【 企業舎弟の遥かな野望 】

千葉七星

文字の大きさ
上 下
11 / 46

「企業舎弟の遥かな野望」ー11(疑念)

しおりを挟む
 第十一話「疑念」

月曜の朝、小野田は「京都駅」始発の新幹線で名古屋に戻り、マンションに帰ってシャワーを浴びそのまま出社した。

 矢神真咲に明石に部屋に来るよう伝え、珈琲を一口飲んだ。
早々に明石がスーツの前ボタンを留めながら部屋にやって来た。
ーーーこの女の素性、洗ってくれ
 そう言って、一枚の名刺を明石に手渡した。

ーーー フリーライター 、、、この女が何か?
ーーー土曜日からずっと俺を付け回してた。

 明石は小野田が先週末から京都に帰っていたのを知っている。瞬時に思考を巡らせ、その女が小野田の実父の件で嗅ぎ回っていると推測した。

ーーーオヤジさん、の件で?
  

ーーーああぁ、その件はもういい、たっていいんだ。ただ、その名刺の肩書き通りの女なのか、、、どうかだ。

ーーー刑事ケイジ、、、いや、「地検」の?
ーーーちょっと、その匂いがある、とにかく調べてみてくれ
ーーー承知しました、午前中いっぱい時間ください。

健斗は、昨日、「サイトウアキ」と食事した際に、女の両拳が少し変色していて、硬い「」の様になっているように見えた事と、服のセンスも良くきちんと品のいいメイクもしている女であるのに、爪は短く切られ彩りもなくそこだけ気配りされていないのが、何か不釣り合いに思えたのだ。

珈琲カップを皿に戻し、スマートフォンに残された「サイトウ アキ」の写真を見ながら昨日の事を反芻していた。

結局、あれから出町柳辺りから四条まで鴨川べりを並んで歩き、アキはポツリポツリと自分の経歴を話して寄越した。以前、タイに住んでいたことや、そこではFX(外為投機)をやってそこそこの金を掴んだことなど。は笑って誤魔化したが下世話な下ネタには付いて来た。
 その途中でアキが無防備に大きな口を開けて笑っているところをスマートフォンで写真に撮ると

ーーーおねがーい、消してぇー やだぁー

 と、小娘のように自分のスマートフォーンを奪おうとジャレて来たりした。

 四条大橋の袂まで来ると、既に陽は西に傾いていて、
「Kyoto Westin」に宿泊していると聞き、タクシーで送っていこうかと誘ったが

ーーー送ってもらうのは、嬉しいけど、ロビーまでよ?
ーーーらせろよ
ーーーイイオトコはそんな下品な誘いはしないのー
ーーーちっ、アホらし、、、

 そんなやり取りを思い起こし緩む口元に真咲の視線を感じたのか、早々にスマートフォンのを閉じた。

昼過ぎに、明石が手にビニールファイルを持って部屋に来た。

ーーーどうだった?

 明石はビニールファイルから資料らしきコピーを数枚取り出しながら答える

ーーー結論から言うと、、、に近いグレー、というとこでしょうか?
ーーーん、、、聞こうか

【斉藤亜希】:出処は京都府丹後市 地元高校を卒業後 同志社大学文学部英文科に進学、四年で卒業後、大阪の出版社に勤めるも、人間関係からか3年で退職その後タイのチェンマイに渡り、数年滞在していたようでだが、そこからの消息が曖昧で、「入管記録」では一昨年に帰国。その後フリーのライターとして活動を始める。所属の「秀文社」には、【真相エリートヤクザ】という月極め記事を寄稿している。両親はタイ滞在中離婚、兄弟姉妹はなし。
 添付として、大学時代の証明写真と寄稿記事のコピーが添えられていた。

ーーーフリーですが「秀文社」には契約社員で確かに在籍してるということでした。確認ウラはとってます。

 小野田は、手渡された「サイトウアキ」の学生時代の証明写真を凝視した。それは眼鏡をかけ前髪を下ろしていて確信は持てないが、にはいる。

ーーーで、なんで、グレーだと?
ーーーいや、それは私のカンというか、、、
ーーーいや、いい、言ってくれ
ーーー、じゃ、、、ないかと。
 絵に描いたような、それ経歴だと、、、

ーーーなるほど、、、

 小野田は、この明石という男の危険回避の”嗅覚”みたいなを何度も垣間見て来ている。

ーーーちょっと時間は掛かりますが、この名刺に残されてる「指紋」を滝さんに頼んで、「警察庁」の「データベース」に入ってもらって調べてもらうこともできますが、、、

ーーーオマエ、、、、知ってるのか? 滝川が抱える奴らのこと。

「情報分析担当」の滝川常務は配下にサイバー攻撃部隊を抱えている。

ーーーあぁ、、、もう、何度もになってますよ、滝さんには。

 小野田は小考した後

ーーーその手段は、もう少し様子を見よう、、、指示するまで待て。

 なぜあの時明石に指示を出すのを躊躇ったのかーーーと、後に小野田は大きく後悔することになるのだが、今はまだ知らない。

                   (第十一話ー了)

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...