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「企業舎弟の遥かな野望」ー40(決心)

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第四十一話「決心」 

東京地検「特捜部」の会議室では沈痛で重い空気が漂っていた。

 今朝方、本郷は検事正に呼び出され、一連の袴田の収賄疑惑への捜査をうち切れと言う指示を受けた。苦々しく本郷にその指示を下す検事正の表情を読み取り、大きな「圧力」が掛かったことを察した。

 ーーーしかし、あと一歩で......

 ーーーわかってる。堪えてくれ......

 本郷はそれ以上食い下がっても無駄だと、検察正室を出た。

 会議室に揃った「特捜検事」や「検察事務官」たちの顔にはやり切れぬ悔しさと「不条理」への憤りに溢れていた。

 ーーーあの妖怪め......

  本郷はごつい拳を机に叩きつけた。

 結局、「東京地検特捜部」としての収穫は何一つなく、この半年以上の苦労は水泡に帰した。
 羽田も黒沢も放心状態で、席を立つ気力さえ奪われていた。

 ーーー羽田さん......「正義」ってなんですか? 特捜は、でしたよね?

 黒澤は羽田に食ってかかるが、それを受けて何かを返せる羽田でもなかった。

 ーーー「悪」は蔓延はびこるか......

  羽田は初めて「検事」という仕事が嫌になった。

 ーーーーーーーーーー

 小野田は、傷害事件の当事者となった為「起訴保留」という形で周辺捜査を含め名古屋地検預かりの「捜査対象者」という扱いで今は名古屋市内の警察病院で加療中であった。小野田を刺した男は、たまたま道で肩が当たりカッとなって刺したと自供しているだけで、背後関係など誰かの指示で犯行に及んだということは一切語らず、そのまま単独犯として「傷害容疑」で起訴された。

 明石が死に、柴田は起訴され、滝川も起訴されかつ余罪追求の身でFDCの幹部のほとんどが壊滅状態であった。
 しかし、そのどさくさに紛れ役員昇格を果たし、FDCの新しい顔として木下は持ち前の狡猾さと人|たらしな話術でFDC壊滅の窮地をかろうじて支えていた。

 小野田は病室のベッドで自分が今まで何をして来たのか整理していた。ひたすら会社を大きくする為に身を削り時には手を汚し、黒い付き合いもしてきた。
 そして起業して会社を大きくする過程でこの国に巣喰う最も汚い連中が誰なのかを知り、その者たちがこれから先もこの国を操っていくことに憤りと絶望を感じた。
 やがて、自分の天命としてこの醜い「悪」を叩き潰すことを密かな「野望」として抱くようになった。

 しかし、今、自分が叩きのめそうとしていた腐りきった「巨大組織」に裁かれようとしている。所詮はドンキホーテだったのか。長いものには巻かれろ、弱いものは淘汰され強者に媚びへつらい生きていくしかないのかーーーと、病室の天井の一点を睨みつけていた。

 病室に橙子がやってきた。

ーーー元気そうじゃない。

ーーーああ、気の強いアンタの血がされては死ねないだろ
ーーーふふ、そんだけ喋れたら大丈夫ね

 橙子は声音を潜めて小野田の耳元で囁く

ーーーを、一か八かの「勝負」に使う。いいわね?

ーーーあぁ。アンタに預けた時からどうなろうと覚悟は出来ている。

 健斗は自分の命を救ってくれた目の前の女の頬に触れ、何かを目で語りかけた

 橙子は、小野田の目に宿る「正義」の炎がまだ消えてないことを確かめ自分も勝負の一手を放つ時だと強く決心し、無言で背を向けた。

ーーー(このままでは終わらせない......)


 橙子は、病室を出ると「羽田」に向かった。

              第四十一話「決心」ー了
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