13 / 46
「企業舎弟の遥かな野望」ー13(相場)
しおりを挟む
(第十三話)ー「相場」
十月も月末に近づき、テレビやネットのニュースでは、アメリカ大統領選挙の話題で持ちきりであった。
赤いネクタイをした男が巨体を揺すって吠えている映像が、夜のニュース番組はもちろん、昼の主婦向けワイドショーにも頻繁に流れていた。
そして日本のメディアは揃ってアメリカのメディアが流す「支持率」の数字を右から左に垂れ流していた。専門家と呼ばれる政治学者や評論家などのほとんどが「民主党」候補が勝ち、アメリカ史上初の女性大統領の誕生を予想していたのだ。
ーーー森、、、オマエはどっちに張る?
ーーーなんだ、かんだ言っても、順当でしょうね。
ーーーほんとうに、そうか?
ーーー社長は、波乱、、、ありだと?
ーーー「売りだ」、、、、売りだな、、、
小野田は外国為替市場の「ドルー円」相場が、選挙結果を受けて「ドル安、円高」に振れると観てショート(ドル売り)を仕掛けていたのだ。もし波乱が起きると、ドルが売られ、円が買われる展開になるーーー、というのは金融評論家ならずとも誰でもわかる理屈だった。
ーーーあの、赤ネクタイのオヤジが勝つよ、、、
ーーーその自信の根拠はなんスか?
小野田はニヤリと笑って言う
ーーー「相場師」のカンだ、、、、な
カンでは無かった、小野田は一般の大手メディアが連日伝える「支持率」の数字には目も呉れず、全米各地のローカル局やさほど有名でもない「世論調査」サイトの流す数字を連日追いかけていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
FDCは傘下に【FDC証券】を抱えている。インターネットの急速な普及でPCやスマートフォンを利用して簡単に株や外国為替の取引(トレード)が出来るようになったここ十年で、その顧客市場は拡大する一途であった。
小野田も、学生時代から海外の「FX業者」に口座を開き"レバレッジ800倍"のトレードという世界で、100万の金をわずか1年で1億にし、それを起業資金に宛て今の会社を立ち上げたのだ。
”レバレッジ800倍”ーーーとは、預入証拠金の800倍の取引ができるという文字どおり梃子《テコ》を効かして大きな取引ができる仕組みで、元金が少額でもハイリターンが期待できる取引だがその分、全てを溶かすのも一瞬である。
小野田は、【FDC証券】のトップには明石が連れて来た、若干29歳の森祐介を抜擢していた。森は早稲田の政経を卒業後、メガバンクに入社し、いきなりそのディーリング部で頭角を現し、天才的とも言える「相場判断」で数々の鉄火場を潜り抜け華々しい投資実績を上げ続けていた。それゆえに数々の外資系ファンドや海外の銀行からも誘いを受けていた逸材であったが、小野田は社長の椅子を用意し、口説き落とした男である。
森は社長の椅子が魅力で引き受けたわけではなかった。その女っぽい顔立ちには似つかない根っからの「相場師」の血が流れていて、デカイ「相場」が張れたらどこでも良かったのである。しかし銀行の堅い組織の枠では色々な柵と制限が彼を縛り日々悶々と過ごしていた。
そして30歳を機に海外に出て大きな金を動かしたいとずっと渇望していた。
そんな時、小野田に出会って、一晩中「相場」について語り合い、飲み明かした。森は小野田の野性的とも言える「相場観」と冷酷なまでの相場度胸は同じ「相場師」として共感し尊敬できた。何よりも男として惚れ込み、この男に付いて行こうと決心したのだった。
森は小野田の期待通り、株、為替ともに不敗に近い投資成績で大きな利益を会社にもたらしていた。
そんな森であったが、小野田の投資判断を知り、自信に揺らぎが出始めていた。
六月にあったイギリスのEU離脱の是非を決める「国民投票」の結果の
"まさか"を思い出していた。
あの時は、危うく大きな損失を出すとこだったが、最後はギリギリ、マイナスを回避するまで取り戻したのだが、メンタルがボロボロに壊れ、5年分ほどの命を削った思いをしたのだ。
ーーー(また、まさか、があるのか?)
森はコンピューター画面のチャートを見るのが怖くなった。
(第十三話ー了)
十月も月末に近づき、テレビやネットのニュースでは、アメリカ大統領選挙の話題で持ちきりであった。
赤いネクタイをした男が巨体を揺すって吠えている映像が、夜のニュース番組はもちろん、昼の主婦向けワイドショーにも頻繁に流れていた。
そして日本のメディアは揃ってアメリカのメディアが流す「支持率」の数字を右から左に垂れ流していた。専門家と呼ばれる政治学者や評論家などのほとんどが「民主党」候補が勝ち、アメリカ史上初の女性大統領の誕生を予想していたのだ。
ーーー森、、、オマエはどっちに張る?
ーーーなんだ、かんだ言っても、順当でしょうね。
ーーーほんとうに、そうか?
ーーー社長は、波乱、、、ありだと?
ーーー「売りだ」、、、、売りだな、、、
小野田は外国為替市場の「ドルー円」相場が、選挙結果を受けて「ドル安、円高」に振れると観てショート(ドル売り)を仕掛けていたのだ。もし波乱が起きると、ドルが売られ、円が買われる展開になるーーー、というのは金融評論家ならずとも誰でもわかる理屈だった。
ーーーあの、赤ネクタイのオヤジが勝つよ、、、
ーーーその自信の根拠はなんスか?
小野田はニヤリと笑って言う
ーーー「相場師」のカンだ、、、、な
カンでは無かった、小野田は一般の大手メディアが連日伝える「支持率」の数字には目も呉れず、全米各地のローカル局やさほど有名でもない「世論調査」サイトの流す数字を連日追いかけていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
FDCは傘下に【FDC証券】を抱えている。インターネットの急速な普及でPCやスマートフォンを利用して簡単に株や外国為替の取引(トレード)が出来るようになったここ十年で、その顧客市場は拡大する一途であった。
小野田も、学生時代から海外の「FX業者」に口座を開き"レバレッジ800倍"のトレードという世界で、100万の金をわずか1年で1億にし、それを起業資金に宛て今の会社を立ち上げたのだ。
”レバレッジ800倍”ーーーとは、預入証拠金の800倍の取引ができるという文字どおり梃子《テコ》を効かして大きな取引ができる仕組みで、元金が少額でもハイリターンが期待できる取引だがその分、全てを溶かすのも一瞬である。
小野田は、【FDC証券】のトップには明石が連れて来た、若干29歳の森祐介を抜擢していた。森は早稲田の政経を卒業後、メガバンクに入社し、いきなりそのディーリング部で頭角を現し、天才的とも言える「相場判断」で数々の鉄火場を潜り抜け華々しい投資実績を上げ続けていた。それゆえに数々の外資系ファンドや海外の銀行からも誘いを受けていた逸材であったが、小野田は社長の椅子を用意し、口説き落とした男である。
森は社長の椅子が魅力で引き受けたわけではなかった。その女っぽい顔立ちには似つかない根っからの「相場師」の血が流れていて、デカイ「相場」が張れたらどこでも良かったのである。しかし銀行の堅い組織の枠では色々な柵と制限が彼を縛り日々悶々と過ごしていた。
そして30歳を機に海外に出て大きな金を動かしたいとずっと渇望していた。
そんな時、小野田に出会って、一晩中「相場」について語り合い、飲み明かした。森は小野田の野性的とも言える「相場観」と冷酷なまでの相場度胸は同じ「相場師」として共感し尊敬できた。何よりも男として惚れ込み、この男に付いて行こうと決心したのだった。
森は小野田の期待通り、株、為替ともに不敗に近い投資成績で大きな利益を会社にもたらしていた。
そんな森であったが、小野田の投資判断を知り、自信に揺らぎが出始めていた。
六月にあったイギリスのEU離脱の是非を決める「国民投票」の結果の
"まさか"を思い出していた。
あの時は、危うく大きな損失を出すとこだったが、最後はギリギリ、マイナスを回避するまで取り戻したのだが、メンタルがボロボロに壊れ、5年分ほどの命を削った思いをしたのだ。
ーーー(また、まさか、があるのか?)
森はコンピューター画面のチャートを見るのが怖くなった。
(第十三話ー了)
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる