あと5分だけ

朋藤チルヲ

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「何してる?」

 一週間ぶりに届いた、彼からのメッセージ。その前は三週間ほど間が空いたから、ずっと早いほうだ。

「仕事」

 それは嘘ではなく、せめて一区切りついてから返事すればいいものを、わたしはそのつどわざわざ作業を中断してまで、スマートフォンで言葉を打った。

「そんなんやめて、おれとホテル行こう」

「誰が生活費を稼いでくれるの?」

「気持ちよければいいじゃないか」

「話にならない」

 彼は、最初こそ人当たりの良いメッセージを送ってきたけれど、その後はずっとこんな調子だ。欲求不満がだだ漏れている。

 わたしはとっくにマッチングサイトを退会していた。だけど、彼とのやり取りはトークアプリに場を移して続けていた。

 サイトではニックネームで呼び合っていた。いまだに彼の本名は知らず、わたしも教えていない。地域別でマッチングできるサイトだったから、わりと近くに住んでいることはわかっているけれど、詳しい住所までは知らない。

 彼はとても気まぐれな人で、突然パタリとメッセージを送ってこなくなったかと思うと、天気雨のように現れた。感情の起伏らしいものがまるでないので、わたしがどんなに辛辣な言葉を投げかけたあとでも、ケロッと話しかけてくるのだった。

「しばらくしてない。寂しい」

 わたしと同い年の彼は、長い間不倫していたという。相手が旦那さんのいる女性で、彼女を本気で愛していたから、婚期を逃したらしい。

 女性と別れてからは、かなりの額ある貯金を使い、バイクで各地を旅しながら暮らしているそうだ。彼の話は、どれもこれも嘘臭い。

「自分で処理すれば」

「それむなしい。ねえ、どのくらいしてない?」

「二年かな」

「我慢できる?」

「できるよ」

「好きじゃないの」

「どうなのかな」

「それはきっと、今までの男がへたくそだったから。おれと試そうよ」

「ばーか」

 彼から、初めてそういう誘いのメッセージがきた時、あぁやっぱりか、とウンザリした。どう見てもモテそうなのに、こんなサイトを利用する必要があるのかしら、と疑念を抱いていたのだ。

 それなのに、彼とのやり取りをやめなかった理由は、やっぱり寂しかったからに他ならないと思う。男性と話すのは、女友達とよりか刺激がある。

 彼とは肩の力を抜いて話せたし、そこに恋愛感情がないおかげで、何週間、何ヵ月音沙汰なしだろうがまったく気にならないのは、楽だった。

 仕事が忙しく、楽しくなってきたこともあって、わたしは以前ほど結婚にこだわらなくなっていた。男性と出会おうと思えば、その目的は意外にあっさりと達成できると知った。あとは、自分の審美眼を磨けばいいだけのことで。

 彼のメッセージはそこで途切れた。

 おそらく、また数週間程度のブランクが空くのだろう。

 連絡のない間に、彼があいかわらずマッチングサイトで別の女性を物色していようと、あちらこちらの街を徘徊してナンパを繰り返していようと、わたしには関係のないこと。興味もない。

 ただ緩慢とした時間を過ごしていたように思うのに、彼と知り合ってから、一年は驚くほどあっという間に過ぎていた。




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