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第1章 異世界で暮らそう
9話 変態
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イヴァンさんたちにはなんとか帰ってもらった。
かなり遠回しな表現でやんわりとだったけど怒られた。
本当に申し訳ない。
――――――
「まさかユニさんが年下だったとはなぁ……」
「私もハルが年上とは思っていませんでした。すみません……」
「だから、それはいいって」
さん付けについて少し揉めたけど、今まで通りユニさんはハル、僕はユニさんでいくことでお互い納得した。
と言うか、「ユニと呼んでほしい」と強硬に言い張るユニさんを説得するのが面倒くさかった。
流石に僕を拾ってくれた恩人――しかも貴族様――を呼び捨てにするのは忍びなかったのでさん付けで勘弁してもらった。
ユニさんが年下だったっていうのには驚いたけど、年下だと思うと垣間見えたポンコツさもなんか理解できる気もする。
大好きな動物を見てテンション上がっちゃったと思えば……まあ僕も覚えがないわけじゃない。
「それにしてもユニさんは年齢の割に背が大きいよね。
僕は平均より少しだけ小さい方だから羨ましいよ。
ほとんど平均だけどねっ!」
平均より5センチも小さくない。
ほぼ平均。ここは譲れないところだ。
「えっと、私の場合、種族全体として長身ですので年齢なりの大きさですよ。
同年代はだいたい同じくらいの身長です」
そうなんだ?実に羨ましい。
っと、つい世間話に入っちゃったけど、ちゃんと臭いのことを解決しないと。
「それで、話は戻るけど……」
「あ……はい……触っていいんですか?」
ん?触っていいって?
なんかユニさんが意味の分からないことを言って、赤くなった顔をうつむかせる。
何の話だろう?
………………あー……触るかって言ったなぁ。
「その話じゃないっ!」
「いたっ!」
思わず手が出た。
あまりにあまりなことを言い出したので思わず軽くだけど頭を叩いて突っ込んでしまった。
打首だ……。
なんとかギリギリ生き残ってきたと思ったのに……。
「ハルに叩かれた……えへへ……」
なんかユニさん嬉しそうだった。
うん、気持ち悪い。
――――――
「それで、臭いの話に戻るけど」
「はい……」
ポンコツっぷりを加速させるユニさんに流石にキレて、ちょっと説教していたせいでユニさんも神妙な雰囲気で聞いてくれる。
生殺与奪を握られていることなんて忘れるくらいのガチ説教だった。
だって、僕の体から嗅ぐと酔っ払うような臭いが出ているのだ。
自分で言ってて意味がわからないけど、これは死活問題だ。
「僕から女性みたいな臭いが出てることはわかった。
これは女性ならみんな出てるってわけじゃないの?」
なんかさっきの話では、稀に出る人もいる、みたいに言ってた気がする。
僕の質問にユニさんは少し唸りながら考え、言いづらそうに口を開く。
「あの……そのですね……」
「恥ずかしがらないっ!
僕にとっては死活問題なんだから、理科の実験かなんかだと思って話して」
「リカの実験……?
よく分からないけど分かりました。極力恥ずかしがらずに話します」
是非お願い。
言いづらい話題なのは分かるけど、いちいち恥ずかしがってては話が進まない。
「えっと……私も詳しく学んだわけじゃないので一般的な認識や体験談とかになりますが……。
まず、女性なら誰でも出ている、っていうものではないですね。
何十人に一人……もっとですかね?まあ、とにかくかなり珍しい人になります。
私も生まれてこの方二人にしか出会ったことがありません」
「二人はいたんだ?そういう人」
「はい、一人は私の乳母でした。もう一人は神殿の同僚にいます。
ふたりともすごいモテます」
最後の情報は必要なんだろうか?
いや、臭いのせいだとすると必要な情報か。
「モテるのはやっぱり臭いのせいとか?」
「うーん、話題に出しておいてなんですが、どうでしょう?
あ、そもそも、普通は常に出ているわけではないのでモテるのとは直接関係はないかもしれません」
あれ?常に出ているものじゃないんだ?
なんかユニさんの様子から垂れ流しにされてるものかと思ってたけど。
「えっと、どんな時に出るものなの?」
「きちんと解明されてはいないのですが……。
あの……その……女性が妊娠しやすい時期に出るっていう俗説はあります」
あー、うん、そこは深く突っ込むのはやめとこう。
うーん、本当にそういうのに関係ある臭いとして、僕の場合は何がトリガーで出るんだろう?
「自分じゃわかんないんだけど、ユニさんからだと僕の場合どういう時にその臭いしてる?」
「え、どういうときというか……常にしてますよ?」
はぁ?
「え?今もしてるの?」
「はい……あ、いや、確認してみないと……」
また僕に顔を寄せてこようとするユニさん。
「はい、ストップ。
そのままでも臭い分かるのはわかってるんだから、そこで嗅いで。
というか、いま『はい』って言ったよね?」
手で制すると残念そうな顔をする。
どれだけ臭いかぎたいんだ、この人は。
「えへへ……はい、今もしています」
ごまかすように笑うユニさん。
かわいいなぁ、もう。
なんかユニさんが年下だと判明してから、ユニさんに幼い仕草が増えた気がする。
顔は美形さんなんだけどなぁ。
「常に出てるってお風呂入ってないからなのかな?
ていうか、さっきっからうなじのあたりかぎたがってるけど、そこら辺から臭いしてるの?」
そういや、牢獄でもさり気なさをよそおって臭い嗅がれてた気がする。
「うーん、どこからしているというわけではないですけど、うなじの辺りと腰の辺りは特に濃い気が……はっ!?」
ヤバって顔をするユニさん。
僕にすがりついて泣いてたときも、泣き止んでからしばらく顔を上げないと思ったら臭い嗅いでたのか?
軽く引いていると、ふと思いつく。
ユニさんは僕のことを女性だと思っていた。
更に年下……だいたい小学生か中学校入りたてくらいの女の子だと思っていたっぽい。
つまり、ユニさん主観としては年下の女の子のうなじの匂いを嗅いだり股間の匂いを嗅いだりしていたということになる。
変態だ。
まごうことなき変態だ。
「どうしましたか?」
ドン引きしている僕にユニさんが声をかける。
「ひぃっ」
思わず悲鳴を漏らし、椅子を引きずって遠くに逃げようとしてしまう。
「え?え?ハル?なんですかっ!?」
僕の態度にうろたえるユニさん。
僕の中のイケメンユニさん象が完全に崩れ去った瞬間だった。
――――――
「それで、お風呂入ったら臭いは消えるかな?」
「あの?それよりさっきのは……」
「お風呂入ったら臭い消えるかな?」
ユニさんがさっきの僕の態度について聞こうとしてくるけど、一切答える気はない。
ユニさんの変態性は僕が墓の中まで持っていこう。
顔だけはいいのになぁ……この人……というか、この子。
「……?
えっと、お風呂でしたっけ?
例の同僚とは何日か泊まり込みで研究したことがありますけど、その時も匂いがしてくるようになったとかありませんでしたから、お風呂は関係ないと思います。
ただ、お風呂入らなかったから出てくるってわけじゃないだけで、匂いが出ているときはお風呂入れば薄くなるらしいですよ」
「そうなんだ?
それじゃ、出っぱなしの理由はともかく、お風呂に入れば臭いの効果もましになるのかなぁ?」
こんなよくわからない臭い振りまいたまま歩きたくない。
「匂いの効果……ですか?」
不思議そうな顔をするユニさん。
んん?
「そう、匂いの効果。
なんか麻薬みたいに夢中で嗅ぎ続けたり、お酒で酔ったみたいになったり、人目を気にせずに変態行為をし始めたり……」
「あはは、なんですか、それ」
何いってんだという感じで笑い飛ばすユニさん。
いや、全部お前のしたことだよ……とは僕の身では突っ込めない。
「一昔前はフェロモンとも言われてましたが、今は単なる匂いでしか無いと解明されてますよ。
まあ、いい匂いなので好感触にはなりますが、たまにしか出ませんし香水のほうが実用的で好まれてますね」
え?そうなの?
たまに出るだけのものが常に出続けてたり、嗅いだ人が変態行為をしだしたり、なんか話を聞いていると違うものに思えてくる。
といっても、変態行為をしてるのはユニさんだけか。
アレクさんとかイヴァンさんは別に普通だったな。
「うーん……だんだんわからなくなってきたけど、本当に僕とその人はおんなじ臭いがしてるんだよね?」
「あ、すみません。説明が悪かったかもしれません。
匂いが出る人も全く同じ匂いというわけではないんです」
え?そうなの?
「よく花の匂いに例えられますが、共通しているのは男性にだけ感じられるいい匂いがするということだけです。
匂いの種類自体は人それぞれ千差万別……と言われています。
実際にそんなに出会ったことがないので本当かは分かりませんけどね。
少なくとも、実際、乳母と同僚の匂いも違いましたし、ハルの匂いとも全然違います。
ハルのほうが断然いい匂いです」
そう言って、うっとりと右手の臭いを嗅いでいるユニさん。
何やってるんだろう?
「そうなんだ?
それじゃ、僕は日本の匂いがしているとでも思っておけばいいのかな?」
「いいですねっ!ニホンの匂いっ!」
なんかユニさんのテンションが上った。
本当にこの人はニホンが……異世界が好きだなぁ。
「結局のところ、ユニさんから見て僕はこのままでも問題はないのかな?」
「うーん、そうですね……。
一番の問題は初対面の相手にはほぼ間違いなく女性だと思われることだと思いますが……。
まあ、これは基本的には香水をつければ防げると思いますし、大きな問題にはならないと思います」
性別を間違われるのは面倒くさいけど……まあ、香水つければ大丈夫と言うならそれを信じよう。
そもそも、この屋敷にいる限りはもう間違われることはないだろうし。
ユニさんの奇行は気になるけど、お風呂入ったらましになると信じよう。
というか、イヴァンさんやアレクさんの様子を見る限りユニさんが変態なだけだ。
権力を持った変態……怖いな。
――――――
「あれ?そういえば、マリーナさんの事もこの件からみなの?」
人目をはばかる?話がおわって、再びイヴァンさんやヨハンナさんを呼んでお茶会再開中。
すぐにユニさんがイヴァンさんになにか耳打ちをしていたけど、きっと僕の性別の話だろう。
耳打ちをされた後もイヴァンさんとヨハンナさんの様子に変わりはなく、僕の言葉遣いが変わっていることにもなんのツッコミもなかった。
最悪、イヴァンさんから口調について咎められるかと思ったけど、なにもない。
「ええ、そうですね。
はじめはハルのことを女性だと思っていたので、マリーナをと思っていたのですが……。
男性かもしれないと医師より聞き、保留としていました。
色々判明した今ですと、年齢も全然違いますしマリーナの件に限らず考え直さないとですね」
そういうことだったのか。
顔も見たこと無いけれど、色々振り回してしまったマリーナさんには申し訳なく思う。
「坊ちゃま、取り急ぎのことといたしましてサクラハラ様のお召し物をどうするかですが……」
お召し物……ああ、服のことか。
替えの服でも用意してくれるのだろうか?それならありがたいな。
「新たに作らせている分については全て作り直すように指示を出してください。
取り急ぎの物については、仕方ないので古着でかまいません。
細かい手配はイヴァンに任せます」
「かしこまりました」
ユニさんの指示に恭しく頭を下げるイヴァンさん。
って、ちょっと!?
「つ、作り直しなんていいよっ!
もったいないからそのままでいいって」
僕用に服を新しく作らせているってことももちろんだけど、せっかく作ったものを全部新しく作り直すっていうのはいくらなんでも意味がわからない。
「え?でも……作らせているのは全部女性のものですよ?」
あー、そうだった……。
女だと思われてたんだっけ、僕。
「…………ごめんなさい、作り直してもらってください。
あ、いや、全部古着でいいよ、僕っ!」
そうだ。古着があるのなら僕はそれでかまわない。
と思ったんたけど、ユニさんはすごい渋い顔をしている。
嫌がってるのがすごい分かるけど、僕のために新しい服なんて作られたら申し訳なくてしょうがなくなる。
「サクラハラ様」
ここは譲らないぞと黙ってユニさんの顔を見つめていると、イヴァンさんに声をかけられた。
「サクラハラ様、お召し物に関しましてはそういうものでございます」
そういうもの。
色々と理由が絡み合って結局は作らなければいけない、『そういうもの』なのだ。
「あ、はい……わかりました……」
そう言われてしまっては、ユニさんにお世話になっている身の僕としては素直に納得するしか無い。
出会って一日程度しか経ってないのに、僕の扱いを完璧に心得ているな、この人。
その後も装飾品やら家具やら香水やら色々と僕の身の回りの話になったけど、僕の意見は全て『そういうもの』で却下された。
しまいにはイヴァンさんだけでなくユニさんまで使ってきたけど、この世界の常識がわからない僕には何も言い返せなかった。
面倒なことを覚えさせてしまった気がする。
かなり遠回しな表現でやんわりとだったけど怒られた。
本当に申し訳ない。
――――――
「まさかユニさんが年下だったとはなぁ……」
「私もハルが年上とは思っていませんでした。すみません……」
「だから、それはいいって」
さん付けについて少し揉めたけど、今まで通りユニさんはハル、僕はユニさんでいくことでお互い納得した。
と言うか、「ユニと呼んでほしい」と強硬に言い張るユニさんを説得するのが面倒くさかった。
流石に僕を拾ってくれた恩人――しかも貴族様――を呼び捨てにするのは忍びなかったのでさん付けで勘弁してもらった。
ユニさんが年下だったっていうのには驚いたけど、年下だと思うと垣間見えたポンコツさもなんか理解できる気もする。
大好きな動物を見てテンション上がっちゃったと思えば……まあ僕も覚えがないわけじゃない。
「それにしてもユニさんは年齢の割に背が大きいよね。
僕は平均より少しだけ小さい方だから羨ましいよ。
ほとんど平均だけどねっ!」
平均より5センチも小さくない。
ほぼ平均。ここは譲れないところだ。
「えっと、私の場合、種族全体として長身ですので年齢なりの大きさですよ。
同年代はだいたい同じくらいの身長です」
そうなんだ?実に羨ましい。
っと、つい世間話に入っちゃったけど、ちゃんと臭いのことを解決しないと。
「それで、話は戻るけど……」
「あ……はい……触っていいんですか?」
ん?触っていいって?
なんかユニさんが意味の分からないことを言って、赤くなった顔をうつむかせる。
何の話だろう?
………………あー……触るかって言ったなぁ。
「その話じゃないっ!」
「いたっ!」
思わず手が出た。
あまりにあまりなことを言い出したので思わず軽くだけど頭を叩いて突っ込んでしまった。
打首だ……。
なんとかギリギリ生き残ってきたと思ったのに……。
「ハルに叩かれた……えへへ……」
なんかユニさん嬉しそうだった。
うん、気持ち悪い。
――――――
「それで、臭いの話に戻るけど」
「はい……」
ポンコツっぷりを加速させるユニさんに流石にキレて、ちょっと説教していたせいでユニさんも神妙な雰囲気で聞いてくれる。
生殺与奪を握られていることなんて忘れるくらいのガチ説教だった。
だって、僕の体から嗅ぐと酔っ払うような臭いが出ているのだ。
自分で言ってて意味がわからないけど、これは死活問題だ。
「僕から女性みたいな臭いが出てることはわかった。
これは女性ならみんな出てるってわけじゃないの?」
なんかさっきの話では、稀に出る人もいる、みたいに言ってた気がする。
僕の質問にユニさんは少し唸りながら考え、言いづらそうに口を開く。
「あの……そのですね……」
「恥ずかしがらないっ!
僕にとっては死活問題なんだから、理科の実験かなんかだと思って話して」
「リカの実験……?
よく分からないけど分かりました。極力恥ずかしがらずに話します」
是非お願い。
言いづらい話題なのは分かるけど、いちいち恥ずかしがってては話が進まない。
「えっと……私も詳しく学んだわけじゃないので一般的な認識や体験談とかになりますが……。
まず、女性なら誰でも出ている、っていうものではないですね。
何十人に一人……もっとですかね?まあ、とにかくかなり珍しい人になります。
私も生まれてこの方二人にしか出会ったことがありません」
「二人はいたんだ?そういう人」
「はい、一人は私の乳母でした。もう一人は神殿の同僚にいます。
ふたりともすごいモテます」
最後の情報は必要なんだろうか?
いや、臭いのせいだとすると必要な情報か。
「モテるのはやっぱり臭いのせいとか?」
「うーん、話題に出しておいてなんですが、どうでしょう?
あ、そもそも、普通は常に出ているわけではないのでモテるのとは直接関係はないかもしれません」
あれ?常に出ているものじゃないんだ?
なんかユニさんの様子から垂れ流しにされてるものかと思ってたけど。
「えっと、どんな時に出るものなの?」
「きちんと解明されてはいないのですが……。
あの……その……女性が妊娠しやすい時期に出るっていう俗説はあります」
あー、うん、そこは深く突っ込むのはやめとこう。
うーん、本当にそういうのに関係ある臭いとして、僕の場合は何がトリガーで出るんだろう?
「自分じゃわかんないんだけど、ユニさんからだと僕の場合どういう時にその臭いしてる?」
「え、どういうときというか……常にしてますよ?」
はぁ?
「え?今もしてるの?」
「はい……あ、いや、確認してみないと……」
また僕に顔を寄せてこようとするユニさん。
「はい、ストップ。
そのままでも臭い分かるのはわかってるんだから、そこで嗅いで。
というか、いま『はい』って言ったよね?」
手で制すると残念そうな顔をする。
どれだけ臭いかぎたいんだ、この人は。
「えへへ……はい、今もしています」
ごまかすように笑うユニさん。
かわいいなぁ、もう。
なんかユニさんが年下だと判明してから、ユニさんに幼い仕草が増えた気がする。
顔は美形さんなんだけどなぁ。
「常に出てるってお風呂入ってないからなのかな?
ていうか、さっきっからうなじのあたりかぎたがってるけど、そこら辺から臭いしてるの?」
そういや、牢獄でもさり気なさをよそおって臭い嗅がれてた気がする。
「うーん、どこからしているというわけではないですけど、うなじの辺りと腰の辺りは特に濃い気が……はっ!?」
ヤバって顔をするユニさん。
僕にすがりついて泣いてたときも、泣き止んでからしばらく顔を上げないと思ったら臭い嗅いでたのか?
軽く引いていると、ふと思いつく。
ユニさんは僕のことを女性だと思っていた。
更に年下……だいたい小学生か中学校入りたてくらいの女の子だと思っていたっぽい。
つまり、ユニさん主観としては年下の女の子のうなじの匂いを嗅いだり股間の匂いを嗅いだりしていたということになる。
変態だ。
まごうことなき変態だ。
「どうしましたか?」
ドン引きしている僕にユニさんが声をかける。
「ひぃっ」
思わず悲鳴を漏らし、椅子を引きずって遠くに逃げようとしてしまう。
「え?え?ハル?なんですかっ!?」
僕の態度にうろたえるユニさん。
僕の中のイケメンユニさん象が完全に崩れ去った瞬間だった。
――――――
「それで、お風呂入ったら臭いは消えるかな?」
「あの?それよりさっきのは……」
「お風呂入ったら臭い消えるかな?」
ユニさんがさっきの僕の態度について聞こうとしてくるけど、一切答える気はない。
ユニさんの変態性は僕が墓の中まで持っていこう。
顔だけはいいのになぁ……この人……というか、この子。
「……?
えっと、お風呂でしたっけ?
例の同僚とは何日か泊まり込みで研究したことがありますけど、その時も匂いがしてくるようになったとかありませんでしたから、お風呂は関係ないと思います。
ただ、お風呂入らなかったから出てくるってわけじゃないだけで、匂いが出ているときはお風呂入れば薄くなるらしいですよ」
「そうなんだ?
それじゃ、出っぱなしの理由はともかく、お風呂に入れば臭いの効果もましになるのかなぁ?」
こんなよくわからない臭い振りまいたまま歩きたくない。
「匂いの効果……ですか?」
不思議そうな顔をするユニさん。
んん?
「そう、匂いの効果。
なんか麻薬みたいに夢中で嗅ぎ続けたり、お酒で酔ったみたいになったり、人目を気にせずに変態行為をし始めたり……」
「あはは、なんですか、それ」
何いってんだという感じで笑い飛ばすユニさん。
いや、全部お前のしたことだよ……とは僕の身では突っ込めない。
「一昔前はフェロモンとも言われてましたが、今は単なる匂いでしか無いと解明されてますよ。
まあ、いい匂いなので好感触にはなりますが、たまにしか出ませんし香水のほうが実用的で好まれてますね」
え?そうなの?
たまに出るだけのものが常に出続けてたり、嗅いだ人が変態行為をしだしたり、なんか話を聞いていると違うものに思えてくる。
といっても、変態行為をしてるのはユニさんだけか。
アレクさんとかイヴァンさんは別に普通だったな。
「うーん……だんだんわからなくなってきたけど、本当に僕とその人はおんなじ臭いがしてるんだよね?」
「あ、すみません。説明が悪かったかもしれません。
匂いが出る人も全く同じ匂いというわけではないんです」
え?そうなの?
「よく花の匂いに例えられますが、共通しているのは男性にだけ感じられるいい匂いがするということだけです。
匂いの種類自体は人それぞれ千差万別……と言われています。
実際にそんなに出会ったことがないので本当かは分かりませんけどね。
少なくとも、実際、乳母と同僚の匂いも違いましたし、ハルの匂いとも全然違います。
ハルのほうが断然いい匂いです」
そう言って、うっとりと右手の臭いを嗅いでいるユニさん。
何やってるんだろう?
「そうなんだ?
それじゃ、僕は日本の匂いがしているとでも思っておけばいいのかな?」
「いいですねっ!ニホンの匂いっ!」
なんかユニさんのテンションが上った。
本当にこの人はニホンが……異世界が好きだなぁ。
「結局のところ、ユニさんから見て僕はこのままでも問題はないのかな?」
「うーん、そうですね……。
一番の問題は初対面の相手にはほぼ間違いなく女性だと思われることだと思いますが……。
まあ、これは基本的には香水をつければ防げると思いますし、大きな問題にはならないと思います」
性別を間違われるのは面倒くさいけど……まあ、香水つければ大丈夫と言うならそれを信じよう。
そもそも、この屋敷にいる限りはもう間違われることはないだろうし。
ユニさんの奇行は気になるけど、お風呂入ったらましになると信じよう。
というか、イヴァンさんやアレクさんの様子を見る限りユニさんが変態なだけだ。
権力を持った変態……怖いな。
――――――
「あれ?そういえば、マリーナさんの事もこの件からみなの?」
人目をはばかる?話がおわって、再びイヴァンさんやヨハンナさんを呼んでお茶会再開中。
すぐにユニさんがイヴァンさんになにか耳打ちをしていたけど、きっと僕の性別の話だろう。
耳打ちをされた後もイヴァンさんとヨハンナさんの様子に変わりはなく、僕の言葉遣いが変わっていることにもなんのツッコミもなかった。
最悪、イヴァンさんから口調について咎められるかと思ったけど、なにもない。
「ええ、そうですね。
はじめはハルのことを女性だと思っていたので、マリーナをと思っていたのですが……。
男性かもしれないと医師より聞き、保留としていました。
色々判明した今ですと、年齢も全然違いますしマリーナの件に限らず考え直さないとですね」
そういうことだったのか。
顔も見たこと無いけれど、色々振り回してしまったマリーナさんには申し訳なく思う。
「坊ちゃま、取り急ぎのことといたしましてサクラハラ様のお召し物をどうするかですが……」
お召し物……ああ、服のことか。
替えの服でも用意してくれるのだろうか?それならありがたいな。
「新たに作らせている分については全て作り直すように指示を出してください。
取り急ぎの物については、仕方ないので古着でかまいません。
細かい手配はイヴァンに任せます」
「かしこまりました」
ユニさんの指示に恭しく頭を下げるイヴァンさん。
って、ちょっと!?
「つ、作り直しなんていいよっ!
もったいないからそのままでいいって」
僕用に服を新しく作らせているってことももちろんだけど、せっかく作ったものを全部新しく作り直すっていうのはいくらなんでも意味がわからない。
「え?でも……作らせているのは全部女性のものですよ?」
あー、そうだった……。
女だと思われてたんだっけ、僕。
「…………ごめんなさい、作り直してもらってください。
あ、いや、全部古着でいいよ、僕っ!」
そうだ。古着があるのなら僕はそれでかまわない。
と思ったんたけど、ユニさんはすごい渋い顔をしている。
嫌がってるのがすごい分かるけど、僕のために新しい服なんて作られたら申し訳なくてしょうがなくなる。
「サクラハラ様」
ここは譲らないぞと黙ってユニさんの顔を見つめていると、イヴァンさんに声をかけられた。
「サクラハラ様、お召し物に関しましてはそういうものでございます」
そういうもの。
色々と理由が絡み合って結局は作らなければいけない、『そういうもの』なのだ。
「あ、はい……わかりました……」
そう言われてしまっては、ユニさんにお世話になっている身の僕としては素直に納得するしか無い。
出会って一日程度しか経ってないのに、僕の扱いを完璧に心得ているな、この人。
その後も装飾品やら家具やら香水やら色々と僕の身の回りの話になったけど、僕の意見は全て『そういうもの』で却下された。
しまいにはイヴァンさんだけでなくユニさんまで使ってきたけど、この世界の常識がわからない僕には何も言い返せなかった。
面倒なことを覚えさせてしまった気がする。
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