2 / 46
【企業舎弟の遥かな野望】-2(相棒)
しおりを挟む
(第二話)「相棒」
名古屋に入った橙子は、さっそく柿山を呼び出した。意外にも、柿山は既に名古屋に先乗りをしていて、30分後には会えると言って来た。名古屋駅近くの珈琲チェーン店を指定し、ご丁寧にもマップを添付して寄越した。
橙子は大きめのトートバックを肩から下げ、白のスキニーに黒のサマーニット、足元は黒のコンバーズ、、、という姿で、後ろに束ねた長い黒髪を軽やかにスィングさせ指定の店に足を踏み入れた。口元には淡いピンクのルージュが品良く引かれている。
柿山は店の奥に追いやられた感のある喫煙可のテーブルで待っていた。目印の茶色の鞄を脇に置いていたが、一眼ですぐにわかった、同業者の感ーーーである。
ーーー鷺森です、よろしく。
橙子は、この男とのペアは初めてであった。故に、柿山という捜査員がどういう経歴で、どんなスキルの持ち主なのか、全く情報がない。
ーーー柿山です。今回はウチのエースとご一緒出来て光栄ですよ
頭髪に混じる白いものと面相の皺の数がこの男の歳を物語っている。木戸から送られて来たファイルには、(52歳)とあったが、歳以上に老けて見える。ただ、白い半袖のワイシャツから覗く二の腕の筋肉と胸板の厚さは、何か格闘技で鍛えていることを橙子に教えている。
ーーー使い捨ての兵隊に エースも糞もないでしょ
柿山は口元を”への字”に曲げた含み笑いを寄越した。そして、鞄の中から一枚のCDとファイルを取り出し目端で辺りを伺いながら橙子の前に差し出した。
ーーーこのヤマ、、、結構デカイぞ、、、で、かなり厄介だ。
橙子を捉える柿山の重い視線で、存外大袈裟ではないことを知る。
ーーーで、、、アゲるネタは何?
小野田を何の容疑で逮捕出来るのか、そのネタの糸口は何なのかーーーと、柿山に問うた。
柿山は煙草の紫煙をそっぽに吐きながら重く口を開いた。
ーーー反社会勢力との関与か、、、贈収賄ってとこだな。ただ、、、企業舎弟だと認定できても
そっちの線で引っ張るのは難しいだろう、ハッカーの線もガードは固い。
それより、、、
柿山は一呼吸置こうとしていた。橙子"マルボロ"に火を点け、柿山の言の先を待つ。
ーーー地検も動き出してる。
柿山は殊更声のトーンを落として言った。
ーーー(東京地検、、、)
政治家への?それもかなりの、、、、大物なのね?
そうだーーーー顎を軽く引いて、柿山は応えた。
橙子はこの捜査がかなり長引くことを覚悟した。そして場の重い空気を払う様に声音を上げて柿山に問うた
ーーー柿山さん、って関西の出、でしょ?
ーーーええ、出処は大阪ですよ。府警に入ってそれから愛知県警、で、、、公安にも。
柿山は大阪の二流私立大卒で、ボクシング部だったこと、そして就職に困ってノンキャリの警察官採用試験を受けたら受かってしまったことを自虐っぽい笑みで話し始めた。
ーーー隠しても、関西人ってどっかで、語尾の抑揚に出ちゃうのよね
ーーー鷺森さんも、、、ですね?
ーーーふっ、どうせ、全部調べがついてるんでしょ? それより、、、
橙子は煙草をもみ消しながら、身を乗り出す様にして柿山の耳元に囁いた。
ーーー私の、経歴を消して、潜入用の新しいIDを作って欲しい、、、
橙子が言い終わる前に、柿山は鞄から、大きめの茶封筒を取り出し橙子に渡した。
その中には、免許書、パスポート、そして別人のプロフィールファイルが入っていた。それに名古屋市内の「伏見」にアパートまで確保されていて、鍵が二本入っていた。
橙子はこの男の特捜捜査官としての能力を認めざるを得なかった。
ーーー流石ね、、、完璧だわ
ーーー言っときますけど、俺、”後方支援”が専門なんで、鷺森さんは前線でせいぜい手柄
上げてくださいな
ーーー「危険手当」上げてもらわんと、ワリ、合わんなぁ、、、
(ちっ、、、)
つい軽口を叩いてしまった自分を恥じた。
斎藤亜希ーーーこれが、新しい自分らしい。
(第二話 了)
名古屋に入った橙子は、さっそく柿山を呼び出した。意外にも、柿山は既に名古屋に先乗りをしていて、30分後には会えると言って来た。名古屋駅近くの珈琲チェーン店を指定し、ご丁寧にもマップを添付して寄越した。
橙子は大きめのトートバックを肩から下げ、白のスキニーに黒のサマーニット、足元は黒のコンバーズ、、、という姿で、後ろに束ねた長い黒髪を軽やかにスィングさせ指定の店に足を踏み入れた。口元には淡いピンクのルージュが品良く引かれている。
柿山は店の奥に追いやられた感のある喫煙可のテーブルで待っていた。目印の茶色の鞄を脇に置いていたが、一眼ですぐにわかった、同業者の感ーーーである。
ーーー鷺森です、よろしく。
橙子は、この男とのペアは初めてであった。故に、柿山という捜査員がどういう経歴で、どんなスキルの持ち主なのか、全く情報がない。
ーーー柿山です。今回はウチのエースとご一緒出来て光栄ですよ
頭髪に混じる白いものと面相の皺の数がこの男の歳を物語っている。木戸から送られて来たファイルには、(52歳)とあったが、歳以上に老けて見える。ただ、白い半袖のワイシャツから覗く二の腕の筋肉と胸板の厚さは、何か格闘技で鍛えていることを橙子に教えている。
ーーー使い捨ての兵隊に エースも糞もないでしょ
柿山は口元を”への字”に曲げた含み笑いを寄越した。そして、鞄の中から一枚のCDとファイルを取り出し目端で辺りを伺いながら橙子の前に差し出した。
ーーーこのヤマ、、、結構デカイぞ、、、で、かなり厄介だ。
橙子を捉える柿山の重い視線で、存外大袈裟ではないことを知る。
ーーーで、、、アゲるネタは何?
小野田を何の容疑で逮捕出来るのか、そのネタの糸口は何なのかーーーと、柿山に問うた。
柿山は煙草の紫煙をそっぽに吐きながら重く口を開いた。
ーーー反社会勢力との関与か、、、贈収賄ってとこだな。ただ、、、企業舎弟だと認定できても
そっちの線で引っ張るのは難しいだろう、ハッカーの線もガードは固い。
それより、、、
柿山は一呼吸置こうとしていた。橙子"マルボロ"に火を点け、柿山の言の先を待つ。
ーーー地検も動き出してる。
柿山は殊更声のトーンを落として言った。
ーーー(東京地検、、、)
政治家への?それもかなりの、、、、大物なのね?
そうだーーーー顎を軽く引いて、柿山は応えた。
橙子はこの捜査がかなり長引くことを覚悟した。そして場の重い空気を払う様に声音を上げて柿山に問うた
ーーー柿山さん、って関西の出、でしょ?
ーーーええ、出処は大阪ですよ。府警に入ってそれから愛知県警、で、、、公安にも。
柿山は大阪の二流私立大卒で、ボクシング部だったこと、そして就職に困ってノンキャリの警察官採用試験を受けたら受かってしまったことを自虐っぽい笑みで話し始めた。
ーーー隠しても、関西人ってどっかで、語尾の抑揚に出ちゃうのよね
ーーー鷺森さんも、、、ですね?
ーーーふっ、どうせ、全部調べがついてるんでしょ? それより、、、
橙子は煙草をもみ消しながら、身を乗り出す様にして柿山の耳元に囁いた。
ーーー私の、経歴を消して、潜入用の新しいIDを作って欲しい、、、
橙子が言い終わる前に、柿山は鞄から、大きめの茶封筒を取り出し橙子に渡した。
その中には、免許書、パスポート、そして別人のプロフィールファイルが入っていた。それに名古屋市内の「伏見」にアパートまで確保されていて、鍵が二本入っていた。
橙子はこの男の特捜捜査官としての能力を認めざるを得なかった。
ーーー流石ね、、、完璧だわ
ーーー言っときますけど、俺、”後方支援”が専門なんで、鷺森さんは前線でせいぜい手柄
上げてくださいな
ーーー「危険手当」上げてもらわんと、ワリ、合わんなぁ、、、
(ちっ、、、)
つい軽口を叩いてしまった自分を恥じた。
斎藤亜希ーーーこれが、新しい自分らしい。
(第二話 了)
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
COVERTー隠れ蓑を探してー
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
潜入捜査官である山崎晶(やまざきあきら)は、船舶代理店の営業として生活をしていた。営業と言いながらも、愛想を振りまく事が苦手で、未だエス(情報提供者)の数が少なかった。
ある日、ボスからエスになれそうな女性がいると合コンを秘密裏にセッティングされた。山口夏恋(やまぐちかれん)という女性はよいエスに育つだろうとボスに言われる。彼女をエスにするかはゆっくりと考えればいい。そう思っていた矢先に事件は起きた。
潜入先の会社が手配したコンテナ船の荷物から大量の武器が発見された。追い打ちをかけるように、合コンで知り合った山口夏恋が何者かに連れ去られてしまう。
『もしかしたら、事件は全て繋がっているんじゃないのか!』
山崎は真の身分を隠したまま、事件を解決することができるのか。そして、山口夏恋を無事に救出することはできるのか。偽りで固めた生活に、後ろめたさを抱えながら捜索に疾走する若手潜入捜査官のお話です。
※全てフィクションです。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
こちら国家戦略特別室
kkkkk
経済・企業
僕の名前は志賀 隆太郎(しが りゅうたろう)。28歳独身だ。日本政府直轄の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国の問題を解決すること。
僕の業務はやや特殊だ。日本の問題を解決に導くため、スーパーコンピューター垓(がい)でシミュレーションを実施する。そして、垓のシミュレーション結果をもとに有効な施策を政府に提案する。そういう業務だ。
今日も僕は日本の国家の危機と戦っている。
※この物語は経済関連の時事問題を対象にしたコメディ・風刺小説(フィクション)です。実在の人物や団体とは関係ありません。
内容は『第4王子は中途半端だから探偵することにした』と同じく、筆者が普段書いているファイナンス書籍やコラムのトピックを小説形式にしました。
極力読みやすいように書いているつもりですが、専門的な内容が含まれる箇所があります。好き嫌いが別れると思いますので、このような内容が大丈夫な人だけ読んでください。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる