天界魂管理局記録保管庫~死神書店~

朋藤チルヲ

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【天界2】

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「リプレイ」

 唐突に、ウリエルが言った。

「リプレイ?」
「もう一度やり直す、という意味だね。再演であるとか、再試合と訳されることもある」

 ああ、と思う。それは、このたびの出向の間、何度となく口にした言葉だ。

「これまでより悪い成果を得るために、リプレイに挑む者などいない。誰もが、現時点よりずっと良い結果を願って、もう一度挑んでいくものだ」
「はい」
「望んでいた世界を見られた時の喜びは、何ものにも代えがたいからね」
「わかります」

「人生のリプレイ。僕たちの仕事とは、そのサポートだと思うんだ」
「サポートですか」

 目をみはる。

「もちろん、同じ人格で人生をやり直すことはできないがね。魂は引き継がれる」

 サポート。そういう考えは持ったことがなかった。

 人間の転生のジャッジを担うのはウリエルたち天使で、彼らが命を生み出して、輪廻の輪を回していると言って過言ではない。我々はそのために魂を運び、書籍として売り場に並べる。人間のと言うより、天使たちの補佐をしているという頭だった。

 でも、言われてみれば、自分が今回やったことはすべて、清花とあの男のより良い転生へと繋がるもの。むしろ、それをただ願って奔走した気がする。

 記録保管庫のスタッフは、天使の滞りない作業のためだけに存在するのではなかった。
 我々は人間に憧れ、人間が好きで、人間のためにここに在る。人間の幸せだけを願い、またせっせと魂の回収に向かうのだ。

 それはきっと、ウリエルたちも同じなのかもしれない。

「本来ならまずないことだが、今回は魂に感情があった。リプレイへと踏み出すには勇気がいる。根性もいる。体力も必要だったろう」
「はい」
「でも、担当が76番、君だったから」
「ウリエル様」
「だから僕は、何も心配していなかった」

 ウリエルは目を細めて笑いかけてくれた。

「後悔した者は強い。やはり、僕が信じていた通りだ」
「強くなれたのかどうか、自分ではわかりませんが」

 それでも、机にかじりついて学んだことは、決して無駄にはならない。知識が多ければ多いほど、その分、誰かと共有できる思いが多いから。そのことを、今の自分はもう知っている。

「もちろん、強くなっているさ。だからこそ、とても難しい事案だった今回だって、無事に次の命へ繋ぐことができた。リプレイが叶ったんだ」
「そうだと、嬉しいです」
「君たちのように心優しく、有能なスタッフばかりだから、励みになる。僕も頑張れるよ」
「それは」
 さすがに照れてしまう。

「もったいないお言葉です」

 ウリエルはとても満足そうにうなずいた。

「しかし、本当に難しい事案でした」

 腕を組み、うーん、とうなる。

「単体でも大変ですのに、ダブルで襲いかかってくるとか。こうなると、困難な魂がわたくしばかりを狙って寄ってきているような気さえします」

 それを聞くと、ウリエルは声を立てて笑った。

「本当にそうなのかもしれない」
「勘弁してください」
「狙っている、というのは冗談だとしても。選んでいる、というのはあり得るのかなと思うよ」
「選んでいる? 魂が、わたくしを?」

 顔をしかめてしまう。どちらの言い方であったって、毎回苦労することには変わりない。

「きっとわかるんだよ。何が起こっても、君なら決して最後まで諦めないで、導いてくれると」
「それは」

 口元をゆるやかに引き結ぶ。

「確かにお約束できます」

 それが、我々の仕事なのだから。

「でも、やはり一筋縄でいかない魂はごめんです」

 ウリエルはお腹を抱えて、またひとしきり笑った。

「ああ、そうだ。これを伝えておこうと思ったんだ」
「はい?」
「あの少女の書籍」
「あ、はい」清花のことだろう。
「僕が購入するから、カウンターに取り置きしておいてくれないか」
「了解いたしました」

 ありがたかった。
 ウリエルには面倒をかけてしまうが、清花をできるだけ早く転生させることは、同じ呼び名の娘を持つ、あの男の最期の願いでもあったから。

「本当に、ありがとうございます」

 座ったままで、うやうやしく一礼する。

「お礼を言われるまでもないさ。これが、僕の仕事なのだから」
「あ、お仕事と言えば、申し訳ございません。長々とお喋りして、お引き留めしてしまいました」
「いや、かまわないよ。話しかけたのは僕のほうだ」
「しかも、わたくしばかりがお茶を飲んで。気が利きませんでした」
「気にすることはない」
「喉を潤されますか? わたくしの飲みかけですが」
「……実を言うと僕は、いちばん失敬なのは君なのでは、と思う時がある」
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