のは嘘だよね。
黒いのでてたよ」
「それじゃ、私は牛肉が嫌いです。私は豚肉が嫌いです。私は鶏肉が嫌いです。
どれが嘘かわかりますか?」
うーん……牛肉の時に靄が出たのは間違いない。
だけど、牛肉の靄が残っているせいでちょっと分かりづらかったけど、豚肉のときも鶏肉のときも靄が出ていた気がする。
「多分だけど……全部ウソ?」
「正解です」
ニッコリと微笑むユニさん。
「それじゃ次はちょっと難しいですよ。
私は来週、王弟殿下の晩餐会に参加するために馬車に乗って王城に向かいます。
どうですか?」
「うーん……王弟殿下は嘘。あとは王城も嘘かな?
それ以外は出てなかったと思う」
文章になると靄がいつ出てるのは分かりづらい。
「正解です。
どうです?イヴァン、本当でしょう?」
「はい、驚きの事態です」
イヴァンさんは相変わらずの無表情なので驚いているように見えない。
と言うより、もはやなにを考えているかもわからなくて突然『お前を殺す』とか言ってきても不思議じゃない怖さがある。
「こうなってしまっては仕方ありません。
サクラハラ様にはモノケロス家の秘密を守るために死んでいただきましょう」
……またまたぁ。
冗談を、と思ったけど、イヴァンさんの口から黒い靄は出ていない。
そっか……僕ここで死ぬのか……。
「あの……せめて出来るだけ痛くない方法でお願いします」
リゾットを食べていたスプーンを置き、イヴァンさんに深々と頭を下げる。
それだけがなんの力もない僕に出来る唯一の抵抗だ。
「ハル、ハル、落ち着いてください。イヴァンの冗談ですよ。
………………冗談ですよねっ!?」
苦笑いしていたユニさんも、イヴァンさんのただならぬ雰囲気に慌てだした。
ユニさんにもイヴァンさんが嘘をついていないということがわかったのだろう。
「はい、もちろん冗談、いえ、嘘でございます」
しかし、変わらぬ無表情でそういうイヴァンさん。
と言うか、さっきのイヴァンさんからは黒い靄は出ていない。
つまり嘘をついていなかったはずだ。
死ぬ覚悟までしたのに、もう意味がわからない。
「イヴァン、人の悪い冗談ですよっ!」
ユニさんも流石に厳しい声でイヴァンさんを叱りつける。
「坊ちゃま、サクラハラ様、誠に申し訳ありませんでした。
しかし、これでサクラハラ様も坊ちゃまと同じく定められた対象の嘘しか見抜けないとはっきりいたしました」
「……あ、たしかに。そうですね」
「え?どういうこと?」
一人の相手の嘘しか見抜けない……?
たしかに今はイヴァンさんの嘘を見抜けなかったけど……。
「ハル、この魔法は本来かけた相手一人にしか効果がないのですよ」
あー、そういうことか。
だから、ユニさんは僕の嘘しかわからなくて、僕も――まあかけた覚えはないけど――ユニさんの嘘しかわからないのか。
「やっぱり、嘘が全部わかるようなチート魔法じゃなかったんだ」
「ちーと……?」
「えっと、強すぎてずるい魔法?みたいな意味……かな?」
僕の言葉にユニさんも苦笑い。
「そうですね、そこまで便利な魔法じゃないです。
相手が死ぬまでは対象を切り替えることもできませんし」
へー、そんな制約もあるのか。
それはたしかに不便……って。
「えええええぇぇーっ!?
ぼ、僕が死ぬまで他の人にかけられないのっ!?」
「はい、そうですね」
ニコニコとしながらあっさりうなずくユニさん。
「え?か、解除とかは……?」
「できません」
やっぱりニコニコ顔のユニさん。
なんでそんな貴重な魔法僕なんかにかけちゃったのっ!?
相手の嘘が分かるなんて、貴族からしたら使い道なんていくらでもあるだろうに……。
「サクラハラ様、この魔法はモノケロス一族にのみ使える魔法ですが、すでに世間に存在が知られている魔法でございます。
そのため、ある程度の身分の者たちは対抗するすべを用意しております」
「そうですそうです。
所詮一人にしか使えずに、しかも、嘘を見破るというだけの魔法です。
今となっては配偶者の不義を見破る魔法という以上の価値はありませんからどうかお気になさらずに」
イヴァンさんとユニさん二人がかりでそう言われて、僕も一安心……するにはユニさんがなんか不穏なこと言ってるな?
「配偶者の不義って?」
「昔はともかく、今は婚姻の際に配偶者にかける使い方が一般的なんです。
もし浮気でもしたらすぐわかりますから、処罰して、次婚姻を結ぶことがあったらその時にまたかける、と言った感じですね」
なんてこと無いように話すけど、次の人にかけられるようになるって、その処罰、死罪じゃん。
浮気なんてするつもり無い……と言うか、出来るような身分じゃないけど、色々縮み上がる。
「あはは、そんなに怖がらなくていいですよ。
私はハルがなにをしようと許しますから」
ちょっ、なに言ってるのっ!?
際どいことを言い出したユニさんに驚いて思わずイヴァンさんとヨハンナさんの様子をうかがうけど、二人とも聞こえてないかのように表情ひとつ変えていない。
「それに、そもそも、ハルとの関係のほうが浮気のようなものですからね」
自嘲気味に言うユニさん。
関係云々って言葉を人前で言っちゃってるのも気になるけど、今は浮気という言葉の方が気になる。
僕との関係が浮気ということは……。
「え?ユニさんって結婚してたの?」
「いいえ、結婚はしていませんよ。
いませんが……許嫁はいますし、その子とかは別として、私は跡取り息子なのでいつか正式に何処かの貴族の娘を娶ることになりますね」
あー、そうか、貴族社会だとそういう事はあるよなぁ……。
うわっ、想像以上にショックだ……。
自分で思ってたより、ユニさんのこと好きになってたみたいだな、僕。
「そんな顔しないでください。
こちらの世界ではよくあることなのですよ。
配偶者の他に本当に愛する愛人を持つということは」
……なんかすごい恥ずかしいこと言われた気がするぞ。
「ま、まあ、お互いまだ出会って2日目。
今はまだ色々と気分が盛り上がっちゃってるから、そういうことはもう少し時間を置いて考えよう」
「はい」
僕の逃げとしか取れない言葉に笑顔でうなずくユニさん。
可愛い。
これで異世界人マニアでなければ最高の彼氏なのになぁ。
いや、それじゃ僕とこんな事にならなかったか……。
――――――
かなり恥ずかしいやりとりの後、しばらく二人とも無言で食事を進める。
き、気まずい……。
あ、そうだ。どうせ聞かなきゃいけないことなんだから、色々頭を整理するためにも今聞いてしまおう。
「ユニさん。そろそろはっきり教えてほしいんだけど……。
僕はこれからどうなるの?」
「これからと言いますと?」
「これから僕はどう過ごしたらいいのかな?
えっと……人体実験とか……するんでしょ?」
自分で言いながら不安になったけど、そういえば勝手に僕がそういう妄想をしていただけでユニさんは一言もそんなこと言ってなかったな。
もしかしたら純粋に保護をしてくれていたつもりなのかもしれない。
そうだとしたらなんか僕最低なことを言っている気が……。
「はい、そうですね。最初はそのつもりでした」
ユニさんの口から黒い靄は出ていない。
……わあい……便利だなぁ……。
絶望した顔をしている僕を見て、ユニさんはクスクスと笑う。
「でも、最初からそんなに痛いこととかはしないつもりでしたし、今となってはそんなこと……ハルに嫌われてしまうようなことはできません」
お、おおう?
いき……られる……?
「極力、痛いことはしないようにします」
実験はするんだ……。
まあ、痛いことはしないって言葉を信じよう。
「えっと、痛いことしないならそれでいいよ。
痛いことも少しなら我慢する……」
「本当ですかっ!?」
すごい食いついてきた。怖い。
「少しだよっ!?ほんの少しだけだよっ!?」
「もちろんですっ!
あーっ、どうしましょうか……。あれは諦めてたけど少しなら……。
あっちは無理ですかね?大丈夫……ですよね。
いや、いっそのことあれならギリギリ……耐えられ……る?」
なんかよく分からないけど、怖いこと言い出した。
「あの、多分僕この世界基準の一般人と変わらないか、貧弱なくらいだからお手柔らかにね……」
機械に囲まれてのんのんと暮らしていた現代人が、鎌倉時代のお侍さんと同程度の耐久力を持っているとは到底思えない。
伝承とやらに残る日本人感覚で色々やられたら、まあ、死ぬな。
「もちろんわかってます。
……まずは耐久試験からやりましょうね……うへへへ……」
楽しそうにやばい笑い声を漏らしているユニさん。
耐久試験って、人間相手にするものの響きじゃないんだけど……本当に大丈夫かな?
「お、お手柔らかにね……」
ユニさんが楽しそうだからまあいいかと思ってしまうのは惚れた弱みというやつなのかもしれない……。
――――――
夕食が終わって明日までなんの予定もないということでとりあえず寝室でゴロゴロしている。
今日はいろいろあって疲れた……特に肉体的に。
精神的には朝よりだいぶ前向きになっていると思う。
まだ家族のことを考えると泣きそうだけど。
コンコンコン。
家族のことを思い出してしまったせいで案の定泣きそうになってきたので、お風呂にでも入って気分を変えようと思ったところでドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼いたします。
当座の着替えをお持ちいたしました」
イヴァンさんが夕食の時に話にあった着替えを持ってきてくれた。
銀色のお盆の上に乗せて持ってきてくれた衣類を受け取る。
……うわぁ……持っているだけでサラサラして気持ちいい……。
「ありがとうございます。
こんないいものを……申し訳ありません」
「いえ、どうかお気になさらずに」
…………。
…………?
普段ならここで一礼して帰っていくイヴァンさんが帰っていかない。
「……あ、あの?」
「…………いえ、それでは失礼いたします」
僕が声をかけると、いつものように一礼して帰っていくイヴァンさん。
なにか言いたげにも見えたけど……いつもの無表情のせいでよく分からなかった。
ユニさんとの関係を咎めようとかそういう雰囲気ではなかったと思うけど……。
不思議に思うけど考えても答えは出ない。
いっそのことはっきり聞いちゃえばよかったな……。
とは言え、今更呼び戻すのも気が引ける。
まあ、また次の機会に聞けばいいや。
そう気楽に考えて、もらったばかりの着替えを持ってお風呂に向かった。
――――――
やっぱりお風呂はいい。
日本人ならお風呂だよねっ!心の底からそう思う。
お風呂に入っていると疲れと一緒にストレスも消えていく気がして、明日から頑張ろうって気になれる。
本当にこの世界にお風呂があってよかった。
シャワーはないけどボディソープもシャンプーも近いものがあるしお風呂に関しては言うことない。
全身さっぱりして、足取り軽く脱衣所に出て、着替えを手に取り……。
途方に暮れる。
……着方がわからない。
シャツはシャツだし、パジャマ?と思われる上着もいい。
首から足首あたりまですっぽりと覆うようにできていて、見た感じやたらと長いシャツかワンピースみたいな感じだ。
ちょっと着慣れないけど、頭からかぶればいいだけみたいだからこれは大丈夫。
大丈夫どころかすごい肌触りが良くて、着たらすごい気持ちよさそうだ。
日本で言うシルクみたいな高級品なんだと思う。
問題は……パンツだ。
履き方とか以前に構造がわからない……。
こんなふんどしだかおむつだかよくわからないもの、どうしろと……。
いっその事ノーパンで……とも考えるけど、高級そうなシャツとパジャマ?の素材を考えるとかなり気が引ける。
ならもともと履いてたパンツを履くしか無いかと思うけど……せっかく全身さっぱりしたのに今更汚れたパンツなんて履きたくない……。
仕方ない……イヴァンさんを呼んで履き方を聞こう……。
そう考えたところで、さっきのイヴァンさんの様子がおかしかったのはこの件だったのかな、と思う。
きっと、着替え方を教えてあげようか、それとも差し出がましいか、とか考えてくれてたのだろう。
なんかイヴァンさんには頭上がらなくなりそうだな、僕。
まあ、今後のためにも一度しっかりと教えてもらうことにしよう。
……パンツ履けません、なんて子供みたいで恥ずかしいけど……。
そんな事を考えながら、腰にバスタオル――これもすごいフカフカで気持ちいい――を巻いただけの姿で寝室に戻り、サイドテーブルに置かれたベルを鳴らす。
リンリガチャッ。
鳴らした途端に、ドアが開いた。
ずいぶん反応が早い。
隣で念のため待機でもしていてくれたかな?あれ?でもノックなかったよな?
とか考えるまもなく……。
「ハルっ!?御用ですかっ!?」
僕に用意されたのと同じようなワンピースみたいな寝巻きを着たユニさんが入ってきた……。
「なんでっ!?」
そっかぁ……イヴァンさんが本当にいいたかったのはこのことかぁ……。
「そろそろ呼ばれるかなって、ドアの前で待機してましたっ!」
それを聞いて、ドアの前できちんと正座して待っているユニさんが思い浮かんだ。
……かわいい。
あまりの驚愕でそんなどうでもいいことが頭から離れない。
一度落ち着いて頭を整理しよう。
「えっと……そろそろ呼ばれるかな?って言うと?」
「さっき、ハルがお風呂に入ったみたいなのでパンツのぬが……履き方の分からないハルがそろそろ困る頃かなって思いまして」
あー、異世界人だからきっと分からないだろうと思って……とか考えたところで、実際にユニさんのパンツの脱がし方がわからなかったことを思い出して顔が熱くなる。
「つまり……まあ、動機は置いといて、僕に着替え方を教えてくれるために談話室に待機しててくれた、と?」
「まあ、そういうことですね」
なんか胸を張るユニさん。
かわいい……じゃなくて、暇なのかな?この子。
「あの……イヴァンさんは?」
「寝ました」
そんなわけない。
自信を持って言い切る。そんなわけない。
ていうか、ユニさんの口からどす黒い靄が出ているし……。
本人も嘘がバレてることはわかってるだろうに、なんか自信満々だ。
「………………はあああああぁ……」
なんか色々とくたびれて長い溜め息が出てくる。
「わかりました。
それじゃ、ユニ様、着替えを教えていただけませんか?」
「はいっ!」
満面の笑顔で返事をするユニさんはすごいかわいい。
顔だけはいいんだけどなぁ、この変態。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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